− 117 − [ 報告論文 ] 〔フロンティア農業経済研究 第20巻第2号 2018.3〕 大規模畑作経営における効率性格差の要因解析 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 Component analysis of disparities in the efficiency of large-scale upland farming Yusuke YOSHIDA*a and Yasuhiro SHIRAIb aHokkaido Research Organization Tokachi Agricultural Experiment Station bHokkaido Research Organization Central Agricultural Experiment Station が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 道総研十勝農業試験場 道総研中央農業試験場 吉 田 裕 介* 白 井 康 裕 Summary The purpose of this paper is to demonstrate disparity factors in income by examining the influence of farm size and farm efficiency on farming income. The following were the four main findings; 1) The influence of farm size and farm efficiency on income showed annual fluctuations. 2) For some cases of large-scale upland farming operations there were large fluctuations in incomes because of fluctuations in farm efficiency, resulting in small average annual incomes. 3) The statistical relationship between revenue and income per unit area was very low, while there was a clear relationship between expenses and incomes per unit area for large-scale upland farming operations. 4) In large-scale upland farming operations where there were decreases in income, financial outlays were still necessary to maintain revenue. As above, large-scale upland farming suffering from lowered incomes showed low efficiency because of increases in expenses to ensure maintenance of revenue per unit area and avoiding overcropping of wheat. These farming enterprises caused some of the problems detailed in literature reviews, and other problems they encounter are to maintain farm efficiency by considering the balance between revenue and expenses. ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) * Corresponding author:yoshida-yuusuke@hro.or.jp − 118 − Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) 表1 対象経営群の概況 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 − 119 − ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) 表2 規模(経営面積)及び効率(所得率)が所得形成に及ぼす効果 注1)直接効果は規模(効率)が所得の増加に直接的に及ぼす効果(標準偏回帰係数)であり、相関 効果は規模(効率)が効率(規模)を介して所得の増加に間接的に及ぼす効果である。 注2)検定はt検定による。***は有意水準1%を示す。 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 − 120 − ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) 表3 効率(所得率)の年次間相関、効率の平均と変動係数の相関 図1 10a当たり収入及び経費と10a当たり所得の関係 注1)年次間相関はスピアマンの順位相関係数、効率の平均と変動係数の 相関は単相関係数である。 注2)検定はt 検定による。***は有意水準1%、**は5%を示す。 出所) 青色申告決算書(67 戸) 注1) r は単相関係数である。 注2) 検定は無相関の検定による。***は有意水準1%、**は5%を示す。 注3) 図中の線は67 戸平均の値である。 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 − 121 − ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) 表4 対象経営群の概況 図2 所得維持経営と所得低迷経営における効率(10a 当たり所得)格差の要因 注1)大規模経営(50ha以上)の平均を100としたときの各 経営群の値を、指数で示している。 注2)サンプルサイズは、所得維持経営及び所得低迷経営 が3、中小規模経営が56である。 注1)所得維持経営と所得低迷経営との所得格差の要因を、寄与度を用いて示している。 注2)プラスの箇所は所得低迷経営が優れている点、マイナスの箇所は所得低迷経営が劣っている点を示す。 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 − 122 − ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理) 表5 所得維持経営と所得低迷経営の作付比率 Ⅰ 緒言 わが国では、構造改革により効率的で安定的な 経営体の育成が目標とされ、大規模化等による安 定的な所得確保が目指されてきた。大規模化が先 行した北海道の畑作経営では担い手減少のもと更 なる規模拡大が進展している。2015年には代表的 な畑作地帯である十勝地域では経営耕地面積 50haを超える農家が販売農家の22%を占めてお り、50haを超える家族経営も散見される。 これまで既往研究では、畑作経営の大規模化が 所得形成に及ぼす影響が明らかにされてきた。平 石[1]は、品目横断政策前を対象に、大規模層 (50ha以上)において資本装備の増強と省力的 な作付内容の採用(小麦作付比率の上昇)に起因 して、効率(10a当たり所得)が低下し、収益形 成力が低下する傾向を指摘した。 白井[3]は、品目横断政策及び経営所得安定 対策下を対象に、農業所得総額に対する規模(経 営面積)と効率(所得率)の影響を検討し、現施 策下では規模よりも効率が所得増大に寄与してお り、かつ、小麦作付比率の上昇と資本装備の増強 が効率の低下に影響していることを指摘した。 山田・平石[4]は、品目横断政策及び経営所 得安定対策下を対象に、こと大規模層(50ha以 上)において効率(10a当たり所得)を低下さ せ、大規模化による所得増大効果が減殺される経 営が散見されることを指摘した。 以上のとおり現在の経営所得安定対策のもと で、大規模化を通じて安定した所得増大に結びつ けられていない経営が存在することが指摘されて いる。一方、これまでの研究蓄積では、効率を低 下させ、所得を低迷させる要因の特定には至って いない。今後、大規模経営の育成に向けて、大規 模化により生じうる効率の低下要因を解明し、課 題を特定することが重要である。そこで本研究で は、大規模畑作経営を対象に所得に対する規模と 効率の影響を検討したうえで、効率格差の要因を 所得の構成要素ごとに定量化することで、大規模 畑作経営の効率性格差の要因を解明することを課 題とする。 Ⅱ 分析方法 1.データ 本研究では十勝地域に存在する畑作専業経営 (当期の農産収入に占める畑作4品の割合が8割以 上となる経営)67戸を対象とする。分析対象の経 営耕地規模分布は表1のとおりであり、30~40ha を中心として30ha未満から70ha以上に散在す る。分析で扱うデータは、青色申告決算書(損益 計算書、収入金額の内訳)である。なお、所得に 関する指標は、決算書36欄にある専従者給与を控 除する前の差引金額とした注1)。 分析の対象とした年次は、経営所得安定対策下 の2012~14年度とした。分析に当たり、2012年度 は所得が高い年、2013年度は所得が低い年、2014 年度は所得が過去2年の中間程度の年と位置づけ た。 分析に用いた指標は、規模は経営面積とし、効 率は所得率及び10a当たり所得とした。農業所得 総額に対する規模と効率の影響を検討する際は、 白井[3]と同一の指標を用いるため所得率を効 率の指標とし、効率低下の要因を検討する際は、 投入と産出の要因を峻別するため、10a当たり所 得を指標とする。なお、所得率と10a当たり所得 は、対象経営において高い正の相関(2012年 0.963、2013年0.941、2014年0.899)がある。 2.分析方法 本研究では、課題の解明に向けて、以下の1) ~4)の手順をとる。 1)所得に対する規模・効率の影響の年次間差 はじめに、所得に対する規模・効率(所得率) の影響を明らかにする。具体的には、白井[3] と同様に、規模及び効率を説明変数、所得を目的 変数として、重回帰分析をもとにしたパス解析を 実施することで、規模及び効率が所得の増加に及 及ぼした影響を把握する。 2)規模階層間における効率の年次間変動の差 次に、効率(10a当たり所得)の年次間変動の 差を規模階層間で比較することで、大規模経営に おける効率変動の特徴を明らかにする。具体的に は、各年度のデータを50ha以上の大規模経営と 50ha未満の中小規模経営とに群区分したうえ で、効率の年次間変動を比較する。 3)規模階層間における効率の低下要因 次に、効率(10a当たり所得)の低下要因を規 模階層間で比較することで、大規模経営における 効率の低下要因を把握する。具体的には、10a当 たり収入、10a当たり経費、10a当たり所得につい て、2012~14年度の平均を算出し、収入と所得、 及び経費と所得の関係を明らかにする。 4)大規模経営における効率格差の要因 最後に、大規模経営を対象に効率(10a当たり 所得)格差の要因を明らかにすることで、大規模 経営における所得格差の要因を整理する。具体的 には、大規模経営の中から効率の3カ年平均が高 い経営及び低い経営を抽出し、効率の差を計測す る。さらに、効率の差について寄与度を用いて収 入(作物別)及び経費(費目別)に要因分解す る。 注1)青色申告決算書36欄の差引金額は、当期の収 入(決算書7欄)から、当期の経費(決算書35 欄)を差し引いた額である。 Ⅲ 分析結果 1.所得に対する規模・効率の影響の年次間差 まず、畑作経営において規模及び効率が所得に 及ぼす影響を確認する(表2)。ここから以下の3 点が指摘できる。 第1に、規模及び効率の直接効果は、3カ年とも 有意な正の値であった。 第2に、規模及び効率の相関効果は、いずれの 年度も関係性は弱く、有意性もみられなかった。 第3に、規模及び効率の所得増効果(全効果) は各年ともに認められたが、所得の低い年次ほど 効率の全効果は高かった。 以上のとおり、所得に対する規模・効率の影響 は年次間で差があり、規模と効率が所得形成にも たらす影響は年次間で変動するものの、所得の低 い年ほど規模よりも効率の影響は大きくなると判 断される。 2.規模階層間における効率の年次間変動の差 経営全体、50ha以上の大規模経営、50ha未満 の中小規模経営ごとに、効率(10a当たり所得) の順位相関係数を計測した。また、2012~14年度 における効率の平均と、同期間における効率の変 動係数の相関を明らかにした(表3)。ここから 以下の2点が指摘できる。 第1に、順位相関係数は、大規模経営では2013 年度と2014年度において有意な正の値をとった が、2012年度と2013年度、及び2012年度と2014年 度においては正の値であるものの、有意性は認め られず、効率の順位は年次間で変動していた。一 方、中小規模経営では、すべての年次間で有意な 正の値をとり、効率の順位は年次間で固定的で あった。 第2に、効率の平均と変動係数の相関は、大規 模経営では有意な負の値をとった。一方、中小規 模経営では負の値をとったものの、有意性は認め られなかった。 以上のとおり、規模階層間で効率の年次間変動 に差があり、一部の大規模経営では、効率の変動 に起因して所得の変動が大きく、平均所得が低迷 することが示された。 3.規模階層間における効率の低下要因の相違 10a当たり収入、10a当たり経費、10a当たり所 得について、2012~14年度の平均を算出し、収入 と所得、及び経費と所得の関係を示した(図 1)。左が収入と所得の関係を示した図、右が経 費と所得の関係を示した図である。ここから以下 の2点が指摘できる。 第1に、大規模経営では、10a当たり収入と10a 当たり所得の相関係数は正の値をとったが、有意 性は認められなかった。一方、10a当たり経費と 10a当たり所得の相関係数は、有意な負の値を示 した。 第2に、中小規模経営では、10a当たり収入と 10a当たり所得の相関係数は、有意な正の値を示 した。一方、10a当たり経費と10a当たり所得の相 関係数は負の値をとったが、有意性は認められな かった。 以上のとおり、効率の低下要因は規模階層間で 相違があり、大規模経営では経費の水準が効率に 影響している点が示された。 4.大規模経営における効率格差の要因 大規模経営のうち、効率(10a当たり所得)の3 カ年平均が高い経営(以下、所得維持経営)と低 い経営(以下、所得低迷経営)を抽出し、寄与度 を用いて効率格差の要因を明らかにした注2)。 分析対象として抽出した所得維持経営、所得低 迷経営の概況は表4のとおりである。所得低迷経 営は規模では所得維持経営より大きいものの、効 率(10a当たり所得)が所得維持経営に比べ低い い:40,286円、ばれいしょ:34,870円、大豆: 19,167円、小麦(畑作):18,694円である。 Ⅳ 結語 本研究では、大規模畑作経営を対象として所得 総額に対する規模と効率の影響を明らかにしたう えで、大規模経営における効率格差の存在と格差 の要因となる費目を解明した。解析をとおして、 以下の知見が得られた。 第1に、所得総額に対する規模・効率の影響は 年次間で差があり、規模と効率が所得形成にもた らす影響は年次間で変動するうえ、所得の低い年 ほど効率の影響が大きくなることが示された。 第2に、規模階層間で効率の年次間変動に差が あり、一部の大規模経営では効率の年次間変動が 大きく、これに起因して平均所得が低迷してい た。 第3に、規模階層間で効率の低下要因に相違が あり、大規模経営では経費の水準が効率に影響し ていた。 第4に、大規模経営を対象に効率格差の要因を みたところ、大規模経営で所得が低迷する経営 は、過度に麦類に偏った作付をとらず10a当たり 収入を保っていた。一方、労働手段に係る経費の みならず、農産物生産に供する資材に係る経費が 高いことが10a当たり経費を上昇させ、効率を低 下させていた。 すなわち本稿の分析からは、大規模層において 効率が低下し所得が低迷する経営では、大規模化 に際して作付内容の粗放化や収量の低下を回避 し、収入を維持しようとする営農努力のもと、資 本装備の増強や資材の多投入といった経営行動が とられており、これが効率の低下をもたらしてい るものと考えられる。 既往研究では、大規模層における効率低下の要 − 123 − ため、農業所得総額も下回る。所得低迷経営の効 率は中小規模経営と比べても3割程度低い。 次に、寄与度を用いて所得低迷経営と所得維持 経営の効率(10a当たり所得)格差の要因を整理 した(図2)。ここから以下の4点が指摘できる。 第1に、所得低迷経営は、所得維持経営と比較 して、10a当たり所得が40.1%低かった。 第2に、10a当たり所得に対する10a当たり収入 と10a当たり経費の寄与度をみると、収入の寄与 度が-1.7ポイントであるのに対し、経費の寄与度 は-38.4ポイントであり、10a当たり所得の差は収 入よりも経費が大きく影響していた。 第3に、所得低迷経営と所得維持経営では10a当 たり収入の差は小さかったものの、所得低迷経営 では麦類及び豆類部門の収入が大きく、ばれい しょ及びてんさい部門の収入が小さかった。な お、表5に所得維持経営と所得低迷経営の作付比 率を示した。所得低迷経営ではてんさい作付比率 が低い代わりに豆類作付比率が高く、やや省力的 な作付が選択されているものの、麦類作付比率に 差は小さかった。既往の研究で指摘される、極端 に麦類に偏った作付がなされることが所得格差の 要因とは認められなかった。 第4に、所得維持経営と所得低迷経営では10a当 たり経費の差が大きかった。費目に注目すると、 所得低迷経営では、農機具関係(車両費、修繕 費、減価償却費等)、地代・賃借料といった労働 手段や土地に係る経費が高いのみならず、肥料 費、農薬衛生費といった農産物生産に直接、供す る資材に係る経費も高かった。 以上のとおり、所得低迷経営では大規模な作付 をおこないつつも、麦類に過度に偏った作付をと らず10a当たり収入を所得維持経営と同水準に 保っている。一方、既往の知見で指摘をされた資 本装備の増強に起因した経費の増加のみならず、 農産物生産に供する経費も高いことが注目され る。一般的に、麦類、豆類に比べ、てんさい、ば れいしょは種苗費、肥料費、農業薬剤費を要する ことを鑑みると、所得低迷経営は所得維持経営と 比べて、農産物生産に供する資材を多投入する傾 向にあると判断される注3)。 注2)大規模経営間の効率格差の要因を分析するう えで経営組織が大きく異なるサンプルの影響を 排除するため、次のとおり所得維持経営と所得 低迷経営を抽出した。経営耕地面積50ha以上 の経営11戸における10a当たり所得の3ヶ年平 均値を求め、中央値を除く上位5経営、下位5経 営に区分する。そこから極端な作付構成(小麦 作付比率が極端に高い等)をとる経営を除外し た各3経営を所得維持経営、所得低迷経営と 定義した。 注3)2015年の生産費調査によると10a当たりの種 苗費、肥料費、農業薬剤費の合計は、てんさ 因として、作付の粗放化による収入の低下と大規 模化に際した資本装備の増強による費用の増加が 指摘されてきた。本稿の分析結果において、資本 装備の増強に起因した費用の増加が大規模層の所 得形成を阻害する要因であることはこれと共通す る。一方、営農努力により収入の低下を免れた場 合でも、多投入の行動がとられることに起因した 全般的な費用の増加が大規模層の所得形成を阻害 する要因であることは注目される。今後、生産管 理行動にも着目し、大規模層において経費の格差 が増大する要因を検討する必要がある。 引用文献 [1]平石学「機械費からみた畑作経営における規 模拡大の経済性―十勝地域を対象に―」『農 業経営研究』41(2)、2004年、pp. 80-85. [2]平石学『大規模畑作経営の展開と存立条件』、 農林統計協会、2006年. [3]白井康裕「現段階における畑作経営の構造か ら見た収益形成力」『フロンティア農業経済研 究』18(2)、2015年、pp. 10-17. [4]山田洋文・平石学「大規模畑作経営における 収益構造と「経営所得安定対策」の影響評価」 『農業経済研究』88(4)、2017年、pp. 371-375. (2017年7月5日受理)