北大植物園研究紀要;第14号

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札幌農学校所属博物館における鳥類標本管理史 (4) : 標本ラベルの変遷からみた管理史

加藤, 克;市川, 秀雄;高谷, 文仁

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/57716

Abstract

過去3回にわたって、開拓使札幌博物場、札幌農学校所属博物館から現在の北海道大学植物園・博物館に至る期間の鳥類標本管理台帳、標本目録、資料(史料)類を整理しながら、現存標本との対応関係について検討を行ってきた(加藤他 2009,2010,2012 以下それぞれを旧稿1、2、3と略記)。この検討の中で、鳥類標本管理台帳・カードと評価できるものは現行の標本台帳を含めて以下に示す5種類が現存しており、また、各台帳の情報には様々な問題点が存在することが明らかとなった。(1)「採集日記」:札幌博物場が札幌農学校の所属となった1884年ごろに運用が開始された台帳。ただし(2)の台帳1の運用と並行して利用され、かつ台帳1が終了した後の1912年まで利用されていた。なお、現存する台帳は後世の写しである可能性がある(旧稿1・2)。(2)台帳1:1890年代半ばに「採集日記」による運用の混乱を修正するために、新しい標本番号に基づいて運用が開始された台帳と分類用のカード。台帳は整理終了時点で運用が停止し、その後は「採集日記」とカードによって運用が行われていたと考えられる。カードは1900年ごろから情報に混乱が見受けられ、1910年ごろに運用が停止した(旧稿1・2)。(3)台帳2:1920年代前半に所蔵標本管理を目的として、新たな標本番号を付与しながら作成された台帳と分類用のカード。ただし未登録標本が多く、標本情報にも混乱がみられる。また、継続して新規標本の受入れに運用された形跡はない(旧稿3)。(4)台帳3:1950年ごろに作成された台帳。台帳2に登録されていない標本を含め、全標本を管理するために作成されたと評価されるが、台帳1・台帳2を転記して作成されたため標本の重複登録が多数確認される。また、台帳2の標本情報の混乱も継承している(旧稿3)。(5)現行台帳:1961年に運用が開始された台帳。現行の標本番号に基づく基礎台帳であり、全標本が登録されているが、これまでの標本情報の混乱を継承している可能性が高い。博物館における標本管理の実態、変遷を示す上では、標本台帳がもたらす情報の重要性は改めて述べる必要はないが、上に示したように北大植物園・博物館の標本台帳には少なからず問題が存在する。また、標本管理は標本台帳だけでなく、収蔵庫、標本ケースや標本ラベルなどの多様なツールを利用して成立するものであり、標本管理の全体像を明らかにするためには、台帳だけでなく、多面的な考察が必要であると考えられた。本稿は、この課題に対する取り組みの一つである。

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