An Introduction to the Assessment Policy Toshiyuki Hosokawa,1)* Kunimasa Yamada1) and Atsushi Miyamoto2) 1) Institute for the Advancement of Higher Education, Hokkaido University 2) Office of Institutional Research, Hokkaido University アセスメント・ポリシーの考え方 ─アセスメント・ポリシー研究会報告─ 細川 敏幸1)**,山田 邦雅1),宮本 淳2) 1)北海道大学高等教育推進機構 2)北海道大学総合 IR室 Abstract─ Japanese universities are recommended to introduce an assessment policy to certify the quality of education. The policy should have a checklist that shows the methods used to assess the degree of achievement of the diploma policy. We describe an example of the checklist in detail in this paper. It shows the important role of a survey of the students, including a questionnaire for alumni. It is important in this assessment that the survey uses common questionnaire items. It also should report the results of the assessment and ideas for educational reform. This will be the last step to create a PDCA cycle in our education system. (Accepted on 7 February, 2018) はじめに 本誌第 20 号にカリキュラム・ポリシー(CP)なら びにディプローマ・ポリシー(DP)の概要を解説し た(細川ほか 2013)。そこでは,アドミッション・ ポリシー(AP)を加えた 3 つのポリシーにより, PDCAサイクルを実現し高等教育のたゆまぬ進歩を 目指すことが述べられている。このサイクルの実現 には C(Check:評価)を行う必要がある。しかし, その方法は 3つのポリシーからは特定することがで きない。この不都合を解消するために設定されるも のがアセスメント・ポリシーである。アセスメン ト・ポリシーはディプローマ・ポリシーが守られて いるかどうかを評価し次の改革に役立てるための, 手法と仕組みが記述されていなければならない。ア セスメント・ポリシーが宣言され,実施されること ─ 69─ 10.14943/J.HighEdu.25.69 J. Higher Education and Lifelong Learning 25 (2018) 高等教育ジャーナル─高等教育と生涯学習─ 25(2018) 〈Report〉 〈報告〉 *) Correspondence: Institute for the Advancement of Higher Education, Hokkaido University, Sapporo 060-0817, Japan E-mail: thoso@high.hokudai.ac.jp **) 連絡先:060-0817 札幌市北区北 17 条西 8丁目 北海道大学高等教育推進機構 によって初めて PDCAサイクルは完成するのであ る。 1.アセスメント・ポリシー導入の背景 PDCAサイクルを完成させるためには,C(評価) についての仕組み,すなわちアセスメント・ポリシー を公表し,毎年度それを実施する体制の導入が必要 である。このことは,平成 26 年の中教審答申(表 1)にすでに記述されており,日本の大学全体に導入 されることが期待されている。これを受けて,平成 30 年 4 月 1 日から実施される認証評価に関する省 令の改正(学校教育法第百十条第二項に規定する基 準を適用するに際して必要な細目を定める省令[平 成十六年文部科学省省令第七号])では重点評価項 目として内部質保証が特に取り上げられており,次 の大学機関別認証評価の重要な評価基準となるの で,今後全ての大学の学部・研究科等において,形 式はどうであれ内部質保証の仕組みの実現に取り組 むことが必須となっている。 実際のアセスメント・ポリシーには,評価活動を 支える組織を明示するとともに,評価方法を記述し なければならない。評価方法は列挙するために チェックリストの形式にすると見やすくなる。次項 ではチェックリストを例示し,その手法と意義を解 説する。 2.チェックリストの例 アセスメント・ポリシーには,アセスメント活動 を実施するための具体的な制度設計が求められる。 それを表で表したものがアセスメント・チェックリ ストである。したがって,その本質的な目的は,ディ プローマ・ポリシー(DP)が実現されているか否か のチェックにある。 入学希望者とその保護者あるいは外部評価者は, アセスメント・ポリシーとその成果を参照すること により,対象学部・学科の教育の質が保証されてい ることを確認することができる。 例にあげたチェックリスト(表 2)は,学部教育で 入学時から順に行われるべき評価活動を列挙してい る。表の最上部には,チェックの対象である DPが 表記されている。右端の実施者は,実施の責任組織 を示す。 ⽛授業アンケート⽜と⽛成績評価⽜は,すでに多く の大学で実施されているであろう。⽛1,3 年生学習 調査⽜や⽛卒業生調査⽜は,学習や生活の状況なら びにコンピテンシーの獲得状況を調査する。これら の標準的なアンケートは,日本では大学 IRコンソー シアム1)が支援しており,加入することで容易に利 用できる。⽛卒業時調査⽜や⽛企業調査⽜は,日本の 大学でも最近行われるようになってきた。前者は大 学の教育力やコンピテンシーなどの習得状況を,後 者は自学卒業生の社会での評価を調査する。⽛外部 アドバイザー会議⽜は,ステークホルダーに集まっ ていただき大学を評価してもらう仕組みで,在学生, 企業,卒業生などで構成される。⽛DP によるカリ キュラム点検⽜は,DPのカリキュラム上でのバラ ンスをチェックする評価である。すべての DPがバ ランス良くカリキュラムに配置され,偏っていない ことを確かめる。例えば 5番目の DPを教育する科 目が数科目しかない場合は,カリキュラムの再構成 が必要である。 従来から行われている⽛授業アンケート⽜は個別 の授業改善を,⽛卒業時アンケート⽜と⽛企業アンケー ト⽜はカリキュラム全体の改革の参考にする。大き なカリキュラム改革の前や,この検討をしていない 場合,一度は⽛DPによるカリキュラムの検討⽜を実 Toshiyuki Hosokawa et al.: An Introduction to the Assessment Policy ─ 70─ 表 1.平成 26 年 12 月 22 日中央教育審議会答申 ⽛新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改 革について⽜ (3)大学教育の質的転換の断行 (略) 大学全体としての共通の評価方針(アセスメント・ポリシー)を確立した上で,学生の学修履歴の記録や自己評価の ためのシステムの開発,アセスメント・テストや学修行動調査等の具体的な学修成果の把握・評価方法の開発・実践,これら に基づく厳格な成績評価や卒業認定等を進めることが重要である。 施する必要がある。ここでは,当該カリキュラムが DP実現のために適切に構成されているかを検討す る。例えば 3つしかない DPのうち,DP3 を学習で きる科目数が数%では,不足かもしれない。 ⽛総合評価⽜は毎年実施し,これにより各部局の教 育の質保証の担保を行うことになる。 ⽛達成度点検⽜は,⽛成績評価⽜とは異なり,学生 個人の DPの達成度を評価するものである。表 3の ようにあらかじめ各科目に DPへの寄与率(数)を 割り当てておく。4 年間の科目を取得すれば DPは 100 に近くなるような数値を各科目に配する。すな わち,学部修了時の目標値は 100 となる。各学期終 J. Higher Education and Lifelong Learning 25 (2018) 高等教育ジャーナル─高等教育と生涯学習─ 25(2018) ─ 71─ 表 2.チェックリストの例 A学部 B学科 アセスメント・チェックリスト(例) A学部B学科の学位授与水準(DP) DP1:...について実践できる。 DP2:...について倫理的な判断ができる。 DP3:...に関する資質と能力を修得している。 番号 名称 実施時期 周期 対象 内容, 質問項目等 手法 評価者 結果の活用方法 実施者 1 授 業 ア ンケート 7月, 1月 毎年 2~4(6)年生 ・授業の満足度 ・授業の理解度 ・学習状況 質問紙 学生 結果を学内に公表 し,教員に教育方 法改善の指針を与 える。 A学部 2 成績評価 4月,9月 毎年 2~4(6)年生 ・成績の点検 履修指導時に点 検する B学科学 生指導関 係教員 成績をもとに履修 指導を行う。 A学部 B学科 3 達成度点検 4月,9月 毎年 2~4(6)年生 ・成績等による DP の達成度 確認 履修指導時に達 成度表により達 成度を点検する B学科学 生指導関 係教員 達成度を表すレー ダーチャートをも とに履修指導を行 う。 A学部 B学科 4 1,3 年生学修調査※ 12 月 毎年 1,3年生 ・学習状況 ・コンピテン シーの習熟度 質問紙 学生 教職員に開示して 今後の教育制度改 革参考とする。 総合 IR室 5 卒業時調査 2~3月 毎年 4(6)年生 ・カリキュラム, 卒業研究の満 足度等 質問紙 学生 専門科目のカリ キュラム改善を行 う。 A学部 6 卒業生調査 (OB/OG調 査)※ 9月 毎年 卒後 5,10, 15 年目の 卒業生 ・大学教育の有 用性と現在の 状況 質問紙 卒業生 教職員に開示して カリキュラム改革 の参考とする。 総合 IR室 7 企業調査 (就職先調 査) 随時 ○年に1回 卒業生の就職 先 ・企業等からの アドバイス 質問紙 企業等の 職員 評価に基づき,カ リキュラム改革を 検討する。 総合 IR室 8 外部アドバイザー会議 随時 ○年に 1回 教育全体 ・社会,企業か らのアドバイ ス 討論 外部アドバイザー アドバイザーの提 言に基づき,カリ キュラム改革を検 討する。 A学部 9 DP による カリキュラ ム点検 随時 ○年に1回 カリキュラム ・DP を実現で きるカリキュ ラムになって いるかの点検 ナンバリング, カリキュラム マップなどによ る DP とカリ キュラムの相互 参照 B学科学 生指導関 係教員 DP とカリキュラ ムのバランスが悪 い場合はいずれか を調節する。 A学部 B学科 10~○ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 総合評価 4月 毎年 前年度の教学 アセスメント 全体 ・前年度に実施 した教学アセ スメントの結 果をまとめる 報告書 A学部○ ○委員会 委員 年間の教学アセス メントとその成果 を総括する。 A学部 ※大学 IRコンソーシアムの共通アンケートを利用 了時に寄与率の合計を見れば,どのような科目を修 得すれば,DPを達成できるかが,学生個人の観点 から明らかになり,選択科目の推薦などに有用にな る。表 3 は,3 年次終了時点を表しており,単位数 で 25 単位,DP1 の寄与率で 8,DP2 の寄与率で 20, DP3 の寄与率で 15 不足していることがわかる。学 習指導に当たっては,DP2 への寄与が大きな科目を 修得することが,バランス良く修了するために必要 であることがわかる。表 3のような資料を紙ベース で管理するのは現実的でなく,いくつかの大学では e-ポートフォリオに類似の機能を持たせて利用して いる(岩手大学など)。また,DPの達成度自体を学 科毎にルーブリックで表現して,学生に自己評価さ せる方法もある(関西国際大学)。この場合も⽛1, 3 年生調査⽜は併用して,一般的なコンピテンシー のチェックも行っている。 3.アセスメント・ポリシーの役割と利 点 一般に,DPの目標はスキルとコンピテンシーに 分類できる。スキルとは専門分野の知識や数式処 理,診断などの技能的な能力であり,コンピテンシー とはリーダーシップとかコミュニケーション力など の社会的な能力である。従来の成績評価には,もち ろんコンピテンシーも含まれるであろうが,多くの 科目はスキルを評価している。したがって,成績評 価だけで DPの達成度を評価するのは難しい。成績 評価にコンピテンシー評価を組み込むことも考えら れるが,Kinzie(2005)によれば米国での過去の研究 から直接的な尺度を開発するには実質的に相当なコ ストがかかることが明らかになった。そこで一般的 なコンピテンシーは⽛1,3年生アンケート⽜や⽛卒 業生アンケート⽜で評価する。すなわち,アンケー トと成績評価によってはじめて DPの達成度を確認 できるのである。 また,チェックリストからわかるように,重要な アセスメント調査の対象者は在校生と卒業生であ る。これは,米国でも同様で,学生こそが重要な情 報源となる(Kinzie 2005)。 これまで,中期計画の外部評価に合わせて行って いた教育評価を毎年少しずつ実施することで,中期 計画終了時に労力を集中していた作業が軽減される とともに,評価指標を毎年チェックすることで改革 のスピードを上げることができる。 おわりに 残念ながらアセスメント・ポリシーを形式的に導 入するだけでは,教育改革への効果は期待できない。 上記以外に重要なポイントが 2つある。 第 1のポイントは,共通調査を利用することであ る。ただ漫然とアンケート調査をしても得られた結 果がいかなる意味を持っているのか,はたして適切 な値なのかはわからない。毎年実施することで経時 変化が見られるだけである。ベンチマークとなる値 がない限り,評価のしようがない。そこで重要なこ とが,調査項目の共通化である。同じアンケートの 設問があれば,複数の学部を持つ大学ならば学部間 の比較ができる。同じアンケートを利用すれば,大 学間の比較(安藤ほか 2013)や日本全体の平均値と の比較,さらには諸外国との比較(例えばソウル大 学と北海道大学の比較(Leeほか 2017))が可能と なる。 米国では国内大学のアンケートの標準化を図って い る 組 織 が あ る。UCLA の Higher Education Research Institute(HERI)は Cooperative Institutional Research Program(CIRP)2)によるフレッシュマン調 査を 1966 年に開始し,現在約 1900 の大学から 1500 万人が参加している。インディアナ州立大学の NSSE(the National Survey of Student Engagement)3) Toshiyuki Hosokawa et al.: An Introduction to the Assessment Policy ─ 72─ 表 3.DPを考慮した 3年生の成績評価表の例 科目名 DP1 DP2 DP3 成績 単位数 一般教育演習 2 2 3 A+ 2 力学 1 3 0 1 A 2 物理学実験 3 1 2 B 2 電磁気学 1 3 0 2 A- 2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 量子力学 合計 92 80 85 GPA 95 目標 100 100 100 3.4 120 は 1999 年に開始し,現在およそ 600 の大学から 32 万人が参加している。日本でこれに相当するものが 大学 IRコンソーシアムである。 第 2 のポイントは PDCAサイクルの A(Act:行 動,改革)を実質化するための仕組みである。評価 は実施するだけでは意味がなく,課題が発見された ならそれを解決するための改革案を考え実行する必 要がある。そのため,各学部は評価の結果と改革案 をセットにして大学に提出する必要がある。改革案 のともなわない評価は意味がない。 チェクリストをもとにしたアセスメント・ポリ シーの設定は,3 つのポリシーを実質化するための 最後のステップである。これにより教学の PDCA サイクルが完成する。日本の大学の教育における, 恒常的な質の向上の仕組みがこれで確立されると期 待したい。 注 1)CIRP については HERI ウェブサイト(http:// www.heri.ucla.edu/)を参照。 2)http://www.irnw.jp/ 3)http://nsse.indiana.edu/ 参考文献 安藤厚・細川敏幸・大沼明・山畑倫志・宮本淳・徳 井美智代・山田邦雅・竹山幸作(2013),⽛連携 5大学⽛一年生・上級生調査 2011 年⽜の北海道 大学を中心とした比較分析─教学評価 IRネッ トワーク推進のために─⽜,⽝高等教育ジャーナ ル─高等教育と生涯学習─⽞20 特別号,1-104 細川敏幸・山田邦雅・竹山幸作・小笠原正明(2013), ⽛カリキュラム・ポリシーの概要─カリキュラ ム・ポリシー研究会報告─⽜,⽝高等教育ジャー ナル─高等教育と生涯学習─⽞20,55-59 Kinzie, Jillian L.(2005),⽛米国の学生調査と IRの役 割⽜同志社大学学習支援・教育開発センター第 2回講演会 Lee, Heewon, Atsushi Miyamoto and Jeung Yun Choi (2017),⽛A Comparative Analysis of the Teaching and Learning Processes of Undergraduate Students in Korea and Japan─ Based on the Cases of Seoul National University and Hokkaido University⽜,⽝高 等教育ジャーナル─高等教育と生涯学習─⽞24, 77-95 J. Higher Education and Lifelong Learning 25 (2018) 高等教育ジャーナル─高等教育と生涯学習─ 25(2018) ─ 73─