南極海生態系研究の現状と展望 ─炭素循環と低次生産者の視点から 茂木 正人1,2),真壁 竜介2,3),高尾 信太郎2,3) 本稿では,南大洋における生態系研究の現状と課題を整理した.南大洋の生態系を論じるうえで最 も重要な種はナンキョクオキアミであるが,近年ハダカイワシ科魚類が注目されている.日本の生態 系研究チームはハダカイワシ科の中でも季節海氷域に分布するElectrona antarctica(ナンキョクダル マハダカ)をターゲットのひとつとして研究しているが,その繁殖生態や初期生活史については未解 明の部分が大きい.季節海氷域では海氷に含まれるアイスアルジーや海氷融解時におこる植物プラン クトンの大増殖を起点に始まる食物網が存在する.海氷と海氷下の生態系は密接な関係があり,温暖 化による海氷変動は生態系変動をもたらすことになる. Research issues and vision in the Southern Ocean ecosystem Masato Moteki1, 2, Ryosuke Makabe2, 3 and Shintaro Takao2, 3 This paper reviewed research issues on the Southern Ocean (SO) ecosystem and proposed a vision for them. While the most important species to be addressed for understanding the ecosystem is Antarctic krill Euphausia superba, research articles on the myctophid (lanternfish) ecology in the SO have been frequently published in the last decade. Japanese research team determines Antarctic myctophid fish Electrona antarctica as a target species. However, only fragments of information have been available on the reproductive biology and early life history in the species. In the marginal ice zone, there is an energy pathway originating from ice algae as well as from phytoplankton bloom found near the ice edge in the ice melting season. Change in sea ice dynamics with climate changes is most likely to affect the ecosystem in the water column under sea ice. キーワード:南大洋食物網,動物プランクトン,ナンキョクオキアミ,ハダカイワシ科魚類,仔魚,生物ポンプ Southern Ocean foodweb, zooplankton, Euphausia superba, myctophids, larval fish, biological carbon pump 1.はじめに 南大洋は冬季,およそ 2000 万 m2の面積が海氷に覆わ れる.この面積は南極大陸よりも広く世界の海のおよそ 10%を占める.一方夏季には,この面積の 80%以上の海 氷が融解し,海面が現れる.この毎年繰り返される季節 変化は南大洋の生物の生活にとってきわめて重要なイベ ントである.氷縁域でしばしば見られるブルーム(植物 プランクトンの大増殖,氷縁ブルーム ice edge bloomと 呼ばれる)は,植物プランクトンを摂食する動物プラン クトン(二次生産者あるいは一次消費者)にとって重要 であるばかりでなく,そこから三次,四次の栄養段階へ 食物網が続く(Arrigo et al., 2010).また,海氷中や海氷 底面には Sea Ice Biota(SIB)と呼ばれる生物群集が存 在することが知られている(Garrison, 1991; Horner et al., 1992; Legendre et al., 1992; Bluhm et al., 2010).定着氷 低温科学 76 (2018) 71-93 doi: 10.14943/lowtemsci. 76. 71 茂木 正人 東京海洋大学 海洋環境科学部門 〒108-8477 東京都港区港南 4-5-7 Tel. 03-5463-0527 e-mail:masato@kaiyodai.ac.jp ⚑) 東京海洋大学 海洋環境科学部門 Department of Ocean Sciences, Tokyo University of Marine Science and Technology, Tokyo, Japan ⚒) 国立極地研究所 生物圏研究グループ Bioscience Group, National Institute of Polar Research, Tachikawa, Japan ⚓) 総合研究大学院大学 複合科学研究科 School of Multidisciplinary Sciences, The Graduate University of Advanced Studies, Tachikawa, Japan の底面は想像以上に複雑な構造を呈し,珪藻類を中心と したアイスアルジー(海氷に生息する微細藻類)のみな らずその構造を利用してカイアシ類,端 たん 脚 きゃく 類,オキアミ 類,魚類など多様な動物も生息している(Bluhm et al., 2010).同様に,冬季に広大な面積を覆っている浮氷中 にも珪藻類などの基礎生産者,カイアシ類ノープリウス 幼生,有孔虫などからなる微小な SIB が高密度で含まれ ている(Swadling, 2014; Ojima et al., 2017).これらの SIB は春から夏の海氷融解期に海中に放出され,氷縁ブ ルームとは別に食物網の起点となる可能性もある(本巻 の須藤ほかも参照). 南大洋の食物網については Euphausia superba(ナン キョクオキアミ,krill)を抜きにして論じることはでき ない.E. superba(以下,オキアミ)の生物量は膨大で, 鯨類,鰭 き 脚 きゃく 類(アザラシやオットセイ),ペンギン類や 飛翔性海鳥類など多くの捕食者の餌となっている (Trathan and Hill, 2016).一方,近年ではハダカイワシ 類(Myctophidae, myctophids)やカイアシ類(Copepoda, copepods)を中心においた食物網の図も描かれるように なり(図 1;Murphy et al., 2007),特にハダカイワシ類に 着目した論文も頻繁に出版されている(Collins et al., 2008, 2012; Flynn and Williams, 2012; Saunders et al., 2014, 2015, 2017; Moteki et al., 2017a, 2017c).これらオ キアミとハダカイワシは,大陸棚斜面から外洋域にかけ て分布するキー・プレーヤーであるが,さらに長期間海 氷に覆われる大陸棚海域には Euphausia crystalloro- phias(コオリオキアミ,ice krill)や Pleuragramma antarcticum(コオリイワシ,silverfish)といったやはり 大きな生物量をもつ種が分布している(Hubold, 1985; Kock, 1992).これら 2 種はエネルギー量もオキアミに 匹敵するかそれ以上であることから(Hückstädt et al., 2012),南大洋生態系変動を理解するうえで重要である (Ducklow et al., 2006, 2012; Smith et al., 2012).同様に, 広大な外洋域をもつインド洋セクターでは Thysanoessa 72 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 図 1:大西洋セクター,スコシア海の食物網の概念図(Murphy et al., 2007 を改変).ナンキョクオキアミに依存する食物網(左, krill-dependent pathway)と依存しない食物網(右,krill-independent pathway).左の図では,ナンキョクオキアミ(krill, Euphausia superba)が基礎生産者である植物プランクトンを摂食し,ナンキョクオキアミは鰭脚類(seals,ナンキョクオットセ イ,カニクイアザラシ,ウェッデルアザラシなど)やペンギンなどに食べられる.右はナンキョクオキアミが少ない場合の食物 網.植物プランクトンはカイアシ類に摂食され,カイアシ類は端脚類(Amphipods)やハダカイワシ類(Myctophids)に食べられ る.写真の Electrona antarctica は南大洋で最も生物量の大きいハダカイワシ科魚類.ハダカイワシ類は鰭脚類やペンギン,飛翔 性の海鳥類など(other predators)に捕食される.右の図ではコオリウオ類(Icefish)が高次捕食者の下に位置しているが,イン ド洋セクターではハダカイワシ類とコオリウオ類は同所的に分布しない(本文参照).本文中では,左右の食物網をそれぞれ適宜 krill-centered pathway,copepods-myctophids centered pathway と表記しているが同じ意味である. spp.(オキアミ科の一種)についての研究も待たれる. これらの食物網はいずれも季節海氷域を舞台としたも ので,海氷の存在・季節的消長と密接な関係をもつ.し かしその海氷の存在そのものが研究者のアクセスを阻 み,海氷下の生態系について多くの謎が残っており,周 年にわたる生物の動態や生活史の理解には程遠いのが現 状となっている.気候変動に伴う海氷変動は生態系の構 造を変貌させるだろうとの予測から,現在,日本の南大 洋生態系研究チームは,オーストラリアの研究者と連携 を取りながら,東京海洋大学練習船「海鷹丸」を観測プ ラットフォームの主力として観測を継続している(図 2; Moteki et al., 2017b).ターゲット海域は,オーストラリ アの南側から昭和基地までをカバーする「南大洋インド 洋セクター」である.本稿は,最近のトピックを取り上 げながら南大洋の生態系を概説するとともに,食物網を 中心に研究課題を抽出・整理することを目的とした.特 に,近年注目されながらも未知の部分が大きいハダカイ ワシ科魚類について紙面を割いた. プランクトンについては和名の無いものも多いが,魚 類の和名は岩見ほか(2001)によって,水産上重要な 54 種について整理・提唱されている.研究者ではない方々 にとっては和名があるとイメージしやすいかもしれない が,逆に先入観を招いてしまうこともある.例えば,南 極海とその周辺海域でのみ進化した魚類の分類群ノトセ ニア亜目 Notothenioidei にはナンキョクカジカ亜目の和 名が当てられるが,日本にもいるカジカの仲間とは直接 の類縁性は無い.本稿では,読みにくくなることを避け るため頻出する重要な種にのみ和名と学名を表記したあ と和名を使用したが,頻出しない種は学名のみ使用した. ただし,Electrona antarctica については頻出するもの の,和名がナンキョクダルマハダカと長いため,学名を 短縮し E. antarctica として使用した.イメージをつか む参考に,いくつかの生物の写真を図 3 と 4 に示した. 2.南大洋の食物網・エネルギー転送経路 南大洋の生態系を論じるとき,最も重要な種はオキア ミといって差し支えないであろう.オキアミは推定 4 億 トンの生物量を誇り(Siegel andWatkins, 2016),鯨類, ペンギン類,オットセイなど大型動物の主要な餌となっ ており,その生物量の変動は彼ら高次捕食者の個体群変 動に影響を及ばす可能性をもっている(Trathan and Hill, 2016).南大洋の食物網は,しばしばこのオキアミを中 心に描かれる.実際に,Antarctic food web という言葉 でインターネット検索するといくつかの図を見つけるこ とができる.これらの図では,ひときわ大きいオキアミ の写真を中心として,エネルギー・炭素の流れが描かれ ている.オキアミは主として植物プランクトンを摂食 し,そのオキアミは上述の大型動物(高次あるいは頂点 捕食者)に食べられる.つまり食段階としては下から 1 (植物プランクトン),2(オキアミ),3 段階(捕食者)の みとなる.このように短い食段階を経て高次までつなが る食物網は,エネルギーの転送効率が高いため,鯨類を 始めとした大型動物の莫大な生物量を支えることができ る. 南極海の生態系についての研究は,スコシア海(Scotia Sea)や 南 極 半 島 の 西 側 海 域(Western Antarctic Peninsula, WAP)を中心に盛んに行われてきた.この海 域は,島 とう 嶼 しょ が多く分布し海底地形が複雑で大陸棚域が散 在する.こういった地形に南極周極流がぶつかると湧昇 流が形成され,海底から植物プランクトンの増殖に必要 な栄養塩や鉄が表層(有光層)に供給される(Murphy et al., 2012).そのためこれらの海域では一次生産が活発 で,珪藻類を主食とするオキアミの生物量も大きい (Holm-Hansen et al., 2004; Murphy et al., 2012). 南極海は東向きの南極周極流が大陸周辺を回っている ことから,プランクトンなど海洋生物の分布は南極海全 体で概ね一様である,と長年考えられてきた.スコシア 海や南極半島西側海域において膨大な生物量をもつオキ アミについても,その他の海域でも同じレベルの生物量 が存在すると考えられていたわけである.ところが,近 年,各国の調査で得られたデータを統合することにより オキアミの分布パターンが明らかとなってきた結果 (KRILLBASE; https: //www. bas. ac. uk/project/krill- base/),オキアミの全生物量の 70%がスコシア海や南極 半島を含む 0°から 90°E の 25%くらいの海域に集中し ているということが分かった(Atkinson et al., 2004, 2008). さらにはそのスコシア海でも,オキアミの生物量には 年変動や季節変動があることなどが分かってくるにつ れ,オキアミを介さないエネルギー経路・食物網が提唱 された.Murphy et al. (2007) は,スコシア海の食物網を シンプルな図で表した(図 1).左側はオキアミを中心と し た 栄 養 段 階 が 3 つ の 食 物 網 krill-centered (krill- dependent) pathway で,右側はオキアミが少ない年の食 物網 copepods-fish centered (krill-independent) pathway である.これらの食物網では,端脚類 Amphipods やカ イアシ類 Copepods,コオリウオ科魚類 Icefish,ハダカ イワシ科魚類 Myctophids も含まれている.端脚類のう ち Themisto gaudichaudii は詳細な分布様式や生態につ 73南極海生態系研究の現状と展望 74 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 図 2:(上)東京海洋大学練習船「海鷹丸」.全長 93 m,国内総トン数 1886 トン,ベッド数 107.日本の南大洋生態系研究のプラッ トフォームとなっている.砕氷船ではないが,船首を強化した耐氷船.コンピューター支援により船の位置・方角を一定に保つ ことが可能で,深海数千 m までの塩分・水温等の海洋環境データを取得することができる.(左下)RMT1+8 の投入.開閉式の プランクトン採集システム.上部に網口 1 m2(目合 335 m,白色)のネット,下部に 8 m2(4.5 mm,緑色)のネットを 3 セット 備えている.最上部のフレームで保護されたコントロールユニットは,ワイヤーケーブルを通じて船上のパソコンとされており, 研究室でモニターを見ながら任意の深度で上下のネットの開閉が同時にできる.海鷹丸では 2000 m の深度からの採集が可能.2 ノット程度の速度で曳航し,ゆっくり巻き上げながら採集する.RMT は,ナンキョクオキアミの分布密度を把握するための世界 標準となっている.(右下)IONESS(アイオネス)の投入.RMT と同様の開閉式プランクトン採集システムで,一度の曳網で 8 層からの層別採集ができる.短時間でプランクトンや魚類仔魚の鉛直分布データを得る強力な観測機器. いての知見は未だ乏しいが,南極海のあらゆる場所に多 く分布し,様々な生物の餌となっている種である (Bocher et al., 2001; Padovani et al., 2012).カイアシ類 は南極海のみならず世界の海で食物網をつないでいる. 南極海ではいくつかの大型の種について盛んに研究され てきた一方,小型の種は不遇の扱いを受けてきた.しか し,細かい目合(60-100 m)のネットで採集すると小型 の種が数的に卓越し,生物量においても大型種のそれを 上回ることがあることなどが近年分かってきた (Makabe et al., 2012, 2017).コオリウオ類は,南極海の 75南極海生態系研究の現状と展望 図 3:南大洋の魚類と大型動物(魚類はすべて生鮮状態で撮影).A:ハダカエソ科 Notolepis coatsi;B:ハダカイワシ科 Protomyctophum bolini;C:ハダカイワシ科 Gymnoscopelus nicholsi;D:コオリイワシ(ノトセニア科)Pleuragramma ant- arcticum;E:ハダカイワシ科 Electrona antarctica の仔魚;F:コオリウオ科 Neopagetopsis ionah,胃にオキアミ類が充満してい る;G:カニクイアザラシ Lobodon carcinophagus,海洋観測中に海鷹丸に集まってくることがある;H:アデリーペンギン Pygoscelis adeliae,近づく海鷹丸に驚いて逃げる後姿.海氷に描かれた赤い模様は彼らの糞.オキアミ類を食べたものと推測さ れる. 極寒環境で進化したノトセニア亜目魚類を構成する科の ひとつである(川口,2005).ノトセニア類はほぼ底生性 で大陸棚上に分布する.中でもコオリウオ科魚類は比較 的大型の種が多く,しばしば大型動物にも食べられてい るが,krill-dependent pathway ではオキアミの捕食者と しても登場する.そして,ハダカイワシ科魚類である. 南大洋の外洋域には 35 種が知られているが,生物量が 多 い 種 は Electrona antarctica,E. carlsbergi, Gymnoscopelus braueri,G. opisthopterus,Krefftichthys anderssoni,Protomyctophum bolini(図 3)などで,彼ら は実際にキングペンギン,ナンキョクオットセイ,ミナ ミ ゾ ウ ア ザ ラ シ な ど の 重 要 な 餌 と な っ て い る (Sabourenkov, 1990; Collins et al., 2008; Koubbi et al., 2011; Saunders et al., 2017). 窒素の安定同位体比 15N と炭素の安定同位体比 13C を組み合わせた食物網解析の手法は,現在では定番と いってもよい(富永・高井,2008). 15N の値は食物段階 の目安, 13C は炭素供給源を示す.縦軸に 15N,横軸に 13C を取ると, 15N は食物段階が上がると上昇するが 13C はあまり変化しないので,ひとつの経路であればグ 76 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 図 4:南大洋の動物プランクトン.A:カイアシ類 Calanus propinquus,B:カイアシ類 Metridia gerlarchei,C:カイアシ類 Oithona similis,D:貝形類 Ostracoda sp.,E:オキアミ類 Thysanoessa sp.,F:サルパ Salpa thompsoni,G:端 たん 脚 きゃく 類 Themisto gaudichaudii. ラフ上で縦に各分類群のプロットが並ぶ.南大洋でも近 年盛んに安定同位体比を使った食物網の研究が行われて い る(Cherel et al., 2011; Hückstädt et al., 2012; Stowasser et al., 2012).スコシア海でも,懸濁粒子食者 suspension feeder から魚類,海鳥類,オットセイまでの 38 分類群について安定同位体分析を行った研究がある (Stowasser et al., 2012).この研究では図 1 の二つの食 物網の構成種を扱っているため,上述のようなグラフを 作成すると各分類群のプロットが不規則に散在しただけ のように見えるが,それぞれの食性を既往の知見に基づ いて検討すると,多くの分類群が植物食性の懸濁粒子食 者(つまりはオキアミ)の 1-1.5 段階上に位置すること が分かった.このことは,粒子状有機物 Particulate or- ganic matter(POM,植物プランクトン起源)→オキアミ →高次捕食者(脊椎動物)というエネルギーの流れがあ ることを意味し,krill-dependent pathway が安定同位体 比分析からも証明されたことを示している.さらに,ナ ンキョクオットセイやミナミオオフルマカモメなどが, その上の第 4 段階にあることは,カイアシ類-ハダカイ ワシ類を介した krill-independent pathway の存在をも 示している. 3.インド洋セクターの食物網 スコシア海で提唱されている二つの食物網について南 大洋インド洋セクターで検証していくことは,日本の生 態系研究チームの命題のひとつである.我々が本格的な 南大洋生態系の研究を始めたとき,インド洋セクターに おけるプランクトンや魚類の分布様式を解明することを 当面の目標とした.一般に海洋では生産性の高い表層域 epipelagic zone(水深 0-200 m)の研究が先行する.南 大洋インド洋セクターでも同様で,表層を研究対象とし た動物プランクトンの分布についての研究が,オースト ラリアによる大規模な研究プログラムによって行われて いた(Nicol et al., 2000, 2010b).表層域の研究とは異な り,中・深層 meso- and bathypelagic zones(中層 200- 1000 m,深層 1000-3000 m)からの生物採集は,十分に 長いワイヤー(目標深度の 2 倍程度)を巻いたウィンチ が船舶に備えられていることが必要となる.また,どの 深度から生物が採集されたのかを知ることは重要な情報 となることから,開閉式ネットの装備も求められる.当 然ながら,繰り出すワイヤーが長くなれば 1 地点当たり の観測時間も長くなるので,全体の観測点数は減らさな くてはならない.中・深層を含めた分布様式の解明のた めには,これらいくつかの条件を満たすことやデメリッ トがあることも理解する必要がある.一方で,我々が研 究を始めた時期には,バイオテレメトリーの手法を使っ た研究により,ペンギン類やミナミゾウアザラシなどが 数百 m 以上の深度まで潜行することが明らかになり始 めており,その深度にどのような生物がどれくらい生息 しているのかということが,次の研究課題となっていた. 2000 年になって,上述の条件を満たすネットやウィンチ 等の設備を装備した東京水産大学(現東京海洋大学)練 習船「海鷹丸」が建造された(図 2).海鷹丸では RMT1 +8(長方形中層トロール rectangular midwater trawl, 1 m2 と 8 m2 のネットを備え,1 回の曳網で 3 層から採 集ができる)など開閉式のネットを用いた深度 2000 m までの生物採集が可能となり,2002 年 12 月から 2003 年 1 月にかけて,新しい海鷹丸での南大洋観測航海が開始 された.その後,南大洋航海は毎年のように継続され, この稿が出版される 2018 年に,インド洋セクターにお いて行われる航海が 13 回目となる(Moteki et al., 2017b). 海鷹丸を使った一連の研究から,インド洋セクターの 中・深層を含めた動物プランクトンや魚類の空間分布様 式が徐々に分かってきた.そのひとつは,魚類やカイア シ類,オキアミ類,浮遊性刺胞動物類が,大陸棚縁辺部 (水深約 1000 m)を境に南北で群集組成が変化すること である(Amakasu et al., 2011; Moteki et al., 2011; Ono et al., 2011; Toda et al., 2014; Tachibana et al., 2017).例え ば魚類では,北側ではノトセニア亜目魚類,南側では中 深層性魚類が優占する群集で構成される.オキアミ類に ついては,北側のナンキョクオキアミが,南側になると コオリオキアミ Euphausia crystallorophias が中心の群 集に切り替わる.このような大陸棚縁辺部で切り替わる 分布様式については,Van de Putte (2010) も指摘してい る. Murphy et al. (2007) の右側の食物網に戻ると(図 1), ハダカイワシと並ぶ位置にコオリウオ Icefish が入って いる.しかしインド洋セクターでは,ハダカイワシ類と コオリウオ類がほとんど同所的に分布しないことから, この図からコオリウオ類を除外したものがインド洋セク ター外洋域の現実の食物網により近いと考えられる.し たがって,ハダカイワシ類の重要性はスコシア海より相 対的に高くなっているだろう.スコシア海で見られるこ の同所的分布は,この海域の複雑な海底地形に起因する 複雑なフロント構造と関係していると見るべきである (Holm-Hansen et al., 2004; Murphy et al., 2012). 77南極海生態系研究の現状と展望 4.大陸棚域の食物網:コオリオキアミとコオリ ウオ 前述したように南大洋には,オキアミを中心とした食 物網 krill-centered pathway と,カイアシ類・ハダカイ ワシ類を中心とした食物網 copepod-myctophid centered pathway がある.そして,もうひとつ重要な食物網があ る.コオリオキアミ ice krill・コオリイワシ silverfish を 中心とした食物網である(Smith et al., 2012).krill- centered に倣って書けば ice krill/silverfish centered pathway ということになる.コオリオキアミもコオリ イワシも主として大陸棚域に分布する.これら 2 種は前 述の二つの食物網と同様に補完関係にあり,どちらかの 生物が少ないともう一つの食物網に依存するという構図 になっている.例えば,アデリーペンギン(図 3)は海氷 が少ないときにはコオリイワシ,多いときにはコオリオ キアミを食べる傾向にある(Ainley et al., 1998). 大陸棚域は当然のことながら海氷に覆われる期間が長 くなるか,もしくは周年に渡って覆われるため,コオリ オキアミとコオリウオ(図 3)の生活は海氷と密接に関 係があると想像される.コオリオキアミは珪藻類やデト リタス detritus(生物由来の有機物粒子.プランクトン の遺骸そのものやそれらが凝集したもの,動物プランク トンの糞粒など.通常微生物群集を伴う),小型の動物 プランクトンなどを摂食するため,海氷底面に繁茂する 珪藻類や,これらを主体とするデトリタスが重要な栄養 源と考えられる(Falk-Petersen et al., 1999).海氷はま た,捕食者から身を守るシェルターの役割も持っている だろう.コオリイワシは,その卵が海氷底面で見つかる. この卵は海氷直下で産卵されるのか,中層で産卵された ものが浮上してくるのかは分かっていないが,孵化する までの間,海氷下面の複雑な構造が卵を守る役割を果た すことは想像に難くない(Vacchi et al., 2004, 2012). このように,コオリオキアミとコオリウオが海氷に強 く依存する生活史を持っているということは,海氷量の 変動に生残率が影響を受けるということでもある (Mintenbeck and Torres, 2017).彼らはいずれもアデ リーペンギンやアザラシ,ミンククジラなど大型動物の 餌として重要であることが知られており,彼らの生残率 の変動はこれら大型動物の食性に直接影響をもたらすこ とになる.しかしながら,どちらの生物も海氷域に生活 の場を持つという特性から,研究者にとっては生態・生 活史のみならず生物量を見積もるための情報も乏しいの が現状である(OʼDriscoll et al., 2017). したがって,インド洋セクターには,外洋域 oceanic zone にカイアシ類・ハダカイワシ類を中心とした食物 網,大陸棚斜面域 slope zone に沿った形で存在するオキ アミを中心とする食物網,そして,コオリオキアミ・コ オリイワシを中心とした大陸棚域 neritic zone の食物網 が比較的明瞭に分かれて存在すると考えられる. 5.ナンキョクオキアミについての課題 ナンキョクオキアミは世界で最も研究者から注目され ている海洋生物のひとつだが,その生活についてはまだ 分からないことも多い.200 m より浅い表層が彼らの主 要な生息域だが,比較的頻繁に 200 m 以深の中層に鉛直 回遊を行い,海底付近でもカイアシ類やデトリタスを食 べていることが知られるようになった(Schmidt et al., 2011).さらには,水深 3000 m 以上の海底付近でも摂餌 の様子が遠隔操作型無人探査機(Remotely Operated Vehicle, ROV)で観察されている[Clarke and Tyler, 2008; 関連して,海底付近での交尾行動も ROV で観察さ れている(kawaguchi et al., 2011)].これらの知見は, オキアミの生物量を見積もる際に表層のみならず中・深 層や海底近くの生物量についても検討する必要があるこ とを示しているだけでなく,海底付近の鉄がオキアミの 糞を介して表層に供給される可能性も示唆している.オ キアミは表層域で珪藻などの植物プランクトンに依存す る一方で,鉛直移動によって表層の一次生産を促進して いる可能性がある[関連する論文として Nicol et al. (2010a)も参照されたい].季節海氷域の生物生産を明ら かにする上で,物質の沈降過程のみならず,生物が物質 を有光層(光強度が海面の 1%になる深度)まで上昇さ せることによる生物生産に対する正の効果についても検 討する必要があるだろう. 水平的な分布についても課題が残されている(以下, 海洋前線の位置については図 5 を参照されたい).これ まで南極周極流南限境界 Southern Boundary of the Antarctic Circumpolar Current (SB-ACC) がオキアミの 分布を決める海洋前線とされてきた.オーストラリアが 実施した BROKE と BROKE-West は,オキアミを主要 な研究対象とした広い水域をカバーするプロジェクト だったが,SB-ACC を越えた最も北側の観測点でもオキ アミが採集され,分布の北限を特定することができな かった(Nicol, et al., 2010b; Nicol and Raymond, 2012). 最近では,南極周極流南限前線 Southern Antarctic Circumpolar Current Front (SACCF)を北限と考えると 南極海全体でオキアミの分布範囲が合理的に説明ができ るとされる一方,南極前線 Antarctic Polar Front (APF) 78 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 を北限とするモデルを使った研究もある(Nicol and Raymond, 2012; Cuzin-Roudy et al., 2014).オキアミが 出現しなくなる境界の北側では,ハダカイワシ科魚類が 高次捕食者の餌として優占するため,そこが copepod- myctophid centred pathway への転換ポイントとなる. この北限の見極めは,どのような環境要素がエネルギー の経路(食物網)を決めているのか知るうえで重要な課 題である.この北限は海洋前線の位置とリンクしている が,前線の位置が近年南下傾向にあることが知られるよ うになった(Sokolov and Rintoul, 2009; Gille, 2014).こ のことは,前線の南下が南大洋の生態系構造や生物過程 を経て物質循環に大きな変化をもたらすことを示唆して おり,注視すべき課題である. オキアミの生物量は 5-6 年の周期で増減を繰り返すこ とが知られており(Atkinson et al., 2008; Ross et al., 2014; Saba et al., 2014),これは周期的な気候要素の変動(エル ニーニョ現象,南極振動 Southern Annular Mode,植物 プランクトンの現存量,海氷に覆われた期間など)によっ て引き起こされるとされてきたが,実際にはどのモデル もこのオキアミの増減をうまく説明できていなかった. 一方,Ryabov et al. (2017) は,これらの気候要素のよう ないわば外的要因によってこの変動が起こるのではな く,種内で生じる餌の競合によって起こることを個体発 生と個体群動態を使ったモデルで示している.オキアミ は夏には植物プランクトン,冬はアイスアルジーにある 程度依存した生活史を持っているが,餌が切り替わる秋 に一時的に飢餓に見舞われる.オキアミの生物量が増大 すると,餌をめぐる競合によってこの飢餓の期間が長く なり,その結果,幼生の生き残りに影響が出る.個体群 の増大と秋に起こる飢餓による縮小が,5-6 年の周期で 繰り返されることによって生物量の変動が起こる.この モデルは一方で,捕食者の生物量(捕食圧)の増大がむ しろオキアミの生物量の変動を安定させることも示して おり興味深い.Ryabov et al. (2007)はまた,秋季におけ る植物プランクトンの生産力の強弱が若齢オキアミの加 入に大きな影響を与える可能性を示した.この研究の ベ ー ス は Palmer Long Term Ecological Research (Palmer LTER) という 1990 年代に南極半島西側海域 (WAP)で始まった長期観測プログラムであり(http:// pal.lternet.edu/),他にも大きな成果を挙げている.い うまでもなく,オキアミ個体群の増減は南大洋生態系に 大きな影響を及ぼす.長期モニタリングは経費がかかる 上に研究成果も出にくいが,このような生物の変動プロ セスを理解するうえで避けては通れない. 79南極海生態系研究の現状と展望 図 5:南極を取り巻く海洋前線.STF:亜熱帯前線 Sub-tropical Front,APF:南極前線 Antarctic Polar Front,SACCF:南極周極流 南限前線 Southern Antarctic Circumpolar Current Front,南極周極 流南限境界 SB-ACC:Southern Boundary of Antarctic Circumpolar Current.Orsi et al. (1995) のデータを元に作成. 6.ハダカイワシ類の生態 ハダカイワシ科魚類には約 250 種が含まれ,北極海を 除く世界中の海に分布し,そのうち 35 種が南大洋の外 洋域に分布するとされている.10 年くらい前から英国 南極観測局(British Antarctic Survey,BAS)を始めと して,ハダカイワシ類に焦点を当てた論文が盛んに発表 されていることからも分かるとおり,ハダカイワシ類は 南大洋の生態系研究における重要なポジションを確立し たといってもよい(Collins et al., 2008; Shreeve et al., 2009; Saunders et al., 2014, 2015, 2017). 南大洋を北から南へ下がっていくと途中でいくつもの 海洋前線を通過する.なかでも南極前線(APF)は生物 にとって重要な前線のひとつで,この前線を境に生物相 が大きく変わる.この北側には亜熱帯前線 Sub-tropical Front (STF) があり,ここから南側を南大洋と定義する ことが多い(図 5).冬季にほぼ海氷で埋め尽くされる南 側の海域には南極周極流南縁(SB-ACC)がある.この 前線も生物には重要な前線で,南北で生物相が変化する ことがある(Tanimura et al., 2008).SB-ACC は,周極 深層水 Circumpolar Deep Water (CDW) が湧昇する発散 域であり,亜表層のポテンシャル水温極大が 1.5℃の等 深線の位置として定義される.ハダカイワシ類の成魚 は,それぞれの種がある程度南北に広がる分布範囲を 持っている(Hulley et al., 1990; Duhamel et al., 2014).例 えば Electrona antarctica は南極前線(APF)より北側で 採集されることはほとんど無いが,同属の E. carlsbergi は SB-ACC より南で採集されることはない.彼らはそ れぞれ広い分布域を持っているが,仔魚はどこでもいつ でも採集されるわけではなく,産卵はいくつかの条件を 満たした海域・時期に行われると考えるべきである (Saunder et al., 2014).E. antarctica は,大型の雌が SB- ACC より南側で見つかることや,仔魚が高緯度海域を 中心に多く見つかることなどから,SB-ACC 付近まで産 卵回遊を行っていると考えられている(Moteki et al., 2017a; Saunders et al., 2014, 2017).しかし,成熟卵を 持った個体や卵はほとんど見つかっておらず,産卵場所 については推定の域を出ない.その他の種についても産 卵生態についてはほとんど分かっていない.スコシア海 での研究では,体長組成や成熟度などから E. antarctica と K. anderssoni が SB-ACC の南側で産卵している可能 性が指摘されているが,その他の種については APF 付 近が主要な産卵海域ではないかと推定されている (Saunders et al., 2017).実際に我々の観測でも,60°S 以南では E. antarctica 以外のハダカイワシ科仔魚はほ とんど採集されていない.彼らの成魚は,SB-ACC から APF までほぼ同所的に分布するが,産卵のためには比 較的大きな規模の南北回遊を行っているらしい (Saunders et al., 2017).ハダカイワシ類全体の生物量を 考えると,この回遊は炭素の大規模な季節的水平移動と 捉えることもでき,物質循環の視点からも重要である. E. antarctica の産卵期についても定説がない.スコシ ア海では春や夏よりも秋に生殖腺の成熟度が高いことか ら,産卵期は秋から冬であると考えられているが (Saunders et al., 2014, 2017),インド洋セクターでは夏(1 月)でも仔魚が普通に採集されるし(Moteki et al., 2009, 2017a),WAP 海域では冬(5 月,6 月)にも採集される (Kellermann and Schadwinkel, 1991).Efremenko (1986) は,スコシア海で卵と仔魚が 5-8 月に採集される ことを示している(この論文には後述するようにやや問 題もある).一年中産卵している可能性もあるが,生物 生産が大きく異なる高緯度海域の夏と冬で仔魚が適応戦 略を柔軟に変えることができるのだろうか.Moline et al. (2008) は,いくつかの文献情報をまとめて産卵期を 4-6 月,孵化時期を 12-3 月としているが,産卵から孵化 まで 8-9ヶ月かかるというのは,やや考えにくい. 食性は,その生物の生態を知る上で基本的な情報であ り,南極海のハダカイワシ類についてもよく調べられて いるが,近年はやはりスコシア海における研究が盛んで ある(Shreeve et al., 2009; Saunders et al., 2014, 2015). スコシア海では E. antarctica の他,E. carlsbergi, Gymnoscopelus braueri,Krefftichthys anderssoni, Protomyctophum bolini などが優占するが,ここでは個 体数が最も多い E. antarctica の食性を中心に述べる. スコシア海では,E. antarctica の主要な餌はオキアミ, Themisto gaudichaudii(端 たん 脚 きゃく 類,図 4),Metridia spp. (カ イ ア シ 類,図 4)で あ る(Shreeve et al., 2009; Saunders et al., 2014, 2015).オキアミはハダカイワシ科 魚類の餌としてはサイズが最も大きく,E. antarctica の 他には Gymnoscopelus nicholsi(図 3)という大型の種し か食べていない.実際に E. antarctica も小型の個体は あまりオキアミを食べていない(Roweder, 1979).結果 として,ハダカイワシ科全体ではオキアミの生産量/日 の約 2%を消費しているにすぎないことから(Saunders et al., 2015),ハダカイワシ科魚類が krill-independent pathway に組み込まれることに無理はない(Saunders et al., 2015; Murphy et al., 2007; Shreeve et al., 2009). Murphy et al. (2007) が提唱した図は,複雑な食物網・エ ネルギーの流れを二つの経路(選択肢)に大胆に単純化 して描いている.しかし,最も生物量の大きな E. ant- 80 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 arctica がスコシア海でオキアミを重要な餌としている ことは,E. antarctica が krill-dependent の経路において オキアミと高次捕食者の間に入っていることを意味す る.SB-ACC 以南に多く分布しているのは E. antarcti- ca,G. nicholsi,G. braueri および K. anderssoni で (Saunders et al., 2017),その他の種は SB-ACC 以南には あまり出現しない.G. braueri と K. anderssoni の餌は カイアシ類が中心でオキアミをほとんど食べないが,オ キアミを食べる E. antarctica と G. nicholsi は SB-ACC 以南において,他のハダカイワシ科魚類とは別のエネル ギーの流れにいると考えるべきであろう. ハダカイワシ科魚類の餌としては,同じオキアミ類で も Thysanoessa spp.の方がオキアミよりも重要である (Saunders et al., 2015).オキアミが主に珪藻などの植物 プランクトンを食べるのに対し,Thysanoessa 属はより 雑食の傾向が強く,その食性はブルームの状況に比較的 制限されにくいと考えられている(Falk-Petersen et al., 1999; Donnelly et al., 2006).分布もオキアミより外洋 (北側)である(Ono et al., 2011).安定同位体比を用い た研究では,Thysanoessa spp.はカイアシ類などの sus- pension feeder に近い食段階にある(Stowasser et al., 2012). 上記の E. antarctica の食性はスコシア海についての 研究だが,その他の海域でも断片的ではあるが情報があ る(Kozlov and Tarverdiyeva, 1989; Kock, 1992).多く の外洋性魚類は日和見食者 opportunistic feeder である ことから周りの生物相によって食性も変わる.E. ant- arctica も海域によってはスコシア海と食性が大きく異 なることを示唆しているが,インド洋セクターでは包括 的な食性の研究は行われていない. 7.ハダカイワシ類仔魚の研究 7.1 Electrona antarctica と E. carlsbergi 上述の研究はほぼすべてが成魚について行われたもの であり,その初期生活史に焦点を当てたものはほとんど なかった.最も重要な種のひとつである Electrona ant- arctica と Electrona carlsbergi については,仔魚を形態 で分けることすら現時点では難しい.E. antarctica につ いては仔魚から稚魚にかけてのシリーズ標本に基づいた 記 載 が あ る が(Rasoanarivo and Aboussouan, 1983; Moteki et al., 2017c),E. carlsbergi についての記載は乏 しい.しかし,Moser and Ahlstrom (1974)は,変態期の サイズに言及し,E. antarctica が 20 mm くらいなのに 対し,E. carlsbergi は 12-13 mm としている.しかし, この論文は仔魚の形態に基づく総説的な記述の一部で, 論文から同定の根拠を検証することはできないし,仔魚 のサイズが小さい場合の同定形質についての記載も無 い.North and Kellermann (1989)は,暫定的な同定と 断った上で,10 mm の E. carlsbergi 仔魚のスケッチを 掲載している.我々の研究チームで E. antarctica につ いては,仔稚魚期の形態発育や仔魚の分布様式について の研究を行ったが(Moteki et al., 2007a, 2017c),仔魚の 同定については既往の論文や成魚の分布域を参考にした ものの,暫定的であることは否定できない. Efremenko (1986)は,スコシア海において E. antarcti- ca と E. carlsbergi を含むハダカイワシ科魚類 10 種の卵 と仔魚の分布を記述しており,しばしば引用される.こ の論文はすべてが「真実ならば」重要な情報を含むが, 各種の同定の根拠が確認できない.根拠となる論文が示 されてはいるが,その多くがロシア語でしか出版されて おらず国内では入手困難である.同定は,シリーズ法で 行ったことが書かれている.シリーズ法とは,同定可能 な比較的大きな個体から,単独では同定不可能な発育初 期の個体を連続的に揃えたシリーズを基に,シリーズす べての同定・記載を行う方法である.方法自体は仔稚魚 研究には一般的だが,これを卵にまで遡って同定したと いう記述をそのまま信用してよいものか悩ましい.実際 に前述の North and Kellermann (1989) も E. carlsbergi の記述にこれらの論文を引用していない.同定以外に も,鉛直分布や出現時期について述べているが,いっさ いのデータが示されていない.じつは,6 章で引用した Moline et al. (2008) はこの論文を引用しているが,卵・仔 魚の出現時期については無視したふしが伺える.一方 で,Efremenko (1986) は出現時期をほぼ周年としている. Efremenko は南大洋の仔魚の形態記載や出現様式につ いて大きな貢献をしてきた研究者で,筆者は Efremenko (1986) も大部分は「真実」であると思っているが,未だ にそれを検証できないでいる.いずれにしても,E. ant- arctica と E. carlsbergi の仔魚の形態学的な判別方法の 確立は,初期生活史の研究を進めるうえで必須である. 余談だが,この論文は Journal of Ichthyology という英 文誌で読むことができるが,この雑誌は Voprosy Ikhtiologii というロシア語の雑誌をイスラエルの会社が 英文に翻訳したものであり,オリジナルではない.ロシ ア(旧ソ連)には魚類学の大きな蓄積があるが,その大 部 分 が ロ シ ア 語 な の が 残 念 で あ る.Journal of Ichthyology は高価で,現在日本では国立科学博物館の みが購入している. これらの 2 種の分布域は,E. antarctica が APF 以南, 81南極海生態系研究の現状と展望 E. carlsbergi が APF 以北というイメージであるが, APF 付近ではオーバーラップする.実際に我々が研究 を行った 140°E トランセクトでも,わずかだが E. ant- arctica が 60°S 以南でも採集された.特にスコシア海で は,このイメージは怪しくなる.こちらでは同所的な分 布が普通に見られるといってもよい(Saunders et al., 2015).これは,すでに触れたハダカイワシとコオリウ オの同所的分布の原因と同様で,海洋フロント構造が複 雑に入り組んでいることに起因していると思われる. WAP においても E. antarctica が大陸棚海域に分布する ことが知られているが,これも上部周極深層水 Upper Circumpolar Deep Water (UCDW) が大陸棚上に乗り上 げてくることと関係していると解釈されている (Donnely and Torres, 2008). 7.2 なぜ初期生活史の研究をするのか 魚類のみならず生物の死亡率は,体の発達が未熟な状 態で生まれて間もない時期に高い.この時期をうまく乗 り越えられれば(生き残れれば),成体になれる確率は大 きく高まる.つまり生活史初期の生残率が,その生物の 個体群動態に大きな影響を及ぼす.この考え方は水産資 源学の分野において魚類資源の将来予測に応用されてい るものである.つまり,仔魚や卵の分布・密度からその 年級群の資源予測を行うことができる.仔魚の減耗要因 については餓死や捕食が考えられ,魚類はそれぞれの進 化の過程で,卵やふ化仔魚に対する捕食者の少ない場所, あるいは孵化した仔魚がすぐに餌にありつける場所を産 卵場所として選択するようになったはずである.した がって,卵や仔魚が多く採集される場所の環境条件や仔 魚の餌生物を始めとした初期生活史を知ることにより, 仔魚が生き残るために何が好ましい条件かを明らかにす ることができれば,地球温暖化によってその条件が変化 したときに,その種の個体群変動を予測することが可能 となる.ハダカイワシの個体群変動の影響は,食物網を 通して広範に及ぶことが想定されるため,ハダカイワシ 類の初期生活史を解明することは重要であるといえる. このような背景と動機から我々は初期生活史の研究に 力を入れているが,実際にはハダカイワシ成魚の定量的 な採集が一般に困難であることも背景としてある.英国 南極観測局(British Antarctic Survey, BAS)は RMT25 (網口が 25m2 の開閉式ネット)という巨大なネットを用 いてマイクロネクトンの定量化に努力を払っているが, 海鷹丸では設備的に使用は困難である(Piatkowski et al., 1994). 仔稚魚研究の意義や,仔稚魚の一般的な生態について は田中ほか(2009)によくまとめられている.より深く 学ばれる方にお勧めしたい. 7.3 Electrona anratctica 仔稚魚の形態発育と個体 発生的鉛直移動 E. antarctica は変態期 transformation stage を持つ (Moteki et al., 2017c).ハダカイワシ類は大きな眼を有 し,体や頭部の体側から腹面にかけて発光器を持つこと が大きな特徴であるが,仔魚期にはこれらの特徴はない. 仔魚は体表の色素が乏しく,ほぼ半透明である(ホルマ リン固定後は白色).顎歯や咽頭歯などの口腔内の歯は わずかに見られるか出現していない.餌を濾しとるため の鰓 さい 耙 は を支える骨もまだ軟骨の状態である.稚魚期は, 体制(細胞・組織・器官などの分化の程度やそれらの配 置の状態から見た生物体の基本構造)は成魚とほぼ同じ であるが成熟までにしばらくかかる発育段階である.仔 魚は体長 19-21 mm の変態期を通して一気に稚魚期に入 る.「一気に」と書いたのは,極めて狭い体長範囲で体制 の変化が起こること,そして変化の経過が分かる変態期 の個体が極めて少ないことから,短期間のうちに不連続 的ともいえる変化が起きていると判断されるためであ る.実際に Moteki et al. (2017c) では,112 個体の仔稚魚 (6-37 mm)を調べたが変態期と定義できたのは 6 個体 にすぎなかった.この変態期には,まず体表が色素に覆 われ,その後,眼径と上顎長が急速に増大し,発光器が 出現する.顎や口腔内の歯は急速に増加,骨格全体も軟 骨から硬骨へ発達(化骨)し,摂餌関連・遊泳関連の機 能が完成する.このような体制の変化は,生息場所や食 性の変化と結びついたものであると考えられるが,実際 に分布深度も急速に変化する. 仔魚期にはほとんどの個体が 200 m 以浅で採集され るのに対し,変態期と稚魚期の個体は 200 m より深い深 度から採集される.ただし,E. antarctica の変態期以降 の個体は,他のハダカイワシ類と同様に日周鉛直移動 Diurnal (Diel) Vertical Migration(DVM;詳しくは後述) を行い夜間には 100 m 付近まで上昇してくる.しかし, 仔魚期については今のところ DVM を行うという積極的 な証拠は得られておらず,行ったとしても小規模である と考えられる.この鉛直移動を可能にするのは,稚魚期 の骨格や鰭の完成によるものと考えてよい.また,大き な眼や発光器の獲得は,急速に乏しくなる 200 m 以深の 光環境では必須であろう.上顎長の発達は,生物量が小 さくなる中・深層の餌環境への適応,つまり餌サイズの 選択肢を広げるためであると考えられる.このような個 体発生と形態発育に伴う鉛直分布の変化を個体発生的鉛 82 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 直移動 Ontogenetic Vertical Migration (OVM) とよぶ. E. antarcitca は,南大洋の高緯度域(SB-ACC 付近より 南,大陸棚縁辺部まで)において最も個体数・生物量の 大きい魚類である.他にも Notolepis coatsi(図 3), Bathylagus antarcticus,Cyclothone microdon などが多 く採集され,Lutzow-Holm Bay の北側海域では,これら 4 種が,採集された魚類全体の個体数の 95%を占めるこ ともある(Moteki et al., 2009).この OVM は 4 種のう ち Notolepis coatsi と B. antarcticus でも認められてい る.C. microdon はおそらく秋から冬が産卵期と考えら れるが,仔魚期の個体が夏季には採集されていないため, OVM の有無は確認できていない(Gon, 1990; Moteki et al., 2009). 7.4 Electrona antarctica 仔魚の空間分布:なぜそこ にいるのか 海洋大のチームはそれまで主力としてきた RMT に加 え,IONESS(アイオネス Intelligent Operative Net and Environment Sensing System)を 用 い た 観 測 を 2010/2011 の航海から始めた.この IONESS は海外では ほとんど知られていないギアであるが,MOCNESS(モ クネス Multiple Opening/Closing Net Environmental Sensing System)は海洋生物学研究者の間では有名なの で,海外で IONESS の説明をするときには MOCNESS と瓜二つだと言えばよい(Wiebe et al., 1985).IONESS は開閉式ネットで,1 回の曳網で 8 層からの層別採集が 可能である.この IONESS を使って,140°E と 110°E トランセクトで表層から 400 m までの E. antarctica 仔 魚の空間分布を調査した(Moteki et al., 2017a).これま で述べてきたように,推定される生物量などから本種は 南大洋食物網における重要種のひとつと考えられている にも関わらず,水平分布パターンの詳細も分かっていな かったが,本研究から仔魚が一定の分布パターンを持っ ていることが明らかになった.夏季の南大洋では,大陸 棚海域から斜面にかけて-1℃以下の低水温の南極冬季 水(WW:Winter water)が分布するが,大陸棚斜面より やや北側に位置する SB-ACC とよばれる前線近傍では 1.5℃ 以 上 の 周 極 深 層 水(CDW: Circumpolar Deep Water)の湧昇がみられる.仔魚は,140°E トランセク トでは SB-ACC 付近に多く分布し,110°E では SB-ACC 付近からさらに北側の 60°S 付近まで分布域が広がって いた.ふたつのトランセクトでは分布パターンがやや異 なるように見えるが,水塊としてみると WW と CDW の混合水塊である変質周極深層水 Modified CDW (MCDW) を中心に分布しているといってよい. では,この分布パターンが仔魚にとってどのようなメ リットがあるのだろうか.仔魚にとってのメリットは, その水塊が保育所 nursery として適しているかどうか, 言いかえると餌場として適当か,捕食者から逃れるのに 適しているかどうか,という点であろう.多くの海産魚 の卵は,直径 1 mm 前後の分離浮性卵(岩や海藻などの 基質に産みつけられるのではなく,海中にばら撒かれ漂 いながら発生が進む)である.孵化したばかりの仔魚は, 口がまだ開いていないが,大きな卵黄を持ちこれを栄養 源として発育する.卵黄(内部栄養)を使い切るころに は口が完成し,仔魚は餌を摂る(外部栄養)ことができ るようになる.この内部栄養から外部栄養へのスムーズ な切り替えには,口に入る適当な大きさ,遊泳能力の乏 しい仔魚でも捕らえることが可能な十分に遅い動き,十 分な栄養価,あまり泳ぎ回らなくても遭遇することが可 能な分布密度など,餌(生物)についてのいくつかの条 件が求められる.このタイミングでこれらの餌条件に出 くわさないと仔魚は飢餓になるであろうし,弱れば肉食 性のプランクトンに食われることになるだろう (Hunter,1981;田中ほか,2009). これらの条件が,MCDW に揃っているのか,これを 検証することは環境変動と E. antarctica 仔魚の生残率 の変動を理解するうえで不可欠となりそうだが,仔魚が 何を餌としているのかを知ることから始める必要があ る.餌生物を特定し,その餌生物の分布や動態を知るこ とができれば,環境変動が生態系に及ぼす影響を理解す るうえで大きな前進になる.MCDW は,CDW と WW の間に分布する混合水塊である.WW は冬季に冷やさ れた表層数十 m から 100 m くらいまでの層が,夏季に なって表層部分だけが温められ,結果的に中層に残され た低水温の水塊である.夏季,140°E トランセクトでは -1℃以下の水塊は 63°S-63.5°S くらいまで広がるが, 110°E トランセクトでは 60°S 以北まで深度 50-100 m の層に広がっている.これは 140°E に比べて 110°E の 方が,海氷が遅くまで残っていることと関係がありそう である.110°E トランセクトの西側には水深の浅い海脚 (海底の大きな高まりから外の方へ突き出している小規 模な隆起部のこと)が北側に張り出しており,この海域 には CDW の影響が及びにくく,海氷が比較的遅い季節 まで残る傾向がある.E. antarctica の産卵・孵化の盛期 は不明であるが,我々が観測を行っている 1 月の観測で は卵や孵化直後の仔魚が得られていないことを考える と,1 月には盛期を過ぎているのかもしれない.推定さ れている仔魚の期間(孵化から稚魚になるまでの日数) に 30-47 日を適用すると(Greely et al., 1999),我々が採 83南極海生態系研究の現状と展望 集した仔魚は遅くとも 12 月には孵化していることにな る.仔魚が多く採集される海域は 12 月はまだ海氷に覆 われており,E. antarctica は海氷下あるいは海氷縁の近 傍で産卵・孵化している可能性を示唆している.この海 氷の存在が,上述の餌条件を提供するうえで鍵となって いるかもしれない. 仔魚の生き残り条件を考える上でもうひとつ必要なこ とは捕食者の存在であるが,これについてはほとんど不 明である.捕食者には端脚類や肉食性のカイアシ類,浮 遊性刺胞動物(クラゲなど),その他の魚類など多様な生 物が考えられる.これらから逃れるには暗い場所,つま り深い方に生息することが有効だが,彼らの生息場所は 比較的明るい表層 0-200 m である.彼らは捕食者から 見つからないために暗い場所に逃れるのではなく,半透 明の体を持つことによって,彼らから見つからないよう に進化してきたのかもしれない. 7.5 Electrona antarctica 仔魚の食性 E. antarctica 仔魚の食性についてはスコシア海での研 究がある(Gorelova and Efremenko, 1989).この研究で は体長 10 mm 以下と 10 mm 以上の仔魚とに分けて解析 している.10 mm 以下では甲殻類の卵が消化管から多 く見出されている他,オヨギゴカイ類(多毛類)の剛毛 束 chaetae が高い頻度で出現している.10 mm 以上の 仔魚では空消化管率が 90-100%と高く,唯一見つかった のは剛毛束であった.剛毛束は我々の分析(未発表)に おいてもしばしば出現しているが,デトリタス塊の中に 見られることが多いことから,他の動物プランクトンや 魚類がオヨギゴカイ類を食べた後に排出した糞を仔魚が 食べているのではないかと考えている.10 mm 以下の 仔魚でも空消化管率は高く(57-89%)Gorelova and Efremenko (1989) もこのことについて,他の研究(他の 種)でも仔魚の消化管からあまり餌が見つからないこと, そして,これはエネルギー要求の証拠(evidence of their energetic requirements;飢餓の指標という意味か?)か もしれない,とコメントしている.しかし,仔魚が皆飢 餓では生き残れない. 仔魚の食性を調べるには,Gorelova and Efremenko (1989) のように消化管内容物を調べれば分かるはずだ が,ネットに捕らわれてからはコッドエンド(網の末端 部,サンプルが溜まる部分)で他のプランクトンと一緒 に揉まれるうちに,食べたものを吐き出したり,他のプ ランクトンを飲み込んだりすることがあるといわれてい る.様々な種の仔魚でしばしば観察される高い空消化管 率は,消化管の通過時間の速さと関係があるのかもしれ ないし,未発達な消化管の構造と関係しているのかもし れない.安定同位体比や脂肪酸組成といったバイオマー カーの分析により過去数週間分の食べたものの履歴を知 る手法もあるが,正確な分析には一定の重量の試料が必 要である.したがって,体長数 mm の仔魚の分析にはあ る程度の個体数を集めることが必要であり,アクセスが 容易ではない南大洋での研究には忍耐が求められる.ま た,バイオマーカーによる分析も顕微鏡による観察を補 完するものに過ぎないので,消化管内容物の顕微鏡観察 は必須であり,こちらも忍耐の必要な作業となる.我々 も E. antarctica の消化管内容物の研究を始めたとき,仔 魚の初期における高い空消化管率に遭遇し,課題を残し た.現在は,採集時にできるだけダメージを与えないこ とや,観察の手法を改善することなどの対応をしており, 近いうちにいくつかの新たな知見が得られるものと確信 している. 前述したとおり,仔魚が生残するためには,いくつか の餌条件が必要なことを考えると,nursery の海域・環 境や餌の組成はある程度安定していると考えられる.一 方で親魚は,産卵期以外はいくつかの海洋前線をもまた がって広く分布する.このことは,ある程度餌の選択性 に柔軟性があることを示し,食べられる餌を食べている と考えられる(日和見食者 opportunistic feeder とよば れる).したがって,親魚は餌環境が変化しても急に個 体群動態に影響を及ぼすことはないが,仔魚にとって餌 環境の変化は重要であり,その変化は生残率の低下に直 結するだろう. 8.日周鉛直移動 ハダカイワシ類のような中・深層性魚類を含めて,プ ランクトンや魚類の多くは夜間に浮上し日中は深い深度 に戻っていく日周鉛直移動 Diurnal (Diel) Vertical Migration (DVM) を行う.DVM は世界中の海や湖で毎 日繰り返される生物群集の移動としては最も大規模な移 動である.基本的には日出と日没に伴う光環境の変化と 密接に関係し,一般的には視覚的捕食者からの逃避 (visual predator avoidance)が最大の要因と考えられて いる(Lampert, 1993).南極においても基本的には捕食 者からの逃避行動が重要な引き金となっていると認識さ れている(Robison, 2003).生産性の高い表層にいれば 餌生物が豊富かもしれないが,視覚的捕食者には当然狙 われやすくなる. このような普遍的とも思われる生物の移動も極域なら ではの例外がある.真夏の高緯度域は太陽が沈まなくな 84 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 る.この白夜に表層に上昇すれば捕食者に狙われやすく なるかもしれない.夏季に北から南へ向かって観測を進 めていくと,徐々に夜の時間が短くなる.エコーサウン ダー(計量魚群探知機)を用いた観測では,E. antarcti- ca と推定される魚群が 60°S 以南で DVM を行うのが観 察されたが,南に行くにつれ(夜の時間が短くなるにつ れ),60°S では魚群が表層近くまで上昇するのに対し, 64°S 付近では深度 150-250 m までしか上昇しなくなり, 65°S では上昇が見られなくなった(Moteki et al., 2017a).この南北方向の DVM 様式の差異はそのまま季 節変化(日照時間の変化)に現れるはずである.この E. antarctica の鉛直移動のパターンは,エコーサウンダー には映らない捕食者や餌生物の移動とも同期していると 考えるべきで,生物が関与する鉛直的な物質の移動パ ターンが季節によっても大きく変化することを示してい る.しかしながら,我々が知っているその実態は主に夏 についてであり,氷に覆われる季節についてはほとんど 何も知らない.ハダカイワシ類は,光の乏しい海氷域で は捕食者から見つかりにくくなるために表層近くまで上 昇 し て い る か も し れ な い.し か し,海 氷 縁 辺 域 Marginal Ice Zone (MIZ) で,飛翔性の海鳥類が E. antarctica や Notolepis coatsi といった中・深層性魚類を 捕食していることも知られており,海氷分布と生態系の 関係性を調べる研究が必要である(Ainley et al., 1986). 9.Notolepis coatsi と N. anulata(ハダカエ ソ科)の分布 N. coatsi は,南大洋季節海氷域の大陸棚縁辺部から SB-ACC に分布する魚類としては,E. antarctica と並ん で個体数の多い中・深層性魚類である(Van de Putte et al., 2010; Moteki et al., 2011).エネルギー量も大きく, 高次捕食者の餌としても重要である(Van de Putte et al., 2010).しかし,なぜかハダカイワシ類ほど注目されて おらず,研究対象としても適当かもしれないと考え,我々 のチームでこっそり研究を始めている.E. antarctica と 同様に,まずは仔魚の分布について大学院生が解析を始 めたところ,早速興味深い発見があった.我々が主とし て研究対象としている 60°S 以南には,既往の知見では Notolepis 属のうち N. coatsi のみが分布すると考えられ ていたが,同属の N. annulata 仔魚が SB-ACC 以南(お よそ 63°S 以南)のサンプルに少なからず見出されたの である.N. annulata は,E. carlsbergi と同様に APF 以 北を主な分布域とする種である.さらに我々の調査では なぜか 60°S 以北では N. annulata 仔魚が採集されてい ない.さらなる広域の分布調査が必要であるが,N. an- nulata 仔魚の分布が APF 以南の季節海氷域の中でもか なり南側にあるということは,親魚による産卵のための 南下回遊が行われていることを意味する.APF 以北に 分布の中心をもつ種としては,海氷の影響を強く受ける 海域までわざわざやってくる意味を知ることは,海氷が 生態系にもつ意義を考える上で興味深い. 10.魚類仔魚の同定に関する問題点 実は Notolepis coatsi と N. annulata の仔魚を見分ける のは簡単ではない.体長約 20 mm 以上の個体では,腹 部の黒色素胞の位置で両種を判別することが可能である が(Efremenko, 1979; Post, 1987; North and Kellermann, 1989),それより小さい個体では種同定は難しい.結果 として本属についても仔魚の分布に関する研究はほとん ど行われてこなかった.これは Electrona 属についても 同様で,E. carlsbergi 仔魚については非常に簡単な記載 があるが,その仔魚を E. carlsbergi と同定した根拠が示 されていないうえに,E. antarctica との識別点も尾柄部 に黒色素胞があるかないかという一点にすぎない (North and Kellermann, 1989).したがって,現時点で は採集場所以外に E. carlsbergi(APF 以北)と E. ant- arctica(APF 以南)を区別する材料はないが,E. carls- bergi が海氷近くまで産卵回遊する証拠でも出てきたら それもできなくなる(幸いにして今のところそういった 証拠はない).Notolepis 属にせよ Electrona 属にせよ,2 種を分子生物学的手法により判別することは可能である が,分析のためには採集された仔魚をエタノール固定か 冷凍保存する必要がある.しかし,これらの固定・保存 方法では,標本が破壊されてしまうため,同定結果が得 られても同一標本の形態観察は不可能ということになっ てしまう.例えば,冷凍標本を解凍した場合,筋肉や骨 格が未発達な仔魚では脱水などにより形態が大きく変 わってしまうため,その復元すら困難である.エタノー ル固定でも同様で,仔魚の重要な標徴形質となりうる黒 色素胞も消失してしまう.この問題を回避するために は,小さい個体から大きい個体まで連続的に何らかの形 質でつながる一連の標本群(シリーズという)が必要で, このシリーズの一部を DNA 分析用に保存し,残りを形 態観察用にホルマリン固定する.DNA 分析により種が 確定できれば,シリーズ全体が同種ということになるの で,そのシリーズを使って形態の記載が可能となる.し かし現実的には,採集直後に船上で,プランクトンサン プルの中から半透明の仔魚を抜き出し,生鮮状態のまま 85南極海生態系研究の現状と展望 形態観察・体長測定等を行い,シリーズ標本を集めるの は至難の業である.しかし,Electrona 属については, APF から南北に十分離れた海域で採集された仔魚は別 種である可能性が高く,これらの形態比較ができれば両 種を区別する形態形質を明らかにできると考えられる. 11.生態系変動 11.1 ナンキョクオキアミ vs.サルパ オキアミと並んで個体数・生物量において重要な動物 プランクトンに,サルパ Salpa thompsoni がいる(図 4). サルパは尾索類というグループに属する,ゼラチン質の 管状の体をもったプランクトンである.ゼラチン質と いっても筋肉もあり,体を収縮させることによって体の 中に水を通してジェット推進で移動することができる. 個別に遊泳し無性生殖を行う段階(単独個体 solitary) と,鎖状につながり有性生殖を行う段階(連鎖個体 ag- gregate)を繰り返す生活環を持っている.サルパはオ キアミと同じ suspension feeder であり,植物プランク トンを主な起源とする懸濁粒子をろ過摂食していること から,餌について両者は競合している可能性がある (Perissinotto and Pakhomov, 1998a, b).サルパは,特に 餌が多いときに大増殖し,植物プランクトンの増殖速度 を上回る勢いで摂食することがある.しかし,基本的に 分布の中心は異なっている(Nishikawa et al., 1995; Hosie et al., 2000; Pakhomov et al., 2002).オキアミは主 として SB-ACC より南側に分布するが,サルパはその北 側に分布の中心がある.ところが,1926 年以降の信頼で きるデータを統合して解析したところ,1970 年代になっ てからオキアミの南極全体の個体数密度が大きく減少し ていることが分かってきた(Atkinson et al., 2004).オ キアミの個体数密度は前の冬の海氷面積(氷縁の緯度) と正の相関があることが知られている[一方で,1970 年 代のオキアミ密度が周期的に起こる高密度の時期だった 可能性も指摘されている(Loeb and Santora, 2015)].こ れは海氷の分布面積が,冬季に海氷を餌(アイスアル ジー)の供給元あるいはシェルター/ nursery として利 用する幼生の生残率に影響を与えていることなど,オキ アミが,その生活史全般に渡って海氷に大きく異存して いるためである(Ross et al., 2004; Quetin et al., 2007; Meyer et al., 2017).また,海氷の減少と関連して植物プ ランクトンが小型化していることも,オキアミの減少に つながっていると言われている(Moline et al., 2004, 2008).もともとオキアミが多い大西洋セクターでは温 暖化の進行が深刻で,このことが生物量の減少につな がっていると考えることができる. こういった背景のもと,一方でサルパは増加し,さら に分布域が南下しているらしい.上述したとおり,本来 SB-ACC の南側にはほとんど出現しないか,出現しても そこでは水温が低すぎて再生産できないとされていた が,成熟個体が安定的に見られるようになってきている (Ono et al., 2010; Pakhomov et al., 2011; Ono and Moteki, 2013, 2017).もともと比較的暖かい水を好むサルパに とっては,海水温の上昇は何も困ることではないだろう. サルパは,魚類や海鳥類によって捕食されるケースは知 られているが,栄養価が低く,特に海鳥類のような高エ ネルギーを要求する内温動物の主要な餌となっていると は考えにくい(Pakhomov et al., 2002; Dubischar et al., 2006; Saunders et al., 2015; Thiebot et al., 2017).つまり, 食物連鎖によって炭素を高次へとつなぐ役割をほとんど 担っていないことになる(Dubischar et al., 2006).しか し,サルパは生態系においては別の点で重要な役割があ る.彼らは沈降速度が速い大きな糞粒を生産することが 知られ,南極のサルパとは別種だがその糞粒は理論的に は 2700 m/日の速さで沈むという(Bruland and Silver, 1981).加えて,しばしば大増殖して短い世代をもつこ となどは,表層の炭素を海底に運搬・隔離するプロセス (生物ポンプ)や深海への有機物供給における貢献といっ た点において大きな役割を持っているはずである (Phillips et al., 2009).オキアミとともに,役割は異なる が,サルパの個体群変動は大きな生態系変動の観点から も,もっと注目されてもよいだろう(生物ポンプについ ては本巻の須藤ほかも参照). 11.2 高次捕食者の餌としてのオキアミ類・魚類の質(エ ネルギー量) 多くの高次捕食者が依存しているオキアミ類の総脂質 量は,季節や海域によって大きく異なっている.例えば, 南極半島の西側海域(WAP)で得られた値は,インド洋 で得られた値よりざっと 50%も高い(Färber-Lorda et al., 2009; Ruck et al., 2014).また WAP では,同じ時期 でも水温の低い高緯度・岸寄り海域の方が,高い海域(低 緯度海域)よりも高くなることが知られている(Ruck et al., 2014).これらのデータは,温暖化による水温上昇等 によって,単純にオキアミの分布や生物量が変動するの みならず,餌としての質が変動することも示している. 同じオキアミを食べるにしても餌のエネルギー量が異な れば,捕食者は行動を変えなければならない.エネル ギーが低ければ多く食べる必要があるし,その他の餌を 食べることで補完する必要が生じるかもしれない. 86 茂木 正人,真壁 竜介,高尾 信太郎 WAP では,上部周極深層水(Upper Circumpolar Deep Water, UCDW)が陸棚上に侵入することによって E. antarctica が陸棚上に分布すると考えられている (Donnely and Torres, 2008).また,E. antarctica の総脂 質量はオキアミよりも多いことが知られる(Ruck et al., 2014).彼らは,本来の分布域である外洋域より Land- based の捕食者に利用されやすいと考えられ,実際にア ザラシやオットセイ,海鳥類に捕食されている(Barrera- Oro, 2002).彼らは,年・海域・季節,あるいは大陸棚域 に UCDW が卓越するか否かによって,結果的にオキア ミか E. antarctica の食べやすい方を選択するのだろう. 一方,アデリーペンギンのヒナでは,より総脂肪量の多 いコオリイワシを選択した方が,コオリオキアミだけを 食べているときよりも成長や生残が良いという研究もあ り(Chapman et al., 2011),環境変動が餌の質の変化を通 して大型捕食者の個体群変動に影響を与えると考えられ る. 著しい気候・環境変化が進行している南極半島西部で は,オキアミを主な餌としているカニクイアザラシ(図 3)も E. antarctica やコオリイワシなどの魚類に餌生物 をシフトしている可能性が,安定同位体比を使った研究 で示唆されている(Hückstädt et al., 2012).また,冬季 にはオキアミへの依存度が下がることも分かってきた. 彼らは柔軟に気候変動に対応していくと考えられるが, 餌そのもののシフトのみならず餌の質の変化が個体群変 動や食物網全体に与える影響についても注視していく必 要があるだろう. 12.生態系構造が炭素隔離を制御する? 南大洋における炭素の循環は,植物プランクトンやア イスアルジーが光合成によって海水中に溶け込んでいる 二酸化炭素を吸収することから始まる.これらの光合成 活動によって合成された有機炭素は,オキアミをはじめ とする従属栄養生物に利用されることで食物連鎖が始ま る.これらの有機物は形を変えながら様々な過程を経て 一部は深層へ沈降するが,そのほとんどは表層で分解さ れて溶存有機物となり滞留するか,利用した生物の呼吸 によって二酸化炭素となり,再び大気-海洋間のガス交 換に寄与することとなる.全球的に見た場合,一般に光 合成生産のわずか 10%程度が中層以深に沈降すると言 われているが(Martin et al., 1987),実は海域や季節間で その程度には大きなバラツキがある.これらの生物活動 を介した深層への炭素隔離(生物ポンプ)には,生態系 の構造が大きな役割を果たしている.南大洋を代表する 二次生産者としてオキアミとサルパが重要であり,これ らが大型の糞粒 faecal pellet を排泄することで,炭素の 隔離効率は著しく高くなる.また,マリンスノー(1 mm 以上の不定形粒子)も炭素隔離のドライバーとなる.マ リンスノーの多くは粘性物質による植物プランクトンの 凝集,尾虫類のハウス,有殻翼足類の mucus web が元 になっていることが知られている(Alldredge and Silver, 1988).植物プランクトンの凝集には植物プランクトン 自体の生理状態が関与しており,残りの二つは尾虫類, 有殻翼足類自体の量と摂餌活性が鍵となっていると考え られる.また,このような生物ポンプを促進する動物の ほとんどは,オキアミやサルパと同様に体サイズの割に 非常に小さな粒子を餌にできる特徴を持つことが多いこ とにも触れておきたい.例えば尾虫類は数 mm 以上の ものも少なくないが,1 m 以下の粒子を捕食可能であ ることから,食物連鎖を大きくショートカットすると言 われている(Choe and Deibel, 2008).摂餌を通して有機 物を大型化する動物群の機能と動態を把握することは, 表層生態系の構造と物質循環を把握する上で欠かすこと ができないが,南大洋においてオキアミ以外の動物に対 する我々の理解はあまりにも乏しい. 生物過程を経て沈降した粒子は,光合成が起こらない 中・深層生態系を支える重要な餌でもある.言い換えれ ば,中層以深の生態系中で生じる沈降粒子の利用が炭素 隔離の量と期間を規定する可能性があるということであ る.実際に多くの海域において,200-1000 m 深度にお ける沈降粒子量の減衰はバクテリアの分解速度から予想 されるよりも遥かに大きい.このギャップの原因は Oithona 属や Oncaea 属など,小型カイアシ類の沈降粒 子食であると考えられている(González and Smetacek, 1994; Turner, 2004).しかし,中層以深における動物の 摂餌生態と沈降粒子の関係に関する研究は依然として進 んでいない.小型カイアシ類の知見についても,現場レ ベルでは沈降粒子の大きな減衰が見られた深度で個体数 密度が多かったことくらいで,あとはごく限られた飼育 実験に基づく推測である場合がほとんどである.表層か ら沈降した有機物粒子を捕食し,沈降粒子フラックスの 減衰に寄与する動物は他にも多く存在するだろう. ここで述べてきた炭素の隔離量とその変動を決定する 二つの生物過程に関する知見を蓄積し,定量的な理解を 深めることは,南大洋生態系の構造と気候変動との関係 を理解するとともに,二酸化炭素変動に対する南大洋生 態系からのフィードバックを評価する上でも重要であ る. 87南極海生態系研究の現状と展望 13.まとめ ナンキョクオキアミや E. antarctica を抜きにして南 大洋の生態系研究は議論できないが,その他にも注目さ れるべきバイプレーヤーはいる.例えばオキアミ類 Thysanoessa spp.(本属は南大洋に 2 種分布するが形態 的な分類は困難)であるが,その生物量や生態的意義は 十分に把握・議論されていない.南大洋の生態系につい ては,いくつもの重要な総説や本が書かれているが Thysanoessa spp.をフォーカスした議論はオキアミに比 べて著しく少ない.彼らの総脂肪量がオキアミに匹敵す ること,オキアミのような大きな集団を形成しないもの の広大な分布域を持つこと,オキアミの脂質の組成が主 としてトリグリセリドなのに対して Thysanoessa spp.で はワックスエステルであることなどを考慮すると,生態 系における役割は,両者で異なるものの,もう少し議論 されるべきであろう(Falk-Petersen et al., 1999, 2000; Lee et al., 2006; Haraldsson and Siegel, 2014). 本稿では,南大洋の生態系・食物網に関して,これま で得られた知見や研究課題について論じてきた.しか し,その多くがスコシア海や WAP で得られたものであ り,東南極(インド洋セクターが大部分を占める)の情 報は未だに乏しいのが現状である.スコシア海や WAP は生産性が高い海域で,オキアミを始めとして生物が多 い場所である.同様に,インド洋セクターでもプリッツ 湾からケルゲレン海台にかけての海域で高いクロロフィ ル a 濃度(植物プランクトン現存量の指標)が観測され ている(Moore and Abbott, 2000).言うまでもなく,生 産性が高い海域を観測することは,南大洋全体の生物生 産の理解に欠かせない.このような海域には植物プラン クトン食性が強いオキアミが優占することになる.しか し,生産性が高いプリッツ湾からケルゲレンにかけての 海域を別にすれば,インド洋セクターの大部分は水深 4000-5000 m の海底地形の変化が乏しい海域が広がって いる.この広大なのっぺりした海域は生産性が相対的に 低いが,栄養段階がオキアミよりやや高い Thysanoessa spp.が優占し,複数種のハダカイワシ科魚類の生物量を 支えている(Stowasser et al., 2012; Saunders et al., 2015).生産性の高い海域では相対的に少ない種ではあ るが,インド洋セクターでは一次・二次生産者を上位の 食段階につなぐ重要な担い手でもある.南大洋生態系の 理解は,どうしてもオキアミに引っ張られがちで,オキ アミが少ないインド洋セクターでの研究は遅れる傾向に ある.我が国が対象とするインド洋セクターの大部分は 南大洋に散見される krill-independent pathway が優占 的な海域であり,この生態系構造と動態の解明なくして 南大洋全体の理解には到達できないと筆者らは考えてい る. 謝辞 2009 年に東京海洋大学と国立極地研究所は連携協定 を締結し,それ以来,共同研究体制を維持・強化してき た.本稿に書かれた研究アイデアは,この間に多くの研 究者や学生と重ねてきた共同研究や議論を基にしてい る.特に,石丸隆博士(東京海洋大学),福地光男博士(国 立極地研究所),小達恒夫博士(国立極地研究所), Graham Hosie 博士(Sir Alister Hardy Foundation for Ocean Science)には,我々の研究の基礎を築いていただ いた.Robert A. Massom 博士(Australian Antarctic Division)との議論は,E. antarctica の初期生活史と海氷 との関係を研究するきっかけとなった.ここに記して感 謝したい.ナンキョクオキアミ(図 1)とサルパ(図 4- F)の写真は戸田亮二氏(東京大学)に提供していただい た.カニクイアザラシ(図 3-G)は,東京海洋大学水産 専攻科の実習生が撮影したものである.お礼申し上げ る. 参考文献 Ainley, D. G., W. R. Fraser, C. W. Sullivan, J. J. Torres, T. L. Hopkins and W. O. Smith (1986) Antarctic mesopelagic micronekton: evidence from seabirds that pack ice affects community structure. Science, 232, 847-849. Ainley D. G., P. R. Wilson, K. J. Barton, G. Ballard, N. Nur and B. Karl (1998) Diet and foraging effort of Adélie penguins in relation to pack-ice conditions in the southern Ross Sea. Polar Biol., 20, 311-319. Alldredge, A. L. and M. W. Silver (1988) Characteristics, dynamics and significance of marine snow. Prog. Oceanogr., 20, 41-82. Amakasu, K., A. Ono, D. Hirano, M. Moteki and T. 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