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Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers >

平成18年11月15日,本コレクションの収録文献数が10,000編に達しました。これは,同種のコレクションの内では国内で2番目,世界で26番目の規模となります。
10,000編目の文献は,教育学研究科教育学専攻教育臨床講座の大学院生澤木梨沙さんと片山順一助教授(写真)による,

Sawaki, Risa and Katayama, Jun’ichi (2006)
Stimulus context determines whether non-target stimuli are processed as task-relevant or distractor information.
Clinical Neurophysiology, volume 117, issue 11, p.532-2539


でした。

澤木さん・片山助教授から

Q. 今回の文献はどういった内容のものですか。
事象関連脳電位(ERP)という脳機能計測法を用いて,注意の基礎的なメカニズムを調べた研究です。先行研究から,“すべきこと”が難しい事態と簡単な事態とで,“すべきこと”とは関係のない“逸脱情報”に対する脳活動を比較すると,この逸脱情報に対する処理は“すべきこと”の難易度により質的に変容することが示されていました。本論文はこのメカニズムを詳細に調べたもので,逸脱情報が“すべきこと”と関わって処理されるのか,早い段階で妨害情報として排除されるのかがその原因であることを示したものです。
多くの妨害情報がある環境においてヒトがどのように適応的に行動しているかの理解や,妨害情報に注意をひきつけられやすいAD/HDなどの発達障害における認知メカニズムの理解に繋がる研究だと考えています。

Q. どうしてこの研究をはじめたのですか。
澤木: 片山先生の先行研究(Katayama & Polich, 1998)を読んで「この現象は面白い!さらに詳しく調べてみたい!」と思ったからです。
片山: Katayama & Polich (1998)は,在外研究でアメリカにいたときに行った研究のひとつです。子供たちや発達障害を持つ人たちを含む幅広い対象で行うことのできる単純な課題事態で,注意の基本的な側面を評価するための基礎研究を行っていました。その過程で,これまで知られていたこととは異なった現象を見つけました。帰国後,なかなか発展研究に手をつけられずにいたのですが,澤木さんが興味を持ってくれて,この現象のより詳細な検討を進めることができ喜んでいます。

Q. 今後の研究活動について教えてください。
澤木: 来年度の夏からカリフォルニア大学に留学し,AD/HDの認知メカニズムについての研究をしてくる予定です。
片山: 引き続き,注意メカニズムの研究を続けてゆきます。特に,環境の変化に対する脳の反応を調べること,そして,そこでの成果に基づき,軽度発達障害を持つ子供たちの認知機能を評価するための標準的な方法の確立を目指しています。

Q. HUSCAPに掲載されたあなたの論文をどのような方々に読んでほしいですか。
澤木: 私の専門分野(心理生理学)とは異なる領域の方々に読んでいただき,率直な感想を聞いてみたいです。
片山: 同じ専門領域の方々は,データベースやジャーナル経由で読まれることと思います。キーワード検索等でたどり着いた他分野の方々の感想や,できれば,こういう役に立ったというフィードバックがあれば,1万件目という偶然による喜びに加え,掲載していただいたことの意義が,よりいっそう感じられると思います。


澤木梨沙(北海道出身。北海道大学教育学部卒業,大学院教育学研究科修士課程修了,現在は博士後期課程1年(日本学術振興会特別研究員DC1))
現在の研究テーマは,ヒトの注意機能の基礎メカニズム及び注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の認知メカニズム。
片山順一(岡山県出身。関西学院大学文学部・文学研究科(心理学専攻),日本学術振興会特別研究員(PD)を経て,北海道大学教育学部・教育学研究科,助教授)
専門分野は認知心理生理学,発達神経心理学。現在の研究テーマはERPを指標とした注意メカニズムの研究,および,ERPを指標とした軽度発達障害児の認知機能の評価。

 附属図書館では,今後とも本学所属研究者の研究成果・教育資料の公開に、より一層つとめてまいりたいと考えています。ご著作をより多くの人々へ届けるため,論文等の研究成果のHUSCAPへの寄贈をお願いします。

 

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