「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 119 - 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか 道内自治体調査の結果とその分析を通して 村上 裕一 i 小磯 修二 ii 関口麻奈美 iii 1. はじめに 2014年12月に発足した第 3 次安倍政権の下で、「まち・ひと・しごと創生長期ビジ ョン」と「総合戦略」に伴って3.5兆円規模の「地方への好循環拡大に向けた緊急経 済対策」が閣議決定され、その年明け以降、2014年度補正予算により当面の政策が実 行されるとともに、2015年度本予算、及び、地方再生法等関連法案が成立した(中西 2015)。国の総合戦略が中長期を見通した「地方人口ビジョン」と 5 か年の「地方版 総合戦略」の作成に努めるよう全国の自治体に求めたところ、2015年度末までに、前 者については全都道府県と1738市区町村(99.8%)で、後者については全都道府県と 1737市区町村(99.8%)で、それぞれ策定済みとなっている 1)。国は、2014年から 2015年度までを地方版総合戦略の策定段階と位置付け、2014年度補正予算で各自治体 の人口や財政力指数等の客観的基準に基づき1400億円をそれらに交付し、さらに対象 を絞って300億円を上乗せ交付した(「先行型交付金」)。続いて国は、2015年から2016 年度までを地方版総合戦略の事業推進段階と位置付け、2015年度補正予算で1000億円 を「加速化交付金」(補助率:10/10)として配分した上で、2016年度本予算でさらに 「先駆的な事業」に対して1000億円を地方創生の深化のための新型交付金(「推進交付 金」)(補助率:5/10)として交付した 2)。 今般の地方創生には様々な評価が存在している。これに対して本稿では、北海道内 自治体に対する調査とその分析を通して、この地方創生が北海道に何をもたらしたか について検討し、今般の地方創生を筆者らなりに評価し意義付けたい。 低密度・広域分散・積雪寒冷という特殊で厳しい自然環境・地理的条件下にある北 海道は、地方行財政の課題先進地であって、今になって自治体消滅や地方創生を声高 i 北海道大学公共政策大学院・法学部 准教授 Email: yuichim@juris.hokudai.ac.jp ii 北海道大学公共政策大学院 特任教授 Email: shuji-koiso@nifty.com iii プランニング・メッシュ Email: msd@rc4.so-net.ne.jp 1) 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方人口ビジョン及び地方版総合戦略の策 定状況」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/h28-04-19-sakuteijoukyou.pdf)(平成28年 4 月19日)。 2) まち・ひと・しごと創生本部ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/)。 年報 公共政策学 Vol.11 - 120 - に叫び取り組みを求める国の動きには「今更感」を禁じ得ない。本調査では、道内自 治体から「人口減少問題をより切迫したものとして捉える契機になった」といった声 ももちろん聞かれたが、少なくとも北海道では、人口減少対策が地方創生以前にも課 題として認識され取り組みも現に見られた。とはいえ、道内自治体は、国の総合戦略 の下で各市町村なりに現実を(改めて)受け止め、各々の環境条件に制約を受けなが らも対応をしてきている。本稿では、量的にも質的にも観察対象が充実している道内 全179自治体に対する調査結果を基に、北海道にとっての地方創生の意味と今後を考 えたい。この成果は、より一般的に、人口減少時代の地域政策のあり方にも大いに示 唆を与えるものである。 本稿では、まず、道内自治体に対する本調査の方法について、先行するヒアリング 調査(2.1)、調査票の作成(2.2)、調査票の送付・集計・分析(2.3)という作業の 順を追って記述する。続いて、地方創生に対する各市町村の対応状況を、その態勢、 手法、今後の取り組みの 3 側面から捉えるとともに(3.1)、総合戦略そのものの特 徴として、その目玉、総合計画との関係、KPI のほか(3.2)、交付金について考察す る(3.3)。さらに、道内自治体の地方創生への対応(4.1)とそれに見る我が国の中 央・地方関係について検討し(4.2)、それを踏まえて、道内自治体にとって地方創 生は何だったかを筆者らなりの解釈を交えて論じる(4.3)。最後に、本稿の内容を まとめて結論を述べ、今後の課題を整理する(5.)。 2. 調査の方法 2.1 先行ヒアリング調査 筆者らは、調査票の作成・送付に先立ち、まず2016年 7 月から10月にかけて道内 7 市町村役場を訪問し、今般の地方創生への取り組みについて、これに直接関わった担 当者に対するヒアリング(1 件当たり 2 時間程度)を行った。ヒアリングのポイント としては、総合戦略等を策定するに当たってのスタンスやそれに込めた思い、苦労し た点、国・道・他自治体・民間等との連携の態様、総合計画との関係、国からの交付 金についての意見等が挙げられる。このヒアリング調査をする中で、総合戦略の内容 もさることながら、地方創生に抱く感情も、自治体によって、さらには担当者によっ ても様々であることが窺われ、それ自体をある程度網羅的な調査によって明らかにす べきではないかと思うようになった。さらには、そうした違いがなぜ生じるのかとい う問題意識も、筆者らで共有するに至った。 北海道には179の市町村があり、調査を実施してある程度高い回答率を得ることが できれば、それなりに客観的な調査分析になり得る。こうしたことから、筆者らは、 道内全自治体に調査票を送付し回答結果を分析することを想定しつつ、上記のヒアリ ング調査の感触を踏まえて質問項目案を列挙していった。その際、筆者らが特に注意 深く検討したのは、①179自治体の(有意な)全体傾向、②179自治体の多様性とその 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 121 - 要因、③これまで必ずしも明らかになっていない、今後目指すべき地方創生のための 現場の声、を明らかにするための設問内容についてである。 2.2 調査票の作成 各自治体への質問項目案を整理し、調査票を作成していった。筆者らの関心は極め て多岐に渡ったが、最終的には、回答者の負担も勘案し、本調査のそもそもの目的を 達成するのに必要最小限の全52問からなる調査票(デモ版)に取りまとめた。ちなみ に、この段階でクロス集計等、単純な統計分析が可能になるような質問群を仕組むと いうこともした。 この調査票(デモ版)は、筆者ら独特の用語法や自治体実務の独善的解釈を含んで いることが懸念された。そこで、道内4市町にこれを先行して送付し、率直な感想・ 意見をお聞かせいただいた。本調査は当初、結果の集計や図示のし易さ等を勘案しグ ーグル・フォームのみを用いて実施することを想定していたが 3)、筆者らにおいて各 自治体の回答のし易さが十分に読み切れなかったため、これについても関係者に試験 的に回答(ウェブ入力)してもらい、感想をお聞かせいただくということもした。 デモ版による調査実施の結果、選択肢に若干の修正を加えた。また、グーグル・フ ォームにおいては、必須回答の質問項目を空欄や無回答にすると、次の質問に進んだ り回答を送信したりすることができない。すると回答者はそこで調査票への回答を止 めてしまい、結果として回答率が下がるのではないかとの考えに至った。仮に幸いそ うならないとしても、筆者らが考える以上に各市町村においてウェブ入力には抵抗が あるという感触を得たことから、当初のグーグル・フォーム単独での調査という方針 を変更した。すなわち、一般財団法人北海道開発協会の協力を得、同協会から各市町 村宛ての送付物に本調査票(回答用紙)を同封し、ウェブか郵送かで回答のし易い方 法を回答者が選べるようにした。 2.3 調査票の送付・集計・分析 以上のような経緯で、2016年10月 5 日水曜午後に調査票を全179市町村に発送し、 10月17日月曜にいったん〆切った後、その時点で回答のない自治体に個別に電話で確 認した結果、11月11日金曜までに全体の87.2%に当たる156市町村から回答を得た。 回答率はそれぞれ、市が94.3%(33/35)、町村が85.4%(123/144)であった。この ように高い回答率を実現した本調査結果は、北海道全体の傾向を捉える上でかなり有 意と考えられる。 全回答156通のうち郵送での回答が103(66.0%)、グーグル・フォーム(ウェブ入 3) 「グーグル・フォーム」は、ウェブ上でアンケートを作成・入力・集計・分析できる無料サービ ス。 年報 公共政策学 Vol.11 - 122 - 力)が40(25.6%)、メール(回答の電子ファイルを添付)が13(8.3%)であり、結 果的には郵送による回答がウェブを大きく上回った。もちろん筆者らの調査票の作り 込み具合に依る部分もあるが、各市町村からの回答方法からだけでも、その業務の特 徴について窺い知れたことが多かった。それは例えば、少なくとも道内市町村役場は まだペーパー・ワークの方に馴染みがある、大きな自治体ほど担当者「個人」ではな く「組織」としての回答をしがちである 4)、電話で担当者に直接依頼した方が高い回 答率となる(そうでない限りこうした調査が忘れ去られがちであるほどに、現場は他 業務に追われているということか)といった点である。 本調査では、総合戦略策定に中心的に関わった担当者個人から地方創生に関する本 音を聞き出すべく回答を依頼したが、担当部局(組織)としての回答と思われるもの もあった。これは、本調査で利用できたメールアドレスが担当者個人のものではなく、 せいぜい各部署の共有アドレスであったという技術的な限界にも起因している。した がって、本調査結果すべてを担当者個々人の本音として受け取ることはできない。し かしながら、特に自由記述欄において、担当者個人としての本音と推察できる回答もあ ったため、その分析に当たっては、筆者らでそれを十分噛み締めて読むように努めた。 本研究では、単純集計に加えて、都市機能、人口変化率、財政力指数による地域区 分別分析を行った。都市機能については、国土審議会北海道開発分科会資料「1970~ 2040年の人口推移(主要都市別)」に基づき、経済圏・通勤圏・商圏等の中心都市機 能により道内市町村を①中核都市群、②中心都市群、③地方中心都市群、④周辺地域 に区分して集計し、必要に応じて「中心都市地域」(①~③)と「周辺地域」(④)と を比較しながら分析を行った。人口変化率については、日本創成会議が推計した「人 口移動が収束しない場合の若年女性人口変化率(2010~2040年)」に基づき、道内市 町村をⅠ(-50%以上)、Ⅱ(-50%~-70%未満)、Ⅲ(-70%以下)に分類した。 各市町村の総合戦略がその人口ビジョンとセットで出されたことを踏まえると、この 若年女性人口減少率が自治体消滅への危機感と連動していると想定することもできる。 財政力指数については、総務省「平成26年度 地方公共団体の主要財政力指標」に基 づき、道内市町村をⅠ(0.5以上)、Ⅱ(0.3~0.5未満)、Ⅲ(0.3未満)に分類した。 3. 調査結果 3.1 地方創生への対応 3.1.1 態 勢 ① 庁内態勢 道内では120自治体(76.9%)において、以前と名実ともに変わらない既存の部署 4) 大きめの自治体から照会があったのは「回答書を担当部署で稟議に回すので調査票を電子 ファイルで送ってもらいたい」というものであり、当該自治体からは実際、担当ラインの 決裁を経た回答(紙媒体)が郵送で届いた。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 123 - が地方創生を担当した。その一方で、これを機に担当部署を新設した自治体が19 (12.2%)、既存部署を何らかの形で発展させた自治体が16(10.2%)あった 5)。当該 部署名に「企画」という言葉が含まれるのが101(64.7%)、「総務」が含まれるのが 52(33.3%)であるというデータなどと併せると、限られた時間の中で、各自治体の 企画・総務部門がこれを引き受け、基本的には既存の庁内態勢により地方創生に対応 した自治体が多かった。庁内態勢をこの度拡充したとする自治体が28(17.9%)、縮 小したとする自治体が22(14.1%)あったのに対し、変わらなかったとした自治体は 104(66.7%)であった 6)。 総合戦略策定に直接関わった職員(中心的担当者)数は平均約3.2人で、125自治体 (80.1%)が 2 ~ 4 人と回答した。中核都市群でも 3 ~ 4 人が平均だが、市では「 1 人」あるいは「 7 人以上」としたところが町村に比べて多かった。このことから、戦 略策定には規模に応じた人員を割いた市があった一方で、省エネ型の対応をした市も あったことが窺える。他方、比較的小規模な町村でありながら「 5 人」が関わったと ころがあったことからは、限られた時間の中で、役場総動員とは言わないまでも、い わば家族経営的にかなりの労力をこれに注いだところがあったことが推測される。 中心的担当者の 9 割以上は自治体役場のプロパー職員が占めたが、特に中心都市群 や周辺地域において、道・国・民間からの出向者がプロパー職員と協働した自治体が あった。強いて言えば、若年女性人口減少率が高いところに道からの出向者が、そう でもない(周辺地域の)自治体に国からの出向者が、それぞれやや多かったようであ る。担当者全体では、企画畑(40.1%)の自治体職員が最も多く、総務畑(16.3%)、 財政畑(15.7%)と続いた。そうした中で、周辺地域を中心に、それらとは異なる教 育畑(7.0%)、技術畑(5.5%)、福祉畑(5.5%)の職員が充てられた自治体もあっ た。総合計画との差別化という意図も多少あったと考えられる。 ② 策定過程 自治体の政策決定は、審議会を経る場合が多いほか、近年では住民参加を経る例も 増えている。地方創生の総合戦略策定に当たっては産・官・学・金・労・言から成る 協議会を置くものとされ、これを機に住民参加を増やした自治体が53(34.0%)あり、 若年女性人口減少率が高く周辺地域にある自治体においてその傾向は若干強かった 5) 1 自治体は「その他」と回答。全体的な傾向として、この「新設」、「発展」には若年女性 人口減少率が高い自治体(Ⅱ・Ⅲ)がやや多めに含まれていた。 6) 2 自治体は無回答。なお、庁内態勢と住民参加の拡充・縮小はほぼ相関している。また、 若年女性人口減少率が低い自治体(Ⅰ)の 8 割以上が「(庁内態勢は)変わらなかった」 とし、若年女性人口減少率の高い自治体ほど「拡充した」と回答する割合がやや高かった。 これも、若年女性人口減少率の高さが自治体の危機感の強さと相関していると考える理由 の 1 つである。ただし、一定の若年女性人口減少率を見込む道内自治体では、今般の地方 創生以前からすでに対策に取り組んでいたということもあり得る。 年報 公共政策学 Vol.11 - 124 - (他方、「変わらなかった」とした自治体も全体で57あった)。この度、金融機関には 地域経済動向や地元企業への融資、地域資源を活かした起業や事業支援等、金融に関 する情報提供が期待されたものの、実際にはオブザーバ的な役割を果たすにとどまっ た例が多く、通常の政策決定の場合と同様、金融機関が戦略策定の中心的役割を果た すまでには至らなかった。また、労・言については該当者なしとした自治体があり、 これらを協議会に入れる意義については現場で戸惑いもあったようである。労はむし ろ地域住民の立場で労働・生活環境や雇用・求人状況に関する意見を寄せ、言は施策 それ自体に加え、効果的な情報発信の方法を役場に助言したりもした。通常の政策決 定と今般の戦略策定とを比べた場合、産・官が中心的役割を果たす傾向に変わりはな いが、学が中心的役割を果たしたとする自治体が 4(2.6%)から32(20.5%)に増 えている。これは、短い時間・プロセスの中で、学者を長に据えた協議会での調整が 大きなウェイトを占めていたことを推測させる。 地方議会との関係については、総合戦略を常設委で議論したとする自治体が77 (49.4%)に上った一方、全員協議会を開催した自治体も一定数見受けられた。全員 協議会は、市町村議会議員全員で行うという点で本会議と同じだが審議・議決は行わ ない。それが通常、自治体の政治・行政上の重要な事件や議会内部の処理事項につい て報告・協議するために開かれることからすると、戦略策定に向けて、議員を含め一 気に利害調整を済ませることを志向した結果と考えられる。 ③ 国・道との関係 戦略策定に当たっての国(まち・ひと・しごと創生本部事務局や地方創生推進事務 局)とのやり取り・交流の有無については、自由記述に回答のあった54自治体のうち 23自治体が「特になかった」と回答しており、無回答分と併せると全体で 8 割程度が そうであったとみられる。他方、やり取り・交流があったとする自治体からは、国主 催の意見交換会・説明会・相談会や地方創生ホットライン・コンシェルジュを通じ、 戦略策定、KPI 設定、交付金申請等に関する情報提供を受けたり、地方創生人材支援 制度やその他の職員派遣による支援を受けたりしたとの回答があった。国(事務局) と直接やり取りした例も一定数あった一方、道(振興局)やコンサルを通じた間接的 なやり取りのみと回答したところも 6 自治体あった。 逆に、人口ビジョンや総合戦略の策定に係る北海道庁からの支援が「特になかった」 としたのはわずか 9 自治体しかなく、全体的には国より道との関係が強かったと考え られる。各自治体の協議会に道(振興局)職員がオブザーバとして参加したという例 が多いが、実質的には、道職員・アドバイザーの派遣、振興局内での情報交換・学習 の場の設定、人口ビジョン・総合戦略のフォーマット提供や交付金申請に関する技術 的助言、進捗状況の確認、国や他自治体の政策動向に関する情報提供などといった支 援があった。ただし、地方創生に関する各市町村のニーズや期待に道が十分応えられ 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 125 - たかというのは振興局によってまちまちだったようで、各市町村には基本的に自らの 力で地方創生に対応することが求められた。道と市町村との関係は、担当職員に属人 的な部分、既往のネットワークの有無、地域特性などによって規定されていたと考え られる。もっともここでは、国が前面に出る反面、道は自治体の一種として市町村と 同列に位置付けられていたというこの地方創生の制度的特徴も、踏まえておく必要が あるだろう。 3.1.2 手 法 ① コンサルタントへの委託 国は、各自治体の創意工夫を強く求めながら、業務をコンサルに委託する費用を 1000万円まで交付するとした。道内自治体では、戦略策定に係るデータ収集・分析を コンサルに委託した自治体が62(39.7%)、人口ビジョン策定作業の一部を委託した のが57(36.5%)、人口ビジョン策定作業のほとんどを委託したのが42(26.9%)で あった。戦略策定を委託したのが25(16.0%)にとどまったことを加味すると、限ら れた時間の中で、専門的なデータ分析を伴う人口ビジョン策定に関してコンサルへの 委託がより頻繁に行われたと言える。なお、コンサルに委託した124自治体のうち道 内(本社が道内にある)コンサルに委託したのは72(58.1%)であった。他方、一切 委託をしなかった自治体が32(20.5%)に上り、それは周辺地域にあって、若年女性 人口減少率の高い自治体にやや多かったという傾向も認められる(中核都市群16.7% に対し周辺地域22.7%)。 コンサル委託に関する判断の理由を問うたところ、委託を決めた自治体で最も多か ったのが「国からの交付金があったから」で81(65.3%)、委託しなかった自治体で 最も多かったのが「自治体のマンパワーを活用できたから」で19(59.4%)となった。 むしろ、役場の人材育成・活用のためにあえて自前での策定を選んだ自治体もあった とみられる。コンサルに委託した(しなかった)ことに満足したとの回答は全体で 121(77.6%)であり、道内コンサルに満足したとする回答(80.6%)が道外のそれ (71.2%)を上回った。コンサルは客観的な情報や専門性の提供、効率的な業務遂行 に一役買ったものの、自治体の状況に即した情報や専門性の提供が期待以下だったと の声も聞かれた。これに対し、全てを自らの手で策定したことについて満足している とした自治体が81.3%に上ったことも注目されよう。 ② RESAS の活用 国は、人口ビジョンと総合戦略を策定する自治体に「地域経済分析システム」 (RESAS)の活用を積極的に呼び掛けてきた 7)。しかし現実に道内自治体で最も利用 7) まち・ひと・しごと創生本部ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/resas/)。 年報 公共政策学 Vol.11 - 126 - されたのは自治体自前のデータ(87.8%)であり、RESAS はそれ以外の国のデータ (42.3%)に次いで39.1%にとどまった。その中でも周辺地域において RESAS 利用 が34.5%と低くなっていることは、とりわけ地方創生の取り組みが必要な周辺地域の 自治体のニーズにより適合的なデータ提供が求められていることを示唆している。 ③ 周辺自治体との連携 国は、規模の大小や人口減少率の高低に関わらず全自治体に総合戦略の策定を求め た。したがって、場合によっては弱小自治体であればあるほど、その人口減少への取 り組みが試されたと言ってもよい。そうした中で、今般の地方創生の特徴の 1 つとし て、交付金が周辺自治体との連携を申請要件としていたことが挙げられる。しかし、 今般の地方創生を受けて周辺自治体との連携は促進されたかとの問いに対して、「促 進された」としたのは53自治体(34.0%)にとどまり、「以前とあまり変わらなかっ た」と「促進されなかった」が併せて102(65.4%)と多数を占めた。また、戦略策 定に当たって周辺自治体と「必要な施策については調整を行った」と回答したのはわ ずか15(9.6%)に過ぎず、「道庁の仲介で調整を行った」も 9(5.8%)にとどまり、 他方で「担当者同士で事務的な情報交換・相談を行った」が70(44.9%)、「特に連携 調整の機会はなく、独自に進めた」が59(37.8%)に上った。都市機能別に見ると、 中核都市群よりも地方中心都市群や周辺地域において「担当者同士で事務的な情報交 換・相談を行った」の割合が高かったことから、そうした地域での方が担当者レベル での交流が行われている実態が窺える。しかもこのことは通常業務の場合と大きくは 違わず、地方創生がそれを劇的に変えることはなかったと考えられる。特に道内にお ける自治体間連携の可否は、それを主導する自治体の有無のほか、様々な地政学的条 件によって規定されている。それに対して国は全く無策というわけではないが、現実 にはまず隣接自治体間で、地域住民の日々の行政ニーズに応えるための機能分担とい う形での連携が模索されている。 3.1.3 今後の取り組み 総合戦略に今後の人口減少への対処策はどのような形で盛り込まれているか。各自 治体の回答によると、「人口減少に向けてさらに幅広い施策展開が必要」としたのが 91(58.3%)で最も多く、「総合戦略上の施策を着実に推進することで対応する」の 45(28.8%)、「国からの指導で戦略を策定したが、対応策は今後改めて検討していく 必要がある」の17(10.9%)が続いた。これを都市機能別に見た場合、中核都市群が 「総合戦略上の施策を着実に推進することで対応する」を、中心都市群・地方中心都 市群が「人口減少に向けてさらに幅広い施策展開が必要」を、周辺地域が「国からの 指導で戦略を策定したが、対応策は今後改めて検討していく必要がある」を、それぞ れ答える傾向が見られた。周辺地域ほど限られたリソースの中で地方創生への対応に 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 127 - 苦労したという結果と併せると、周辺地域ほど(未発掘の)課題が多いとの認識の下、 今般の総合戦略に載せた対処策でもいまだ不十分といった自治体の無力感のようなも のが伝わってくる。 今後の取り組みについてこのような認識がある一方で、戦略策定からあまり時間の 経っていない現時点において、総合戦略を見直す明確な予定があるとした自治体は 9 (5.8%)と少なく、132自治体(84.6%)は「必要があれば見直し・改訂をする」と の回答であった。ただし、若年女性人口減少率の高い周辺地域では、総合戦略を見直 す前にそれを着実に推進していこうとする意志も感じられる。総合戦略の推進に向け ては、「検討体制はほぼ維持しつつ、回数は減らしていく」という回答が最も多く83 (53.2%)、それに「総合戦略策定と同じ体制で、同様の頻度でフォローアップを進め ていく」の42(26.9%)、「検討体制を縮小して進めていく」の24(15.4%)が続いた。 3.2 総合戦略の特徴 3.2.1 目 玉 総合戦略の内容に目を転じよう。各自治体にその目玉を最大3つまで挙げてもらっ たところ、図1のような結果となった。人口減少への対処策として、産業の活性化に よる所得安定と雇用確保、そのための移住・定住支援が重要であると同時に、安心し て子供を育てられる環境整備にも重きが置かれていると言えよう。振興局別では、 「産業の活性化」が胆振・石狩・檜山・上川・釧路において、「子育て支援」が十勝・ 石狩・留萌・宗谷・渡島において、それぞれ特に重視されている。 これを都市機能別に見ると、「産業の活性化」が中核・中心都市群(いずれも 83.3%)で多くなっている(「雇用創出」にも同様の傾向がある)。それに対して地方 中心都市群・周辺地域では「移住・定住支援」が中核・中心都市群の16.7%に対して それぞれ47.4%、46.2%と高い割合となっている(微かだが「住宅政策」にも同様の 傾向がある)。さらに、「福祉の充実」、「医療の充実」、「出産時の支援」を挙げた中 核・中心都市群が皆無であったことからも、戦略における目玉の地域別特徴を見て取 ることができよう。「子育て支援」が中心都市群で91.7%と特に高くなっていること は、広域的な生活経済圏を支える地域におけるそれへのニーズと関心の高さを示して いる。 なお、本稿冒頭で述べた通り、国は各自治体に総合戦略と人口ビジョンを別建てで 策定することを求めた。このことに関しては、85自治体(54.5%)が「人口減少問題 を真剣に考えるためには、別建てでビジョンを示す必要があった」とし、「国からの 指示だったのでやむを得ず策定した」と回答したのは10自治体(6.4%)にとどまっ た。その一方、61自治体(39.1%)が「限られた時間で総合戦略を策定するためには 別建てにする必要はなく、総合戦略の前提として議論をすればよかった」と回答した。 両者を別建てにしたことによる論点整理の意義は確かに認め得るが、それに共感する 年報 公共政策学 Vol.11 - 128 - 自治体の多くが中核都市群であることから、上記の回答は、やはり限られた時間の中 で当該自治体に両者を別建てで策定する余裕があったか否かにかなり規定されている ものと考えられる。 3.2.2 総合計画との関係 総合計画は「自治体が施策・事業を総合的かつ計画的に展開するために、一定の期 間(計画期間)を設定して達成すべき目標とそのための施策・事業を定める文書」で あり、概ね、①庁内の検討と調整、②審議会での審議、③住民参加の手続 8)、④議会 での審議、を経て策定される。かつての地方自治法で総合計画の基本部分(基本構想) の策定が義務付けられており、この規定は2011年に廃止となったが、実態としてこの 総合計画は多くの自治体で策定されている(礒崎ほか2014; 98-101)。 この総合計画と今般の総合戦略の関係整理は、国の経済財政政策や科学技術政策の 場合と同じく、特に第 2 次安倍政権以降の理論的・実践的課題の 1 つと考えられる。 これを地方創生に対応した各自治体に問うたところ、状況は総合計画期間中か否かな 8) 現在では、不特定・多数の住民が参加する手法が採用されるなど、参加主体の広がりが見 られる。総合計画の形、内容、策定方法の最近の動向について、松井(2012; 207-209) を参照。 図1. 総合戦略の目玉・特徴 出典:本調査において、総合戦略の目玉・特徴を(最大 3 つまで)問うて得た回答結果を基に作成。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 129 - ど様々であったが、「総合戦略は総合計画の一部(人口減少対策)」としたのが59 (37.8%)、「総合戦略は総合計画のうち短期的視点による重点戦略」が48(30.8%) という結果となった。「総合戦略は総合計画とは別の戦略」が20(12.8%)、「総合戦 略は総合計画を交付金獲得という目的に合わせたもの」が 4(2.6%)にとどまった こともこれに加味するならば、約 7 割の自治体が総合戦略を総合計画の実質的一部と 捉え、総合計画という「政策の束」の中にありながら、国の求めに応じ人口減少問題 対策を重点的にこの総合戦略に盛り込んだという実態が認められる。都市機能別では、 中核・中心都市群で「総合戦略は総合計画の一部(人口減少対策)」との回答が、地 方中心都市群・周辺地域で「短期的視点による重点戦略」、「補完するもの」とする回 答が、それぞれ目立つ。このことは、中心都市地域よりも周辺地域において、その当 面の取り組みの背景にある危機感が強いことを示唆していよう。 3.2.3 KPI について 総合戦略に関して、国は具体的な施策について客観的な重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicator)を設定し、チェックしながらそれを実行していくことを自 治体に求めている。これも特に第 2 次安倍政権以降多用されており、それに特徴的な 政策手法と言える。 各自治体が設定した KPI で最も多いものを尋ねたところ、「新たに設定したもの」 とした自治体が118(75.6%)で最も多く、それに「行政評価・事務事業評価等、既 存の数値目標をそのまま利用」の22(14.1%)、「既存の数値目標を加工して作成」の 16(10.3%)が続いた。なかでも興味深いのは、若年女性人口減少率が高い周辺地域 において「新たに設定したもの」の回答がやや多かった一方、若年女性人口減少率が 低い中心都市地域において「行政評価・事務事業評価等、既存の数値目標をそのまま 利用」の回答がやや多かったことである。ここでも、特に状況が厳しい自治体に対し、 地方創生が取り組みを促したことが窺える。各自治体は、実現可能性を担保しながら チャレンジングな KPI を設定することに知恵を絞った。 この KPI 設定の必要性については、「5 年間の政策成果をチェックするために KPI は必要だが、毎年度行う必要はない」との回答が58(37.2%)、「5 年後の施策達成を 図るため、また単年度の施策評価のために KPI は必要」が57(36.5%)、「全ての施 策に一律に KPI 指標を設ける必要はない」が42(26.9%)であった。すなわち、KPI の設定とそれによる進捗管理という手法に一定の意義は認めつつも、厳格過ぎる、も しくは施策・事業の特性とマッチしない KPI とその設定に対しては疑問の声が挙が っている。このことは、交付金申請に関する問いに対し、「具体的な達成度合いをチ ェックしていくために KPI は必要」との回答が47自治体(30.1%)から寄せられた 一方、「単年度の事業の進捗、成果をすべての施策について KPI でチェックするのは 無理がある」との回答が109(69.9%)にも上ったことによっても裏付けられている。 年報 公共政策学 Vol.11 - 130 - 3.3 交付金について 地方創生に係る交付金には、本稿冒頭で述べた通り「先行型」、「加速化」、「推進」 がある。本調査では、前 2 者の使い勝手について問うた。結果は、「先行型」につい て「使い勝手が良かった」が63自治体(40.4%)、「制約が多く、もう少し使途を広げ てほしかった」が70(44.9%)、「非常に使いづらかった」が21(13.5%)であった。 それに対し、「加速化」について「使い勝手が良かった」は10自治体(6.4%)に激減、 「制約が多く、もう少し使途を広げてほしかった」が97(62.2%)と増加、「非常に使 いづらかった」が46(29.5%)に増加した。 「先行型」、「加速化」ともに、若年女性人口減少率が高い自治体にとって使い勝手 が比較的良かったことが窺われる上に、国が措置した交付金額について、周辺地域の 自治体ほど「期待通りだった」と答え、中核都市群の自治体ほど「期待したより非常 に少なかった」と答える微かな傾向が認められる。また、国から来る交付金全体の増 減に関する感触として、若年女性人口減少率の高い自治体ほど「増えた」と回答しが ちであったことも指摘できる。したがって、地方創生交付金に関しては、若年女性人 表1. 中心都市機能と住民 1 人当たりの交付金額 1000 円未満 1000 円~ 5000 円未満 5000 円~ 10000 円未満 10000 円以上 不明 全体 全体 22.4% 30.1% 19.9% 22.4% 5.1% 100.0% 中核都市群 100.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 中心都市群 58.3% 33.3% 8.3% 0.0% 0.0% 100.0% 地方中心都市群 5.3% 84.2% 10.5% 0.0% 0.0% 100.0% 周辺地域 17.6% 22.7% 23.5% 29.4% 6.7% 100.0% 出典:本調査結果により作成。同列の中で数字の大きい順に色を付けた。 表2. 若年女性人口減少率と住民 1人当たりの交付金額 1000 円未満 1000 円~ 5000 円未満 5000 円~ 10000 円未満 10000 円以上 不明 全体 全体 22.4% 30.1% 19.9% 22.4% 5.1% 100.0% -50%以上 28.6% 32.1% 14.3% 21.4% 3.6% 100.0% -50~-70%未満 21.6% 38.6% 13.6% 21.6% 4.5% 100.0% -70%以下 20.0% 10.0% 37.5% 25.0% 7.5% 100.0% 出典:本調査結果により作成。同列の中で数字の大きい順に色を付けた。 表3. 財政力指数と住民 1 人当たりの交付金額 1000 円未満 1000 円~ 5000 円未満 5000 円~ 10000 円未満 10000 円以上 不明 全体 全体 22.4% 30.1% 19.9% 22.4% 5.1% 100.0% 0.5 以上 80.0% 20.0% 0.0% 0.0% 0.0% 100.0% 0.3~0.5 未満 28.6% 60.7% 7.1% 3.6% 0.0% 100.0% 0.3 未満 16.1% 23.7% 24.6% 28.8% 6.8% 100.0% 出典:本調査結果により作成。同列の中で数字の大きい順に色を付けた。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 131 - 口減少率が高く周辺地域にある自治体に対してより優しい交付金制度であったとの解 釈もできる。しかしいずれにしても、交付金が徐々に使い辛いものになっていったの は確かである。 さらに、中心都市機能、若年女性人口減少率、財政力指数の各類型と自治体住民1 人当たりの地方創生交付金額(「先行型」(ただし「上乗せ」分のみ)と「加速化」の 合計金額を人口で割ったもの)のクロス分析を行ったのが表1~3である 9)。 表1からは、中心都市地域から周辺地域に行けば行くほど交付金額が大きいこと、 表2からは、若年女性人口減少率の高い自治体であればあるほど交付金額が大きいこ と、表3からも、財政力指数が低い自治体であればあるほど交付金額が大きいことが、 それぞれ分かる。 交付金額決定のプロセスや考慮事項を明らかにしない限り確定的なことは言えない が、上記の分析結果からは、この地方創生全体の傾向として、その効果が、周辺地域 にあって若年女性人口減少率の高い、財政力指数の低い自治体に届き易い仕掛けにな っていたことが分かる。その意味において、(当然と言えば当然のことではあるが) 地方創生は格差是正に一定の効果を有していたと言える。 4. 考 察 4.1 自治体の問題意識と取り組み 各自治体は地方創生をどう受け止めたか。戦略策定に対する首長の姿勢を尋ねたと ころ、「積極的」としたのが146自治体(93.6%)となった(若年女性人口減少率が高 い自治体で「消極的」としたのは皆無)。そのうち、それが既往の地方活性化策を上 回るほど「積極的」だったとしたのがわずか 6 自治体であったことからすると、やは り、とりわけこの地方創生が各首長にとって特別だったわけではなかったことが分か る。ただし、周辺地域の大多数(105自治体)は「他の政策と同じく積極的」とした 一方、「他の政策と異なり積極的」が 6 自治体、「他の政策と異なり消極的」5 自治体 だったことからは、周辺地域でこれまでと異なるスタンスをとった自治体の姿勢は二 分されたと言えよう。 なお、道内で自民党系50(32.1%)、民進党系 7(4.5%)、その他18(11.5%)、無 所属81(51.9%)となっている首長の党派性と地方創生への姿勢との間には、明確な 関係性を見出すことができなかった。今般の地方創生には、自民党系だから積極的に 取り組むとか非自民党系だから消極的にしか取り組まないとかいったような傾向はほ とんどなく、極めて行政的な対応がなされたと言えるのではないか。 9) 「先行型」のうち、当初分1400億円は各自治体の人口や財政力指数等の客観的基準に基づ いて交付され、その後の「上乗せ」分300億円は対象を絞って交付された。したがって、 当初の1400億円に関しては表1~3のような考察がかなり自明のことになるため、ここでは 除外した。 年報 公共政策学 Vol.11 - 132 - 今般の地方創生を受けた各自治体における意思決定・問題意識について、「変化が あった」としたのは46自治体(29.5%)、「変化はなかった」としたのは108(69.2%) であり(「どちらとも言えない」と無回答が各 1)、「変化があった」は中核都市群、 「変化がなかった」は周辺地域においてやや多いという傾向が認められた。これをど のように解釈すべきかは難しいが、①自分たちに人口減少や消滅可能性は関係ないと 思っていた中核都市群にもこの度の地方創生が問題意識を喚起した可能性、②これま でにも取り組みを行ってきた周辺地域にとって地方創生は特に目新しいものでなかっ た可能性、③特に周辺地域において、地方創生への対応もルーティーン・ワークの中 でなされた可能性などが考えられる。 4.2 国・地方関係の経年的変化 本調査においてあえて投げ掛けた「国から各自治体へのコントロールは概して強化 されていっていると感じるか」、「各自治体から国に対する声・要望は概して届きやす くなっていると感じるか」という質問は、今後も引き続き長期的に追跡すべき問題で はあるものの、ある意味ここで肝になる設問になった。 結果、前者については「強化されている」が102自治体(65.4%)と「強化されて いない」の46(29.5%)を上回り、後者については「届きやすくなっている」が81自 治体(51.9%)と「届きにくくなっている」の66(42.3%)を少々上回った(図2)。 後者について、微かではあるが、若年女性人口減少率の高い自治体は「届きやすくな った」とし、若年女性人口減少率の低い自治体は「届きにくくなっている」とする傾 向も認められた。自治体の認識としては、その声が国に届きやすくなっている一方、 図2. 国・自治体関係の認識に関する調査結果 出典:本調査結果により作成。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 133 - 国からはより強いコントロールが及んでいるということになる。これをどう理解すべ きか。 この度の地方創生では、政策アイディアの「創発」は基本的に各自治体に委ねられ、 それが実際に形になった総合戦略は直接国に届き、また国も自治体に対して直接ヒア リングをするなど、国と自治体とが接する(ゆえに、多かれ少なかれ自治体が国から 影響を受けていると感じる)機会は確かに増えたと言える。これは、特に若年女性人 口減少率が高くこれまで国と直接やり取りすることの少なかった自治体にとって、国 が自分の声を聞いてくれているとの実感に繋がったし、それは国の狙い通りでもあっ たと考えられる。他方、この地方創生自体は国の大きな枠組みの中での政策であり、 人口ビジョンや総合戦略を自治体が策定するにしても、それは国からの指導に服さざ るを得ない状況に置かれた。また、交付金申請に関しても、後になればなるほど項目 が細かくなり国の設定する要件も厳しくなっていったようで、補助率も下がっていっ た。各自治体には個々に人口減少問題対策があり得、それを包含するような施策を国 が持ち合わせておらず自ら「創発」もできない中、政策の実質に関する自由度は(好 む・好まざるを問わず)自治体が有するようになった一方、政策を実行していくため の大枠となる制度や交付金申請等、手続きに関する自由度については国が(却ってこ れまで以上に)強く握ることになった。このような各自治体に対する国の関与形態は、 今後ますます増えていくのではないか。その結果、各自治体はこれまで以上に熾烈な 自治体間競争の中に置かれるかもしれない10)。 4.3 自治体にとって地方創生は何だったか 本調査の最後に「総合戦略の中心的担当者や当該自治体にとって、この地方創生策 は一言で言えば何だったか」を問うたところ、図3の結果となった。「地方創生のチ ャンス」と「学ぶところがあった」を併せた約 6 割は地方創生を前向きに評価してい る一方、5 人に 1 人が発した「ただ忙殺された」との声も見逃せない。この地方創生 自体、まだ緒に就いたばかりで政策の効果が見出しにくいこともあるとは思われるが、 「住民にとって有益だった」が10(6.4%)に、「自治体の政策・方針が改善した」が7 (4.5%)にそれぞれとどまっており、現時点で各自治体の政策を大きく変えたり効果 を挙げたりするまでには至っていない11)。 10) 実際、企業版ふるさと納税制度について聞いたところ、「導入に向けて積極的に検討して いる」、「進めたいが、複雑な手続きが必要で困っている」と回答した自治体の約9割が制 度改正の必要性を感じていることが明らかになった。ただ、これはあくまで国への要望に 過ぎないのであり、さらに、企業版ふるさと納税をどう呼び込むかという具体的なアイデ ィアの「創発」は、やはり自治体に委ねられているのである。 11) 日本世論調査会が2016年12月に実施した全国面接世論調査の結果によると、地方創生が 「進んでいない」、「どちらかと言えば進んでいない」と思う人は合わせて77%にも上った (例えば、2017年 1 月 5 日付け愛媛新聞朝刊などを参照)。 年報 公共政策学 Vol.11 - 134 - 都市機能別では、中核都市群の83.3%が「地方創生のチャンス」と回答したのに対 し周辺地域では35.3%にとどまり、また周辺地域の「事務作業にただ忙殺された」は 20.2%(中核都市群では皆無)であった。これを踏まえると、地方創生を積極的に捉 える中心都市地域にあった余裕が 周辺地域にはあまりなかったこと が窺える。さらに、「事務作業に ただ忙殺された」との回答は若年 女性人口減少率の高い自治体にお いてあまり多くなかった(すなわ ち、そうした自治体はそれなりの 問題意識をもって地方創生に取り 組めたとみられる)。以上のこと を踏まえると、地方創生にはもう 少しじっくり時間をかけるととも に、これを一過性のブームで終わ らせるのではなく継続的な取り組 みとする必要があり、またそうす ることが有効であり得ると考えら れる。 5. 終わりに 5.1 まとめ 本稿では、まず道内自治体に対する本調査の方法について、先行ヒアリング調査、 調査票の作成、調査票の送付・集計・分析という作業の順を追って述べた。本調査で は道内全179自治体のうち156(87.2%)という高い回答率を実現しており、それを前 提にかなり包括的に北海道、さらにはそれ以外の地域における地方創生の意義を検討 したという点において先駆的なものである(2.)。 続いて、その調査結果を基に、地方創生への各自治体の対応状況を述べた。態勢面 では、国が協議会設置を求めたことなどから住民参加の機会は増えたものの、庁内態 勢や戦略策定過程に関しては、時間が限られていたこともあってあまり大きな拡充や 変化は見られなかった。その中で、自治体の多くは、国から直接にというよりも道 (振興局)からの支援を受け止めた。コンサルへの委託は、専門的なデータ分析を伴 う人口ビジョン策定に関して頻繁に行われたが、すべてに自前で取り組み満足を得た 自治体もあった。RESAS は国が想定していたほどには活用されず、周辺自治体との 連携も通常の職員レベルでの交流以上のものに発展することはあまりなかった。 総合戦略本体に関して言えるのは、道内自治体では、人口減少への対応策として産 図3. 自治体にとって地方創生は何だったか 出典:本調査において、地方創生が一言で言えば何だった かを問うて得た回答結果を基に作成。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 135 - 業の活性化による所得安定と雇用確保、そのための移住・定住支援が重要であると同 時に、安心して子供を育てられる環境整備にも重きが置かれているということである。 多くの自治体が、総合戦略を総合計画の実質的一部と捉え、総合計画という「政策の 束」の中にありながら、国の求めに応じ人口減少問題対策を重点的にこの総合戦略に 盛り込んだ。KPI については、その設定とそれによる進捗管理そのものには一定の意 義を認めながらも、厳格過ぎる、もしくは施策・事業の特性とマッチしない KPI と その設定に対しては疑問の声が聞かれた。交付金については、人口問題が深刻な地域 への重点的配分にはある程度成功しているものの、「先行型」、「加速化」と進んでい くにつれて、自治体にとって徐々に使い辛いものになっていったことが明らかになっ た(3.)。 5.2 結 論 上記のことを踏まえると、地方創生は、すでに人口減少問題が認識されていた道内 自治体における対応策や通常の意思決定過程を劇的に変えるほどのものではなかった が、特に先進的自治体には、その枠組みを使ってこれまでにも増して当該問題に立ち 向かう後押しとなった。各自治体にはその大小・貧富を問わず人口ビジョンと総合戦 略の策定が求められたこともあり、状況が厳しい自治体であればあるほど地方創生へ の取り組みがこの度国によって試されたのであり、多くの自治体がそれに対応するし たたかさを持っていたと言える。ただし、地方創生が自治体に対して限られた時間し か与えなかった結果、自治体は基本的には既存の庁内態勢によってこれに対応せざる を得ず、そうして申請した交付金も徐々に使い辛くなり、国から細かな指示が行われ るようになり、また補助率も下がっていって、自治体にはこの地方創生への事務対応 にただ忙殺されたとの良からざる印象を残す結果となった。自治体には、地方創生を 一過性のブームに終わらせるべきではないとの意見が多い(4.)。 地方創生では、政策アイディアの「創発」は基本的に各自治体に委ねられたが、所 詮これも国の大きな枠組みの中での政策である。自治体個々の状況に応じた人口減少 問題対策があり得る中で、政策の実質に関するある程度の自由度は自治体が有する一 方、政策を実行していくための大枠となる制度や手続きに関する自由度については国 が依然として強く握っている。このような国・地方関係を、今般の地方創生は弱める どころかむしろ強めたのではないか。その中で、自治体は良くも悪くも相互に競争し 合う空間の中に置かれている。皮肉だが、このことを地方自治体に知らしめたことこ そ今回の地方創生の意義だった、と言えるのかもしれない。 5.3 今後の課題 北海道、さらにはそれ以外の地域における地方創生の意義に関する筆者らの研究は、 今後も継続する。今後の課題はさしあたり次の 3 点に整理されよう。 年報 公共政策学 Vol.11 - 136 - 第 1 に、本調査は調査票によるものに過ぎず、質的にも量的にもかなり充実したそ の結果の分析にはまだ余地がある。そのため、各自治体から寄せられた自由記述を含 む回答を個票ごとに分析するとともに、同時並行的にヒアリング調査を行って、本稿 の不足を補う必要がある。第 2 に、本稿では北海道の現状を考察したに過ぎず、その 特徴を抽出するべく行われるべき他都府県との比較は今後の課題として残されている。 本稿の成果からすれば、国と市町村の狭間で両者を仲介することが(少なくとも市町 村から)期待されている都道府県の役割は、国内での比較、さらには他国の政府間関 係との比較を行うことによってより深く検討していく必要がある。第 3 に、真の地方 創生に向けた取り組みについての検討である。本稿では、この度の地方創生が、自治 体をそれらが相互に競争し合う空間の中に置きつつもそれらの格差を是正する効果を 持ち得たということを論じた。しかしそこには、厳しい状況に置かれた自治体が、そ れ相応に危機感を持ち、それ相応に熱心に対策に取り組めるのか。それを効果的に後 押しできるような仕組みが国において設計・運用されているか。そうして総体として の地方創生が功を奏しているかなど、様々な問いが潜んでいる。今後、これらを明ら かにする方法も含め、検討していく必要がある。 謝 辞 本稿は、一般財団法人北海道開発協会「平成28年度 人口減少時代の地域政策に関する調査 研究」の成果の一部である。また、公益財団法人野村財団 社会科学公募型研究助成「短期的 受益と中長期的負担を巡る合意形成手法の開発」と平成28年度 科学研究費補助金(基盤 C) 「人口問題に対して頑強で持続可能なローカル・ガバナンスに関する行財政論的研究」(代表: 宮脇淳先生)の支援も受けた。本調査にご協力くださった道内自治体職員の皆様、山崎幹根先 生をはじめとする北海道大学内外の教職員・メンバーのほか、北海道開発協会開発調査総合研 究所の草苅健所長、佐々木直人副参事役、さらに匿名の協力者の皆様にも深く御礼申し上げる。 参考文献 ・礒崎初仁=金井利之=伊藤正次(2014)『ホーンブック地方自治(第 3 版)』北樹出版。 ・中西 渉(2015)「地方創生をめぐる経緯と取組の概要-「将来も活力ある日本社会」に 向かって-」『立法と調査(2015.12,No.371)』3~17頁。 ・松井 望(2012)「政策体系と政策過程」柴田直子=松井 望(編著)『地方自治論入門』 ミネルヴァ書房。 「地方創生」は北海道に何をもたらしたか - 137 - Impacts of the Recent ‘Local Revitalization Policy’ on Local Governments in Hokkaido MURAKAMI, Yuichi, KOISO, Shuji, and SEKIGUCHI, Manami Abstract This paper is one of the first and most comprehensive studies to investigate the meaning of the Abe II administration’s ‘Local Revitalization Policy’ and to review local governments’ reactions in Hokkaido. Based on our survey of all the local governments in Hokkaido during October and November 2016, this paper concludes that the policy has provided a chance for farsighted governments, especially for those experiencing a sharp decline in young people, to realise the emerging problems of a shrinking society and to work on a solution. However, the policy has also been so sudden and almost arbitrary that the local governments’ respective conventional systems were forced to work hard applying for unwieldy grants and following the detailed directions given by the central government. The results of our survey imply that the Central and local governments in Japan share discretion. The Central government maintains discretion in deciding nationwide policies and provides administrative guidance to the respective local governments, whether big or small and rich or poor, allowing them to formulate policies suitable to their own requirements. This is done while maintaining the Central government’s overall policy design through the use of informational, budgetary, and regulatory tools. Keywords Local Revitalization Policy, Hokkaido, central/local government, intergovernmental relations, grant application