知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 77 連続企画:著作権法の将来像 その6 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と 変容的利用の理論(5) ―日本著作権法の制限規定に対する示唆― 村 井 麻衣子 序 第1部 米国法 第1章 フェア・ユース (以上 第45号) 第2章 市場の失敗理論 (以上 第46号) 第3章 変容的利用の理論 (以上 第47号) 第4章 市場の失敗理論をめぐる新たな動向 第5章 市場の失敗理論と変容的利用の理論の関係 -市場の失敗理論に残された意義- (以上 第48号) 第2部 日本著作権法への示唆 第1章 日本版フェア・ユース 1 .日本版フェア・ユースをめぐる経緯 1-1.平成24年著作権法改正 1-2.その後の動向 -「柔軟性のある権利制限規定」導入への動き- 2 .権利制限の一般条項の意義 2-1.ルールとスタンダード 2-2.法政策学的な視点からみたスタンダード(一般条項)の意義 -バイアスの矯正という観点- 3 .小括 第2章 引用 -変容的利用の理論からの示唆- 1 .引用の要件論 1-1.パロディ事件最高裁判決 1-2.明瞭区別性と主従関係(附従性)の二要件を用いた裁判例 1-3.引用の要件論の新たな動向 -二要件からの脱却と条文への回帰- 1-4.現在の裁判例の状況 -多様な基準の混在- 2 .美術鑑定書事件 -引用のフェア・ユース化- 2-1.事実の概要 2-2.判旨 2-2-1.引用の適法性の要件 2-2-2.要件の充足性の有無 連続企画 78 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 2-3.美術鑑定書事件知財高裁判決による引用規定のフェア・ユース化 2-3-1.引用の要件論について 2-3-2.引用する側の著作物性 2-3-3.引用の目的あるいは「引用」該当性 2-3-4.フェア・ユース化の是非 (以上 本号) 第3章 私的複製 -市場の失敗理論からの示唆- 結びに代えて 第2部 日本著作権法への示唆 第 1 部では、米国著作権法のフェア・ユースに関し、市場の失敗理論と 変容的利用の理論に焦点を当てて、関連する議論や裁判例を概観した。第 2 部では、これらの議論から日本著作権法にどのような示唆が与えられる かについて検討を行う。フェア・ユースに関する議論は、日本著作権法へ の一般的な著作権の制限規定の導入についての示唆を与えるだけではな く、個別の制限規定の解釈やあり方、さらには、著作権侵害の成否の分水 嶺を示すものとして、著作権制度のあり方そのものへの示唆を提示しうる と考えられる。 「変容的利用の理論」からは、パロディを代表例とするような、既存の 著作物をもとにした新たな創作活動(表現内容の変容)が許容されるべき 必要性が示される。さらに、最近のフェア・ユースに関する裁判例におい ては、変容的利用の理論が拡張的に適用され、もとの著作物(の内容)自 体は変容させて用いなくとも、例えば検索サイトへの画像の掲載(情報ツ ールとしての利用)など、もとの著作物が創作された目的とは異なる目的 で著作物が利用される場合(意味・メッセージの変容)にまで、変容的利 用としてフェア・ユースが肯定されていることは、示唆的である。 一方で、変容的利用の理論のみからフェア・ユースを説明することは困 難である。特に著作物をもとの目的と同様に用いるような非変容的・消費 的な著作物の利用に関しては、「市場の失敗理論」がよく妥当する。市場 の失敗理論からは、著作権者の許諾を得ることが難しい利用にフェア・ユ ースが認められるべき必要性が示されるとともに、教育・研究目的などの 外部性による市場の失敗理論の重要性を指摘する Loren の議論や、Gordon の市場の失敗の修正理論における重要な非金銭的価値が関わる著作物の フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 79 利用に関する議論は、変容的利用としてカバーされなくとも、著作物の自 由領域を確保すべき重要な領域があることを示唆している。 日本版フェア・ユースの導入が期待されながらも、平成24年著作権法改 正は、実質的に個別の制限規定の追加にとどまった。このことにより、日 本版フェア・ユースの導入により対応が期待されていた問題、すなわち、 著作権法をめぐる環境の変化への対応や、形式的に権利侵害となってしま う行為の救済などの問題が、未解決のまま残されてしまったと考えられる。 日本著作権法がフェア・ユースのような著作権制限の一般条項を欠くこ とによる問題については、従来から、現在の日本著作権法において比較的 一般的な規定であり、柔軟な解釈が可能な著作権の制限規定である「私的 複製(30条)」や「引用(32条)」を活用する方策が説かれていた447。日本 版フェア・ユースの導入が実現しなかった現在においては、比較的包括的 な制限規定であるこれらの規定が再び注目される。また、改めて「柔軟な 制限規定」の導入に向けた議論が開始されていることに鑑みても、比較的 包括的なこれらの規定を手掛かりに日本著作権法の制限規定のあり方を 検討しておくことは有用と考えられる。 引用は、従来、既存の著作物をもとにした新たな創作行為を行うための 利用として理解されてきており、変容的利用の理論と親和的であるように 思われる。私的複製は、私的領域での複写・録音・録画等、消費的な著作 物の利用が念頭におかれることが多く、主に市場の失敗理論の議論と深く 関連すると考えられる。 そこで以下では、日本版フェア・ユースをめぐる議論として主に平成24 年著作権法改正の経緯を確認したのち、変容的利用の理論をめぐる議論を 447 田村善之「著作権法32条 1 項の『引用』法理の現代的意義」コピライト554号 (2007 年) 6 頁。島並良「権利制限の立法形式」著作権研究35号 (2008年) 106-108頁は、現 行著作権法における権利制限条項のうち、一般性の高いスタンダード (規範的要件) が盛り込まれている条項として、私的複製 (30条)、引用 (32条) を挙げている。な お、ほかには、試験問題としての複製 (36条)、非営利上演等 (38条)、政治上の演説 等の利用 (40条)、時事の事件の報道のための利用 (41条)、裁判手続き等における複 製 (42条)、プログラムの著作物の所有者による複製等 (47条の 2 )、保守・修理等の ための一時的複製 (47条の 3 ) が、同様に一般性の高いスタンダード (規範的要件) が盛り込まれている条項とされている。 連続企画 80 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 踏まえての引用規定の検討と、市場の失敗理論をめぐる議論を踏まえての 私的複製についての検討を行い、フェア・ユースをめぐる議論から、日本 著作権法のあり方に対しどのような示唆が得られるかを考察する。 第1章 日本版フェア・ユース 1 .日本版フェア・ユースをめぐる経緯 1-1.平成24年著作権法改正448 米国著作権法がフェア・ユースという権利制限の一般条項を有するのに 対し、日本著作権法は、著作権の制限規定を個別列挙方式で定めてきた(30 ~49条)。しかし近年、デジタル化やネットワーク化の進展により、著作 権制度をめぐる環境が大きく変化していることから、権利制限の一般規定 の導入について議論がなされるようになった449。 2008年には、知的財産戦略本部に設置された「デジタル・ネット時代に おける知財制度専門調査会」において検討が行われ、権利制限の一般規定 (日本版フェア・ユース)を導入するという方針が決定された。そこでは、 「現行の著作権法は、個別具体の事例に沿って権利制限の規定を定めてい るため、これら規定に該当しない行為については、たとえ権利者の利益を 不当に害しないものであっても形式的には違法となってしまう」という問 題意識のもと、「技術の進歩や新たなビジネスモデルの出現に柔軟に対応 できる法制度とするため」、「個別の限定列挙方式による権利制限規定に加 え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な 448 池村聡=壹貫田剛史『著作権法コンメンタール別冊 平成24年改正解説』(勁草 書房・2013年) 3 - 8 頁、中山一郎「知的財産政策と新たな政策形成プロセス-『知 的財産立国』に向けた10年余」知的財産法政策学研究46号 (2015年) 46-55頁、永山 裕二「著作権行政をめぐる最新の動向について」コピライト619号 (2012年) 2 -20 頁、清水節「平成24年著作権法改正について」『知財立国の発展へ (竹田稔先生傘寿 記念)』(発明推進協会・2013年) 413-431頁等参照。 449 上野達弘「著作権法における権利制限規定の再検討-日本版フェア・ユースの可 能性-」コピライト560号 (2007年) 2 頁。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 81 利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規 定)を導入することが適当である」との結論が報告書により示されたので ある450 451。この方向性は、知的財産推進計画2009にも盛り込まれ、「著作 権法における権利者の利益を不当に害しない一定の範囲内で公正な利用 を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の 導入に向け、ベルヌ条約等の規定を踏まえ、規定振り等について検討を行 い、2009年度中に結論を得て、早急に措置を講ずる」とされた452。 それを受け、文化審議会著作権分科会による検討が開始されることにな った。審議を円滑に進めるために、まず「著作権制度における権利制限規 定に関する調査研究会」によって、日本著作権法の状況や問題点について の整理や、諸外国の権利制限規定に関する基礎的な調査が行われ、2009年 に報告書がまとめられた453。 450 知的財産戦略本部 デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会『デジタ ル・ネット時代における知財制度の在り方について (報告) (平成20年11月27日)』 (2008年) 8・11頁。 451 「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の中山信弘会長 (当時) は、 特に、フェア・ユース規定を欠くために日本のベンチャー企業がリスクを取って新 しいネットビジネス等を立ち上げる余地がないことに対する懸念を示していた (中 山信弘=三山裕三「対談 デジタル・ネット時代における著作権のあり方 (下)」NBL 899号 (2009年) 52-53頁 [中山発言] 等。その後の論考として、中山信弘「著作権の 権利制限」高林龍=三村量一=竹中俊子・編『現代知的財産法講義Ⅰ 知的財産法 の理論的探究』(日本評論社・2012年) 273-295頁、同「著作権法の課題-フェアユ ースを中心として」『経済社会と法の役割 (石川正先生古稀記念論文集)』(商事法 務・2013年) 1269-1294頁、同『著作権法』(第 2 版・有斐閣・2014年) 393-402頁等)。 中山元会長の以前はフェア・ユースの導入に否定的であった立場からの変遷につい て、上野達弘「権利制限の一般規定-受け皿規定の意義と課題- (先行公表版 (2016 年12月20日版))」中山信弘=金子敏哉・編『しなやかな著作権制度に向けて-コン テンツと著作権法の役割』(信山社・2017年) 145-146頁および注16) 等参照。 452 知的財産戦略本部『知的財産推進計画2009 (2009年 6 月24日)』(2009年) 3・22 頁。 453 著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会・三菱 UFJ リサーチ & コ ンサルティング株式会社『著作物の流通・契約システムの調査研究 著作権制度に おける権利制限規定に関する調査研究報告書 (平成21年 3 月)』(2009年)。 連続企画 82 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) その後、法制問題小委員会は、有識者団体や関係団体からのヒアリング を実施し、その内容をもとに議論を行って、「権利制限の一般規定に関す る検討事項」をとりまとめた454。併せて、この検討事項についてより専門 的な見地から論点を整理し、小委員会での議論を円滑かつ効率的に進める ことを目的として、「権利制限の一般規定ワーキングチーム」が小委員会 の下に設置された。ワーキングチームの検討内容は、報告書としてまとめ られ455、法制問題小委員会に報告された。 この報告書を叩き台として、法制問題小委員会による議論が重ねられた。 その審議の途中段階で公表された「権利制限の一般規定に関する中間まと め」456において、AからCの三つの類型の利用行為を権利制限の対象とす る権利制限の一般規定を導入することが適当であるとの方向性が示され ることになる。そこでは、現行法の下において、既存の個別権利制限規定 がいずれも適用されない著作物の利用行為であって、それが実質的には権 利侵害とは評価できない場合であっても、形式的には権利侵害に該当して しまう「形式的権利侵害行為」(A類型)と、「形式的権利侵害行為」と評 価するか否かはともかく、既存の個別権利制限規定の適用は受けないもの の、利用の態様等に照らすと権利者に特段不利益を与えない著作物の利用 行為(B、C類型)を、権利制限の一般規定による権利制限の対象と位置 づけることにより、個別権利制限規定を限定列挙する方式を採用している ことに生じる問題が、一定程度解消されるとしたのである457。 A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的 に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に 454 「権利制度の一般規定に関する検討事項について」(平成21年 9 月18日 文化審議 会著作権分科会第 6 回法制問題小委員会 資料 5 ) (ワーキングチーム報告書・後掲 注455)に参考資料として掲載)。 455 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定ワーキングチ ーム『権利制限一般規定ワーキングチーム 報告書 (平成22年 1 月)』(2010年)。 456 文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会『文化審議会著作権分科会法制問題 小委員会 権利制限の一般規定に関する中間まとめ (平成22年 4 月)』(2010年)。 457 中間まとめ・前掲注456) 16-21頁。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 83 社会通念上軽微であると評価できるもの B 適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に 必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又 は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らし て、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための 利用とは評価されない利用 この「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」に対して、意見募集(パ ブリックコメント)が行われ、その結果を踏まえた議論や再度の有識者団 体・関係団体からのヒアリングが実施された。最終的に法制問題小委員会 でとりまとめられた報告書においても、AからCの類型の著作物の利用に つき、これを一定要件のもと、権利制限の一般規定による権利制限の対象 とすることが適当であるとの内容が示された458。 このように、日本版フェア・ユースの導入を目指して開始された議論は、 文化庁の法制問題小委員会による報告書の段階でA~Cの三つの類型に とりまとめられており、総合考慮型の一般規定というよりは、柔軟性を持 った類型的な規定となっている459。しかし、この検討結果を踏まえて行わ れた平成24年改正は、A~C類型よりもさらに限定された、次のような四 つの権利制限規定の追加にとどまった。A類型が30条の 2 、B類型が30条 の 3 、C類型が30条の 4 および47条の 9 に相当する460。 1 付随対象著作物の利用(30条の 2 ) 写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」 という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物 (以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等 の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随し 458 文化審議会著作権分科会『文化審議会著作権分科会 報告書 (平成23年 1 月)』 (2011年) 44-53頁。 459 池村=壹貫田・前掲注448) 7 頁注10) 参照。 460 池村=壹貫田・前掲注448) 8 頁。 連続企画 84 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) て対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物におけ る軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象 著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することがで きる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又 は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場 合は、この限りでない。 2 検討の過程における利用(30条の 3 ) 著作権者の許諾を得て、又は第六十七条第一項、第六十八条第一項 若しくは第六十九条の規定による裁定を受けて著作物を利用しよう とする者は、これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得、又 は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的 とする場合には、その必要と認められる限度において、当該著作物を 利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当 該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場 合は、この限りでない。 3 技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用(30 条の 4 ) 公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術 の開発又は実用化のための試験の用に供する場合には、その必要と認 められる限度において、利用することができる。 4 情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のた めの利用(47条の 9 ) 著作物は、情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場 合であつて、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電 子計算機による情報処理を行うときは、その必要と認められる限度に おいて、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作 物の記録を含む。)を行うことができる。 このように、平成24年改正による権利制限規定の創設は、実質的に四つ フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 85 の個別の制限規定が追加されたにとどまり461、日本版フェア・ユースとし ての権利制限の一般規定の導入は失敗に終わったとされる462。平成23年文 化審議会著作権分科会報告書で示されたA~C類型と、最終的な改正条文 との間に差異が生じた理由は、政府部内での条文化作業(内閣法制局によ る条文審査等)において、明確性の原則や立法事実の有無等が考慮された ためであるとされる463。 1-2.その後の動向 -「柔軟性のある権利制限規定」導入への動き- 平成24年著作権法改正が、当初、著作権制限の一般規定の導入を目指し 461 特に、C類型は、平成23年文化審議会著作権分科会報告書に示された結論よりも さらに限定された規定となっていることが指摘されている (池村=壹貫田・前掲注 448) 8 頁)。末吉亙「日本版フェア・ユース再論」情報管理55巻10号 (2013年) 769 頁は、C類型の想定局面のうち、「技術の急速な進歩への対応やインターネット等 を活用した著作物の利用」に対応した立法手当はない、と述べている。山本隆司「フ ェアユースはどこまで認められたか 2012年 改正著作権法の内容」ビジネス法務 12巻 7 号 (2012年) 74頁は、C類型における著作物の鑑賞価値を使用しない未知の利 用方法に対する権利制限こそが、デジタル化・ネットワーク化に対応しうる一般規 定となるはずであったが、立法されなかったとしている。 462 中山信弘=松田政行=岩倉正和=横山久芳=相澤英孝「座談会 改正著作権法と 著作権法の課題」L&T 57号 (2012年) 2 - 3 頁 [岩倉発言]、同 4 頁 [横山発言] 等参照。 463 池村=壹貫田・前掲注448) 7 頁、小泉直樹=池村聡=高杉健二「鼎談 平成24 年著作権法改正と今後の展望」ジュリスト1449号 (2013年) 16頁 [池村発言]。内閣 法制局審査の不透明性の問題への指摘として、中山一郎・前掲注448)53-55頁、中 山信弘・前掲注451) [石川古稀] 1286-1287頁、上野達弘「立法過程の見直しも大き な課題 (特集 著作権法はビジネスの足かせか)」Business Law Journal 51号 (2012年) 31-32頁、清水・前掲注448)430-431頁等。立法事実論について、田村善之「著作権 の一般的な制限条項の機能とその運用手法について-立法論において議論すべき ことは何か-」知財研フォーラム107号 (2016年) 11-13頁、上野・前掲注451)178-180 頁、潮海久雄「大量デジタル情報の利活用におけるフェアユース規定の役割の拡大 -著作権法 (個別制限規定) の没落と自生的規範の勃興- (先行公表版(2017年 1 月 31日版))」中山=金子・編・前掲注451)187-188頁等、刑罰法規明確性の原則との 関連について、小泉直樹「個別的制限規定の根拠をめぐって」『知的財産・コンピ ュータと法 (野村豊弘先生古稀記念論文集)』(商事法務・2016年) 249-254頁、上野・ 前掲注451)175-176頁等参照。 連続企画 86 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) ながらも、実質的に個別規定の導入にとどまったことから、改正直後から、 依然として日本版フェア・ユースの導入を再検討する必要性が指摘されて いた464。 その後、知的財産戦略本部のもとに設置された「次世代知財システム検 討委員会」により、2016年に出された報告書においては、論点の一つとし て「適切な柔軟性を確保した権利制限規定について」が挙げられ、その方 向性として、「新たなイノベーションに柔軟に対応するとともに、日本発 の魅力的なコンテンツの継続的創出を図る観点から、デジタル・ネットワ ーク時代の著作物の利用の特徴を踏まえた対応の必要性に鑑み、一定の柔 軟性のある権利制限規定について検討を進める。併せて、著作権を制限す ることが正当化される視点を総合的に考慮することを含むより一層柔軟 な権利制限規定について、その効果と影響を含め検討を進める。以上の検 討を踏まえ、早期の法改正の提案に向け、柔軟性のある権利制限規定につ いてその内容の具体化を図る。」(下線筆者)との方針が示された465。 464 日本版フェア・ユースの導入の失敗が、かえってフェア・ユースの導入を再考す る必要性を高めたのではないかという指摘として、座談会・前掲注462)における岩 倉発言 (「[日本版フェア・ユース規定からの乖離や、違法ダウンロードの刑罰化な ど] こんなひどい法律なのだったら、フェアユース規定はより広いものが必要なの ではないかという議論がかえって出てくるのではないかと逆に期待している部分 もございます」、「すべてあきらめるのではなくて、もう一度ゼロから考え直しても よいのではないかというきっかけにならないかなというふうに思っております」( 6 頁))、横山発言 (「この法案では、当初の改正法の狙いが全く実現されていませんの で、今回の改正法の反省を機に、再びフェアユース規定の導入に向けた議論が活発 化していくことになるのではないか、というふうに思っています」( 7 頁)) 等。ま た、岩倉正和「フェアユース規定導入の比較法的再検討-現状最新の世界各国法制 の動向について」『はばたき-21世紀の知的財産法 (中山信弘先生古稀記念論文集)』 (弘文堂・2015年) 589-608頁は、著作権の一般的な制限規定に関する各国の動向を 提示したうえで、ひとりわが国においてアメリカ流の包括的フェアユース規定の導 入の再検討を改めて行うことを拒否する理由はないのではないかと述べている。 465 知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 次世代知財システム検討委員会『次 世代知財システム検討委員会 報告書 ~デジタル・ネットワーク化に対応する次 世代知財システム構築に向けて~ (平成28年 4 月)』(2016年) 20頁。増田雅史「知財 本部『次世代知財システム検討委員会報告書』概要」NBL 1074号 (2016年) 81-82頁 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 87 この内容は、知的財産推進計画2016にも盛り込まれ、「デジタル・ネッ トワーク化に対応した次世代知財システムの構築」のために今後取り組む べき施策の一つとして、「デジタル・ネットワーク時代の著作物の利用へ の対応の必要性に鑑み、新たなイノベーションへの柔軟な対応と日本発の 魅力的なコンテンツの継続的創出に資する観点から、柔軟性のある権利制 限規定について、次期通常国会への法案提出を視野に、その効果と影響を 含め具体的に検討し、必要な措置を講ずる。また、柔軟性のある権利制限 規定に関連して、予見可能性の向上等の観点から、対象とする行為等に関 するガイドラインの策定等を含め、法の適切な運用を図るための方策につ いて検討を行う。」(下線筆者)ということが掲げられた466。 この動向を受け、文化庁の著作権分科会法制・基本問題小委員会に設置 されていた「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関する ワーキングチーム」467において、法制化に向けた議論が開始された。ワー キングチームの下には、「著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼ す効果と影響等に関する作業部会」が設置されるとともに、外部委託事業 として「著作権法における権利制限規定の柔軟性が及ぼす効果と影響等に は、報告書の立場が、米国フェア・ユース規定のような「総合考慮型」の一般的権 利制限規定については消極的であるものの、「一定の柔軟性」を確保した権利制限 規定 (英国型のフェアディーリング規定、いわゆる「受け皿」規定、いわゆる「C 類型」等) を設けることについては積極的であり、報告書の中で唯一早期の法改正 が明確に要請された点であるとも指摘している。 466 知的財産戦略本部『知的財産推進計画2016 (2016年 5 月)』(2016年) 11頁。 467 「知的財産推進計画2015」において、「新しい産業の創出環境の形成に向けた制度 等の検討」の中で「インターネット時代の新規ビジネスの創出、人工知能や 3 D プ リンティングの出現などの技術的・社会的変化やニーズを踏まえ、知財の権利保護 と活用促進のバランスや国際的な動向を考慮しつつ、柔軟性の高い権利制限規定や 円滑なライセンシング体制など新しい時代に対応した制度等の在り方について検 討する。」(下線筆者) ことが示された (知的財産戦略本部『知的財産推進計画2015 (2015年 6 月)』(2015年) 42頁)。この方針を受けて、文化庁において2015年 7 月に 設置されたのが、「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワ ーキングチーム」であり、権利制限規定のあり方について議論が進められていた。 連続企画 88 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 関する調査研究」が行われるとされている468。 2 .権利制限の一般条項の意義 2-1.ルールとスタンダード 著作権の制限規定を個別条項によって規定するのか、あるいはフェア・ ユースのような一般条項を設けるのかといった問題に関しては、規範の形 式に関するルールとスタンダードの議論が参照される469。法的効果を発生 させる要件が、自然科学上あるいは社会常識上明確である「ルール」と、 抽象的な文言で規定され、その具体的な文言の内容は諸要素の総合衡量に より事案ごとに確定されるという「スタンダード」とを区別する議論にお いて、一般条項であるフェア・ユースは「スタンダード」に該当すること になる470。 ルールとスタンダードの相互関係としては、①複雑化した社会へ柔軟に 対応すべき要請が高まると、ルールよりもスタンダードが用いられること になる、②ルールとスタンダードは対概念ではあるが、相対的な程度の問 題に過ぎない、③スタンダードが事例の蓄積により事後的にルールへ転化 しうる、ということが指摘されている471。 468 文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会 平成28年度「新たな時代の ニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」(第 1 回) 、金子剛大=小坂準記「柔軟性のある権利制限規定の導入とイノベーションに 与える影響-アメリカにおけるフェアユースに関する議論を参考に」ジュリスト 1499号 (2016年) 16-19頁。 469 ルールとスタンダードについて、ルールに従った関係者の行動を期待しうるかと いう点を斟酌する必要があること等とともに、詳しくは、森田果「国際私法の経済 分析 (第 4 回) 最密接関係地法-国際私法と “Rules versus Standards”」ジュリスト 1345号 (2007年) 66-73頁、ヴィンシー・フォン=フランチェスコ・パリシィ (和久 井理子・訳)「法的ルールの最適な特定性の程度について」新世代法政策学研究15 号 (2012年) 337-343頁等参照。 470 島並・前掲注447)91-92頁。 471 島並・前掲注447)92-93頁。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 89 そして、ルールとスタンダードの違いとしては、①具体的規範の決定主 体が、ルールは国会であるのに対して、スタンダードは裁判官であり、② 具体的規範の決定時期が、当事者の行動に対し、ルールでは事前、スタン ダードでは事後となる。このため、規範決定コストは、立法段階ではルー ルが高コストであるのに対し、適用段階ではスタンダードのコストが高い。 したがって、適用頻度が高い規範は、立法段階で一回的にコストを支払っ て予めルールを設定しておくことが望ましく、頻度が低い場合には紛争解 決が迫られる都度、裁判時にスタンダードを妥当に運用しておくことが望 ましいとされる472。 2-2.法政策学的な視点からみたスタンダード(一般条項)の意義 -バイアスの矯正という観点- このように、規範定立のコストや紛争解決のコストから、ルールとスタ ンダード、すなわち、立法と司法の役割分担をとらえる視点に加え、特に 著作権制度においては、政策形成過程のバイアスの問題を踏まえて立法と 司法の役割分担のあり方を検討すべきことが以下のように指摘されてい る473。 472 島並・前掲注447)94-101頁。このほか、望ましくない行動の誘発費用や、資源配 分の効率性といった視点から、ルールとスタンダードのどちらが望ましいか検討さ れる。 473 田村善之「競争政策と『民法』」NBL 863号 (2007年) 81-93頁、同「特許制度をめ ぐる法と政策」ジュリスト1339号 (2007年) 124-128頁、同「著作権をめぐる法と政 策」企業と法創造 5 巻 3 号 (2009年) 6 -11頁、同「デジタル化時代の著作権制度- 著作権をめぐる法と政策-」知的財産法政策学研究23号 (2009年) 19-23頁、同「日 本版フェア・ユース導入の意義と限界」知的財産法政策学研究32号 (2010年) 34-36 頁、同・前掲注463)12-13頁、Antonina Bakardjieva Engelbrekt (田村善之・訳)「制度 論的観点から見た著作権:アクター、利益、利害関係と参加のロジック(1)」知的 財産法政策学研究22号 (2009年) 31-54頁、同「(2)」知的財産法政策学研究23号 (2009 年) 29-56頁 (Antonina Bakardjieva Engelbrekt, Copyright from an Institutional Perspec- tive: Actors, Interests, Stakes and the Logic of Participation, Vol. 4, No. 2 Review Of Eco- nomic Research on Copyright Issues 65 (2007) 、島 並・前掲注447)100-101頁、小島立「著作権保護と表現の自由」南野森・編『ブリ 連続企画 90 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 立法プロセスは一般に、利益集団政治の影響を受けやすいため、ロビイ ング活動等により、組織化された利益は反映されやすいが、組織化されて いない利益は反映されにくいという、政策形成過程のバイアスが存在する。 著作権制度を含む知的財産制度は、有体物の物理的な利用という権利の拡 大への歯止めが存在せず、きわめて人工的かつ自由に制度設計できること から、ロビイングにより得られる利益が大きく、このような立法・政策形 成過程のバイアスが生じやすい。そのため、著作権法においては特に、権 利者側の利益が反映されやすく、組織化されていないユーザーの利益は反 映されにくいという状況にあるといえる。 この観点からみた場合、次のように、ルール(個別規定)よりもスタン ダード(一般条項)の方が、バイアスの問題を回避できる可能性があるこ とを指摘できる。 著作権の制限規定を限定列挙として明確に特定すること、すなわち、ル ールとして定めることは、裁判所の解釈への依存度を少なくし、法的な安 定性と予測可能性が高められるというメリットがある。しかし、その内容 は、一般に利益集団政治の影響を受けやすい立法プロセスで定められるこ とになる。さらに、立法の段階においては、具体的な内容の検討において 攻撃目標が明確化されるために、定められようとする個別的なルールに対 して、権利者側に有利な方向に定めようとする圧力を誘うおそれがある474。 結果として、ロビイングの影響を受けて権利者側に有利なバイアスがかか った立法がなされやすい。 他方で、著作権の制限規定をフェア・ユースのような一般条項として定 めることは、決定プロセスを立法から司法の場へ移すこととなる。この場 ッジブック 法学入門』(第 2 版・信山社・2013年) 226-227頁、潮海久雄「インタ ーネットにおける著作権の個別制限規定 (引用規定) の解釈と一般的制限規定(フェ アユース)の導入について-ドイツの Google サムネイル連邦最高裁判決を中心に」 筑波法政50号 (2011年) 28頁等参照。 474 Posner によるフェア・ユースへの「類型的アプローチ」(Richard A. Posner, Eldred and Fair Use, 1 The Economists' Voice 1 (2004))に対し、Engelbrekt は、このような提 案は、間接的ながら決定のバランスを立法プロセスに移した方がよいと認めている ことになり、利益集団政治に対するくびきを外し、別の不完全な解をもたらすこと になりかねないと指摘している (Engelbrekt・前掲注473)(2)42頁)。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 91 合、立法の場では、抽象的な規定として明確な攻撃目標にならずに合意を 取り付け、その内容の判断はロビイングの攻撃に対する耐性が相対的に強 い司法に委ねることも可能となる。これにより、立法過程において反映さ れにくい層の利益(利用者等の拡散的な利益)を司法の場において汲み取 ることが可能となり、立法のゆがみを是正する機能が期待できる。 このように、著作権の制限規定をどのような形で定めることが望ましい かを考えるにあたっては、著作権制限規定の内容やその範囲の明確性に関 する議論を参考にするだけではなく、制限規定の適用において立法と司法 のどちらによる判断がなされることが望ましいかについて、政策形成過程 におけるバイアスの問題を踏まえて検討することが重要であるといえる。 3 .小括 以上のように、日本においては、平成24年著作権法改正による日本版フ ェア・ユースの導入には至らなかったものの、現在もなお、「一定の柔軟 性のある権利制限規定」や「より一層柔軟な権利制限規定」を導入するた めの法改正を視野にいれた議論が進められている。このような状況におい て、フェア・ユースの市場の失敗理論や変容的利用の理論をめぐる議論か ら、日本著作権法の制限規定のあり方についてどのような示唆が得られる だろうか。 以下では、ルールやスタンダードに関する議論も踏まえつつ、日本著作 権法において比較的包括的な著作権の制限規定である引用(32条)と私的 複製(30条)を題材として検討を行い、日本著作権法における著作権の制 限規定、さらには著作権制度のあり方について考察する。 第2章 引用 -変容的利用の理論からの示唆- 日本著作権法における「引用」は、従来、既存の著作物をもとにした新 たな創作行為を許容するための規定として理解されてきた。ところが最近、 美術鑑定書へ絵画のカラーコピーを添付する行為が、「引用」に該当する とする知財高裁判決が出され、注目されている。米国著作権法のフェア・ ユースにおける変容的利用の理論も、当初は、パロディなどを典型例とす 連続企画 92 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) る、既存の著作物を利用した新たな創作行為へのフェア・ユースの適用が 主に念頭におかれていたところ、検索サイトでの画像のサムネイル表示な ど、著作物の本来の目的とは異なる目的での利用態様について、フェア・ ユースを拡張的に適用する傾向がみられるようになっている。このように、 近年の裁判例における日本の「引用」と、米国の「変容的利用(transformative use)」の展開は、傾向を同じくするものであるようにも思われる。 以下、主に美術鑑定書事件を題材として、変容的利用の理論に関する議 論も踏まえつつ、日本著作権法における引用の今後のあり方について検討 を行う。 1 .引用の要件論 著作権法32条 1 項は、「公表された著作物は、引用して利用することが できる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであ り、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわ れるものでなければならない」と規定している。裁判例においては、この 32条が認める引用に該当するための要件として、従来、パロディ事件最高 裁判決により示された明瞭区別性と主従関係(附従性)の二要件が用いら れることが多かったが、近時は、32条の条文の文言に沿った要件論が展開 されている。以下、引用をめぐる要件論について概観する。 1-1.パロディ事件最高裁判決 昭和55年に出されたパロディ事件最高裁判決475は、引用の要件を示し、 後の裁判例に大きな影響を与えた。 この事件では、写真家の白川義員が撮影した、スキーヤーが雪山の斜面 を波状のシュプールを描きつつ滑降している写真に、パロディ作家マッ ド・アマノが自動車のスノータイヤの写真を合成し、そのモンタージュ写 真を自作写真集「SOS」等に掲載した行為が問題となった。最高裁は、「節 録引用」(旧著作権法30条 1 項)に該当するかの判断において、以下のよ うな説示を述べた。 475 最判昭和55年 3 月28日民集34巻 3 号244頁 [パロディ第一次上告審]。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 93 「[旧著作権]法30条 1 項第 2 は、すでに発行された他人の著作物を正当 の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認して いるが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著 作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解する のが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物 の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側 の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かっ、右両著作物の間 に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない というべきであり、更に、法18条 3 項の規定によれば、引用される側の著 作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないこと が明らかである」。 このように判示し、著作権侵害を否定した原審476を破棄差し戻した。こ の最高裁判決により示された要件のうち、「引用して利用する側の著作物 と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することが できること」という要件は、明瞭区別性の要件として、「引用して利用す る側の著作物が主、引用されて利用される側が従という関係があること」 という要件は、主従関係(附従性)の要件として、後の裁判例で踏襲され てきた。なお、「引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような 態様でする引用は許されないこと」という要件については、いくつかの例 外477を除いてその後用いられていない478。 476 東京高判昭和51年 5 月19日無体集 8 巻 1 号200頁 [パロディ控訴審]。「本件モン タージユ写真の作成は、他人の著作物のいわゆる『自由利用』(フエア・ユース) と して、許諾さるべきものと考えられる」と判示した。 477 東京高判昭和58年 2 月23日無体集15巻 1 号71頁 [パロディ差戻後控訴審]、東京 地判平成 7 年12月18日判時1567号126頁 [ラストメッセージ]。 478 例えば、氏名表示権等の著作者人格権の侵害となるような態様での引用につい て、他の点では正当な引用にあたりうる場合でも、著作者人格権侵害だけではなく 著作権侵害にも該当してしまうことが指摘されている (田村善之『著作権法概説』 (第 2 版・有斐閣・2001年) 207頁)。パロディ事件最高裁判決の判例解説においても、 著作財産権と著作者人格権の区別については言及されており、節録引用の該当性を 肯定することで著作者人格権の侵害を否定した原審の前提判断を覆すための判示 であったと説明されている (小酒禮 [判解] 法曹界・編『最高裁判所判例解説民事篇 連続企画 94 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 1-2.明瞭区別性と主従関係(附従性)の二要件を用いた裁判例 パロディ事件最高裁判決により引用の要件として示された、明瞭区別性 と主従関係(附従性)の二要件は、その後、多くの裁判例により、引用の 該当性を判断するための基準として用いられてきた479。 藤田嗣治絵画複製事件も、この二要件が引用の判断に用いられた事例の 一つである。この事件は、小学館が「原色現代日本の美術」第七巻に故藤 田嗣治画伯の絵画を掲載しようとした際、故藤田の絵画の著作権を承継し た妻の許諾を得られなかったため、絵画12点を無断掲載した行為に対し、 著作権侵害が訴えられた事案である。適法引用にあたるという抗弁に対し、 東京高裁は、明瞭区別性と主従関係を引用の要件としたうえで、明瞭区別 性の要件は満たすものの、主従関係を欠き、著作権法32条 1 項の要件を具 (昭和55年度)』(法曹会・1985年) 153-154頁)。 なお、飯村敏明 [判批 (パロディ第一次上告審)]小泉直樹=田村善之=駒田泰土= 上野達弘・編『著作権判例百選』(第 5 版・有斐閣・2016年) 144-145頁は、パロデ ィ事件控訴審において著作権侵害を理由とする請求が撤回され、著作者人格権侵害 を理由とする請求に限定されたため、最高裁の判決理由中における引用に関する説 示は傍論であることを強調している。 479 明瞭区別性と主従関係 (附従性) の二要件を引用の基準とした裁判例として、東 京地判昭和61年 4 月28日判時1189号108頁 [豊後の石風呂]、東京地判平成 3 年 5 月 22日判時1421号1112頁 [英語教科書準拠録音テープ]、東京地判平成 7 年12月18日判 時1567号126頁 [ラストメッセージ]、大阪地判平成 8 年 1 月31日知的裁集28巻 1 号 35頁 [エルミア・ド・ホーリィ一審]、東京地判平成 8 年 9 月27日判時1645号134頁 参照 [試験問題一審]、大阪高判平成 9 年 5 月28日知的裁集29巻 2 号481頁 [エルミ ア・ド・ホーリィ控訴審]、東京地判平成10年 2 月20日判時1643号176頁 [バーンズ コレクション]、東京地判平成10年10月30日判時1674号132頁 [血液型と性格]、東京 地判平成11年 8 月31日判時1702号145頁 [脱ゴーマニズム宣言一審]、東京地判平成 12年 2 月29日判時1715号76頁 [中田英寿一審]、東京高判平成12年 4 月25日判時1724 号124頁 [脱ゴーマニズム宣言控訴審]、東京高決平成12年 9 月11日 (平成12(ラ)134 号) [国語テスト]、東京地判平成14年12月13日 (平成12(ワ)17019号) [国語教材]、 東京地判平成15年 3 月28日判時1834号95頁 [準拠教材]、東京地判平成15年 3 月28 日 (平成11(ワ)5256号) [国語テスト (ピーターのいす)]、東京地判平成16年 5 月28 日判時1869号79頁 [教科書ドリル] 等がある。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 95 備する引用とはいえないとして、著作権侵害を肯定した第一審480の判断を 維持した481。 この藤田嗣治絵画複製事件の控訴審判決は、主従関係について、「…主 従関係は、両著作物の関係を、引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、 内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘つて 確定した事実関係に基づき、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観 念に照らし、引用著作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引 用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するな ど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められる かどうかを判断して決すべきもの」と述べた。事案への当てはめとしては、 引用著作物である富山論文は美術史の記述としての性質・内容を有し、洋 画の歴史を読者に理解させる目的で絵画の複製物を掲載したとしつつも、 本件絵画の図版の大きさが 8 分の 1 頁から 3 分の 2 頁に及び、印刷適性の 高い上質紙に印刷されていること等から、当該絵画の複製物がそれ自体鑑 賞性を有し独立性を持つことに加え、論文の当該絵画に関する記述と同じ ページに掲載されているのは二点に過ぎず、論文に対する結びつきが強く ないことから、論文に対し絵画が従たる関係にあるとはいえないとした。 このように、二要件のうち、主従関係の要件においては、単に量的では なく質的な主従関係が判断されるため、引用の目的、両著作物のそれぞれ の性質、内容および分量、被引用著作物の採録方法、態様等など、実質的 に様々な要素が考慮されてきたといえる。 1-3.引用の要件論の新たな動向 -二要件からの脱却と条文への回帰- このようにパロディ事件最高裁判決が示した明瞭区別性と附従性(主従 関係)の二要件は、引用の要件として、実務上定着してきた。しかし、二 要件を採用した裁判例においては、藤田嗣治絵画複製事件の判決に示され るように、主従関係の判断において、著作物の内容や分量等だけではなく、 引用の目的、著作物の性質、採録の方法・態様等、多様な要素が総合的に 考慮されてきた。 480 東京地判昭和59年 8 月31日無体集16巻 2 号547頁 [藤田嗣治絵画複製一審]。 481 東京高判昭和60年10月17日無体集17巻 3 号462頁 [藤田嗣治絵画複製控訴審]。 連続企画 96 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) このような二要件の用いられ方に対し、学説においては、そもそもパロ ディ事件最高裁判決は旧法下での判例であり482、現行法の32条の文言との 関連性が乏しいことを指摘しつつ、二要件では実質的に主従関係のみで引 用の適否を判断せざるをえず、時代に応じた柔軟な解決を導くためには適 切ではないことや、主従関係の概念に多様な考慮要素が詰め込まれること によって、判断基準が不明確かつ不安定になってしまうということについ て批判がなされ、32条の文言に沿って引用の要件を再検討すべきであると 主張されるようになった483。 裁判例においても、パロディ事件最高裁判決の二要件を用いず引用を判 断するものが現れた。絶対音感事件において東京地裁は、書籍「絶対音感」 に英語版演劇台本の翻訳文の一部を掲載した行為について引用の成否を 判断するにあたり、二要件には言及せず、本件の事実関係を確認したうえ で、「①本件書籍の目的、主題、構成、性質、②引用複製された原告翻訳 部分の内容、性質、位置づけ、③利用の態様、原告翻訳部分の本件書籍に 占める分量等を総合的に考慮」するという引用の基準を示し、結論として は、翻訳者の許諾を得ずに翻訳部分を複製して掲載することが、公正な慣 行に合致しているということもできないし、また、引用の目的上正当な範 囲内で行われたものであるということもできないとして、引用の成立を否 定した484。絶対音感事件の控訴審判決も、32条 1 項の規定から、「公表さ れた著作物の全部又は一部を著作権者の許諾を得ることなく自己の著作 物に含ませて利用するためには、当該利用が、〈1〉引用に当たること、〈2〉 公正な慣行に合致するものであること、〈3〉報道、批評、研究その他の引 用の目的上正当な範囲内で行われるものであること、の 3 要件を満たすこ 482 旧著作権法30条 1 項は、「既に発行したる著作物を左の方法に依り複製するは偽 作と看做さず」とし、その 2 号で、「自己の著作物中に正当の範囲内に於て節録引 用すること」を掲げていた。 483 飯村敏明「裁判例における引用の基準について」著作権研究26号 (2000年) 91-96 頁、上野達弘「引用をめぐる要件論の再構成」『著作権法と民法の現代的課題 (半田 正夫先生古稀記念論集)』(法学書院・2003年) 307-332頁等。 484 東京地判平成13年 6 月 1 日判時1757号138頁 [絶対音感一審]。飯村敏明裁判官 (当時) が裁判長を担当した判決である。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 97 とが必要であると解するのが相当である」と判示した485。結論としては、 引用の目的上正当な範囲内で行われたものと評価することができるとし、 この点については原審と判断を異にしつつも、出所の明示を怠った点にお いて公正な慣行に合致しないとして、引用の成立を否定し、著作権侵害を 肯定した原審の判断を維持している。 1-4.現在の裁判例の状況 -多様な基準の混在- 以上のような経緯を経て、現在は、二要件を用いずに32条の文言に沿っ た基準を示す裁判例もある一方、二要件を用いる裁判例もあり486、二要件 に他の要件を加えて判断する裁判例も存在しているなど487、裁判例により 多様な基準が用いられている488。 485 東京高判平成14年 4 月11日 (平成13(ネ)3677・5920号) [絶対音感控訴審]。ただ し、明瞭区別性について、「『引用』に当たるというためには、引用して利用する側 の著作物 (以下『引用著作物』という。) と引用して利用される側の著作物 (以下『被 引用著作物』という。) とが、明瞭に区別されていなければならないことは、事柄の 性質上、当然である。被引用著作物が引用著作物と明瞭に区別されておらず、著作 物に接した一般人において、引用著作物中にその著作者以外の者の著作に係る部分 があることが判明しないような採録方法が採られている場合には、そもそも、同条 にいう『引用』の要件を満たさないというべきである」と言及している。 486 東京地判平成19年10月29日 (平成19(ワ)1226号) [ジュース販売サイト発信者情 報開示]、東京地判平成21年11月26日 (平成20(ワ)31480号) [オークションカタログ ウェブ掲載]、東京地判平成22年 1 月27日 (平成20(ワ)32148号) [通販業界の動向と カラクリがよ~くわかる本]、東京地判平成22年 5 月28日 (平成21(ワ)12854号) [が ん闘病マニュアル] 等。 487 東京地判平成16.5.31判時1834号95頁 [XO 醤男と杏仁女一審]、東京地判平成19 年 4 月12日 (平成18(ワ)15024号) [創価学会ウェブ写真] 等。 488 平澤卓人 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 知的財産法政策学研究43号 (2013年) 301-309頁、栗田昌裕「引用の要件について 下級審裁判例の再検討」同志社大学知 的財産法研究会・編『知的財産法の挑戦』(弘文堂・2013年) 274-307頁、富岡英次 「引用についての判断基準-特に引用の目的について-」『知的財産法研究の輪 (渋 谷達紀教授追悼論文集)』(発明推進協会・2016年) 621-636頁。 美術鑑定書事件知財高裁判決 (後掲・知財高判平成22年10月13日) 以後の最近の裁 判例については、後掲注513)を参照。 連続企画 98 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 例えば、創価学会ウェブ写真事件では、被写体の行動を批評・揶揄する 目的で写真をホームページに掲載した行為が引用に該当するかが問題と なった事案において、「著作権法32条 1 項における『公正な慣行に合致』 し、かつ、『引用の目的上正当な範囲内で行なわれる』引用とは、健全な 社会通念に従って相当と判断されるべき態様のものでなければならず、か つ、報道、批評、研究その他の目的で、引用すべき必要性ないし必然性が あり、自己の著作物の中に、他人の著作物の原則として一部を採録するか、 絵画、写真等の場合には鑑賞の対象となり得ない程度に縮小してこれを表 示すべきものであって、引用する著作物の表現上、引用する側の著作物と 引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるととも に、両著作物間に、引用する側の著作物が『主』であり、引用される側の 著作物が『従』である関係が存する場合をいうものと解すべきである」と 述べ、二要件に加え、社会通念上の相当性、引用の必要性・必然性、一部 採録といった要件を課している489。 このように引用をめぐる裁判例において多様な要件論が展開されてい る中、引用の要件として30条の文言に沿った基準を提示したうえで、米国 著作権法におけるフェア・ユースの四要素と類似した考慮要素を示す知財 高裁判決が登場した。 2 .美術鑑定書事件 -引用のフェア・ユース化- 美術鑑定書に鑑定対象の絵画のカラーコピーを貼付する行為が著作権 侵害に該当するか争われた事件において、知財高裁は、引用の要件として 30条の文言に沿った基準を提示したうえで、米国著作権法におけるフェ ア・ユースの四要素と類似した考慮要素を提示し、結論としても引用の成 立を認めた490。 以下では、この美術鑑定書事件を紹介し、引用規定を一般条項的に解釈 する「引用のフェア・ユース化」の是非について検討を行う。 489 前掲・東京地判平成19年 4 月12日 [創価学会ウェブ写真]。 490 知財高判平成22年10月13日判時2092号135頁 [美術鑑定書控訴審]。なお、控訴審 判決に対し上告がなされたが、平成24年 3 月13日上告不受理で確定した。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 99 2-1.事実の概要 美術鑑定書事件は、著名な女流画家の相続人らが、美術品の鑑定業者を 訴えた事案である。画家の製作した絵画に係る鑑定書を作製する際、鑑定 書の裏面に添付するために絵画の縮小カラーコピーを作成することが、画 家の著作権(複製権)を侵害するか否かが争われ、控訴審では引用の成否 が争点となった。 原告は、亡女流画家の相続人らであり、被告は、美術展の開催および美 術品の鑑定等を業とする株式会社である。被告は、美術品を鑑定し、被告 が真作と認める作品について、被告の鑑定委員会名義の「鑑定証書」を発 行している。本件で問題となった各絵画は、題名がいずれも「花」であり、 画面の大きさは、それぞれ縦33.2cm×横24.4cm(面積810.08cm2)、縦41.0cm ×横31.9cm(面積1307.9cm2)である。問題となった鑑定書は、これらの 絵画に係る「作品題名」、「作家名」、「寸法」等が記載されたホログラムシ ールを貼付した鑑定証書と、その裏面に絵画のカラーコピー(問題となっ た鑑定書における絵画の画面の大きさは、縦16.2cm×横11.9cm(面積 192.78cm2、もとの絵画の面積の約23.8%)、および縦15.2cm×横12.0cm(面 積182.4cm2、もとの絵画の面積の約13.9%))を添付したうえで、パウチ ラミネート加工されて製作されたものである。本件の鑑定業者の絵画の鑑 定業務においては,対象となる絵画の画題が「花」、「薔薇」、「風景」、「裸 婦」、「静物」等共通する物が多いことから、鑑定対象の絵画を特定するた めに、また、これに加えて、鑑定証書の偽造防止のために、鑑定証書の裏 面に鑑定対象の絵画の縮小カラーコピーを添付する扱いとしていると認 定されている。 第一審の東京地裁は、縮小カラーコピーを作製した行為が「複製」に該当 するとしたうえで、縮小カラーコピーを作製してこれを貼付した本件鑑定 証書を作製したことによる複製権侵害を肯定した。権利濫用の法理の該当 性やフェア・ユースの法理の適用についてはこれを否定し、また、美術の著 作物等の譲渡等の申出に伴う複製等を認める著作権法47条の 2 の適用およ び準用をそれぞれ否定して、6 万円および遅延損害金の支払いを命じた491。 一審においては、引用(32条)の適用について主張がなされていなかった 491 東京地判平成22年 5 月19日判時2092号142頁 [美術鑑定書一審]。 連続企画 100 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) ため、判断が示されていない。被告は控訴した。 2-2.判旨 知財高裁は、絵画の再製が本件各絵画の著作権法上の「複製」に該当す るとしたうえで、引用(32条)の該当性について以下のように判示し、引 用の成立を認めて著作権侵害を否定した492。 2-2-1.引用の適法性の要件 「著作権法は、著作物等の文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作 者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする ものであるが(同法 1 条)、その目的から、著作者の権利の内容として、 著作者人格権(同法第 2 章第 3 節第 2 款)、著作権(同第 3 款)などにつ いて規定するだけでなく、著作権の制限(同第 5 款)について規定する。 その制限の 1 つとして、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、報道、 批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することが できると規定されているところ(同法32条 1 項)、他人の著作物を引用し て利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正 な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、 すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要で あり、著作権法の上記目的をも念頭に置くと、引用としての利用に当たる か否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、 その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者 に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。 しかるところ、控訴人は、その作製した本件各鑑定証書に添付するため に本件各絵画の縮小カラ-コピーを作製して、これを複製したものである から、その複製が引用としての利用として著作権法上で適法とされるため には、控訴人が本件各絵画を複製してこれを利用した方法や態様について、 上記の諸点が検討されなければならない。」 492 前掲・知財高判平成22年10月13日 [美術鑑定書控訴審]。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 101 2-2-2.要件の充足性の有無 「そこで、前記見地から、本件各鑑定証書に本件各絵画を複製した本件 各コピーを添付したことが著作権法32条にいう引用としての利用として 許されるか否かについて検討すると、本件各鑑定証書は、そこに本件各コ ピーが添付されている本件各絵画が真作であることを証する鑑定書であ って、本件各鑑定証書に本件各コピーを添付したのは、その鑑定対象であ る絵画を特定し、かつ、当該鑑定証書の偽造を防ぐためであるところ、そ のためには、一般的にみても、鑑定対象である絵画のカラーコピーを添付 することが確実であって、添付の必要性・有用性も認められることに加え、 著作物の鑑定業務が適正に行われることは、贋作の存在を排除し、著作物 の価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであ ることなどを併せ考慮すると、著作物の鑑定のために当該著作物の複製を 利用することは、著作権法の規定する引用の目的に含まれるといわなけれ ばならない。 そして、本件各コピーは、いずれもホログラムシールを貼付した表面の 鑑定証書の裏面に添付され、表裏一体のものとしてパウチラミネート加工 されており、本件各コピー部分のみが分離して利用に供されることは考え 難いこと、本件各鑑定証書は、本件各絵画の所有者の直接又は間接の依頼 に基づき 1 部ずつ作製されたものであり、本件絵画と所在を共にすること が想定されており、本件各絵画と別に流通することも考え難いことに照ら すと、本件各鑑定証書の作製に際して、本件各絵画を複製した本件各コピ ーを添付することは、その方法ないし態様としてみても、社会通念上、合 理的な範囲内にとどまるものということができる。 しかも、以上の方法ないし態様であれば、本件各絵画の著作権を相続し ている被控訴人等の許諾なく本件各絵画を複製したカラーコピーが美術 書等に添付されて頒布された場合などとは異なり、被控訴人等が本件各絵 画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということ も考え難いのであって、以上を総合考慮すれば、控訴人が、本件各鑑定証 書を作製するに際して、その裏面に本件各コピーを添付したことは、著作 物を引用して鑑定する方法ないし態様において、その鑑定に求められる公 正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも、 正当な範囲内のものであるということができるというべきである。 連続企画 102 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) この点につき、被控訴人は、著作権法32条 1 項における引用として適法 とされるためには、利用する側が著作物であることが必要であると主張す るが、『自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト』を要件 としていた旧著作権法(明治32年法律第39号)30条 1 項 2 とは異なり、現 著作権法(昭和45年法律第48号)32条 1 項は、引用者が自己の著作物中で 他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく、報 道、批評、研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において、正当な 範囲内で利用されるものである限り、社会的に意義のあるものとして保護 するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと、同法32条 1 項における引用として適法とされるためには、利用者が自己の著作物中 で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべき ものであって、本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても、そのこ とから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが 引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではなく、被控訴人の主張 を採用することはできない。 なお、控訴人が本件各絵画の鑑定業務を行うこと自体は、何ら被控訴人 の複製権を侵害するものではないから、本件各絵画の鑑定業務を行ってい る被控訴人がこれを独占できないことをもって、著作権者の正当な利益が 害されたということができるものでないことはいうまでもない。」 2-3.美術鑑定書事件知財高裁判決による引用規定のフェア・ユース化 2-3-1.引用の要件論について 美術鑑定書事件の知財高裁判決は、引用の要件として、「他人の著作物 を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態 様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当 な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるこ とが必要であ[る]」と述べている。パロディ事件最高裁判決の示した明 瞭区別性・主従関係(附従性)という二要件を用いず493、32条の文言から 493 なお、山内貴博「著作権法のフロンティア01 引用」ジュリスト1449号 (2013年) 77頁は、仮に美術鑑定書事件の事案に二要件を当てはめた場合、鑑定証書本体と絵 画コピー部分は明瞭に区別でき、鑑定証書が主、コピー部分が従であるとして、明 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 103 要件を導いており、近時の裁判例・学説の動向に沿ったものと思われる。 さらに注目されるのが、続けて、「[著作物等の文化的所産の公正な利用 に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与す ることという]著作権法の上記目的をも念頭に置くと、引用としての利用 に当たるか否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目 的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物 の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならな い」として、米国著作権法におけるフェア・ユースの四要素と類似した考 慮要素を提示している点である。すなわち、利用の目的(ないし方法・態 様)は、フェア・ユースの第一要素(使用の目的と性質)、利用の態様(な いし方法)は、第三の要素(利用部分の量と実質)、利用される著作物の 種類や性質は、第二の要素(利用された著作物の性質)、当該著作物の著 作権者に及ぼす影響の有無・程度は、第四の要素(使用された著作物の潜 在的市場あるいは価値に与える影響)を想起させる494。 知財高裁は、このようなフェア・ユース類似の柔軟な解釈が可能な要件 論を展開したうえで、結論としても、鑑定対象の絵画の縮小カラーコピー を添付する行為について、32条 1 項の適用を肯定し、著作権侵害を否定し た。 2-3-2.引用する側の著作物性 引用(32条)の適用にあたっては、引用する側が著作物であることが必 要か否かが問題となりうる。美術鑑定書事件では、引用する側が鑑定書で あったため、この点が争点の一つとなった。 瞭区別性と主従関係の各要件も満たされうるとしている。他方、茶園成樹 [判批 (美 術鑑定書事件控訴審)] L&T 51号 (2011年) 92頁は、明瞭区別性は満たすとするが、 主従関係について、紹介、参照、論評等の引用の目的の存在を前提とするものとし たうえで、鑑定のための絵画の縮小コピーにはそのような目的がないために主従関 係は認められないとする。 494 高瀬亜富「平成22年著作権関係裁判例紹介」パテント64巻 8 号 (2011年) 67頁等。 津久井見樹 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] CIPIC ジャーナル213号 (2013年) 29頁は、 フェア・ユースにおいて第四の要素が重視されているとして、「著作権者への経済 的影響」という判断要素がフェア・ユースの導入に親和的であると述べる。 連続企画 104 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 著作権法32条 1 項における引用として適法とされるためには、利用する 側が著作物であることが必要であるとの著作権者側の主張に対し、知財高 裁は、「同法32条 1 項における引用として適法とされるためには、利用者 が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でな いと解されるべき」と述べて、鑑定証書それ自体が著作物でないとしても、 それを理由に引用該当性が否定されることはないと判示した。 判決も言及するように、旧著作権法においては、「自己ノ著作物中ニ正 当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」(下線筆者)を要件としていたこと から、学説においては、引用が成立するためには、引用する側が著作物で ある必要があるとの見解もある495。しかし、旧法と異なり、現行法にはそ のような要件が明記されていない。「事実の伝達にすぎない雑報及び時事 の報道」(10条 2 項)に該当するなど、事実そのものあるいはありふれた 表現として著作物性が認められない場合でも、言論・表現の自由を保障す 495 作花文雄『詳解 著作権法』(第 4 版・ぎょうせい・2010年) 336頁、斉藤博『著 作権法概論』(勁草書房・2014年) 130頁、小倉秀夫=金井重彦・編著『著作権法コ ンメンタール』(レクシスネクシス・ジャパン・2013年) 621頁 [金井=小倉執筆部分]、 半田政夫=松田政行『著作権法コンメンタール 2 』(第 2 版・勁草書房・2015年) 253 頁 [盛岡一夫執筆部分] 等。作花文雄「『引用』概念による公正利用と法制度上の課 題-『美術品鑑定証書』事件における引用要件の混迷」コピライト605号 (2011年) 40-44頁は、旧法に比べ解釈の幅や柔軟性を有しているとし、創作性などの評価に 微妙な判断がありうる場合であっても、社会通念として「引用」概念に包含されう る利用態様のものがあるとすれば、32条 1 項の適用が必ずしも排除されるわけでは ないとしつつ、立法経緯から、基本的には「自己の著作物中利用」要件が求められ ていると解されるとしている。斉藤博 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 判例時報 2114号 (2011年) 177頁 (判例評論630号31頁) も立法者の意図を重視し、引用側が著 作物であることが当然の前提である旨述べる余地があるとしている。前掲・東京地 判平成10年 2 月20日 [バーンズコレクション] も、「本条項 [32条 1 項] の立法趣旨は、 新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければなら ない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばな いものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認めら れない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないものである」と述べ、著作物 と認められない入場券等への複製について、引用の成立を否定した。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 105 べき場合があることに鑑みると496、引用する側の著作物性を引用の要件と すべきではないと考えられる497。 2-3-3.引用の目的あるいは「引用」該当性 美術鑑定書事件において問題となった、絵画の縮小カラーコピーを鑑定 書に添付するという行為は、従来一般的に「引用」として想定されてきた 著作物の利用態様とはやや離れていると思われる。知財高裁は、鑑定対象 である絵画を特定し鑑定証書の偽造を防ぐために鑑定対象である絵画の カラーコピーを添付することには、必要性・有用性が認められるとし、ま た、著作物の鑑定業務が適正に行われることは、贋作の存在を排除し、著 作物の価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるもの であることなどを併せて考慮したうえで、著作物の鑑定のために当該著作 物の複製を利用することは、著作権法の規定する引用の目的に含まれると 判示した。 これに対し、引用の目的となりうるのは、あくまで32条に例示されてい 496 井関涼子 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] ジュリスト1420号 (2011年) 335頁。 497 引用する側の著作物性を不要とする説として、茶園・前掲注493)94頁 (もっとも、 現行法の規定から引用する側の著作物性の不要説が支持されるとしつつ、「引用」 該当性およびそのために必要とされる主従関係の要件から、実際上は、引用する側 が著作物であることが必要となるとしている (茶園成樹「出版物における引用」上 野達弘=西口元・編『出版をめぐる法的課題 その理論と実務』(日本評論社・2015 年) 148頁も同旨))、中山信弘・前掲注451)[著作権法] 325-326頁、渋谷達紀『著作 権法』(中央経済社・2013年) 245頁 (「引用は、著作物の創作のために行われるのが 普通であるが、権利の目的とならない著作物 (13条) の創作のためであってもよく、 非著作物 (10条 2 項) の作成のために行ってもよい」とする)、田村善之「絵画のオ ークション・サイトへの画像掲載と著作権法」知財管理56巻 9 号 (2006年) 1315頁、 愛知靖之 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 旬刊商事法務2035号 (2014年) 49頁、青木 大也 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] ジュリスト1460号 (2013年) 110頁等。その他、 著作物性を不要とした本判決の判断を支持するものとして、山内貴博 [判批 (美術鑑 定書事件控訴審)] 別冊判例タイムズ32号 (平成22年度 主要民事判例解説・2011年) 311頁、同 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 小泉ほか・編・前掲注478)151頁、津久 井・前掲注494)30頁、岡邦俊 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] JCA ジャーナル58巻 7 号 (2011年) 84-85頁。 連続企画 106 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) る「報道、批評、研究」に準じたものである必要があるとの説からは、本 判決のような引用の目的の拡張は批判的にとらえられている498。あるいは、 32条の適用のためには「引用」に該当することが必要であり、その「引用」 とは、自己の著作物と利用される著作物との関係において、紹介・参照・ 論評等の関係が必要であって、そのための要件として明瞭区別性や主従関 係が判断される必要があるという立場からは、本判決は「引用」を「複製」 とほぼ同義に解している499との指摘とともに、鑑定という利用の目的は娯 楽・教育・営利等と同レベルの利用の意図に過ぎず、引用の目的に含まれ るということはできないとの批判がなされている500。 確かに、鑑定業務において鑑定対象の絵画のカラーコピーを添付する行 為は、これまで32条の引用の場面で主に想定されてきた、「報道、批評、 498 井関・前掲注496)334頁、斉藤・前掲注495)[判批] 177頁。また、潮海・前掲注 463)233頁注125)は、美術鑑定書事件における偽造防止目的は「引用の目的」の通 常の目的とはいえないとし、32条の「引用の目的」を拡大適用しすぎると、インタ ーネットにおける多種多様な著作物の利用方法 (サムネイルやキャッシュなど) に ついてことごとく「引用」とされかねず、著作権を事実上行使できないおそれがあ るとして批判するとともに、32条についてだけ一般条項的解釈をすると、異なる個 別制限規定を主張する利用者間で不公平な結果となりうる (32条を主張する者だけ が有利になる) と論じている。 499 「引用」は「複製」と同じ行為を指すとする見解として、飯村・前掲注483)94-95 頁。同様の考えを示すものとして、杉原嘉樹「研究ノート:『引用』の成否及び日 本版フェア・ユースについて-知財高裁平成22年10月13日判決 (判時2092号136頁) を題材に-」学習院法務研究 4 号 (2011年) 110-112頁。 500 茶園・前掲注493)92頁、同「『引用』の要件について」コピライト565号 (2008年) 2・14頁、同・前掲注497)143-145頁は、紹介、参照、論評等の関係がなければ引用 にはあたらず、このような関係が成立するためには、明瞭区別性と主従関係が存在 する必要があるとしている。板倉集一 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 知財管理61 巻 8 号 (2011年) 1253頁や愛知・前掲注497)47頁も、引用の目的を報道、批評、研究 等の表現活動に限定し、鑑定書へのコピーの添付を引用の目的に含めた判断を問題 としている。同様に、本判決が「引用」該当性を判断していない点を批判する見解 として、張睿暎 [判批 (美術鑑定書事件控訴審)] 新・判例解説 Watch 10号 (2012年) 250頁。富岡・前掲注488)636頁も、単に鑑定書の対象を特定するだけの目的であれ ば、正当な目的と認められないとの考えを示している。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 107 研究」等を典型例とする、言論・表現の自由が直接的に関わるような著作 物の利用行為とは異なると考えられる。本判決のように、引用の目的を実 質的な著作物利用の「必要性・有用性」から導き出し、「引用」それ自体 に引用される著作物と引用する側の関係性を限定させる意味を持たせな いのであれば、まさに、32条の引用規定をフェア・ユースのように一般条 項として機能させることが可能となるのである501。ここで、フェア・ユー スのような著作権制限の一般規定を欠く現在の日本著作権法において、引 用規定をフェア・ユース的に解釈してよいのかということが問われること になる。 なお、本判決は「著作物の鑑定業務が適正に行われることは、贋作の存 在を排除し、著作物の価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることに もつながるものであること」を「併せ考慮」することで、「著作物の鑑定 のために当該著作物の複製を利用すること」が著作権法の規定する引用の 目的に該当するという判断をしているが、この点を強調して著作権者等の 権利の保護に資することを要求すると、引用に該当する場合がきわめて限 定され、柔軟な解釈をとることが不可能になってしまうと考えられる。し たがって、本件では、問題となった行為が鑑定業務に関連した著作物利用 であったため、引用が認められることが著作権保護に資するという事情が、 著作物の利用を許容する方向に働きうることを付加的に指摘したに過ぎ ず、引用に必要な要件として示したわけではないととらえるべきであろ う502。 2-3-4.フェア・ユース化の是非 美術鑑定書事件において知財高裁が示した、「引用規定のフェア・ユー ス化」と呼べるような拡張的な適用に対しては、批判も多い。引用はあく まで適切な批評・言論活動を可能とする規定であって、現行法が著作権制 限の一般規定を採用せず、個別規定によって権利制限を行う構造をとって いる以上は、そのような現行法の立法趣旨をオーバーライドするべきでは 501 井関・前掲注496)334頁。 502 平澤・前掲注488)327頁。 連続企画 108 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) ないとの主張がある503。あるいは、先に紹介したルールとスタンダードの 議論においては、引用に関し、行為の頻度や規範適用による紛争解決の頻 度が相対的にかなり高いにもかかわらず、32条が公正や正当といったスタ ンダードの要件をおくのみで、裁判時の負担が相当に嵩んでいるとして、 ルール型の条項が望ましいとも論じられている504。そしてこのような学説 を引きつつ、32条 1 項の文言と立法趣旨に基づいて解釈することにより、 第三者の予測可能性が確保されることが重要であり、これによって法的に 安定した著作物利用が促進されることにつながるとして、引用規定を一般 条項的に解釈した本判決の判断に批判的な見解が示されている505。 確かに、法に民主的な正当性が備わっていることを前提とするのであれ ば、法解釈のあり方として、現行法の構造や立法趣旨を重視することが望 ましいことになる。しかし、先に紹介したように、ルールとスタンダード をめぐる議論においては、特に著作権制度において、政策形成過程のバイ アスの問題を踏まえた検討が必要なことが指摘されていた。立法過程にお いて、組織化されやすい権利者側の利益が反映されやすく、組織化されに くい利用者側の利益は反映されにくいという著作権法におけるバイアス の問題を是正するためには、権利の拡張に対しては謙抑的であるべきであ る反面、権利を制限する方向にはより積極的であることが望ましいという 503 横山久芳「著作権の制限とフェアユースについて」パテント62巻 6 号 (2009年) 52 頁。愛知・前掲注497)48頁も、権利制限規定は利益衡量のうえで立法的判断により 設けられたものであるとし、現行法の解釈論としては、その規定の本来の趣旨・適 用範囲を大きく越えてフェア・ユースの代替物としての機能を与えるのは適切では ないとしている。 504 島並・前掲注447)101頁。 505 井関・前掲注496)335頁。同様に、日本著作権法にフェア・ユース規定を導入す るか否かは、立法政策上の判断に委ねるべき事柄であり、引用制度をフェア・ユー ス的に適用することは妥当ではなく、別の法理を探求すべきと論じ、本判決を批判 するものとして、作花・前掲注495)コピライト52頁。斉藤・前掲注495)[判批] 177-178 頁も、本判決に対し、「裁判官による法創造に好意を抱く筆者ではあるが、ここま で飛躍すると疑問を感じざるをえない」、「著作物の自由利用全般を引用の中に包摂 するかのような、独自にわが道を往く判断をした。妥当とはいえない」と批判して いる。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 109 ことになる506。 美術鑑定書に絵画のカラーコピーを添付するという行為は、もとの著作 物自体に手を加えて新たな創作をする行為ではなく、異なる目的で利用し ているという点で、例えば検索サイトへの画像の掲載や書籍の電子化によ る全文検索等507、米国のフェア・ユースの変容的利用の理論において、拡 張的にフェア・ユースとして認められてきた行為と類似するように思われ る508。米国において変容的利用の理論が拡張的に適用され、フェア・ユー 506 田村善之「著作権法に対する司法解釈のありかた-美術鑑定書事件・ロクラク事 件等を題材に-」法学協会雑誌63巻 5 号 (2011年) 13頁。 507 See, e.g., Kelly v. Arriba Soft Corp., 336 F.3d 811 (9th Cir. Cal. 2003); Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc., 487 F.3d 701 (9th Cir. Cal. 2007); Authors Guild, Inc. v. HathiTrust, 755 F.3d 87 (2d Cir. N.Y. 2014); Authors Guild v. Google, Inc., 804 F.3d 202 (2d Cir. N.Y. 2015). 508 フェア・ユースにおいて第一の要素 (利用の目的) と第四の要素 (経済的影響) の 関連性が指摘されてきたように、異なる目的で利用されるということは、著作権者 に与える不利益も小さくなると考えられる。知財高裁判決も、「本件各コピーは、 いずれもホログラムシールを貼付した表面の鑑定証書の裏面に添付され、表裏一体 のものとしてパウチラミネート加工されており、本件各コピー部分のみが分離して 利用に供されることは考え難いこと、本件各鑑定証書は、本件各絵画の所有者の直 接又は間接の依頼に基づき 1 部ずつ作製されたものであり、本件絵画と所在を共に することが想定されており、本件各絵画と別に流通することも考え難い」としたう えで、「以上の方法ないし態様であれば、本件各絵画の著作権を相続している被控 訴人等の許諾なく本件各絵画を複製したカラーコピーが美術書等に添付されて頒 布された場合などとは異なり、被控訴人等が本件各絵画の複製権を利用して経済的 利益を得る機会が失われるなどということも考え難い」として、著作権者への経済 的影響に言及している。 経済的影響の法的評価は、本来的に権利の及ぶべき範囲をどのように設定するか により異なると考えられ (作花・前掲注495)コピライト52頁)、鑑定において作品の 複製をなしうることによる優位性を失うという経済的利益の損失も保護すべきと の見解もあるが (井関・前掲注496)335頁)、市場の失敗理論をめぐる議論で示され たように、あらゆるライセンス市場を権利者の損害と考えることは、社会的に望ま しいレベルの利用を抑制することにつながるおそれがある。 平澤・前掲注488)348-349頁は、経済的利益の考慮について、以下のように述べ ている。「…『引用』を制約する方向で考慮すべき利益は、著作権者の経済的利益 連続企画 110 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) スを肯定する事案が増加した背景には、Netanel の推論によれば、著作権の 保護期間を延長する改正法を合憲とした Eldred 事件最高裁判決509を契機 とした、ロビー活動等による過度な著作権保護への懐疑論があるという510。 そうであるならば、このような現象は、法政策学的な観点からみた立法の バイアスの問題が、米国においては Eldred 判決により強く認識されるよう になり、司法によるバイアスの是正が行われていったものとみることがで きる511。 政策形成過程のバイアスが存在するという問題は、米国と日本で異なる ものではない。特に、フェア・ユースの導入が実現しなかった現在の日本 著作権法においては、個別の制限規定の活用等によって柔軟な解決を図る 必要性は、より高まったということができる。このような観点からは、本 判決のように引用規定を包括的なものとして解釈する美術鑑定書事件の 知財高裁判決は、立法のバイアスを矯正するための望ましい司法のあり方 であるということを議論の出発点とすべきである。そのうえで、本事案のような、 新たな利用形態については、米国の transformative use のような、元の著作物と利用 目的を異にし、かつ元の著作物と純粋に競合する市場への害がない場合には適法と されるべきであり、そのような検討を行ううえで、本判決のように①引用の目的と ②著作権者に与える経済的不利益を考慮するという枠組みは適切である。他方で、 従来の批評や研究を目的とする利用形態においては、批評そのものによる経済的不 利益は考慮せず、むしろ真に批評や研究を目的とする利用か否かを識別するために、 従来のように利用する側が『主』であるかを要件とすべきであると思われる。この ように解することが、当事者の予測可能性を確保しながら、新たな利用形態への対 応を可能とすることになると思われる」。 509 Eldred v. Ashcroft, 537 U.S. 186 (2003). 510 Neil Weinstock Netanel (石新智規=井上乾介=山本夕子・訳)「フェアユースを理 解する(2)」知的財産法政策学研究44号 (2014年) 157-158頁 (Neil Weinstock Netanel, Making Sense of Fair Use, 15 LEWIS & CLARK L. REV. 715, 757-58 (2011) )。この Netanel の議論に対する批判として、潮海・前掲注 463)189頁等参照。 511 小島・前掲注473)226頁は、コンテンツ産業 (特にハリウッド) の強力な後押しに 基づいた著作権延長法が「ミッキーマウス法」と揶揄されたことに、「少数派バイ アス」の問題を見て取ることができるとする。 フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 111 として、支持されることになる512。 もっとも、美術鑑定書事件の知財高裁判決により、引用規定を柔軟に適 用しうる可能性が開かれたとしても、その後の裁判例において、引用規定 がフェア・ユース的に適用され、侵害が否定される事案が増えたかという と、必ずしもそのような傾向は認められない513。現在法改正が検討されて 512 田村・前掲注506) 1 -27頁、同「日本の著作権法のリフォーム論-デジタル化時 代・インターネット時代の『構造的課題』の克服に向けて-」知的財産法政策学研 究44号 (2014年) 58頁等。もちろん、政策形成過程におけるバイアスが存在するとい う問題意識のもとでは、司法によるユーザーの利益の尊重が重要だとしても、全て の著作物利用を許容すべきということにはならず、一般条項を欠く中で、既存の規 定等を活用した実質的な利益衡量が求められることになるだろう。美術鑑定書への 著作物の利用という態様は、表現の自由等が直接関わる利用に比べると、著作物利 用の必要性は弱いとも考えられるが、そのために知財高裁はそのような利用が著作 権者等の保護に資することに言及したのかもしれない。表現の自由等の重要な非金 銭的利益が関わるケースではないにしても、判決の述べるように、適正な鑑定を行 ううえでの社会的な必要性が存在すること、著作権者の市場に直接損害を与える利 用態様ではないことを考慮すると、知財高裁の判断が支持されると考える。 513 美術鑑定書事件知財高裁判決 (前掲・知財高判平成22年10月13日) と同様に、他 人の著作物を利用する側の利用の目的、その方法や態様、利用される著作物の種類 や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮するとし て、引用の成立を肯定した裁判例としては、本件と同じく美術鑑定書についてほぼ 同内容の判断を示した東京地判平成26年 5 月30日 (平成22(ワ)27449号) 裁判所ウェ ブサイト [美術鑑定書Ⅱ] のほかには、パンフレットの表紙に使われたイラストの二 次利用の許諾範囲が問題となった大阪地判平成25年 7 月16日 (平成24(ワ)10890号) 裁判所ウェブサイト [パンフレットイラスト] (パンフレットの表紙の掲載は、岡山 県の事業を紹介する目的であり、その態様も目的に適うものであって改変を加える ものでもなく、著作権者の利益を不当に害するようなものでもないとして、適法な 引用にあたると判示した。当事者の主張を受けて、明瞭区別性と主従関係の要件を 満たすことについても言及している (ただし、青木・前掲注497)109頁は、前段階の パンフレットに係る利用許諾がある点、ほかにウェブ掲載の許諾や権利濫用の抗弁 も認められている点から、特殊な事例ではないかと指摘している)) を除き、見受け られない。東京地判平成28年 1 月29日 (平成27(ワ)21233号) 裁判所ウェブサイト [風水ブログ発信者情報開示請求] は、美術鑑定書事件知財高裁判決と同様の引用の 要件を示したものの、結論として引用の成立は否定している。すなわち、「風水」 連続企画 112 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) に関するコンサルタントおよび執筆活動を行っている原告が、インターネット掲示 板「 2 ちゃんねる」上のスレッドに記載している情報は、原告のブログの記事を改 変して無断掲載したもので、原告の著作権および著作者人格権を侵害しているとし て、インターネット接続サービスを提供していたニフティに対し、発信者情報の開 示を求めた事案において、「…[原告のブログ] 記事の内容を批判するか揶揄するこ とを意図して、…引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上、 それをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであって、これが議論を目 的としたものであるとはにわかにうかがわれないばかりか、公正な慣行に合致した 正当な範囲内での引用であるともおよそうかがわれない」として、引用の成立を否 定した (北村行夫=雪丸真吾・編『引用・転載の実務と著作権法』(第 4 版・中央経 済社・2016年) 11-12頁 [雪丸執筆部分] 参照)。 平澤・前掲注488)346頁は、美術鑑定書事件の知財高裁判決以降、利用態様が過 度に強調され、「引用」が否定される傾向があると分析している。東京地判平成23 年 2 月 9 日 (平成21(ワ)25767・36771号) 裁判所ウェブサイト [都議会議員写真ビ ラ] は、政治活動の際に肖像写真を無断でビラ等に掲載した行為について、本件写 真を引用しなければならない必然性がないこと、本件写真の必然性もないこと、本 件写真の出所が明示されていないことなどから、「公正な慣行」に合致するものと いうことはできず、また、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」 で行われたものということもできないとして、引用の成立を否定した。東京地判平 成23年 6 月30日 (平成20(ワ)13142号) [生活と意見] は、家族内あるいは私生活上の 出来事に関わる私憤や不満等に根ざす見解を公表することは、名誉毀損、名誉感情 侵害およびプライバシー侵害の不法行為を構成し、「批評」としての域を逸脱する ものであり、そもそも引用の目的が社会的に許容しうるものではないとし、さらに、 引用の目的に見解、感想等を示すことをも含むものであるとしても、具体的な表現 と引用される各著作物における具体的な表現と目的との対応関係は必ずしも明ら かとはいえず、その引用の範囲が健全な社会通念に照らして引用の目的との関係で 合理的な範囲内にあるものと認めることはできないとして、引用の成立を否定した。 東京地判平成24年 9 月28日判タ1407号368頁 [言霊] は、宗教行為を撮影した動画映 像を収録した DVD 等を記者会見の出席者に頒布した行為が問題になった事案にお いて、「他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用 する方法や態様が、報道、批判、研究等の引用するための各目的との関係で、社会 通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正 な慣行に合致することが必要である」と述べたうえで、正当な範囲の利用であると いえず、公正な慣行に合致するものと認めることもできないとして、引用の成立を 否定した。東京地判平成25年12月20日 (平成24(ワ)268号) 裁判所ウェブサイト [オ フェア・ユースにおける市場の失敗理論と変容的利用の理論(村井) 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 113 いる「柔軟性のある権利制限規定」の導入が期待されるが514、少なくとも ークションカタログ一審]は、32条の文言に沿った要件を示したうえで、オークシ ョンのためのカタログに美術作品の写真を掲載する必然性は見いだせないとした うえで、カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が、オーク ションにおける売買という目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内の ものであるとは認められないと述べて引用の成立を否定した。同事件の控訴審判決 である知財高判平成28年 6 月22日 (平成26(ネ)10019・10023号) 裁判所ウェブサイト [オークションカタログ控訴審] も同様に、カタログに掲載する合理的な必然性が見 いだせない等と述べて、引用の成立を否定した。東京地判平成27年 4 月27日 (平成 26(ワ)26974号) 裁判所ウェブサイト [肖像写真投稿者情報開示請求] は、インター ネット上の電子掲示板に投稿された記事中に掲載された肖像写真について、意見、 批評にあたらず、写真の掲載が必要であったともいえない等として、引用の成立を 否定した。大阪地判平成27年 9 月24日 (平成25(ワ)1074号) 裁判所ウェブサイト [ピ クトグラム] は、「著作権法32条 1 項の規定によれば、他人の著作物を引用して利用 することが許されるためには、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社 会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要である」と述べたうえで、 「…本件冊子における本件ピクトグラムの掲載は、本件ピクトグラムが有する価値 を、本来の予定された方法によってそのまま利用するものであるということができ、 他の表現目的のために本件ピクトグラムを利用しているものではないから、このよ うな利用態様をもって、目的上正当な範囲内で行われた引用であるとはいえない」 とした。東京地判平成27年11月30日 (平成27(ワ)18859号) [発信者情報開示] は、電 子掲示板に投稿した記事に問題となった写真を掲載する必要性は明らかではない うえ、その出典を明示していないとして、引用に該当しないと述べた。 その他、引用の要件等にほとんど言及せず、引用の成否を判断した判決として、 東京地判平成23年 4 月14日 (平成22(ワ)7959号) 裁判所ウェブサイト [区議会議員 写真週刊誌] (写真週刊誌に区議会議員の写真の掲載等について争われた事案にお いて、32条 1 項と41条の適用により違法性が否定される旨を述べた)、東京地判平 成25年 6 月28日 (平成24(ワ)13494号) 裁判所ウェブサイト [苦情申告書ブログ掲 載] (問題となった文書 (東京行政書士会に提出された苦情申告書等) が、公表され た著作物にあたらないとして、引用の成立を否定した)、大阪地判平成23年11月24 日 (平成21(ワ)20132号・平成22(ワ)4332号) [プロフィール表] (プロフィール表の 掲載が引用にあたるとした) 等がある。 514 石新智規「フェアユース再考-TPP による日本の著作権法の変容を契機として-」 知財管理66巻 3 号 (2016年) 253頁は、一般的権利制限規定がないことから、引用規 定をフェアユース規定に類似する規定として柔軟に運用することもやむをえない 連続企画 114 知的財産法政策学研究 Vol.49(2017) 法改正が実現するまでは、引用規定をフェア・ユース的に活用し、柔軟な 権利侵害が行われることが望ましいと考える515。一般的な権利制限規定や 「柔軟性のある権利制限規定」の導入が実現した後には、引用規定を拡張 的に適用する必要はなくなるのであるから、規定の内実を明らかにしてい くためにも、一般的もしくは柔軟性のある権利制限規定の適用が検討され るべきと思われる。 〈謝辞〉 本研究は JSPS 科研費 JP25780082の助成を受けたものです。 かもしれないとしつつ、「公正な慣行」を緩和する場合には、フェアユース規定以 上に大胆な規定ともなりかねないとして、裁判所が柔軟に権利制限を認める必要性 を正面から認めて制定法上の根拠を与える方が制定法国として望ましい姿勢であ ると論じている。上野・前掲注451)170-175頁も、「引用のフェアユース的活用」に は疑問を抱かざるをえないとし、考慮要素を明示した受け皿規定としての一般規定 を設けた方が、明確性と安定性がもたらされると論じている。潮海・前掲注473) 26-30頁も、ドイツ法を参考に主にサムネイルの利用を念頭におきつつ、引用規定 の拡張的適用よりも、権利制限の一般規定導入による解決を指向している。 515 田村・前掲注506)22頁、同・前掲注512)58頁等のほか、引用規定のフェア・ユー ス的な適用に比較的肯定的とみえる見解として、高林龍『標準 著作権法』(第 3 版・有斐閣・2016年) 158-159頁。