知的財産法政策学研究 Vol.47(2015) 27 特集:営業秘密保護法制の再構成 【講演録】 シンポジウム「営業秘密保護法制の再構成」 趣旨説明 Christoph RADEMACHER これより「営業秘密」のテーマに移りたいと思います。営業秘密は、著 作権あるいは特許ほど伝統的な、長い歴史を持っている分野ではないです が、近年多くの国、たとえば米国、日本、ヨーロッパでもたいへん注目さ れている分野ですので、今回初めて「営業秘密」の話をテーマにしようと 思いました。 「営業秘密」の議論の背景として、最近の動き等を少しまとめようと思 います。多くの企業から、営業秘密保護の程度はどこまで強くしたほうが よいのかと、また全ての企業ではないですが、「もっと強くすればよいの では」という声もありました。最近でも日本の企業が絡む大きなケースは いくつかあり、現在日本の経産省が法律改正を準備している最中です。 ここで、今年の 1 月に発表された比較研究の結果を紹介したいと思いま す。これは OECD に委託されてアメリカの有識者が書いたレポートでして、 各国の営業秘密がどこまで強く保護されているかをレビューしたもので す。このレポートは 5 つの要素から保護の強弱を判断しており、1 番目は 営業秘密の定義とその範囲がどこまで広く定義されているか。2 番目は関 係者間の義務と営業秘密の不正利用の程度。3 番目は救済。4 番目は権利 行使がどこまで簡単にできるか。5 番目は関係する規則、たとえば技術移 転の規則はどこまでうまくスムーズに使えるのか。以上の 5 点から判断す る内容になっています。この研究によれば、最も強く保護されている国は アメリカで、その次に強く保護されている国は日本です。したがって、現 在日本は問題にしなければならないほど弱い保護しか与えられていない わけではないかもしれず、たとえばドイツよりもしっかりと保護されてい るという理解もできるかもしれません。 特 集 28 知的財産法政策学研究 Vol.47(2015) ただし、この研究は完璧な方法で行われているとは言いがたい面もあり、 たとえばこのレビューは2010年時点という少し古い法律や条文を元に作 成されています。また、当然いろいろな国の分析をするのはそれほど簡単 ではないので、ある程度大雑把であるということも指摘されてはいるので すが、いろいろな国の営業秘密の状況を容易に分析し、理解する上では、 面白いレポートではないかと思います。 ここまでの話を背景として、本日は日本と米国の営業秘密の制度につい て、議論とディスカッションを通じて勉強しようと思いますが、そのため にまずは古くからの営業秘密制度のある国、アメリカについての講演に参 りたいと思います。