止血、抗線溶薬の適応と使用法 血管強化薬と局所止血薬 早川 峰司 丸藤 哲 Mineji Hayakawa Satoshi Gando 北海道大学病院 先進急性期医療センター 〒060-8648 札幌市北区北 14 条西 5 丁目 Emergency and Critical Care Center, Hokkaido University Hospital, N14W5 Kita-ku, Sapporo 060-8648 Japan TEL: 011-706-7377 FAX: 011-706-7378 E-mail: mineji@dream.com Key words Carbazochrome Ascorbic acid Gelatin sponge Oxidized cellulose Fibrin glue Points ① カルバゾクロムは毛細血管に作用して血管透過性亢進を抑制し、出血時間 を短縮し止血作用を示す。 ② ビタミン C の投与によりビタミン C 欠乏症(壊血病)は治療できる。 ③ フィブリン接着剤は、フィブリノゲンがトロンビン、凝固第XⅢ因子、カ ルシウムの作用により架橋化フィブリンとなり、組織の接着・閉鎖作用を 発揮する。 ④ ゼラチン吸収性スポンジ、酸化セルロースはフィブリンと同等の止血効果 をあらわす可吸収性止血薬である。 ⑤ アドレナリンは血管を収縮させ局所止血作用を示す。 1. はじめに 各種出血に対して止血は重要な処置である。動脈性の出血に対しては外科的 な処置で対応することが基本となるが、oozing 様の出血に対しては血管強化薬 や局所止血薬が使用されることがある。以下に血管強化薬と局所止血薬の特徴 を概説する。 2. 血管強化薬 (ア) カルバゾクロム 局所麻酔薬の使用にあたっては、その作用を持続させるためアドレナ リンが添加されるのが普通であるが、そのとき、止血現象が起こってい ることがわかった。これはアドレナリンが体内で酸化されてできたアド レノクロムのせいではないかと研究が行われ、事実アドレノクロムの出 血時間短縮効果が認められた。アドレノクロムはきわめて不安定な物室 のため、同様の効果を持ち安定なカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム の開発に成功し、臨床使用が開始された。 本薬剤は、毛細血管に作用して血管透過性亢進を抑制し、毛細血管抵 抗を増強する。その結果、出血時間を短縮し止血作用を示すと言われて いるが、詳細な作用機序は明確ではない。血液凝固・線溶系へ影響を与 えず、呼吸や血圧にも影響しない。 紫斑病や粘膜からの出血に適応がある。 (イ) アスコルビン酸(ビタミン C) アスコルビン酸の L 体がビタミン C と呼ばれる。人は体内でアスコル ビン酸が合成できないためビタミン C の欠乏によって生じる壊血病の 治療薬である。ビタミン C は体内のコラーゲンなどのタンパク質を構成 するアミノ酸の 1 つであるヒドロキシプロリンの合成に必須である。そ のため、ビタミン C が欠乏すると結合組織に障害を受け、血管等への損 傷につながり、皮膚や粘膜から出血をきたす。ただし、長期間かつ高度 のアスコルビン酸欠乏症でないと症状は出現しない。乳児期(生後 6~12 ヶ月)に発症するアスコルビン酸欠乏症は、特別にメレル・バロウ病と呼 ばれる。 壊血病はビタミン C の投与を行うことによって治療できる。壊血病で はない状態にアスコルビン酸を投与しても止血効果は得られない。 3. 局所止血薬 (ア) 液状フィブリン接着剤 製剤によってその内容に多少の差はあるが、基本的な成分は、ヒト由 来のフィブリノゲン、凝固第XⅢ因子、トロンビン、カルシウムからな る血液製剤である。フィブリノゲンと凝固第XⅢ因子を含有した溶液と、 トロンビンとカルシウムを含有する溶液を別々に調製し、専用の噴霧器 などで創面に向けて塗布する。製剤中のフィブリノゲンが、トロンビン の作用により可溶性フィブリン塊となり、凝固第XⅢ因子、カルシウム の作用により、架橋化フィブリンとなる。これが組織の接着、閉鎖作用 を発揮する。この安定したフィブリン塊の中で、線維芽細胞が増殖し組 織修復を促進する。止血目的以外にも、消化管や肺の縫合部補強などに 使用される。ヒト由来の製剤であるため、他の血液製剤と同様、感染症 の危険性がある。 (イ) シート状フィブリン接着剤 人由来のフィブリノゲン、トロンビン、アプロチニンがウマコラーゲ ンを支持体とするスポンジ状のシートに含有されている製剤である。適 応は、肝臓外科や肺外科などの手術中の組織の接着、閉鎖となっている。 創部にシートを圧着させると、シートのフィブリノゲンがトロンビンと 反応しフィブリンとなり組織を接着、閉鎖する。アプロチニンにより、 周囲の線溶反応は阻害される。支持体であるコラーゲンは物理的にフィ ブリン塊を補強し止血効果を高めている。本製剤も血液製剤である。 (ウ) コラーゲン製剤 牛由来のコラーゲンを原材料としている。シート状や綿状、スポンジ 状など様々な形状の製剤がある。血小板はコラーゲンに接すると活性化 されコラーゲンに粘着する。粘着した血小板は互いに凝集し血小板血栓 を形成する。これが引き金となり凝固系が活性化され、フィブリンが形 成されていく。コラーゲンそのものにも接着力があり、止血作用は強力 である。肉芽や膿瘍の原因となる可能性があるため不要な部分は除去す べきである。 (エ) ゼラチン吸収性スポンジ ゼラチンを凍結乾燥し無菌に精製した、可吸収性止血薬である。創傷 の表面に付着し、フィブリンとほぼ同等の止血効果をあらわすといわれ る。ゼラチンスポンジ自体には止血効果はない。ゼラチンスポンジを出 血面に貼付することにより、数分で血液凝固が始まる。ゼラチンは粘着 性をもっており、ゼラチンスポンジはそのメッシュ内に血液を取り込み 組織に付着し強固な血餅を作る。ゼラチンスポンジを乾燥したまま、も しくは生理食塩水やトロンビン、抗菌薬の溶液に浸し過剰の水分を取り 除いた後に出血面に当て、10~15 秒間、適当な強さで圧迫し使用する。 能書において「血管内に使用しないこと」との記載があるが、抗原性 がないため、スポンジを細かく粉砕して、肝細胞癌の腫瘍壊死を目的と した動脈塞栓療法や、外傷性腹腔内臓器損傷・骨盤損傷出血に対する止 血目的の経皮的血管塞栓術などに広く用いられている。 (オ) 酸化セルロース セルロースを酸化して得られた酸性多糖類線維を、ガーゼ状又は綿状 に調製した綿状の可吸収性止血薬である。酸化セルロースの主成分がヘ モグロビンと親和性を有しており凝血塊を形成し、止血効果を得る。ゼ ラチン吸収性スポンジとは異なり、乾燥した状態で使用することにより、 より高い止血効果が得られるので、湿らせて使用しないよう注意が必要 である。 (カ) トロンビン(トロンビン液、トロンビン細粒) 通常の結紮によって止血困難な小血管、毛細血管及び実質臓器からの 出血や消化管出血、鼻出血、気道内出血などに対して使用される。血中 のフィブリノゲンに作用しフィブリンに変換することにより止血作用 を発揮する。血管内への投与は禁忌とされているが、仮性動脈瘤などへ の経皮的直接注入の報告も認められる。本剤は酸性下で不活化されるた め、上部消化管出血に対して使用する場合は、事前に胃酸の中和を行う 必要がある。なお、人由来のものと牛由来のものがある。 (キ) アドレナリン アドレナリンの血管収縮作用を利用して、粘膜などからの局所止血に 対して用いる。手術時の局所止血や鼻出血などに利用される。アドレナ リン 0.1%溶液として、ガーゼ等に含ませ創面を覆ったり、鼻空内へ充 填したり、皮下や筋肉内に局所注入したりする。局所処置用に用いる製 剤と注射用の製剤があるので注意が必要である。 最後に局所止血薬の特徴を表にまとめて示す。 局所止血薬 剤形 特定生物由来製剤 の同意書 作用 シート状フィブリン接着剤 スポンジ状のシート 必要 トロンビンによりフィブリノゲンが反応しフィ ブリンが形成される。コラーゲンが補強す る。 液状フィブリン接着剤 液状 必要 トロンビンによりフィブリノゲンが反応しフィ ブリンを形成する。 コラーゲン製剤 シート状、綿状、など 不要 血小板の粘着・凝集 ゼラチン吸収性スポンジ スポンジ状 不要 密着 酸化セルロース 綿状 不要 ヘモグロビンと結合し凝血塊を形成し密着 トロンビン 液状、細粒 必要な製剤もある 体内のフィブリノゲンをフィブリンへ変換す る。 アドレナリン 注射用、外用 不要 血管を収縮させ血流を低下させる。 表 局所止血薬の特徴