2024-03-29T10:07:29Zhttps://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace-oai/requestoai:eprints.lib.hokudai.ac.jp:2115/818692022-11-17T02:08:08Zhdl_2115_54833hdl_2115_30172hdl_2115_54822hdl_2115_54823hdl_2115_20124慢性炎症疾患の予防基盤となるカロテノイドおよびアポカロテノイドの細胞機能調節作用に関する研究 [全文の要約]高谷, 直己660がんや生活習慣病に代表される非感染性疾患(non-communicable diseases, NCD)は世界の死因の70%以上を占めており、医学・保健衛生上の解決すべき重要課題に位置付けられる。近年、NCDの発症・進行基盤として「慢性炎症」が注目されている。本研究では、NCD発症予防のための慢性炎症を制御するための食品因子として、多様な健康機能性が報告されているカロテノイドに着目した。
カロテノイドを摂取した動物の生体組織中には、様々な修飾を受けたカロテノイド代謝物が認められる。近年、哺乳類において新規カロテノイド開裂酵素が同定されるとともに、生体組織から多様なカロテノイド開裂物(アポカロテノイド)が見出されている。一方、その生理的役割に関する研究は少ない。そこで本研究では、慢性炎症疾患に対するカロテノイドの発症予防効果の解明とともに、アポカロテノイドによる炎症制御機能をはじめとした生物活性について明らかにすることを目的とした。
第1章では、世界的に増加している非アルコール性脂肪肝炎 (non-alcoholic steatohepatitis, NASH)に対する、海洋性カロテノイドであるフコキサンチン(Fx)の発症予防作用を評価した。コリン欠乏アミノ酸調整食によりNASHを誘導したC57BL/6J雄性マウスにおいて、Fx摂取によってNASH肝に特徴的な脂肪肝や酸化ストレスに起因する肝障害のみならず、炎症や免疫細胞の浸潤が抑制された。また、Fxは肝硬変の初期段階である肝臓中の線維化因子の発現増加も抑制した。一方、Fx摂取したマウス肝臓中に蓄積するフコキサンチノール、アマロウシアキサンチンA、アポカロテノイドであるパラセントロンが、in vitroで培養肝細胞やマクロファージに対して炎症抑制作用を示した。以上より、生体内にてFxから変換された代謝物がNASH発症に対して抑制的に作用する機序が推察される。
第2章では、Fx由来アポカロテノイドの新たな生物活性の探索を行った。マウスマクロファージ様RAW264.7細胞へのapo-fucoxanthinal添加によって、生体防御に関わる抗酸化酵素のmRNA発現の促進とともに、制御因子であるnuclear factor, erythroid derived 2, like 2 (Nrf2)タンパク質の核内移行の増加を認めた。また、Nrf2活性化を阻害するN-acetyl cysteine存在下ではこれらの作用が消失するとともに、RAW264.7細胞に対するapo-fucoxanthinalの炎症抑制能が減弱した。以上より、apo-fucoxanthinalはNrf2活性化を介して抗酸化酵素の発現誘導能や炎症制御作用を発揮することが示された。
第3章では、自然界に最も豊富なカロテノイドであるβ-カロテンに着目した。β-カロテンを過マンガン酸カリウム(KMnO4)にて酸化分解した反応生成物中に、ポリエン鎖上のC-7’,8’位およびβ-イオノン環のC-5,6位で開裂したseco-β-apo-8’-carotenal (seco)を同定した。さらに、炎症誘導したRAW264.7細胞に対して、secoがnuclear factor-κB (NF-κB)シグナル経路の阻害を介して抗炎症作用を示すことを見出した。対照的に、閉環したβ-イオノン環を持つβ-apo-8’-carotenalでは炎症抑制能を示さなかったことから、seco分子内のβ-イオノン環の開環部分構造が抗炎症活性に寄与することが推察された。
第4章では、食品や化粧品などの用途が拡がっているアスタキサンチンに着目した。KMnO4によるアスタキサンチン酸化開裂物の構造解析の結果、6種の鎖長の異なるapo-astaxanthinalを同定した。これらapo-astaxanthinalは活性化マクロファージのみならず、脂肪細胞との共培養による肥満誘導性炎症に対しても抑制作用を示した。また、3T3-L1前駆脂肪細胞の成熟脂肪細胞への分化に対して、apo-astaxanthinalは鎖長に依存した分化抑制活性を示した。以上、アスタキサンチン由来アポカロテノイドが種々の細胞に対して炎症制御能や分化抑制作用を示すことが明らかとなった。
以上、本研究ではNASH発症予防に対するFxの有効性とともに、未だ知見の少ないアポカロテノイドについての調製法と新たな生物活性を見出した。これらの知見は、生体内におけるカロテノイドの代謝の意義や健康機能の作用メカニズムを明らかにするうえで意義深いものである。北海道大学. 博士(水産科学)Hokkaido UniversityThesis or Dissertationapplication/pdfhttp://hdl.handle.net/2115/81869https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/81869/1/Naoki_Takatani_summary.pdf2021-03-25jpnnone