[1] 北法69(1・204)204 論   説 目  次    はじめに  1 問題の所在  2 課題  3 本稿の構成  4 本研究の意義 第1章 違約金増減の概要  第1節 違約金増減の趣旨  第2節 違約金増減の対象  第3節 違約金増減の要件  第4節 違約金増減の立法史 (以上、68巻6号) 第2章 違約金増減の運用実態──数量分析を中心に  第1節 違約金増額の運用実態に関する数量分析   1.全体図の概要   2.検討  第2節 違約金減額の運用実態に関する数量分析   1.全体図の概要   2.検討 (以上、本号) 第3章 違約金増減の運用実態──論理分析を中心に 第4章 学界の評価と改革案 第5章 台湾法・日本法との比較 むすび 資料 関連条文 中国法における裁判所による 違約金増減の運用と理念(2) ──日本の債権法改正に寄せて── 呉   逸 寧 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [2]北法69(1・203)203 第2章 違約金増減の運用実態──数量分析を中心に  第1章は、違約金増減の概要を検討してきた。これらの検討によって、 理論的に違約金増減を把握することができる。それに対して、裁判実務 上、違約金増減はどのようにして働いているのか。またどういった特徴 があるのかを明らかにする必要がある。本章と第3章は、違約金増減の 運用実態の解明に取りくむこととする。違約金増減の運用実態を解明す る場合には、2つの検証の手法が考えられる。一つは、特定時期の裁判 例群を対象とし数量分析を行い、違約金増減の運用の傾向を明らかにす ることである。もう一つは、重要度が高い、代表的、特殊な法的意味を 有する裁判例を対象とし具体的な裁判例の判決内容、理由に関する分析 を行い、違約金増減の運用の論理を明らかにすることである。本稿は、 前者の解明を本章にて行う予定であり、後者の解明を第3章にゆだねる こととする。  本章は、違約金増減の運用に関する特定の数量分析を行うため、特定 の時期、特定のデータベースを通して分析を行う必要がある。それゆえ に、本章は、2014年の一年間を対象とし、「北大法意」という中国法に 関する裁判例が比較的に豊富であるデータベースを選ぶことにする。検 討する前に、次の3つ点を説明しておきたい。  第1に、裁判実務の分析に当たって2つ重要な物差しを設定する。一 つ目は、違約金増減の法規定・学説の部分で明らかにしたように、増額 の適用と減額の適用において違約金が呈する法的性格、機能が異なるた め、裁判実務の検討も両者を分けて分析する必要がある。二つ目は、裁 判例の中には、法院が違約金の増減を認めた裁判例がある一方で、違約 金の増減を認めなかった裁判例もある。それゆえに、違約金増減の運用 の傾向を全面的に捉えるため、本章は、違約金の増減を認めた裁判例の みならず、違約金増減を認めなかった裁判例をも視野に入れることとする。  第2に、裁判実務の分析に当たって増額と減額をめぐる紛争について 訴訟の構造がそれぞれ異なるため、訴訟の基本的構造を把握することも 必要である。法院が違約金増額を適用する場合には、債権者が最初の訴 訟の請求において違約金の増額の請求を提起する。それに対して、法院 が違約金減額を適用する場合には、債務者が違約金の減額の請求を抗弁 論   説 [3] 北法69(1・202)202 として申し立てるのが一般的である。すなわち、違約金の増額をめぐる 紛争において、違約金の増額を請求する者は債権者であり、増額請求は 最初の訴訟請求段階に行われる。他方、違約金の減額をめぐる紛争にお いて、違約金の減額を請求する者は債務者であり、請求は抗弁の段階に おいて行われる。  第3に、裁判実務の分析に当たって、分析の力点を絞る必要もある。 本稿の目的は、法院がどのような法理に基づいて、違約金への介入を行っ ているのかを明らかにすることである。それゆえに、法院がいかなる理 由で違約金の増減を認めたのか、またいかなる理由で違約金の増減を認 めなかったのかを検討するのが重要である。換言すれば、本章は、分析 の力点を法院による増額の肯定または否定の判決理由に絞ることで、違 約金増減の運用の特徴を析出したい。 第1節 違約金増額の運用実態に関する数量分析  本節は、違約金増額の運用実態に関する数量分析を行う。以下では、 各事例における留意点を示しておく。  第1に、紛争の類型。違約金増額の運用をめぐる裁判例がどのような 紛争を念頭に置くのかを明らかにすることが必要がある。具体的には、 紛争の契約類型は何か、紛争の違約金類型は何なのか(いかなる契約不 履行を対象とする違約金なのか)である。  第2に、当事者の属性。違約金増額の運用において当事者がいかなる 主体であるかに着目する。原告(X)と被告(Y)の属性を、個人か企業 かによって分けることとする。  第3に、違約金の定め方。当事者がいかなる違約金の定め方をしたの かが重要である。法規定の検討の部分では明らかにしたように、当事者 が一定額の違約金を定めることができるのみならず、違約金の計算方法 を定めることもできる。それゆえに、当事者による違約金の定め方にも 留意する。  第4に、債権者の請求内容。訴訟の構造に照らすと、債権者が最初の 訴訟の請求において違約金の増額の請求を提起するが、いくらの増額を 請求したのかを注目する必要がある。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [4]北法69(1・201)201  第5に、法院による増額の肯定と否定の判決理由。この要件が本節に よる検証の核心的な部分である。本節は法院がいかなる理由で違約金の 増額を認めたのかまたいかなる理由で違約金の増額を認めなかったのか を要約したうえで、裁判例ごとに検討を行う。  第6に、法院による増額の計算要件および結果。法院が違約金の増額 を認めた場合にいくら違約金の増額をしたのか、すなわち法院が増額し た結果に注目する。  以上は、裁判例に関する6つの基本的な情報である。これらの要件に 基づき、本節は、違約金の増額が認められた裁判例リスト(北大法意  判決年月日2014年度)と違約金の増額が認められなかった裁判例リスト (北大法意 判決年月日2014年度)を作成し、それぞれ附表1と附表2 としてその内容を示しておく。また裁判例が多いため、本節は、附表1 と附表2を本文に付けずに、参考資料にて本節の最後に添付する。それ を踏まえて、以下では、法院による違約金の増額が認められた裁判例 (2014年度、附表1)と法院による違約金の増額が認められなかった裁 判例(2014年度、附表2)について検討を行うこととする。 1 全体図の概要  2014年の一年間に判決が下された違約金の増額が認められた裁判例 (以下では、違約金の増額を認められた裁判例を、増額肯定例と称する) は21件あり、認められなかった裁判例(以下では、違約金の増額を認め られなかった裁判例を、増額否定例と称する)は25件あった。以下では、 まず裁判例の概要をまとめる。  第1に、違約金紛争の類型という要件から増額肯定例を見ると、21件 すべて遅延違約金の紛争である。このうち、2件が金銭債務の不履行(契 約給付義務の不履行)を対象とする紛争であり、残る19件がなす債務の 不履行(契約行為義務の不履行)を対象とする紛争である。また、なす 債務の不履行を対象とする紛争の中には、不動産の引渡し義務の不履行 を対象とする紛争が16件、不動産名義書換義務の不履行を対象とする紛 争が3件あった。  他方、増額否定例の場合には、25件すべて遅延違約金の紛争である。 このうち、1件が金銭債務の不履行(契約給付義務の不履行)を対象と 論   説 [5] 北法69(1・200)200 する紛争であり、残る24件がなす債務の不履行(契約行為義務の不履行) を対象とする紛争である。またなす債務の不履行を対象とする紛争の中 には、不動産名義書換義務の不履行を対象とする紛争が16件、不動産の 引渡し義務の不履行を対象とする紛争が7件、売買目的物の引渡し義務 の不履行を対象とする紛争が1件あった。  第2に、当事者の属性という要件から増額肯定例を見ると、原告X(個 人)、被告Y(企業)の間の紛争が19件、X(企業)とY(企業)の間の紛 争が2件あった。他方、増額否定例の場合において、原告X(個人)、 被告Y(企業)の間の紛争が22件、X(個人)とY(個人)の間の紛争が 1件、X(企業)とY(企業)の間の紛争が2件あった。  第3に、違約金の定め方から、増額肯定例と増額否定例を合わせて見 ると、基本的に当事者が一定額の違約金を約定した裁判例と当事者が違 約金の計算方法を約定した裁判例に分かれるが、細かく見ると、4パター ンの定め方があった。  ① 当事者が純粋に一定額の違約金(具体額か契約代金の何%)を約 定するパターン。このパターンにおいて増額肯定例11件、増額否定例13 件があった。  ② 当事者が純粋に違約金の計算方法(日に一定額か日に契約代金の 何%)約束するという仕方で、実際の遅延日数に基づき違約金を発生さ せるパターン。このパターンにおいて増額肯定例4件、増額否定例9件 があった。  ③ 当事者が違約金の計算方法(日に一定額か日に契約代金の何%) を約束するが、最高額(具体額か契約代金の何%)による制限をかける パターン。換言すれば、当事者が日に具体額か契約代金の何%かを基準 に実際の遅延日数に基づき違約金を発生させるが、違約金に上限を設け るパターン。このパターンにおいて肯定例4件、否定例3件があった。  ④ 当事者が違約金の計算方法(日に一定額か日に契約代金の何%) を約束するが、一定額(具体額か契約代金の何%)に転化させるパターン。 換言すれば、当事者が日に具体額か契約代金の何%かを基準に実際の遅 延日数に基づき違約金を発生させるが、一定の遅延日数を過ぎると、こ のような計算方法が採用されなくなる。その代わりとして債務者が一定 額の違約金を支払うことになる、というパターンである。このパターン 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [6]北法69(1・199)199 において肯定例2件があった。  第4に、債権者の請求内容から肯定例を見ると、Xが違約金の約定と 異なる違約金の計算基準を主張し、実際の遅延日数に基づき違約金を新 たに確定するよう増額を求めた肯定例は19件あった。このうち、Xが中 国人民銀行の同期・同類の貸付利率を基準とし実際の遅延日数に基づき 違約金を新たに確定するよう増額を求めていた肯定例が16件あり、違約 金の約定と異なるほかの違約金の計算基準を主張し実際の遅延日数に基 づき違約金を新たに確定するよう増額を求めていた肯定例も3件あっ た。残る2件の増額肯定例は、Xがあたらな違約金の計算基準を主張し たのではなく、直接に一定額の増額を求めたものである。  他方、増額否定例の場合において、Xが違約金の約定と異なる計算基 準を主張し違約金の額を新たに確定するよう増額を求めた否定例は19件 あった。このうち、Xが中国人民銀行の同期・同類の貸付利率を基準と し実際の遅延日数に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めてい た否定例が11件あり、違約金の約定と異なるほかの計算基準を主張し実 際の遅延日数に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めていた否 定例も8件あった。残る6件の増額否定例がいずれもXがあたらな違 約金の計算基準を主張したのではなく、直接に一定額の増額を求めたも のである。  第5に、法院による増額の判決理由から増額肯定例を見ると、次の6 つの事由にまとめられる。①約定額または約定計算基準が著しく低いか Xの損失の填補に不足すること(5件)、②Yの違約期間の長さ(7件)、 ③契約代金(未払い代金含む)の大きさ(2件)、④Xの損失が法定遅延 利息損失と認定されること(4件)、⑤Xの増額請求が法律に適合して いること(3件)、⑥違約金責任の約定不対等性(2件)。  他方、法院による増額の判決理由から増額否定例を見ると、次の5つ の事由にまとめられる。①Xは、違約金の約定額または約定計算基準 が自分の損失と比較すると低いことを挙証できていないこと(19件)、 ②違約金の約定額または約定計算基準がXの損失を填補できること(1 件)、③Yの違約行為がXに損失をもたらしていないこと(1件)、④ 違約金の約定が明確であり、法律に違反していないこと(4件)、⑤違 約金の約定に従うべきである(2件)。 論   説 [7] 北法69(1・198)198  これらの違約金の増額に関する肯定の事由と否定の事由について如何 にして読み解くのかは、検討の部分にゆだねることとする。  第6に、増額肯定例の場合には、その計算要件および結果を見ると、 二つのパターンがある。一つは、法院がXの違約金の増額請求をその まま容認するものである。換言すれば、法院がXが申し立てた新たな 違約金の計算基準に基づいて増額を認めた肯定例が14件あった。もう一 つは、法院がXの増額請求を認めたが、Xが申し立てた違約金の計算 基準を改定したものである。このような増額肯定例が7件あった。注目 しておきたいのは、法院による容認の肯定例であろうが、法院による改 定の肯定例であろうが、その増額結果を見ると法院が中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率を基準にして、実際の遅延日数に基づき違約金を増 額した例がほとんどのものであり、18件あった。わずか3件の増額肯定 例は、法院が総合の考慮に基づいて、違約金の計算基準または一定額の 違約金を改定し増額したものである。  以上のまとめに照らせば、違約金増額の運用に関する基本的な状況を、 肯定例と否定例に分けてそれぞれの図で示しておく。  増額肯定例のまとめを、次の【図】1~ 61で示す。 1 【図】1~6は、附表1(違約金の増額が認めれた裁判例リスト)に基づいて、 その概要を要件ごとに整理するものである。 9.5% 90.5% 金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金 2件 なす債務の不履行を対象とする遅延違約金 19件  図1 違約金の紛争類型 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [8]北法69(1・197)197 90.5% 9.5% X(個人)vs Y(企業) 19件 X(企業)vs Y(企業) 2件 図2 当事者の類型 52.4% 19.0% 19.0% 9.6% 当事者が純粋に一定額の違約金(具体額と契約代金の何%)を約定したパターン 11件 当事者が純粋に違約金の計算方法(日に契約代金の何%)を約定したパターン  4件 当事者が違約金の計算方法を約束したが、最高額による制限をかけられたパターン 4件 当事者が違約金の計算方法を約束したが、条件付きに一定額の違約金へと転換されたパターン 2件 図3 違約金の定め方 9.5% 76.2% 14.3% 一定額の違約金の増額を求めた 2件 中国銀行遅延貸付利率に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めた 16件 別途の違約金計算基準に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めた 3件 図4 Xの増額請求内容 論   説 [9] 北法69(1・196)196  増額否定例のまとめを、次の【図】7~ 112で示す。 2 【図】7~ 11は、附表2(違約金の増額が認められなかった裁判例リスト)に 基づいて、その概要を要件ごとに整理するものである。 66.7% 19.0% 14.3% Xの増額請求および内容を容認、中国銀行遅延貸付利率による計算額 14件 Xの増額請求を容認、内容を改定、中国銀行遅延貸付利率による計算額 4件 Xの増額請求を容認、内容を改定、綜合考量による計算基準又は一定額 3件 21.7% 30.4% 8.7% 17.4% 13.1% 8.7% 約定額または約定計算基準が著しく低いかXの損失を填補できないこと 5件 Yの違約期間の長さ 7件 契約代金(未払い代金含む)の大きさ 2件 Xの損失を法定遅延利息損失と認定 4件 Xの増額請求が法律に適合していること 3件 XとYによる違約金責任の約定不対等性 2件 図5 法院による増額の判断事由 図6 法院による増額の計算要件および結果 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [10]北法69(1・195)195 52.0% 36.0% 12.0% 当事者が純粋に一定額の違約金(具体額と契約代金の何%)を約定したパターン 13件 当事者が純粋に違約金の計算方法(日に契約代金の何%)を約定したパターン  9件 当事者が違約金の計算方法を約束したが、最高額による制限をかけられたパターン 3件 図9 違約金の定め方 88.0% 8.0% 4.0% X(個人)vs Y(企業) 22件 X(企業)vs Y(企業) 2件 X(個人)vs Y(個人) 1件 図8 当事者の類型 4.0% 96.0% 金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金 1件 なす債務の不履行を対象とする遅延違約金 24件  図7 違約金の紛争類型 論   説 [11] 北法69(1・194)194 2 検討  以上の整理に照らせば、裁判実務において違約金増額が如何にして働 いているのかについてその全貌を把握することができる。その中で、本 稿の目的との関連で検討する必要があるのは、法院による増額の肯定の 判断事由(【図】5)と法院による増額の否定の判断事由(【図】11)である。 全体図による【図】5と【図】11についての整理は、ただ判決理由に用い られる用語を初歩的に纏めたに過ぎないものである。実際には、これら の事由がどのような法的意味が含まれるのか、また如何にして読み解か れるべきなのかについて、さらなる詳細な検討がかけてはならないよう に思われる。なお、これらの判断事由を検討する場合には、第1章で検 24.0% 44.0% 32.0% 一定額の違約金の増額を求めた 6件 中国銀行遅延貸付利率に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めた 11件 別途の違約金計算基準に基づき違約金を新たに確定するよう増額を求めた 8件 70.4% 3.7% 3.7% 14.8% 7.4% Xは違約金の約定額又は約定計算基準が自分の損失よりも低いことに挙証不能 19件 違約金の約定額又は約定計算基準がXの損失を填補できること 1件 Yの違約行為によりXに損失をもたらしていないこと 1件 違約金の約定が明確であり法律に違反していないこと 4件 違約金の約定に従うべきであること 2件 図10 Ⅹの増額請求内容 図11 法院による増額否定の判断事由 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [12]北法69(1・193)193 討した法規定、学説を念頭に置く必要がある。それゆえに、まず法規定、 学説は、法院による増額の判断要件について如何にして説明しているの かを再度確認する。  第1に、法規定、通説の立場に照らせば、法院が違約金の増額の可否 を判断する場合には、まず、債権者の実損害を認定する。次に、法院が 債権者の実損害を違約金と比較して、より低額でありさえすればその増 額を認める。換言すれば、法院が実損害と違約金の差額があるか否かを 認定することで、違約金の増額の可否を判断している、という判断構造 が明らかにされた。このような判断構造を実損害差額主義と定義した3。 裁判実務が実損害差額主義によっているか否かを検証する。  第2に、少数説の立場に照らせば、法規定、通説による実損害差額主 義について批判的な見解もある。少数説は、法院が違約金の増額の可否 を判断する場合には、契約締結時に違約金の約定が当事者の自由な意思 によるか否か、またその約定において詐欺、脅迫などの意思決定におけ る瑕疵があるか否かを審査すべきであるとしている。このような判断構 造が、当事者の意思決定プロセスに重点を置き、当事者の真の意思自治 が達成されるか否かを主眼とする論理である4。それを踏まえて、少数説 の論理が裁判実務において影響を与えるか否かも、注目に値する。  以上の法規定、学説による説明に照らせば、実際の裁判例において法 院が、増額の可否を判断する場合には、どのぐらい実損害差額主義を徹 底しているのか、また、少数説のような論理も持ち込まれるのか、裁判 実務において全体的にどのような特徴があるのかについて、裁判例に基 づいて検討する。 (1)増額の肯定、否定の判決理由  以下では、裁判実務において増額の肯定、否定の判決理由を検証する。 なお違約金増額の運用に関する裁判例が金銭債務の不履行を対象とする 3 法規定、通説の立場についての検討は、第1章「違約金増額の要件」の「法規 定の立場」部分を参照されたい。 4 少数説の立場についての検討は、第1章「違約金増額の要件」の「学説の批判」 部分を参照されたい。 論   説 [13] 北法69(1・192)192 遅延違約金の紛争となす債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争に 分かれるため、検討の順番は、違約金紛争の類型に基づいて進めること とする。 (ⅰ)増額肯定例についての検討  増額肯定例を全体的に見ると、増額肯定例が金銭債務の不履行を対象 とする遅延違約金の紛争となす債務の不履行を対象とする遅延違約金の 紛争に分かれるが、裁判例の数について後者が前者よりも圧倒的に多 かったことは明らかにされた。また、なす債務の不履行を対象とする遅 延違約金の紛争の中には、不動産の引渡し義務の不履行を対象とした裁 判例が16件あり、不動産名義の書換義務の不履行を対象とした裁判例が 3件あった。他方、金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争が 2件しかいなかった。以下では、詳しく検討する。 ① なす債務の不履行(不動産の引渡し義務の不履行)を対象とする遅 延違約金の紛争  増額肯定例21件のうち、16件が不動産の引渡し義務の不履行を対象と する遅延違約金の紛争であった。この16件は、いずれもYが目的物の 不動産をXに期間通りに引き渡さなかったため、遅延違約金責任を問 われた裁判例であった。法院による増額の肯定の判決理由を、次のよう に要約することができる。  (A)、16件のうち、14件において法院による判決理由を、次の6つの 事由に要約することができる。  ア、Xの損失を法定遅延貸付利息の損失と認定(増額肯定例1、3、9、 13)  イ、違約金の約定額または約定計算基準がXの損失と比較すると低 い(増額肯定例10、12、14)  ウ、Xの増額請求が法規定に適合している(増額肯定例15、17、21)  エ、違約金の約定額または約定計算基準がXの損失の填補に不足す る(増額肯定例16、20)  オ、Yの違約行為がXに損失をもたらしていた(増額肯定例5)  カ、違約金をXの損失と一致させるべきである(増額肯定例11) 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [14]北法69(1・191)191  この14件において上記に列挙された6つの事由の実質を検討すると、 法院がXの損失を認定したうえで、次に違約金との比較を中心の作業 としていると見て取れる。すなわち、法院は、Xの損失が違約金の約定 額と比較すると低額であることを唯一の増額の理由としているのであろ う。換言すれば、法院は、違約金の約定額がXの損失と比較してより 低額でありさえすれば、その増額を認めると解される。この意味におい て上記の16件はいずれも法院が実損害差額主義を徹底した裁判例である と評価できる。  (B)、16件のうち、残る増額肯定例2と6のみは、法院による増額の 肯定の判決理由において法院が実損害差額主義に基づくほか、違約金の 約定に重点を置いたという特徴が見られる裁判例である。  肯定例2の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、「違 約金内容の約定において、Xの契約代金の未払いを対象とする遅延違約 金の約定計算基準が日に未払い代金の0.3‰であると約定されているの に対して、Yの不動産引渡し義務の不履行を対象とする遅延違約金の約 定計算基準が日に支払い済み代金の0.01‰であると約定されている。違 約金の約定によるXとYの権利義務の負担が対等ではないため、法院 が、権利義務の約定に関する均衡の原則に基づき、Xの増額請求が不当 なものではないと判断する」、とされる。  肯定例6の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、「違 約金の約定において、Xの契約代金の未払いを対象とする遅延違約金の 約定計算基準が日に未払い代金の0.5‰であると約定されるのに対して、 Yの不動産引渡し義務の不履行を対象とする遅延違約金の約定計算基 準が日に支払い済み代金の0.05‰であると約定されている。このような 約定の仕方は、明らかに公平を失するため、Xの増額請求は認められる べきである」、とされる。  上記の2件の判決理由に照らせば、法院は、Xが負担する契約代金の 未払いを対象とする遅延違約金責任とYが負担する不動産引渡し義務 の不履行を対象とする遅延違約金責任という約定内容に主眼を置いた上 に、その約定内容が対等的なものではないということを理由に、違約金 の増額を認めたと見て取れる。換言すれば、上記の2件の判決理由にお いて契約締結時、違約金の約定によるXとYの違約金責任の不対等性 論   説 [15] 北法69(1・190)190 が是正される必要があるという旨が含まれると解される。約定による違 約金責任の不対等性の実質を突き詰めると、当事者の交渉力の格差など の事情により違約金の約定による意思決定のプロセスにおいて自律的な 自己決定が行われていないと十分考えられる。換言すれば、このような 不対等の約定は、当事者による、真の意思自治が達成されていない結果 であると看取できる。この意味において、上記の2件の裁判例は、法院 が単に実損害差額主義を根拠とするものではなく、契約締結時、違約金 の約定において真の意思自治が達成されるか否かも考慮されている例で あると評価できる。 ② なす債務の不履行(不動産名義の書換義務の不履行)を対象とする 遅延違約金の紛争  増額肯定例21件のうち、増額肯定例4、18、19は、不動産名義の書換 義務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争であった。この3件は、い ずれもYが目的物の不動産に関する書換義務を期間通りにXに果たさ なかったため、遅延違約金責任を問われた裁判例であった。法院による 増額の肯定の判断理由は、次のようなものである。  肯定例4の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、「X は自分の損失の証拠を提出していなかった。法院は、Yの契約違反期間 が2年半にわたり、しかもXが権利を主張する際に、必要な費用を支 出したこともあった。以上のことを考量すれば、Xの増額請求を容認し、 違約金の額を斟酌する」、とされる。  増額肯定例18の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、 「Xが自分の損失に証拠を提出していなかったが、法院は、Yの契約違 反期間が6年あまりにわたり、一定の程度でXによる不動産の正常な使 用、収益に影響を与えたため、Xの損失が客観的に存在することを考慮 することで、Xの増額請求を認める」、とされる。  増額肯定例19の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、 「Yが目的物の不動産に関する書換義務を期間通りにXに果たさなかっ たため、その違約行為は、Ⅹが目的物の不動産の処分権を行使すること に障害をもたらした。それゆえに、Xの損失が権利の行使の支障および 取引のチャンスの喪失として捉えられ得る。Xが損失に証明責任を果た 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [16]北法69(1・189)189 せないにもかかわらず、Xがかならず、一定の程度の損失を抱えること に違いない。したがって法院が、Yの違約期間の長さや契約代金の大き さを考慮して、Xの増額請求を認める」、とされる。  上記の3件による増額の肯定の判決理由に照らせば、3点の共通点を 捉えることができる。一つ目は、3件は、いずれもXが自分の損失を 挙証できていないものである。二つ目は、3件は、いずれもYの契約 違反期間が長かったものである。三つ目は、3件は、いずれもYの契 約違反期間が長かったため、Xに何らかの損失をもたらすであろうと認 定されるものである。それゆえに、不動産名義の書換義務の不履行を対 象とする遅延違約金の紛争においてXの損失が正確に確定されない場 合には、法院がYの違約行為がXにもたらすであろう損失(逸失利益) を考慮する傾向が示されている。とはいえ、ここでの逸失利益について の認定の実質は、依然としてXの実損害を認定する目的であると解さ れる。この意味において、上記の3件はいずれも法院が実損害差額主義 を貫徹した裁判例であると評価できる。 ③ 金銭債務を対象とする遅延違約金の紛争  増額肯定例21件のうち、残る増額肯定例7、8が、売買代金の未払い を対象とする遅延違約金の紛争であった。この2件は、いずれもXが売 買代金をYに支払わなかったため、遅延違約金責任を問われた裁判例で あった。法院による増額の肯定の判決理由は、次のようなものである。  肯定例7の判旨によれば、法院が、Yの違約期間が長かったため、違 約金の約定がXの法定貸付遅延利息の損失の填補に不足することを理 由に、Xの増額請求を認めた、という判決理由が示されている。  肯定例8の判旨によれば、法院が、Yの違約期間と未払い代金の大き さを考量し、違約金の約定計算基準が著しく低いことを理由に、Xの増 額請求を認めた、という判決理由が示されている。  上記の2件の判決理由に照らせば、この2件において法院による増額 の肯定の判決理由は、いずれも法院がⅩの損失を法定貸付遅延利息損失 と認定しうえで、次にそれを違約金の約定額と比較してより低額である ためであると解される。この意味において上記の2件はいずれも実損害 差額主義に依拠した裁判例であると評価できる。 論   説 [17] 北法69(1・188)188 (ⅱ)増額否定例についての検討  増額否定例を全体的に見ると、肯定例の紛争類型と同様に金銭債務の 不履行を対象とする遅延違約金の紛争となす債務の不履行を対象とする 遅延違約金の紛争に分かれている。また、裁判例の数についてなす債務 の不履行を対象とする紛争がほとんどのものであり、24件あった。この うち、不動産名義の書換義務の不履行を対象とした裁判例が16件あり、 不動産の引渡し義務の不履行を対象とした裁判例が7件あり、売買目的 物の引渡し義務の不履行を対象とした裁判例が1件あった。他方、金銭 債務の不履行を対象とする紛争が1件しかいなかった。以下では、詳し く検討に入る。なお検討する場合に、増額肯定例についての検討では言 及した違約金紛争の類型に関する説明は、本部分では繰り返さないこと とする。 ① なす債務の不履行(不動産名義の書換義務の不履行)を対象とする 遅延違約金の紛争  増額否定例の25件のうち、最も多かった紛争の類型は、不動産名義の 書換義務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争であり、16件の裁判例 があった。この16件において法院による増額の否定の判決理由を、次の ように要約することができる。  (A)、16件のうち、12件において法院による判決理由を、次の3つの 事由に要約することができる。  ア、Xが自分の損失を挙証できていない(増額否定例2、4、6、7、 10、12、14、17、18、22)  イ、Yの違約行為はXに損失をもたらしていない(増額否定例11)  ウ、Xが自分の増額請求の事実に根拠を提供しなかった(増額否定例 21)  この12件において上記に列挙された3つの事由に照らせば、ある共通 点を捉えることができる。すなわちXが自分の損失を挙証しなかった ことは、Ⅹの増額請求が認められなかった唯一の理由であると思われる。 換言すれば、Xの損失が客観的に確定されにくい本類型の違約金紛争に おいて、Xが自分の損失を挙証しない限り、自分の増額請求は認められ ないであろう。それゆえに、上記の12件において、法院が依然としてX 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [18]北法69(1・187)187 の損失を認定することを目的とし、Xが自分の損失に証拠を提出するこ とができない以上、法院がそれを違約金の約定額と比較する前提がなく なるため、当然にXの増額請求を認めないということになると解され る。この意味において、上記の12件はいずれも実損害差額主義を徹底し た裁判例であると評価できる。  (B)、16件のうち、増額否定例1、5、8、15は、いずれも法院が実 損害差額主義と異なる理由で、違約金の増額を否定している裁判例であ る。法院による増額の否定の判決理由を、次の2つの事由に要約するこ とができる。  ア、違約金の約定に従わなければならない。(減額否定例1、5)  イ、違約金の約定が明確であり、法律の規定に違反していない(減額 否定例8、15)  この4件において上記に列挙された2つの事由に照らせば、法院は、 増額の否定の理由を、Xが損失を挙証したか否かということに根拠とせ ず、それと代わりに、違約金の約定による当事者の意思を尊重すべきこ とを根拠としていると思われる。換言すれば、上記の4件において法院 が債権者の実損害を考慮せずにもっぱら当事者の意思に主眼を置いて あった。このような考慮からみると、もし違約金の約定による当事者の 意思決定のプロセスにおいて意思表示の瑕疵がなければ、法院が当事者 の意思自治を尊重すべきであるという旨が含まれると解される。この意 味において上記4件は、いずれも法規定による実損害差額主義の立場と 離れて、法院が当事者の意思自治を尊重した裁判例であると評価できる。 ② なす債務の不履行(不動産の引渡し義務の不履行)を対象とする遅 延違約金の紛争  増額否定例の21件のうち、不動産の引渡し義務の不履行を対象とする 遅延違約金の紛争が7件あった。この7件こおいて法院による増額の否 定の判決理由を、次の2つの事由に要約することができる。  ア、Xが自分の損失を挙証できていない(増額否定例3、16、20、 23、25)  イ、Xは、違約金の約定額が自分の損失と比較して低いことを挙証で きていない(増額否定例13、19) 論   説 [19] 北法69(1・186)186  この7件において上記に列挙された2つ事由に照らせば、法院は、X が自分の損失を挙証できていないため、Xの実損害を違約金の約定額と 比較することができないことを理由に、Xの増額請求を棄却したと解さ れる。この意味において上記の7件は、いずれも法院が実損害差額主義 を依拠した裁判例であると評価できる。 ③ なす債務の不履行(売買目的物の引渡し義務の不履行)を対象とす る違約金の紛争  増額否定例の25件のうち、売買目的物の引渡し義務の不履行による遅 延違約金をめぐる紛争が1件あった。否定例9は、Yが売買目的物を期 間通りにXに引き渡さなかったため、遅延違約金責任を問われた裁判 例である。法院による増額の否定の判断理由は、次のようなものである。  法院は、「Xが提供した証拠の一部に鑑みると、Yの違約行為がXに 大きな損失をもたらした。とはいえ、違約金の約定計算基準に基づき、 算出された違約金が基本的にXの損失を填補することができるため、 法院が違約金の約定に従い、違約金を決めるべきである。」ということ を理由に、違約金の増額請求を棄却した。  上記の法院による判決理由に照らせば、法院は、依然としてXの損 失を認定した上で、次いでそれを違約金の約定額と比較してほぼ同額で あることを理由に、違約金の増額請求を否定したと解される。本件は、 法院が実損害差額主義を依拠した裁判例であると評価できる。 ④ 金銭債務を対象とする遅延違約金の紛争  増額否定例のうち、残る1件の否定例24は、売買代金の未払いを対象 とする遅延違約金をめぐる紛争であった。法院による増額の否定の判断 理由は、次のようなものである。  法院は、「違約金の約定が明確であり、かつXが、違約金が自分の損 失の填補に不足することに挙証できていないため、違約金の約定に基づ いて、違約金の額を決めるべきである」ということを理由に、Xの増額 請求を棄却した。  上記の法院による判決理由に照らせば、法院は、Xによる損失の挙証 不能を理由とするのみならず、違約金の約定が明確であるとことを重視 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [20]北法69(1・185)185 している。すなわち、本件の判決理由においてXの損失の認定という 考慮のほか、違約金の約定を尊重すべきという旨も含まれると解される であろう。もっとも法院の判決理由に鑑みると、違約金の約定を尊重す べきという考慮は増額の否定の判断にどのぐらい寄与しているのかにつ いてはっきりとは示されていないが、少なくとも本件は、完全に法院が 実損害差額主義を徹底した裁判例であるとは評価できず、むしろ法院が 実損害差額主義と、当事者の意思自治の尊重を合わせて考慮した一例で あると推測される。 (ⅲ)総括  以上では、増額肯定例、増額否定例においてそれぞれの判決理由を詳 しく検討してきた。これらの検討に照らせば、裁判実務には違約金増額 の運用において法院が違約金の増額の可否を判断する場合には、いかな る傾向があるのかについて、次の2点をまとめることができる。  第1に、増額肯定例21件と増額否定例25件においてそれぞれ19件と20 件の裁判例は、法院が違約金を増額するか否かを判断する場合に、単に Xの損失があるか否か、いくらあるのかを認定し、それを違約金の違約 額と比較して低額であるか否かを理由に違約金の増額の可否を判断して いるものである。したがって、裁判実務において法院が基本的に法規定 による実損害差額主義を徹底したことが明らかにされた。  第2に、増額肯定例21件のうち、2件の裁判例のみは、法院が実損害 差額主義に依拠したほか、契約締結時、違約金の約定において真の意思 自治が達成されるか否かも考慮したものである。他方、増額否定例25件 のうち、4件の裁判例のみは、法院が違約金の約定による当事者の意思 自治を尊重したものであり、1件の裁判例のみは、法院が実損害差額主 義に依拠した同時に、違約金の約定による当事者の意思自治を考量した ものである。  以上のまとめに照らせば、裁判実務において法院は、基本的に法規定 による実損害差額主義の立場を徹底していることは、明らかにされた。 実損害差額主義の立場と離れて、少数説で主張したように、当事者の意 思自治を尊重する旨を貫いた裁判例も見られたが、ごく例外の裁判例で あるとしか評価できない。 論   説 [21] 北法69(1・184)184  以下では、裁判実務において違約金の増額の可否の判決理由について の検証の結果は、次の【図】12と【図】135で示しておく。 (2)違約金増額の運用の特徴  以上では、裁判実務において法院が違約金の増額の可否を判断する場 合には、増額の肯定と否定の判決理由について、裁判例群についての数 量分析によってその運用の傾向を明らかにした。それに基づいて、中国 5 【図】12、【図】13は、附表1(違約金の増額が認められた裁判例リスト)と附 表2(違約金の増額が認められなかった裁判例リスト)に基づいて違約金の増 額の可否の判決理由において本稿による詳細な検討を加えうえでその結果をま とめたものである。 90.5% 9.5% 実損害差額主義 19件 実損害差額主義+意思決定の瑕疵有無 2件 80.0% 16.0% 4.0% 実損害差額主義 20件 約定(意思自治)の尊重 4件 実損害差額主義+約定(意思自治)の尊重 1件 図12 増額の肯定の判決理由 図13 増額の否定の判決理由 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [22]北法69(1・183)183 法における違約金増額は、どのような特徴があるのかを析出してみたい。 (ⅰ)責任制限機能の弱体化  違約金の実益は、当事者があらかじめ契約違反の効果について損害賠 償を予定したことによって、違約金が債権者の実損害よりも低額である 場合には、違約金に責任制限機能を働かせるためである。  とはいえ、裁判実務による法院の判決理由についての検証に照らせば、 90.5%の増額肯定例(【図】12参照)と80%の増額否定例(【図】13参照)は、 実損害差額主義を徹底したものである。換言すれば、法院は、違約金の 増額の可否を判断する場合に、基本的に違約金による債権者の実損害の 填補という機能を働かせるため、違約金による責任制限の機能(実益) はほとんど意味が失われていると解される。この意味において、裁判実 務における違約金増額の運用は、違約金の実益を弱体化するという特徴 があると看取できる。 (ⅱ)意思自治の理念の否定  違約金の約定に従うことは、当事者の意思を尊重する意思自治の理念 である。それゆえに、法院が違約金の約定による意思決定プロセスにお いて意思表示の瑕疵がなければ、当事者の約定を尊重すべきである。さ もなくば、法院が当事者が予定していなかった額までの増額を認めるこ とは、当事者の意思自治に深刻な干渉となってしまう。  とはいえ、裁判実務による法院の判決理由についての検証に照らせば、 わずか9.5%の増額肯定例(【図】12参照)と20%の増額否定例(【図】13参 照)は、違約金の約定による当事者の意思自治を尊重する立場を示して いるものである。それに対して、90.5%の増額肯定例(【図】12参照)と 80%の増額否定例(【図】13参照)は、法院が実損害差額主義を徹底した ものであり、すなわち裁判実務において法院は、基本的に違約金と実損 害の均衡が図られていないことのみを理由に、違約金の増額を認めてい る、ということが明らかにされた。この意味において、裁判実務が法院 による違約金の増額に寛容な立場を示すことによって、意思自治の理念 が中国契約法においてまったく配慮されていないという特徴が浮き彫り になると看取できる。 論   説 [23] 北法69(1・182)182 附表1 違約金の増額が認められた裁判例リスト (北大法意 判決年月日2014年度) 番 号 判決号、 判決年月日 契約紛 争類型 当事者 の属性 違約金紛 争の類型 違約金の約定 (約定額または 約定計算基準) 債権者の 請求内容 法院による 増額の肯定 の判決理由 法院による増額の 計算要件と結果 1 (2013)屯 民一初字第 01350号 2014.1.8 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 支払い済み売 買代金の0.1‰ X 申請 日に支払い済 み売買代金の 0.1‰を基準 に、実際の遅 延日数に基づ き、違約金を 確定するよう 請求する。 Xの損失を法 定遅延貸付利 息の損失と認 定 違約金の額を改定 → 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金の額を計算する。 2 (2013)黄 民 初 字 第 8783号 2014.1.20 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 み売買代金の 0.01‰ X 申請 中国人民銀行 の同期 ・同類 の貸付利率を 基準に、実際 の遅延日数に 基づき、違約 金3.1万元を請 求する。 XとYの遅延 違約金責任の 不対等(Xの 売買代金の未 払いによる遅 延違約金の基 準が、日に支 払い済み売買 代金の0.3‰と なっていた) Xの請求を容認 3 (2014)嘉 秀民初字第 32号 2014.1.20 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 支払い済み売 買代金の1% X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、実際 の遅延日数に 基づき、違約 金の額を確定 するよう請求 する。 Xの損失を法 定遅延貸付利 息の損失と認 定 Xの請求を容認 4 (2014)蘇 中民終字第 3262号 2014.2.27 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 137元 (支払い済み 売買代金の 0.05%) X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、実際 の遅延日数に 基づき、違約 金の額を確定 するよう請求 する。 Xが損失を挙 証不能だが、 違約期間の長 さを考える と、Xが権利 を主張する関 連費用の必然 性 違約金の額を改定 → Yの違約期間 Xの費用支出の必然 性 4000元 5 (2014)鳥 中民四終字 第173号 2014.3.5 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 支払い済み売 買代金の0.1‰ X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、実際 の遅延日数に 基づき、違約 金3.5万元を請 求する。 Yの違約行為 は、Xの収益 損失をもたら した Xの請求を容認 6 (2014)塩 民 終 字 第 0602号 2014.3.26 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 み売買代金の 0.02‰ X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、実際 の遅延日数に 基づき、違約 金の額を確定 するよう請求 する XとYの遅延 違約金責任の 不対等(Xの 売買代金の未 払いによる遅 延違約金の基 準が、日に支 払い済み売買 代金の0.5‰と なっていた) Xの請求を容認 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [24]北法69(1・181)181 7 (2014)衡 民二終字第 135号 2014.4.4 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 中国人民銀行 の同期 ・同類 の貸付利率を 基準にする が、最高額が 未払い売買代 金の3‰まで とする。 X 申請 中国人民銀行 の同期 ・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、 違 約 金 9万元を請求 する。 Y違約期間の 長さを考える と、違約金の 約定がXの利 息損失を填補 することに足 りない。 Xの請求を容認 8 (2014)二 中民終字第 04263号 2014.4.10 売買 X個人 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の0.2‰ を基準にする が、最高額が 未払い売買代 金の3%まで とする。 X 申請 自分の損失に 基づき、違約 金20万元を請 求する。 Yの未払い売 買代金 Yの違約期間 違約金の額を改定 → 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金の額を計算する。 9 (2014)錫 民 終 字 第 0385号 2014.4.10 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 支払い済み売 買代金の1% X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 Xの損失を法 定遅延貸付利 息の損失と認 定 Xの請求を容認 10 (2014)盱 民 初 字 第 0326号 2014.4.16 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に売買代金 の0.05‰ X 申請 自分の損失に 基づき、4.32 万元の違約金 を請求する。 Xが損失を挙 証不能だが、 違約金の約定 が確かに著し く低い 違約金の額を改定 → 契約の約定、当事者 の故意・過失の度合 い、実際的損失など 日に売買代金の0.05 ‰を基準に、実際の 遅延日数に基づき、 違約金2.83万元を確 定する。 11 (2014)蓮 民 初 字 第 00739号 2014.4.21 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 み売買代金の 0.1‰、90日を 遅延すると、 支払い済み売 買代金の0.2% X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 違約金の額が Xの損失と一 致させなけれ ばならない。 Xの請求を容認 12 (2014)防 市民一終字 第74号 2014.4.28 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 み売買代金の 0.5‰、90日を 遅延すると、 支払い済み売 買代金の0.5% X 申請 中国人民銀行 の同期 ・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 約定された違 約金が確かに 損失により低 い Xの請求を容認 13 (2014)連 民 終 字 第 0100号 2014.5.8 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 み売買代金の 0.1‰ X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 Xの損失を法 定遅延貸付利 息の損失と認 定 Xの請求を容認 論   説 [25] 北法69(1・180)180 14 (2014)紹 柯民初字第 1280号 2014.5.15 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 60日を遅延す ると、支払い 済み売買代金 の5% X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 約定された違 約金がXの損 失よりも著し く低い Xの請求を容認 15 (2014)鞍 民一終字第 00252号 2014.5.19 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 60日を遅延す ると、支払い 済み売買代金 の0.1% X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金の 額を確定する よう請求する。 Xの請求が法 律に適合して いる Xの請求を容認 16 (2014)濱 民二初字第 60号 2014.7.11 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 180日を遅延す ると、支払い 済み売買代金 の1% X 申請 日に支払い済 み売買代金の 0.21‰を基準 に、実際の遅 延日数に基づ き、4.99万 元 を請求する。 Yの違約期間 の長さ 違約金の約定 がXの損失を 填補できない 違約金の額を改定 → 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金の額を計算する。 17 (2014)穗 南法民三初 字第960号 2014.8.18 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 30日を遅延す ると、日に売 買代金の0.3‰ を基準にする が、最高額が 未払い売買代 金の5%まで とする。 X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、 違 約 金 8万元を請求 する。 Xの請求が法 律に適合して いる 違約金の額を改定 → 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金の額を計算する が、最高額が売買代 金の額までとし、す なわち7.5万元とす る。 18 (2014)青 民一初字第 1713号 2014.8.20 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 674.88元 (支払い済み 売買代金の 0.1%) X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、 違 約 金 8万元を請求 する。 Y違約期間の 長さ(6年) 損失が客観的 に存在する可 能性 Xの請求を容認 19 (2014)浙 紹民終字第 1009号 2014.10.8 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 238元 (支払い済み 売買代金の 0.01%) X 申請 日に支払い済 み売買代金の 0.5%を基準 に、遅延日数 に基づき、違 約金を請求す る。 Y違約期間の 長さ 売買代金の高 さ 違約金の額を改定 → 綜合考慮 1.2万元 20 (2014)穗 中法民五終 字3794号 2014.10.30 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に売買代金 の0.05%を基 準にするが、 最高額が売買 代金の1%ま でとする。 X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づ き、違約金を 確定するよう 請求する。 Yの違約期間 の長さ Xの請求を容認 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [26]北法69(1・179)179 21 (2014)杭 経開民初字 第1270号 2014.11.17 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 2.52万元 (60日を遅延 すると、支払 い済み売買代 金の10%) X 申請 中国人民銀行 の同期・同類 の貸付利率を 基準に、遅延 日数に基づき、 違約金7.83万 元を請求する。 Xの請求が法 律に適合して いる Xの請求を容認 附表2 違約金の増額が認められなかった裁判例リスト (北大法意 判決年月日2014年度) 番 号 判決号、 判決年月日 契約紛 争類型 当事者 の属性 違約金紛争 の類型 違約金の約定 (約定額または 約定計算基準) 債権者の請求内容 法院による増額の否定の判決理由 1 (2013)天民 初字第2696号 2014.1.7 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 4700元 (支払い済み売 買代金の1%) X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金3.5万元を請求 する。 契約の約定に従うべ き 2 (2013)防市 民一終字第 264号 2014.1.15 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 75元 (支払い済み売 買代金の0.3‰) X 申請 日に支払い済み売買 代金の0.3‰を基準 に、実際の遅延日数 に基づき、違約金9.1 万元を請求する。 Xが損失を挙証不能 3 (2013)承民 終字第1786号 2014.1.20 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に支払い済み 売 買 代 金 の 0.05‰ X 申請 日に本不動産と同地 域・同類不動産の賃 貸料を基準に、実際 の遅延日数に基づ き、違約金の額を確 定するよう請求する。 Xが損失を挙証不能 4 (2014)潼法 民 初 字 第 00272号 2014.2.17 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 日に支払い済み 売 買 代 金 の 0.01‰ X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金の額を確定する よう請求する。 Xは、違約金の約定 が自分の損失により 低いことに挙証不能 5 (2014)雲民 一初字第49号 2014.2.26 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 3万元 (支払い済み売 買代金の1%) X 申請 日に支払い済み売買 代金の0.3‰を基準 に、実際の遅延日数 に基づき、違約金25 万元を請求する。 契約の約定に従うべ き 6 (2014)香民 初字第112号 2014.3.8 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 302元 (売買代金の 0.1%) X 申請 売買代金の2%を基 準に、違約金1.5万 元を請求する。 Xが損失を挙証不能 7 (2014)防市 民一終字第37 号 2014.3.10 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 139元 (売買代金の 0.5‰) X 申請 日に支払い済み売買 代金の0.5‰を基準 に、実際の遅延日数 に基づき、違約金の 額を確定するよう請 求する。 Xが損失を挙証不能 論   説 [27] 北法69(1・178)178 8 (2013)益赫 民一初字第 1513号 2014.3.12 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 297.5元 (支払い済み売 買代金の0.1%) X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金3.9万元を確定 するよう請求する。 契約の約定が明らか であり、法律の規定 に違反していない 9 (2013)青羊 民初字第4962 号 2014.3.21 売買 X売買 Y企業 売買目的物の 引渡しの不履 行による遅延 違約金 日に売買代金の 0.5% X 申請 自分の実際の損失よ り、違約金85.27万 元を請求する。 Xが損失に部分的に 挙証違約金の約定が 基本的にXの損失を 填補できる。 10 (2014)沈和 民二初字第 00040号 2014.3.31 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 971元 (日に支払い済 み売買代金の 0.02‰) X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金9818元を請求す る。 Xが損失を挙証不能 11 (2014)沈中 民二終字第 459号 2014.4.15 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 1.95万元 (日に支払い済 み売買代金の 0.1‰) X 申請 5万元の違約金を請 求する。 Yの違約により、X に損失をもたらして いない。 12 (2012)歴商 初字第1767号 2014.5.13 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 1.37万元 (支払い済み売 買代金の1.5%) X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金14.98万元を確 定するよう請求する。 Xが損失を挙証不能 13 (2014)穗中 法民五終字第 1549号 2014.5.29 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に未払い売買 代金の0.1‰を 基準にするが、 未払い売買代金 の5%までとす る。 X 申請 日に未払い売買代金 の0.1‰を基準に、 実際の遅延日数に基 づき、未払い売買代 金の額までに違約金 を確定するよう請求 する。 Xが損失を挙証不能 14 (2014)防市 民一終字第 178号 2014.6.12 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 76.7元 (支払い済み売 買代金の0.3‰) X 申請 日に支払い済み売買 代金の0.3‰を基準 に、実際の遅延日数 に基づき、違約金を 確定するよう請求す る。 契約の約定が明らか でありXが損失を挙 証不能 15 (2014)海民 初字第1475号 2014.6.20 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 174.42元 (支払い済み売 買代金の0.1%) X 申請 日に支払い済み売買 代金の0.3‰を基準 に、実際の遅延日数 に基づき、違約金 10.9万元を請求する。 契約の約定が明らか であり、法律の規定 に違反していない 16 (2014)西民 初字第1148号 2014.7.10 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に売買代金の 0.01‰ X 申請 日に売買代金の0.1‰ を基準に、実際の遅 延日数に基づき、違 約金8.17万元を請求 する。 Xが損失を挙証不能 17 (2014)蓮民 初字第01203 号 2014.7.16 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による遅延 違約金 4690元 (支払い済み売 買代金の1%) X 申請 支払い済み売買代金 の2.5%を基準に、 違約金1.17万元を請 求する。 Xが損失を挙証不能 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [28]北法69(1・177)177 第2節 違約金減額の運用実態に間する数量分析  本節は、違約金減額の運用実態に関する数量分析を行う。違約金増額 の運用に関する裁判例リストと同様に、違約金減額の運用に関する裁判 例リストを作成する場合に、各裁判例における留意点を示しておく。た だし、違約金増額の運用において債権者の請求内容という留意点と異な 18 (2014)博商 初字第446号 2014.7.23 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産名義書 換義務の不履 行による違約 金 3万元 X 申請 違約金6万元を請求 する。 Xが損失を挙証不能 19 (2014)文民 初字第1403号 2014.8.19 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に支払い済み 売買代金の0.1‰ X 申請 中国人民銀行の同期 ・同類の貸付利率を 基準に、実際の遅延 日数に基づき、違約 金3.8万元を請求す る。 Xは、違約金の約定 が自分の損失により 低いことに挙証不能 20 (2014)東二 法沙民一初字 第257号 2014.8.27 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に支払い済み 売買代金の0.2‰ X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、遅延日数 に基づき、違約金の 額を確定するよう請 求する。 Xが損失を挙証不能 21 (2014)大東 民小字第2880 号 2014.9.10 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による違約 金 770元 (支払い済み売 買代金の0.1%) X 申請 支払い済み売買代金 の1%を基準に、違 約金7703元を請求す る。 事実に根拠なし 22 (2014)解民 二初字第212 号 2014.10.10 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書 換義務の不履 行による違約 金 1770.1元 (支払い済み売 買代金の1%) X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、遅延日数 に基づき、違約金4.5 万元を請求する。 Xが損失を挙証不能 23 (2014)烟民 一終字第850 号 2014.10.22 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 日に支払い済み 売買代金の0.1‰ X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、遅延日数 に基づき、違約金 1.36万元を請求する。 Xが自分の主張に証 拠なし 24 (2014)卾鍾 祥民二初字第 00187号 2014.11.3 不動産 売買 X企業 Y企業 売買代金の未 払いによる遅 延違約金 日に未払い売買 代金の0.03‰を 基準にするが、 最高額が未払い 売買代金の1% までとする。 X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、遅延日数 に基づき、違約金の 額を確定するよう請 求する。 契約の約定が明確 Xは、約定された違 約金が著しく低いこ とに挙証不能 25 (2014)二中 速民終字第 2035号 2014.11.28 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡 しの不履行に よる遅延違約 金 中国人民銀行の 同期・同類の貸 付利率を基準に するが、最高額 が売買代金の 2%までとする。 X 申請 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利率 を基準に、遅延日数 に基づき、違約金の 額を確定するよう請 求する。 Xが損失を挙証不能 論   説 [29] 北法69(1・176)176 り、違約金減額の運用において違約金減額の訴訟は如何にして開始され たのかという訴訟上の要件に注目する6。  上記の要件に基づき、本節は、違約金の減額が認められた裁判例リス ト(北大法意 判決年月日2014年度)と違約金の減額が認められなかっ た裁判例リスト(北大法意 判決年月日2014年度)を作成し、それぞれ 附表3と附表4としてその内容を示しておく。また裁判例が多いため、 本節は、附表3と附表4を本文で付けずに参考資料にて本節の最後に添 付する。それを踏まえて、以下では、法院による違約金の減額が認めら れた裁判例(2014年度、附表3)と法院による違約金の減額が認められ なかった裁判例(2014年度、附表4)について検討を行うこととする。 1 全体図の概要  2014年の一年間に判決が下された違約金の減額が認められた裁判例 (以下では、違約金の減額が認められた裁判例を、減額肯定例と称する) は127件あり、認められなかった裁判例(以下では、違約金の減額が認 められなかった裁判例を、減額否定例と称する)は22件しかなかった。 裁判例の数を見ると、減額肯定例が減額否定例に比較して圧倒的に多 かったのである。以下では、まず裁判例の概要をまとめる。  第1に、違約金紛争の類型という要件から減額肯定例を見ると、遅延 違約金、普通違約金、解約違約金を対象とする3つの類型の紛争に分か れる。  遅延違約金を対象とする紛争のうち、金銭債務の不履行(契約代金の 未払い)となす債務の不履行(契約義務の不履行)に分かれる。金銭債 務の不履行を対象とする紛争は、借金11件、賃貸借11件、売買45件、サー 6 違約金減額の適用に関する訴訟要件について、第1章による法規定で検討し たように、違約金減額の適用は、原則的に債務者の申請によるが、法院の釈明 による場合も規定されている。また法規定は明確に規定していないが、裁判実 務において法院の職権による裁判例もあるか否かも一つの注目点である。もっ とも、これらの一連の問題は、違約金減額の運用における訴訟上の論点である ため、本稿の問題関心から離れるものである。それゆえに、本稿は、裁判実務 の検討において違約金減額の適用に関するの訴訟要件を、全体図のまとめにす る。それについての詳細な検討は、別稿で考察する予定である。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [30]北法69(1・175)175 ビス7件、請負10件、特許1件、人身損害賠償1件、株式譲渡1件とい う構成である。それに対して、なす債務の不履行を対象とする紛争は、 不動産の引渡し5件、契約目的物の引渡し2件、請負2件、不動産名義 書換5件、サービス1件という構成である。  普通違約金を対象とする紛争のうち、金銭債務の不履行(契約代金の 未払い)となす債務の不履行(契約義務の不履行)に分かれる。金銭債 務の不履行を対象とする紛争は、賃貸借1件、株式譲渡1件、請負1件 という構成である。それに対して、なす債務の不履行を対象とする紛争 は、競業避止2件、株式譲渡手続き1件、著作権許可使用1件、売買1 件、賃貸借1件、不動産の引渡し1件という構成である。  解約違約金を対象とする紛争のうち、金銭債務の不履行(契約代金の 未払い)、なす債務の不履行(契約義務の不履行)に分かれる。金銭債務 の不履行を対象とする紛争は、賃貸借2件、売買3件という構成である。 それに対して、なす債務の不履行を対象とする紛争は、不動産の引渡し 4件、賃貸借4件、請負1件、委託1件という構成である。  他方、減額否定例の場合において、違約金紛争の類型も遅延違約金、 普通違約金、解約違約金を対象とする3つの類型の紛争に分かれる。  遅延違約金を対象とする紛争のうち、金銭債務の不履行(契約代金の 未払い)となす債務の不履行(契約義務の不履行)に分かれる。金銭債 務の不履行を対象とする紛争は、売買6件、賃貸借2件という構成であ る。それに対して、なす債務の不履行を対象とする紛争は、売買目的物 の引渡し1件、不動産名義書換1件、不動産の引渡し3件という構成で ある。  普通違約金を対象とする紛争のうち、金銭債務の不履行(契約代金の 未払い)となす債務の不履行(契約義務の不履行)に分かれる。金銭債 務の不履行を対象とする紛争は、労災賠償1件、売買1件という構成で ある。それに対して、なす債務の不履行を対象とする紛争は、賃貸借1 件、不動産の引渡し1件、転貸禁止1件、運送1件、株式譲渡手続き1 件という構成である。  解約違約金を対象とする紛争のうち、2件は、いずれもなす債務の不 履行(契約義務の不履行)を対象とする紛争である。その内容は、1件 が売買目的物の引渡し、1件が賃貸借という構成である。 論   説 [31] 北法69(1・174)174  第2に、当事者の属性という要件から減額肯定例を見ると、X(企業) とY(企業)の間の紛争が50件、X(個人)とY(個人)の間の紛争が21 件ある。それに対して、X(企業)・Y(個人)の間の紛争が27件、X(個人) とY(企業)の間の紛争が29件ある。他方、減額否定例の場合において、 X(企業)とY(企業)の間の紛争が9件、X(個人)とY(個人)の間の 紛争が3件ある。それに対して、X(企業)とY(個人)の間の紛争が4件、 X(個人)とY(企業)の間の紛争が6件ある。  第3に、違約金の定め方から、減額肯定例を見ると、最も多かったの は、当事者が純粋に違約金の計算方法(日に一定額か日に契約代金の 何%)を約定するパターンであり、96件がある。次は、当事者が純粋に 一定額の違約金(具体額か契約代金の何%)を約定するパターンであり、 29件がある。上記の2つのパターンの他には、当事者が違約金の計算方 法を約束するが、一定の条件のもと一定額の違約金に転換させるパター ンが1件ある。当事者が違約金の計算方法と一定額の違約金をあわせて 約束するパターンが1件ある。  他方、減額否定例の場合において、当事者が純粋に一定額の違約金(具 体額と契約代金の何%)を約定するパターンが13件ある。当事者が純粋 違約金の計算方法(日に一定額か日に契約代金の何%)を約定するパター ンが9件ある。  第4に、訴訟上の要件から減額肯定例を見ると、次の4パターンを要 約することができる。  ①、Yが違約金の減額を請求するパターン。このパターンの裁判例が 最も多くて114件ある。  ②、Yが欠席する場合に、法院の職権による減額のパターン。このパ ターンの裁判例が5件ある。  ③、法院は、Yによる契約違反否認という答弁を、違約金が著しく高 く減額を請求するという抗弁とみなした上で、違約金を減額するパター ン。このパターンの裁判例が4件ある。  ④、法院が違約金の減額を請求するか否かをYに釈明した場合に、Y は違約金の減額を請求するパターン。このパターンの裁判例が4件ある。  他方、減額否定例の場合において、22件の裁判例は、いずれもYが 違約金の減額を申請するものである。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [32]北法69(1・173)173  第5に、法院による減額の判決理由から減額肯定例を見ると、次の10 の事由にまとめられる。①違約金の約定額または約定計算基準が著しく 高いこと(60件)、②Xが損失を挙証できていないこと(50件)、③Xの 損失が法定遅延貸付利息損失と認定されること(25件)、④Xの損失が 不動産賃貸料の損失と認定されること(3件)、⑤違約金の約定額がX の損失とほぼ同額されるべきであること(3件)、⑥Yによる債務の一 部履行(3件)、⑦Yの故意・過失の度合い(2件)、⑧Xが契約の履行 に過失を寄与すること(2件)、⑨Yの違約行為が重大な契約違反では ない(1件)、⑩Yの違約行為が故意契約違反ではない(2件)。  他方、法院による減額の判断理由から減額否定例を見ると、次の9つ の事由にまとめられる。①違約金の約定額または約定計算基準が著しく 高くないこと(3件)、②違約金の約定額が法定遅延貸付利息と比較し て著しく高くないこと(6件)、③違約金の約定額が不動産賃貸料相場 に基づき算出された損失と比較して著しく高くないこと(1件)、④Y がXの損失を挙証できていないこと(5件)⑤Xの損失が生じる可能性 (3件)、⑥Yが故意(悪意)違約(5件)⑦Yの違約行為が重大な契約 違反を構成すること(3件)。  これらの違約金の減額に関する肯定の事由と否定の事由について如何 にして読み解くのかは、検討の部分にゆだねることとする。  第6に、減額肯定例の場合には、法院による減額要件および結果を見 ると、次の4つのパターンをまとめることができる。  ① 法院が中国人民銀行による同類の貸付利率(1~4倍)7を基準と 7 ここで、なぜ法院が債権者の法定遅延利息を中国人民銀行の貸付利率の1倍 から4倍までに認定しているのかというと、最高人民法院「人民法院による借 金案件への審理に関する若干の意見」(法〈民〉発[1991]21号)6条は、「民間 貸付の利率が銀行の利率よりも適当に高くなることができる。各地の人民法院 が本地域の実際的な状況に基づき自由にその利率を定めることができるが、中 国人民銀行による同類の貸付利率の4倍を超えてはならない。超えた部分の利 息が保護されてはならない。」と規定するからである。それゆえに、本条文が 民間借金による最高貸付利率を定めるものであるが、金融機関による貸付利率 も、中国人民銀行による同類の貸付利率の4倍を超えてはならないと類推適用 されるべきである。さもなくば、法律が民間貸付による高利貸しを禁止しなが 論   説 [33] 北法69(1・172)172 し実際の遅延日数に基づいて違約金を算出した(法定遅延貸付利息損失 と認定)減額肯定例が37件ある。  ② 法院が中国人民銀行による同類の貸付利率(1~4倍)を基準と し実際の遅延日数に基づいて違約金を算出した(法定遅延貸付利息損失 の1.3倍と認定)減額肯定例が36件ある。  ③ 法院が不動産相場を基準とし実際の遅延日数に基づいて違約金を 算出(不動産賃貸料の損失と認定)した減額肯定例が3件ある。  ④ 法院が綜合考量、公平と誠実信用原則に基づき、違約金を斟酌し た減額肯定例が51件ある。  以上のまとめに照らせば、違約金減額の運用に関する基本的な状況を、 肯定例と否定例に分けてそれぞれ図で示しておく。  減額肯定例のまとめを、次の【図】14 ~ 198で示す。 らも、金融機構貸付による高利貸しを認めるという不都合が生じることになる。 したがって、民間貸付、金融機構貸付の場合を問わず、法定貸付利率を認めら れる範囲は、中国人民銀行による同類の貸付利率の1~4倍ということになる。 戴孟勇「関与利息管制的疑問及思考」崔建遠『民法九人行(第6巻)』(法律出版社・ 2012)47 ~ 50頁参照。 8 【図】14~ 19は、附表3(違約金の減額が認めれた裁判例リスト)に基づいて、 その概要を要件ごとに整理するものである。 68.5% 11.8% 2.4% 5.5% 3.9% 7.9% 金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金 87件 なす債務の不履行を対象とする遅延違約金 15件  金銭債務の不履行を対象とする普通違約金 3件 なす債務の不履行を対象とする普通違約金 7件 金銭債務の不履行を対象とする解約違約金 5件 なす債務の不履行を対象とする解約違約金 10件 図14 違約金紛争の類型 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [34]北法69(1・171)171 89.7% 3.9% 3.2% 3.2% 債務者の申請によるパターン 114件 債務者が欠席する場合、法院の職権によるパターン 5件 法院が債務者の違約否認を債務者の申請とみなすパターン 4件 法院の釈明により債務者の申請によるパターン 4件 図17 訴訟手続き 23% 75% 1% 1% 当事者が純粋に一定額の違約金(具体額と契約代金の何%)を約定したパターン 29件 当事者が純粋に違約金の計算方法(日に契約代金の何%)を約定したパターン  96件 当事者が違約金の計算方法と一定額を両方約束したパターン 1件 当事者が違約金の計算方法を約束したが、条件付きに一定額の違約金へと転換されたパターン 1件 図16 違約金の定め方 22.8% 39.4% 16.5% 21.3% X(個人)vs Y(企業) 29件 X(企業)vs Y(企業) 50件 X(個人)vs Y(個人) 21件 X(企業)vs Y(個人) 27件 図15 当事者の類型 論   説 [35] 北法69(1・170)170  減額肯定例のまとめを、次の【図】20 ~ 239で示す。 9 【図】20~ 23は、附表4(違約金の減額が認められなかった裁判例リスト)に 基づいて、その概要を要件ごとに整理するものである。 39.8% 33.1% 18.5% 2.0% 2.0% 3.3% 1.3% 違約金の約定額又は約定計算基準が著しく高いこと 60件 Xが損失に挙証不能 50件 Xの損失を法定遅延貸付利息損失、不動産賃貸料損失と認定 28件 違約金の約定額をXの損失と相当させなければならないこと 3件 Yが一部履行したこと 3件 Yが重大な契約違反または故意契約違反ではないこと 5件 Xが契約違反に過失寄与 2件 29.1% 28.3%2.4% 40.2% 中国銀行遅延貸付利率(1〜4倍)による計算額 37件 中国銀行遅延貸付利率(1〜4倍)による計算額の1.3倍 36件 不動産賃貸料相場による計算額 3件 綜合考量、公平と誠実信用原則に基づき斟酌した額 51件 図18 法院による減額肯定の判断事由 図19 法院による減額の計算要件および結果 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [36]北法69(1・169)169 36.4% 22.7% 9.1% 22.7% 9.1% 金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金 8件 なす債務の不履行を対象とする遅延違約金 5件  金銭債務の不履行を対象とする普通違約金 2件 なす債務の不履行を対象とする普通違約金 5件 なす債務の不履行を対象とする解約違約金 2件 図20 違約金紛争の類型 27.3% 41.0% 13.6% 18.1% X(個人)vs Y(企業) 6件 X(企業)vs Y(企業) 9件 X(個人)vs Y(個人) 3件 X(企業)vs Y(個人) 4件 図21 当事者の類型 59.0% 41.0% 当事者が純粋に一定額の違約金(具体額と契約代金の何%)を約定したパターン 13件 当事者が純粋に違約金の計算方法(日に契約代金の何%)を約定したパターン  9件 図22 違約金の定め方 論   説 [37] 北法69(1・168)168 2 検討  以上の整理に照らせば、裁判実務において違約金減額が如何にして働 いているのかについてその全貌を把握することができる。その中で、本 稿の目的との関連で検討する必要があるのは、法院による減額の肯定の 判断事由(【図】18)と法院による増額の否定の判断事由(【図】23)である。 全体図による【図】18と【図】23についての整理は、ただ判決理由に用い られる用語を初歩的に纏めたに過ぎないものである。実際には、これら の事由がどのような法的意味が含まれるのか、如何にして読み解かれる べきなのかについて、さらなる詳細な検討がかけてはならないように思 われる。違約金増額の運用に関する検討の手法と同様に、違約金減額を 検討する場合においても、まず第1章では検討した法規定、学説は、法 院による減額の判断要件について如何にして説明しているのかを再度確 認し、その上で裁判実務においてこられの要件をどのようにして捉える べきなのかを補足する。  第1章による法規定、通説の立場に照らせば、法院は、違約金の減額 の可否を判断する場合には、実損害差額主義を主とし、付加的な要件の 考量を従とするという判断構造が求められる。換言すれば、違約金減額 の運用において法院の判断要件は、基礎的な要件と付加的な要件に分か 11.5% 23.1% 3.8% 19.2% 11.5% 30.9% 違約金の約定額又は約定計算基準が著しく高いのではないこと 3件 違約金の約定額が法定遅延貸付利息よりも著しく高くないこと 6件 違約金の約定額が不動産賃貸料相場に基づく損失計算額よりも著しく高くないこと 1件 YがXの損失に挙証不能 5件 Xの損失が生じる可能性 3件 Yが故意(悪意)違約、重大な契約違反 8件 図23 法院による減額否定の判断事由 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [38]北法69(1・167)167 れる。以下では、順次に分析する。  第1に、基礎的な要件 ── 債権者の実損害。違約金増額の運用の 場合と同様に、法院が違約金の減額の可否を判断する場合には、実損害 差額主義を徹底すべき立場は変わらない。ただ注意しておきたいのは、 ここでの実損害差額主義において、違約金と実損害の比較基準が「高い」 のではなく、「著しく高い」となっている。その「著しく高い」について 量化の基準も規定されている。すなわち違約金の約定額が債権者の実損 失の1.3倍よりも高額でありさえすれば、「著しく高い」という比較基準 が満たされることになる。  第2に、付加的な要件── 違約金増額の運用の場合との違いが呈さ れているのは、法院が違約金の減額の可否を判断する場合には、契約の 履行状況(債務の一部履行)、当事者の故意・過失の度合い、逸失利益 が付加的な考量の事由として提示されている。法規定がこれらの付加的 な考量の事由が減額の可否に寄与する意味をはっきりと規定していない が、学説は、これらの付加的な考量の事由を解釈している。以下では、 学説の説明に照らせば、これらの付加的な要件は、どのような法的意味 があるのかを指摘しておく。  まず、学説は契約の履行状況が主に債務の一部履行による減額を指し ていると説明している。とはいえ、その減額の論理に鑑みると、減額の 実質が債権者の実損害から債務の一部履行によって債権者が受けた利益 が差し引かれるという引き算の思考が働くものであるため、依然として 実損害差額主義の思考にとどまると解される。  また、学説は、逸失利益とは当事者が実際に発生した損失ではなく、 単に発生するであろうという期待の利益である、と説明しているが、そ の実質は債権者の損失の一部を構成するものである、と指摘している。 換言すれば、逸失利益も法院が債権者の実損害を認定する段階において 考量するものであるため、その実質も依然として実損害差額主義の論理 に属すると解される。  さらに、学説は、当事者の故意・過失の度合いが債務者の故意違約と 債権者の寄与過失の場合を指していると理解している。すなわち、前者 が法院が減額を否定する判断に寄与する一方で、後者が法院が減額を肯 定する判断に寄与すると説明している。換言すれば、当事者の故意・過 論   説 [39] 北法69(1・166)166 失の度合いという事由は、法院が当事者の帰責性を問うことで、減額の 可否の根拠とするものである。この意味において、当事者の故意・過失 の度合いという要件は、非難可能性という意味を有すると解される。  第3に、法規定は、上記の基礎的な要件と付加的な要件を明文化して いるほか、公平原則と誠実信用原則という原理的な要件を規定している。 とはいえ、学説は、公平原則と誠実信用原則があくまでも抽象的な理念 に過ぎず、法院に判断の自由裁量権を与えるものであると解釈している。 実際の裁判例において法院が公平原則と誠実信用原則を考量しているか 否か、また如何なる意味で考量しているかは、注目に値する。  以上の法規定、学説による説明に照らせば、実際の裁判例において法 院が、減額の可否を判断する場合には、どのぐらい実損害差額主義に依 拠しているのか、またそれ以外には、当事者の故意・過失の度合いによ る非難可能性や、公平原則と誠実信用原則についての考量があるのか。 裁判実務において全体的にどのような特徴があるのかについて、裁判例 に基づいて検討する。 (1)減額の肯定、否定の判決理由  以下では、裁判実務において減額の肯定、否定の判決理由を検証する。 なお違約金減額の運用に関する裁判例を検証する前に、次の2点を説明 しておきたい。  第1に、裁判例の検討の順番について、違約金減額の運用に関する裁 判例において違約金紛争の類型が違約金増額の運用に関する裁判例と比 較して多様であるため、本部分は、遅延違約金の紛争、普通違約金の紛 争、解約違約金の紛争という3つの類型に基づき検討を進めることとす る。  第2に、各裁判例に鑑みると、借金、賃貸料、売買などの様々な契約 紛争は見られるが、契約による違約金責任の実質を見ると、依然として 金銭債務の不履行となす債務の不履行という2種類の契約不履行責任を 要約することができる。それゆえに、本部分は、違約金増額の運用に関 する検討の手法と同様に、金銭債務を対象とする違約金紛争となす債務 を対象とする違約金紛争に基づいて検討を進めることとする。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [40]北法69(1・165)165 (ⅰ)減額肯定例についての検討  減額肯定例を全体的に見ると、最も多かったのは、遅延違約金の紛争 であり、102件ある。次は、普通違約金の紛争が10件ある。さらには、 解約違約金の紛争が15件ある。違約金減額の運用に関する裁判例の件数 が多かったため、違約金類型ごとに示しようとする裁判例について、本 文では件数のみを示すにとどめ、具体的な裁判例の番号を注で示してお く。以下では、詳しく検討する。 ① 遅延違約金の紛争  遅延違約金の紛争において金銭債務の不履行を対象とする裁判例が87 件ある。それに対して、なす債務の不履行を対象とする裁判例が15件し かなかった。以下では、それぞれ検討する。 (a)金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争  違約金の減額を認められた減額肯定例において最も多かったのは、金 銭債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争であり、87件があった。 この87件において、法院による減額の肯定の判決理由を、次のように要 約することができる。  (A)87件のうち、84件において法院による判決理由を、次の8つの 事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(43件10)  イ、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い、しかもXが 損失を挙証できていない(2件11)  ウ、Xが損失を挙証できていない(14件12) 10 減額肯定例1、5、7、16、23、29、37、85、92、95、110(借金)、減額肯 定例3、17、33、40、61、102、105(賃貸借)、減額肯定例11、27、28、35、 36、46、53、59、60、78、79、82、87、88、106、107、124、126(売買)、減 額肯定例9、15、34、77(サービス)、減額肯定例47(請負)、減額肯定例12(特 許)、減額肯定例25(人身損害賠償)。 11 減額肯定例4、123(売買)。 12 減額肯定例55、98、100(賃貸借)、減額肯定例19、39、49、84、93、119、121(売 買)、減額肯定例74、75(サービス)、減額肯定例114、120(請負)。 論   説 [41] 北法69(1・164)164  エ、Xが損失を挙証できていない、Xの損失を法定遅延貸付利息損失 と認定(11件13)  オ、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高く、Xの損失を法 定遅延貸付利息損失と認定(3件14)  カ、XとYがともに損失を挙証できていない(2件15)  キ、Xの損失を法定遅延貸付利息損失と認定(8件16)  ク、違約金の約定額をXの損失とほぼ同額とするべき(1件17)  この84件において上記の列挙された8つの事由の実質を検討すると、 法院がXの損失の認定を中心とし、それを違約金の約定額と比較する ことを唯一の減額の理由としているであろう。換言すれば、法院は、違 約金の約定額がXの損失と比較してより著しく高額でありさえすれば、 その減額を認めると解される。この意味において、上記の84件は、いず れも法院が実損害差額主義を徹底した裁判例であると評価できる。  (B)87件のうち、減額肯定例70と減額肯定例76は、法院が債務の一 部履行によって違約金を減額した裁判例である。以下では、詳しく分析 する。  減額肯定例70の判旨によれば、法院による減額の肯定の判決理由を、 「Yが契約代金の大部分(60%)をすでに支払ったことに鑑みると、違約 金の約定が確かに著しく高いため、法院は違約金を減額する」、とされる。  減額肯定例76の判旨によれば、法院による減額の肯定の判決理由を、 「本件における契約履行の実際的状況に鑑みると、Yが期間通りに支払 わなかった契約代金が契約代金の21.6%しか占めなかったため、違約金 の約定計算基準に基づいて計算された額がⅩの経済的損失および逸失利 益に比較して著しく高くなる。それゆえに、法院は違約金を減額する」、 とされる。 13 減額肯定例38、48、54、64、90、99、112、116、118(売買)、減額肯定例117(サー ビス)、減額肯定例96(請負)。 14 減額肯定例42、94(売買)、減額肯定例41(請負)。 15 減額肯定例45(売買)、減額肯定例115(請負)。 16 減額肯定例7(借金)、減額肯定例58、69、97、103(売買)、減額肯定例63、 101(請負)、減額肯定例50(譲渡)。 17 減額肯定例111(請負)。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [42]北法69(1・163)163  上記の2件の判決理由に照らせば、Yがすでに契約の一部(60%と 21.6%)を履行することで、Ⅹの損失が少なくなった。法院が違約金の 約定Xの損失と比較して著しく高額であることを理由に違約金を減額 する旨が見られる。換言すれば、法院による減額の判決理由は、表面的 にいずれもYによる契約の一部履行のためであるが、その実質が、Ⅹ の実損害から債務の一部履行によって得られた利益が差し引かれるとい う引き算の思考が働いた結果として違約金がXの実損害よりも著しく 高額であると解されるであろう。この意味において、上記の2件は、依 然として法院が実損害差額主義に依拠した裁判例であると評価できる。  (C)87件のうち、残る減額肯定例83のみは、法院がⅩの損失を認定 したほか、Yの過失の度合いを考量したという特徴が見られる裁判例で ある。以下では、詳しく分析する。  減額肯定例83の判旨によれば、法院による減額の肯定の判断理由を、 「違約金の約定は、契約当事者の自由の意思によるものであり、その目 的が債務者の違約行為を未然に防ぐためである。とはいえ、Ⅹの損失よ りも著しく高額な違約金は、明らかに公平合理の原則に違反するもので ある。またYが悪意(故意)違約をしたわけではないため、法院がYの 減額の請求を支持する」、とされる。  本件の判決理由に照らせば、法院が、違約金がXの損失よりも著し く高額であることを認定すると同時に、Yの違約行為が悪意(故意)違 約ではないことを根拠としたことは、特徴的である。換言すれば、Yが 悪意(故意)違約をしたのでなければ、法院が約定された高額な違約金 をもってYへと制裁を与えてはならないと旨が含まれると解される。 この意味において、本件は、法院が実損害差額主義を根拠とするだけで はなく当事者の非難可能性を考量した一例であると評価できる。 (b)なす債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争  遅延違約金の紛争においてなす債務の不履行を対象とする裁判例が15 件あった。法院による減額の肯定の判決理由を、次のように要約するこ とができる。  上記の15件において法院による判決理由を、次の6つの事由に要約す ることができる。 論   説 [43] 北法69(1・162)162  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(4件18)  イ、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い、しかもXが 損失を挙証できていない(2件19)  ウ、Xが損失を挙証できていない(6件20)  エ、Xが損失を挙証できていない、Xの損失を法定遅延貸付利息損失 と認定(1件21)  オ、XとYがともに損失を挙証できていない(1件22)  カ、Xの損失を不動産賃貸料の損失と認定(1件23)  この15件において上記に列挙された6つの事由の実質を見ると、法院 がXの損失の認定を中心とし、それを違約金の約定額と比較すること を減額の理由としているであろう。注意しておきたいのは、上記の事由 の内容においてXが損失を挙証できていないという事由は最も多く取 り上げられたことである。換言すれば、Xの損失が確定されにくいなす 債務の不履行を対象とする紛争の場合には、法院がⅩの損失を認定する 段階において、違約金の約定額がXの損失と比較して著しく高額であ ることに関する証明責任をXに負わせる傾向が示されており、もしX が損失を挙証できていないのであるならば、法院は、Yの違約金減額請 求を容認すると見て取れる24。とはいえ、このような判断の実質も、X 18 減額肯定例91、113(不動産の引渡し義務)、減額肯定例22、104(請負義務)。 19 減額肯定例6(不動産の引渡し義務)、減額肯定例10(契約目的物の引渡し義 務)。 20 具体的には、減額肯定例84(不動産の引渡し義務)、減額肯定例18(契約目的 物の引渡し義務)、減額肯定例32、43、127(不動産名義書換義務)、減額肯定 例44(サービス契約義務)。 21 減額肯定例80(不動産名義書換義務)。 22 減額肯定例45(売買)、減額肯定例115(請負)。 23 減額肯定例57(不動産の引渡し義務) 24 挙証責任の原則に基づけば、違約金の減額を求めるY(債務者)は、違約金 の約定額がXの損失と比較して著しく高額であることに証明責任を負うべき であるが、裁判実務において法院は、Xの損失に関する証明責任を自分の損失 に詳しいXに転換させる傾向は示されている。もっとも、第1章の法規定、 学説による検討に照らせば、挙証責任の問題は違約金減額の適用に関する訴訟 手続上の一つ大きな論点であるが、本稿の問題関心から離れるため、それにつ 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [44]北法69(1・161)161 の損失を認定する目的であり、依然として実損害差額主義の判断構造の 一環として捉えられると解される。この意味において、上記の15件は、 いずれも法院が実損害差額主義に依拠した裁判例であると評価できる。 ② 普通違約金の紛争  遅延違約金の紛争を対象とする裁判例に比較して、普通違約金の紛争 を対象とする裁判例が10件しかなかった。このうち、金銭債務の不履行 を対象とする減額肯定例が3件あった。それに対して、なす債務の不履 行を対象とする減額肯定例が7件あった。普通違約金の責任をめぐる紛 争は、Yが契約履行を果たさなかったため、違約金責任を問われるもの であるが、遅延違約金の責任をめぐる紛争と比較して、次の違いが呈さ れている。すなわち、遅延違約金の責任をめぐる紛争の場合には、Yが 契約義務の履行に遅延することが条件とされているし、違約金の定め方 について当事者が違約金の計算基準を約定することがほとんどである。 それに対して、普通違約金の責任をめぐる紛争の場合には、Yがいった ん契約違反すれば、違約金責任を問われることになる。違約金の定め方 について当事者が一定額の違約金を約定することが一般的である。以下 ではこの10件の普通違約金責任をめぐる紛争において、法院がどのよう な判決の理由で違約金の減額を認めたのかを検討する。 (a)金銭債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争  金銭債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争が3件あり、この3 件は、減額肯定例2(賃貸借)、13(請負)、73(譲渡代金)というもので ある。この3件において法院による減額の肯定の判決理由を、次の2つ の事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(減額肯定例2、 73)  イ、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い、しかもXが 損失を挙証できていない(減額肯定例13)  上記の3件の判断事由に照らせば、法院が、Xの損失の認定を中心と いての裁判実務の検討を割愛し、別稿で考察する予定である。 論   説 [45] 北法69(1・160)160 し、次いで、違約金の約定額をXの損失と比較し著しく高額であるこ とを減額の理由としているであろう。この意味において、上記の3件は、 いずれも法院が実損害差額主義を徹底した裁判例であると評価できる。 (b)なす債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争  なす債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争が7件あった。以下 では、法院による減額の判決理由を見ておこう。  (A)7件のうち、6件において法院による判決理由を、次の3つの 事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(2件25)  イ、Xが損失を挙証できていない(3件26)  ウ、違約金の約定額をXの損失とほぼ同額させるべき(1件27)  上記の6件の事由に照らせば、この6件は、いずれも、法院がXの 損失の認定を中心とし、次いで違約金の約定額をXの損失と比較し著 しく高額であることを減額の理由としている裁判例であると解される。 この意味において、上記の3件は、いずれも法院が実損害差額主義を徹 底した裁判例であると評価できる。  (B)7件のうち、減額肯定例109のみは、法院が契約の一部履行によっ て違約金を減額した裁判例である。以下では、詳しく分析する。  本件の判旨によれば、法院による増額の肯定の判決理由を、「Yが契 約違反をしている。とはいえ、契約代金の39万元の中には、XがYに 7万元(18%)しか支払っていないため、違約金の約定通りにYが責任 を負担することは、その約定額が著しく高額なものである。しかもX が損失を挙証できていないという事情もある。以上のことに鑑みると、 法院がYの違約金の減額請求を認める」、とされる。  本件の判決理由に照らせば、本件は、上記の減額肯定例70と減額肯定 例76と同様に、契約の一部履行による減額の適用例であると見て取れる 25 減額肯定例8(競業禁止義務)減額肯定例81(賃貸借義務) 26 減額肯定例20(著作権許可使用義務)、減額肯定例24(競業禁止義務)、減額 肯定例68(売買契約義務) 27 減額肯定例14(株式の譲渡手続き義務) 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [46]北法69(1・159)159 であろう。注意しておきたいのは、本件による契約の一部履行の認定が、 Yが契約を一部履行したのではなく、Xが契約を一部履行したというこ とである。とはいえ、Xの損失という点に鑑みると、Xが契約の一部し か履行していなかったため、自分が受けた損失も少なくなったという結 果になる。換言すれば、Yが契約を一部履行した場合と同様に、Xが契 約を一部履行した場合も、Xの損失が少なくなるため、実損害よりも違 約金が高くなるという実損害差額主義の論理が捉えられると解される。 この意味において、本件も、法院が実損害差額主義を貫徹した裁判例で あると評価である。 ③ 解約違約金の紛争  違約金紛争の類型の中には、最後に残るのはが解約違約金を対象とす る紛争であり、15件の減額肯定例があった。このうち、金銭債務の不履 行を対象とする減額肯定例が5件ある。それに対して、なす債務の不履 行の減額肯定例が10件ある。解約違約金の責任をめぐる紛争は、Yが契 約違反をしたことで、違約金責任を問われるものであるが、遅延違約金、 普通違約金の責任をめぐる紛争と比較して、次の違いが呈されている。 すなわち、解約違約金の責任をめぐる紛争の場合には、当事者の契約違 反があるならば、XかYが契約を解除してはじめて、Xが違約金を求 めることができるのは一般的である。換言すれば、契約の解除は、法院 が違約金責任を判断する前提となっている。以下では、この15件の解約 違約金責任をめぐる紛争において、法院がどのような判決理由で違約金 の減額を認めたのかを検討する。 (a)金銭債務の不履行を対象とする解約違約金の紛争  金銭債務の不履行を対象とする解約違約金の紛争が5件ある。以下で は、法院による減額の判決理由を見ておこう。  (A)5件のうち、4件において法院による判決理由を、次の2つの 事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(3件28)、 28 減額肯定例21、減額肯定例30(賃貸借)、減額肯定例122(売買)。 論   説 [47] 北法69(1・158)158  イ、Xが損失を挙証できていない(1件29)  この4件において上記に列挙された2つの事由の実質を検討すると、 法院がXの損失の認定を中心とし、次いで違約金の約定額をXの損失 と比較して著しく高額であることを減額の肯定の理由としていると解さ れる。この意味において、上記の4件は、いずれも法院が実損害差額主 義を徹底する裁判例であると評価できる。  (B)5件のうち、減額肯定例62のみにおいてXの損失を認定したほ か、XとYの故意・過失の度合いを考量したという特徴が見られる。 以下では、詳しく分析する。  減額肯定例62の判旨によれば、法院による減額の肯定の判決理由を、 「法院が、違約金を決める場合に、違約金の約定にこだわる必要はない。 本件においてXの損失がある一方で、X、Yがいずれも過失の度合いが あった。さらにYが悪意(故意)違約でもないため、法院が公平原則と 誠実信用原則に基づき、違約金の減額請求を支持する」、とされる。  本件の判決理由に照らせば、法院がⅩの損失を考量した同時に、契約 違反についてXの過失寄与、Yの違約行為が悪意(故意)違約ではない といったことを減額の肯定の理由としているであろう。本件において上 記の減額肯定例83と類似的な判断の旨があると読み取れる。すなわち、 Xが契約違反に過失を寄与し、しかもYが悪意(故意)違約をしていな い場合に、法院が約定された高額な違約金をもってYへと制裁を与え てはならないと旨が含まれると思われる。換言すれば、本件において法 院が当事者の過失の度合いを違約金の減額の可否の判断に持ち込んだ意 味は、Ⅹの帰責性を問う必要がある一方で、Yの帰責性がそれほど重く ないという当事者の非難可能性を根拠とするものと解される。この意味 において、本件は、法院が実損害差額主義を根拠とするだけではなく当 事者の非難可能性を考量した一例であると評価できる。 (b)なす債務の不履行を対象とする解約違約金の紛争  なす債務の不履行を対象とする解約違約金の紛争が10件ある。この10 件において法院による減額の肯定の判決理由は、次のようなものである。 29 減額肯定例26(売買)。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [48]北法69(1・157)157  (A)10件のうち、8件において法院による判決理由を、次の4つの 事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高い(2件30)  イ、Xが損失を挙証できていない(4件31)  ウ、Xの損失を不動産賃貸料の損失と認定(1件32)  エ、違約金の約定額をXの損失とほぼ同額させるべきである(1件33)  この8件において上記に列挙されたに4つの事由の実質を検討する と、Xの損失の認定を中心とし、次いで違約金の約定額をXの損失と の比較して著しく高額であることを減額の肯定の理由としていると解さ れる。この意味において、上記の8件は、いずれも法院が実損害差額主 義を徹底した裁判例であると評価できる。  (B)10件のうち、減額肯定例67と72のみにおいて、法院がⅩの損失 を認定したほか、Yの過失の度合いを考量したといった特徴が見られ る。以下では、詳しく分析する。  減額肯定例67の判旨によれば、法院による減額の肯定の判決理由を、 「違約金の約定額に関する全額の負担は、Yが重大な契約違反をした場 合でしか適用されることができない。それゆえに、法院は、Yが重大な 契約違反を構成していない場合に、違約金の全額を支持せず、Yの減額 請求を認める」、とされる。  減額肯定例72の判旨によれば、法院による減額の肯定の判決理由を、 「Yが契約違反において主観的な悪意がない。またYの違約期間も短く てXも損失を挙証できていないのであるため、違約金の減額請求が支 持されるべきである」、とされる。  上記の2件の判決理由に照らせば、減額肯定例72の場合には、法院が Ⅹの損失を考量した同時に、Yの違約行為が悪意(故意)違約ではない ということを減額の根拠としたことは明確である。それに対して、減額 30 減額肯定例31(不動産の引渡し義務)、減額肯定例51(賃貸借義務)。 31 減額肯定例52(不動産の引渡し義務)、減額肯定例66(賃貸借)、減額肯定例 108(請負義務)、減額肯定例125(委託義務)。 32 減額肯定例56(不動産の引渡し義務) 33 減額肯定例65(賃貸借義務) 論   説 [49] 北法69(1・156)156 肯定例67の場合には、法院は、Yが契約違反に過失があることを直接に 言及していないが、「Yの違約行為は重大な契約違反を構成していない」 という表現に鑑みると、Yが契約違反に過失の度合いが重くないという 意味を読み取れるであろう。換言すれば、この2件においても、減額肯 定例62と83と同様に、Yが悪意(故意)違約をしたのではなければ、Y の帰責性が重いものではなく、Yを非難する可能性が低いという旨が含 まれると解される。この意味において、上記の2件は、いずれも法院が 実損害差額主義を根拠とするだけではなく 当事者の非難可能性を考量 した裁判例であると評価できる。 (ⅱ)減額否定例についての検討  減額肯定例の数と比較して、減額否定例は少なかったのであり、22件 しかいなかった。このうち、最も多かったのは、遅延違約金の紛争であ り、13件があった。次は、普通違約金の紛争であり、8件があった。最 も少なかったのは解約違約金の紛争であり2件があった。以下では、詳 しく検討に入る。 ① 遅延違約金の紛争  遅延違約金責任の紛争において金銭債務の不履行を対象とする裁判例 が8件ある。それに対して、なす債務の不履行を対象とする裁判例が5 件ある。以下では、これらの裁判例において法院がどのような判決理由 で違約金の減額を認めなかったのかを検討する。 (a)金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争  金銭債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争が8件あった。この 8件において法院による減額の否定の判決理由を、次のように要約する ことができる。  (A)8件のうち、7件において法院による判決理由を、次の2つの 事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額または約定計算基準が著しく高くない(2件34) 34 減額否定例3(売買)、減額否定例6(賃貸借)。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [50]北法69(1・155)155  イ、違約金の約定額が法定遅延貸付利息損失と比較して著しく高くな い(5件35)  この7件において上記に列挙された2つの事由の実質を検討すると、 法院がXの損失を認定したうえで、違約金がXの損失と比較して著し く高額ではないことを減額の否定の理由としていると解されるであろ う。この意味において、上記の7件は、いずれも法院が実損害差額主義 を徹底した裁判例であると評価できる。  (B)8件のうち、減額否定例4のみは、法院がXの損失を考量した ほか、Yの違約行為が故意(悪意)違約であることを減額の理由と根拠 付けたことは、特徴的である。以下では、詳しく分析する。  減額否定例4の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「契約の履行の際に、Yが契約代金を支払う条件がすでに満たされてい たことを当然に知っていた、というべきであるが、契約代金の支払いを 拒んだ。その違約行為が故意違約であり、依然としてYが契約代金の 支払いを拒み続けている。さらに、Yの違約行為がXの権利の主張を 遅らせたため、違約金の計算期間を短くさせた。以上のことに鑑みると、 法院がYの減額請求を認めない」、とされる。  上記の法院による判決理由に照らせば、法院が「Yの違約行為がXの 権利の主張を遅らせたため、違約金の計算期間を短くさせた」を理由と するのは、法院が、Yの違約行為がXに多くの損失を与えるというこ とを強調している。換言すれば、法院がXの損失を認定する意味が含 まれるであろう。また、それと並ぶもう一つの理由は、Yの違約行為が 故意(悪意)違約であることとして挙げれている。この点について、減 額肯定例に関する検討では、法院は、Yの違約行為が悪意(故意)違約 ではないことを減額の肯定の理由とした減額肯定例は、4件の裁判例が あった。それと対照的に、本件において、法院は、Yの違約行為が悪意 (故意)違約であったことを減額の否定の理由としたことは反対の趣旨 として捉えられる。換言すれば、Yの違約行為が悪意(故意)違約を構 成したか否かは、法院が違約金の減額の可否を判断する一つ重要な決め 手である。本件においてYが悪意(故意)違約をし、その帰責性が重く 35 減額否定例5、12、17、19(売買)、減額否定例11(賃貸借) 論   説 [51] 北法69(1・154)154 なるため、法院が約定された高額な違約金をもってYを非難する旨が 含まれると解されるであろう。この意味において、本件は、法院が実損 害差額主義を根拠とするだけではなく、当事者の非難可能性を考量した 一例であると評価できる。 (b)なす債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争  なす債務の不履行を対象とする遅延違約金の紛争が5件あった。この 5件において、法院による減額の否定の判決理由を、次のように要約す ることができる。  (A)5件のうち、4件において法院による判決理由を、以下の4つ の事由に要約することができる。  ア、違約金の約定額が法定遅延貸付利息損失と比較して著しく高くな い(1件36)、  イ、Yが Xの損失を挙証できていない(1件37)  ウ、違約金の約定額が不動産賃貸料相場を基準とする計算額と比較し て著しく高くない(1件38)、  エ、Yが Xの損失を挙証できていない、Ⅹの損失が生じる可能性(1 件39)  この4件において上記に列挙された4つの事由の実質を検討すると、 法院がXの損失の認定を中心とし、次いで違約金の約定額を、Xの損失 と比較して著しく高額ではないことを減額の否定の理由としていると解 されるであろう。この意味において、上記の4件は、いずれも法院が実 損害差額主義を徹底した裁判例であると評価できる。  (B)5件のうち、減額否定例2のみは、法院がXの逸失利益を考量 したほか、Yの違約行為が故意(悪意)違約であったことを減額の理由 と根拠付けたことは、特徴的である。以下では、詳しく分析する。  減額否定例2の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 36 減額否定例15(不動産の引渡し義務)。 37 減額否定例14(不動産名義書換義務)。 38 減額否定例16(不動産の引渡し義務)。 39 減額否定例20(不動産の引渡し義務)。 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [52]北法69(1・153)153 「本件において、Yは、Ⅹが契約の目的物を自分のプロジェクトに使う 必要があることを明らかに知ったが、契約の約定通りに目的物をXに 提供しなかった。またXが与えた履行の猶予期間まで、依然として提 供義務を果たせなかった。以上の契約の履行状況、Yの帰責性の重さ、 Xの逸失利益などを考慮した上で、法院がYの減額請求を認めない」、 とされる。  上記の法院による判決理由に照らせば、法院がXの逸失利益を考慮 したほか、Yの主観的な帰責性の重さを責める旨が強いであろう。すな わち、本件においてYが「明らかに知る」や「依然として提供義務を果 たさなかった」といった表現に鑑みると、Yの契約違反が故意(悪意) 違約であると解される。本件は、減額否定例4と同様に、法院が実損害 差額主義を根拠とするだけではなく、当事者の非難可能性を考量した一 例であると評価できる。 ② 普通違約金の紛争  普通違約金の紛争において金銭債務の不履行を対象とする裁判例が2 件ある。それに対して、なす債務の不履行を対象とする裁判例が5件あ る。以下では、これらの裁判例において法院がどのような判決理由で違 約金の減額を認めなかったのかを検討する。 (a)金銭債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争  金銭債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争は、減額否定例8(労 災賠償金の未払い)と減額否定例10(売買代金の未払い)という2件が ある。この2件において法院による減額の否定の判決理由に鑑みると、 この2件は、いずれも法院がⅩの損失を考量したほか、Yの違約行為が 故意(悪意)違約であったと認定したものである。以下では、詳しく分 析する。  減額否定例8の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「ⅩとYは、労災賠償金を合意している。それゆえに、Yが自分の違約 行為によってⅩの逸失利益の損失をもたらすという違約の効果を明らか に知ったが、ずっと約定通りにⅩに賠償金を支払わなかったため、Yの 違約行為が誠実信用原則に背き、Yの帰責性の重さが明らかである。し 論   説 [53] 北法69(1・152)152 たがってXの違約金請求は、Yの賠償義務を加重するものではないた め、Yの減額請求を支持しない」、とされる。  減額否定例10の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「Yの違約行為が誠実信用原則に違反し、重大な契約違反を構成したた め、契約の履行状況と契約履行においてYの違約行為が信用を失わせ た度合いに基づいて、違約金の減額を認めない」、とされる。  上記の2件の判決理由に照らせば、減額否定例8においてYの違約 行為による「帰責性の重さ」、減額否定例10においてYの違約行為によ る「重大さ」や「信用を失わせた度合い」といった表現に鑑みると、上記 の2件における減額の否定の理由は、いずれもYの違約行為による帰 責性の重さ、重大さを強調するものであるため、Yの違約行為が故意(悪 意)違約を構成している旨が含まれると解されるであろう。この意味に おいて、上記の2件は、いずれも減額否定例4、21と同様に、法院が実 損害差額主義を根拠とするだけではなく、当事者の非難可能性を考量し た裁判例であると評価できる。 (b)なす債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争  なす債務の不履行を対象とする普通違約金の紛争が5件あった。この 5件において法院による減額の否定の判決理由は、次のようなものであ る。  (A)5件のうち、減額否定例7、21において法院による判決理由を、 いずれも、YがⅩの損失を挙証できていないという事由に要約すること ができる。この意味において、この2件は、いずれも、法院が実損害差 額主義を徹底する裁判例であると評価できる。  (B)5件のうち、減額否定例9、18、22は、法院による判決理由に おいて、法院がⅩの損失を認定したほか、Yの違約行為が故意(悪意) であったことを考量した裁判例である。以下では、詳しく分析する。  減額否定例9の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「Yが故意に契約義務の履行に遅延する疑いがあったため、相応の違約 責任を負わなければならない。それゆえに、Yの違約金の減額請求を認 めない」、とされる。  減額否定例18の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [54]北法69(1・151)151 「契約履行においてYが誠実信用という態度を持っておらず、悪意違約 という主観的な故意を持っている。違約金は、債権者の損失を填補する 機能を有するもののみならず、債務者の違約行為を懲罰する機能も有す るものであるため、Yの減額請求を支持しない」、とされる。  減額否定例22の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「Ⅹが契約目的物をYに渡したが、Yが契約代金220万元しか支払って おらず、残金の650万元をずっと支払わなかった。それゆえに、Yの違 約行為がⅩの倒産という結果をもたらしたため、重大な契約違反を構成 した。法院がⅩの損失、Yの帰責性の重さ、契約の履行状況と逸失利益 などを考量した上で、Yの減額請求を認めない」、とされる。  上記の3件の判決理由に照らせば、減額否定例9と減額否定例18にお いて法院がYが故意(悪意)違約したことを減額の否定の理由としてい るのは、明らかである。減額否定例2において、法院が直接にYの故 意違約を言及していないが、「重大な契約違反」や「Yの帰責性の重さ」 といった表現に鑑みると、法院がYの違約行為による帰責性を責める 旨も含まれるとも看取できる。上記の3件の判断の共通点も、Yの帰責 性が重いため、法院がYの違約行為を非難するものであると解される。 この意味において、上記の3件は、いずれも法院が実損害差額主義を根 拠とするだけではなく、当事者の非難可能性を考量した裁判例であると 評価できる。 ③ 解約違約金の紛争  減額否定例のうち、最後に残る2件の裁判例は、解約違約金責任をめ ぐる紛争であった。この2件は、いずれもなす債務の不履行を対象とす る裁判例である。以下では、この2件の裁判例において法院がどのよう な判決理由で違約金の減額を認めなかったのかを検討する。  (A)減額否定例13は、Yが賃貸借義務を違反したため、違約金責任 を問われた裁判例であった。本件は、法院がYがXの損失を挙証でき ていないということを理由に、Yの減額請求を棄却するものである。こ の意味において、本件は、法院が実損害差額主義を徹底した一例である と評価できる。  (B)減額否定例1は、Yが契約目的物の引渡し義務を違反したため、 論   説 [55] 北法69(1・150)150 違約金責任を問われた裁判例であった。法院による減額の否定の判決理 由において、法院がXの損失を認定したほか、Yの違約行為が故意(悪 意)違約であったという特徴が見られる。以下では、詳しく分析する。  減額否定例1の判旨によれば、法院による減額の否定の判決理由を、 「Ⅹの挙証の内容に照らして、違約金の約定額がⅩの損失よりも著しく 高くないという事実が判明された。また、Yが、自分の違約行為がⅩに もたらした損失に予見すべきであり、かつ訴訟においてⅩとの契約関係 を否定していたため、Yが明らかに悪意を抱えている。法院が正常な経 済秩序を保ち、Yに懲罰を与えるため、違約金の減額を認めない」、と される。  本件の判決理由に照らせば、法院が違約金の約定額とⅩの損失との比 較を行ったほか、Yの違約行為が悪意(故意)であったことを減額の否 定の理由としていると見て取れる。換言すれば、本件において法院がY が悪意(故意)違約をしたため、その帰責性が重くて法院がYの違約行 為を非難する旨が含まれると解されるであろう。この意味において、本 件は、法院が実損害差額主義を根拠とするだけではなく、当事者の非難 可能性を考量した一例であると評価できる。 (ⅲ)総括  以上では、減額肯定例、減額否定例においてそれぞれの判決理由を詳 しく検討してきた。これらの検討に照らせば、裁判実務には違約金減額 の運用において法院が違約金の減額の可否を判断する場合には、いかな る傾向がみられるのかについて、次の3点をまとめることができる。  第1に、減額肯定例127件と減額否定例22件においてそれぞれ123件と 14件の裁判例は、いずれも法院が違約金を減額するか否かを判断する場 合に、単に契約違反後、Xの損失の認定を中心とし、次いで違約金の約 定額をXの損失と比較して著しく高額であるかどうかを判断の理由と しているものである。換言すれば、減額肯定例123件において法院が違 約金の約定額をXの損失と比較して、より著しく高額でありさえすれ ば、違約金の減額を認める。それに対して、減額否定例14件において法 院が違約金の約定額をXの損失と比較して、より著しく高額でさえな ければ、違約金の減額を認めない。したがって、裁判実務において法院 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [56]北法69(1・149)149 が基本的に、単に法規定が規定している基礎的な要件としての債権者の 実損害による実損害差額主義を徹底したことは、明らかにされた。  第2に、減額肯定例127件と減額否定例22件のうち、それぞれ残る4 件と8件の裁判例は、いずれも法院が違約金を減額するか否かを判断す る場合に、単に実損害差額主義を根拠とするのみならず、Yの違約行為 が故意(悪意)契約に当たるか否かをも理由に判断しているものである。 すなわち、減額肯定例の4件において法院がYが故意(悪意)契約違反 に当たらなかったことを、減額の肯定の一部理由とした。それに対して、 減額否定例の8件において、法院がYが故意(悪意)契約違反に当たっ たことを、減額の否定の一部理由とした。換言すれば、これらの裁判例 は、法院が当事者(債務者)が故意(悪意)契約違反に当たるか否かとい う帰責性の度合いをもって減額の可否の判断に一部の理由として持ち込 んでいた。とはいえ、こられの裁判例が全体の裁判例の数を占める割合 は8%(149件のうち、12件)にとどまった。したがって、ごく少数の裁 判例において法院が実損害差額主義を根拠とするのみならず、法規定が 規定している付加的な要件としての当事者の故意・過失の度合いによる 非難可能性を根拠としたことは、明らかにされた。  第3に、前の2つの傾向に照らせば、裁判実務において法院が違約金 の減額の可否を判断す場合に、基本的に実損害差額主義を徹底している、 例外的に当事者の非難可能性を考慮しているという運用実態は明らかに された。このような運用の傾向に照らせば、法院の判断は、違約金約定 後、契約履行中における出来事に集中していると見て取れる。換言すれ ば、違約金約定時の事情、すなわち当事者による意思決定プロセスにお いて意思表示についての瑕疵有無、当事者の交渉力の格差有無に注目し ている裁判例が一例も見られなかった。したがって、裁判実務において、 法院が違約金の減額の可否を判断す場合に、違約金約定時の事情につい て関心を一切に払っていないという傾向は明らかにされた。  以上のまとめに照らせば、裁判実務において法院が、実損害差額主義 を徹底している裁判例は基本的である。法院が、当事者の非難可能性を 考量している裁判例が見られたが、ごく少数でしかとどまらなかった。 もっとも、違約金約定時の事情について関心を払う裁判例は、一件です らなかったといった違約金減額の運用実態は、明らかにされた。 論   説 [57] 北法69(1・148)148  以下では、裁判実務において違約金の減額の可否の判決理由について の検証の結果は、次の【図】24と【図】2540で示しておく。 (2)違約金減額の運用の特徴  以上では、裁判実務において法院が違約金の減額の可否を判断する場 合には、減額の肯定と否定の判決理由について裁判例群についての数量 分析によってその運用の傾向を明らかにした。それに基づいて、中国法 における違約金減額は、どのような特徴があるのかを析出してみたい。 40 【図】24、【図】25は、附表3(違約金の減額が認められた裁判例リスト)と附 表4(違約金の減額が認められなかった裁判例リスト)に基づいて違約金の減 額の可否の判決理由において本稿による詳細な検討を加えうえでその結果をま とめたものである。 96.9% 3.1% 実損害差額主義 123件 実損害差額主義+非難可能性 4件 図24 減額の肯定の判決理由 63.6% 36.4% 実損害差額主義 14件 実損害差額主義+非難可能性 8件 図25 減額の否定の判決理由 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [58]北法69(1・147)147 (ⅰ)履行確保機能の弱体化  違約金の実益は、当事者があらかじめ契約違反の効果について損害賠 償を予定したことによって、違約金が債権者の実損害よりも高額である 場合には、違約金に債務履行を確保する機能を働かせるためである。  とはいえ、裁判実務による法院の判決理由についての検証に照らせば、 96.9%の減額肯定例(【図】24参照)と63.6%の減額否定例(【図】25参照)は、 実損害差額主義を徹底したものである。換言すれば、法院は、違約金の 減額の可否を判断する場合に、基本的に違約金による債権者の実損害の 填補という機能を働かせるため、高額な違約金による債務履行の確保の 機能はほとんど意味が失われると解される。この意味において、裁判実 務における違約金減額の運用は、違約金の実益を弱体化するという特徴 があると看取できる。 (ⅱ)意思自治の理念の軽視  違約金の約定に従うことは、当事者の意思を尊重する意思自治の理念 である。それゆえに、法院が違約金の約定による意思決定プロセスにお いて意思表示の瑕疵がなければ、当事者の約定を尊重すべきである。もっ とも、違約金減額の運用の場合は、違約金増額の運用の場合と比較して、 法院が当事者が約定した額の範囲の中においてその額を改正(減額)す ることは、当事者の意思自治の理念を干渉する度合いが比較的に低いと はいえ、その実質も、意思自治の理念と衝突していることは否めない。  しかしながら、裁判実務による法院の判決理由についての検証に照ら せば、法院が基本的に、実損害差額主義(92%の裁判例)を徹底し、例 外的に、当事者の非難可能性(8%の裁判例)を考量したことに対して、 当事者による意思決定プロセスにおいて意思表示についての瑕疵有無、 当事者の交渉力の格差有無に注目している裁判例が一例ですら見られな かった、という運用の実態が明にされた。裏を返せば、法院が基本的に 違約金と実損害の均衡が図られているかどうかということに注目を与 え、違約金の約定による当事者の意思を尊重する価値観が一切に享有さ れていないと解される。この意味において、裁判実務における違約金減 額の運用に照らせば、中国契約法において意思自治の理念がほとんど根 付いていないという特徴が浮き彫りになると看取できる。 論   説 [59] 北法69(1・146)146 附表3 違約金の減額が認められた裁判例リスト (北大法意 判決年月日2014年度) 番 号 判決号、 判決年月日 契約紛 争類型 当事者 の属性 違約金紛 争の類型 違約金の約定 (約定額また は約定計算基 準) 訴訟手続 きの開始 法院による減額の 肯定の判決理由 法院による減額の 計算要件および結果 1 (2013)杭 蕭商初字第 3703号 2014.1.3 金銭消 費貸借 X個人 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 2% Y申請 違約金の約定計算 基準が中国人民銀 行の同期・同類の 貸付基準利率によ り高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 2 (2014)二 中民二終字 第4号 2014.1.14 一般賃 貸借 X個人 Y個人 賃貸料の 未払いに よる違約 金 7.9万元 (未払い賃貸 料の30%) Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 公平原則 5.3万元 (未払い賃貸料の 20%) 3 (2014)宛 龍民商二初 字第158号 2014.1.16 一般賃 貸借 X企業 Y個人 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い代 金の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 4 (2013)済 商 終 字 第 630号 2014.1.17 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による違 約金 日に未払い契 約代金の0.5% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 5 (2013)青 民一(民) 初字第1889 号 2014.1.22 金銭消 費貸借 X企業 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い借 金の2‰ Y欠席 法院職権 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 6 (2013)浦 民一(民) 初 字 第 38022号 2014.1.23 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 遅延違約 金 日に支払い済 みの契約代金 の1‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Xが損失を挙証不 能 日に支払い済みの 契約代金の0.3‰ 7 (2013)浦 民一(民) 初 字 第 37496号 2014.1.27 金銭消 費貸借 X個人 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金と借 金の未払 いによる 違約金 ⑴遅延違約 金: 日に未払い借 金の0.8‰ ⑵違約金: 借金の5% Y申請 違約金の約定計算 基準が中国人民銀 行の同期・同類の 貸付基準利率より も高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 8 (2013)楊 民一(民) 初字第6164 号 2014.1.28 労働 X企業 Y個人 競業避止 義務の違 反による 違約金 44.2万元 (X年間収入 の2倍) Y申請 実際にXにもたら した不利の結果 Yの故意・過失の 度合い 公平、誠実信用原 則 30万元 9 (2014)滬 二 中 民 四 (商)終字 第67号 2014.2.10 サービ ス X企業 Y企業 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い契 約代金の0.2% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 10 (2013)常 商 終 字 第 539号 2014.2.17 請負 X企業 Y個人 請負目的 物の引渡 しの不履 行による 遅延違約 金 6.6万元 (日に2000元) Y申請 違約金の約定計算 基準がXの損失よ りも著しく高い Xが損失を挙証不 能 3.3万元 (日に1000元) 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [60]北法69(1・145)145 11 (2013)黄 浦民二(商) 初字第1041 号 2014.2.17 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い契 約代金の1‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 12 (2013)浦 民三(知)初 字第754号 2014.2.21 特許経 営 X企業 Y個人 特許経営 加盟費の 未払いに よる遅延 違約金 日に500元 Y申請 違約金の約定計算 基準が特許経営加 盟費の支払基準 (日に82元)より も著しく高い 日に20元 13 (2013)奉 民二(商)初 字第3264号 2014.2.25 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による違 約金 13.35万元(請 負代金の30%) Y申請 違約金の約定計算 基準がXの損失よ りも著しく高い Xが損失を挙証不 能 6.75万元(未払い代 金費用の30%) 14 (2013)卾 東宝民二初 字第00445 号 2014.2.26 株式譲 渡 X個人 Y個人 株式譲渡 手続き義 務の違反 による違 約金 200万元(違約 金が契約代金 の30%、すな わち300万元と なっていたが、 Xが200万元を 請求) Y申請 違約金の額がXの 損失と相当でなけ ればならない。 35万元(中国人民 銀行の同期・同類 の貸付基準利率の 4倍×1.3を基準と し、計算する) 15 (2013)閔 民一(民)初 字第20027 号 2014.2.26 サービ ス X企業 Y企業 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 日に未払いサービ ス費用の0.7‰ 16 (2014)商 民一終字第 28号 2014.3.19 金銭消 費貸借 X企業 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 17 (2013)浦 民二(商)字 第3144号 2014.3.20 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の0.1% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 18 (2013)滬 二 中 民 五 (知)終字第 116号 2014.3.21 請負 X企業 Y企業 請負目的 物の引渡 し義務の 不履行に よる遅延 違約金 20万元(違約 金の約定計算 基準が日に契 約代金の3% となっていた が、Xが20万 元を請求 Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況 1万元 19 (2013)滬 二中民(商) 終字第118 号 2014.3.21 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い代 金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況 日に未払いサービ ス費用の0.5‰ 20 (2013)東 民 初 字 第 14393号 2014.3.31 著作権 許可使 用 X企業 Y企業 契約義務 の不履行 による違 約金 契約代金の 30% Y申請 Xが損失を挙証不 能 綜合考慮 中国人民銀行の同 期 ・同類の貸付基 準利率を基準とし 計算する 21 (2014)滬 二 中 民 二 (民)終字 第493号 2014.4.2 不動産 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる解約 違約金 21万元(6ヶ 月の賃貸料、 一月3.5万元) Yが契約 違反に否 認法院が これを違 約金が著 しく高い という抗 弁と見な す 違約金の約定額が 著しく高い Xも契約違反に過 失寄与 契約の履行状況 2万元 論   説 [61] 北法69(1・144)144 22 (2014)滬 二 中 民 四 (商)終字第 211号 2014.4.8 請負 X企業 Y企業 請負義務 の不履行 による遅 延違約金 日に請負代金 の5‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 契約の履行状況 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 23 (2014)梁 民 初 字 第 316号 2014.4.13 金銭消 費貸借 X個人 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 5% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 24 (2013)虹 民四(民)初 字第3517号 2014.4.14 労働 X企業 Y個人 競業避止 義務の違 反による 違約金 5万元 (その代わり に、Xが職を 離れてから、 Yが月700元 の補償金を支 払うと約束し た) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xが7700元(10月) の補償金をYに支 払った状況 1.5万元 25 (2014)厦 海法事初字 第7号 2014.4.17 人身損 害賠償 X個人 Y企業 人身損害 賠償金の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い人 身損害賠償金 の3% Y申請 違約金の約定計算 基準がXの損失よ りも著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 26 (2014)滬 一 中 民 二 (民)終字第 710号 2014.4.18 不動産 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による解 約違約金 230万元 (売買代金の 5%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況、 Xの実際的損失、 逸失利益、公平原 則 138万元(売買代金 の3%) 27 (2013)浦 民二(商)初 字第3725号 2014.5.4 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 28 (2014)霍 民一初字第 00646号 2014.5.8 売買 X個人 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の1% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 29 (2013)滬 二 中 民 一 (民)終字第 2660号 2014.5.9 金銭消 費貸借 X個人 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い借 金の5‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 30 (2014)滬 一 中 民 二 (民)終字第 602号 2014.5.26 不動産 賃貸借 X企業 Y個人 賃貸料の 未払いに よる解約 違約金 40万元(一年 の賃貸料を32 万元とする) Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 契約履行の実際的 状況 4万元 31 (2014)滬 二 中 民 二 (民)終字第 547号 2014.5.30 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産の 引渡し義 務の違反 による解 約違約金 55.5万 元(売 買代金の30% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Xの実際的損失、 契約の履行状況、 Yの故意・過失の 度合い、公平原則 15万元 32 (2014)成 民 終 字 第 2307号 2014.6.3 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 日に10元 Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失が逸失利 益の範囲にとどま る 契約の履行状況、 Yの故意・過失の 度合い 日に3元 33 (2014)美 民一初字第 693号 2014.6.3 不動産 賃貸借 X個人 Y個人 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の3‰ 法院釈明 Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 契約の履行状況、 Yの故意・過失の度 合い、Xの損失、公 平と誠実信用原則 日に未払い賃貸料 の0.1‰ 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [62]北法69(1・143)143 34 (2014)金 東民初字第 582号 2014.6.5 サービ ス X企業 Y個人 サービス 料金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の2‰ Y欠席 法院職権 違約金の約定計算 基準が著しく高い 日に未払いサービ ス費用の0.84‰ 35 (2014)深 羅法民三初 字第494号 2014.6.6 売買 X個人 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の1.5‰ Y申請 違約金の本質が損 失の填補にあり 公平原則、X、Y の契約履行状況と Yの過失 中国人民銀行の同 期・同類の貸付利 率の4倍 36 (2014)黔 議民商初字 第13号 2014.6.10 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 月に未払い売 買代金の4% Y申請 違約金の約定計算 基準が明に著しく 高い 月に未払い契約代 金の1% 37 (2014)玉 民 初 字 第 1587号 2014.6.10 金銭消 費貸借 X個人 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に500元(20 万元の借金) 日に1700元 (100万元の借 金) Y申請 違約金の約定計算 基準が明に著しく 高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4×1.3倍 38 (2014)卭 崍民初字第 195号 2014.6.13 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 39 (2014)商 商初字第80 号 2014.6.18 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の5% Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.5×1.3倍 40 (2014)穗 天法民四初 字第2065号 2014.6.27 不動産 賃貸借 X個人 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に月の賃貸 料の2% Y申請 違約金の約定計算 基準が明に著しく 高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率 41 (2014)清 陽法民一初 字第229号 2014.6.30 請負 X個人 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に500元 Y欠席 法院職権 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 公平と誠実信用原 則 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の2倍 42 (2013)濰 商 初 字 第 168号 2014.7.3 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の1%(一部 の売買目的 物)、日に売 買代金の5‰ (一部の売買 目的物) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期 ・同類の貸付基 準利率の1.5倍 43 (2014)長 中民三終字 第02670号 2014.7.3 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 9万元 (日に支払い 済みの売買代 金の0.3‰) Y申請 Xが損失を挙証不 能 公平原則と誠実信 用原則 7000元 44 (2014)浦 民一(民)初 字第14332 号 2014.7.3 サービ ス X個人 Y企業 サービス 契約義務 の不履行 による遅 延違約金 1.6万元 (日に30元) Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況、 当事者の故意・過 失の度合いおよび Xの逸失利益 1000元 45 (2014)滁 民一終字第 00722号 2014.7.4 不動産 売買 X個人 Y個人 売買代金 の未支払 いによる 遅延違約 金 日に契約代金 の3‰ Y申請 X、Yがともに損 失を挙証不能 契約の履行状況 日に契約代金の 0.6‰ 論   説 [63] 北法69(1・142)142 46 (2013)睢 商 初 字 第 348号 2014.7.7 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の1‰ Y申請 違約金の計算基準 が明に著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 47 (2014)濱 塘民初字第 1599号 2014.7.9 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払いの 請負代金の 1‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 48 (2014)鳥 中民一終字 第654号 2014.7.11 売買 X個人 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の10% Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 49 (2014)旌 民 初 字 第 1996号 2014.7.14 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の1% Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.5×1.3倍 50 (2014)黔 義民商初字 第45号 2014.7.16 株式譲 渡 X個人 Y個人 譲渡代金 の未払い による違 約金 日に未払い譲 渡代金の1% (Ⅹが違約金 を未払い譲渡 代金の30%と 主張) Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 51 (2014)溧 商 初 字 第 339号 2014.7.17 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸借契 約の義務 の不履行 による解 約違約金 2000元 Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い Xの損失、契約の 履行状況 1440元 52 (2014)松 民三(民) 初字第1624 号 2014.7.18 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 解約違約 金 25.6万元 (契約代金の 20%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況、 公平原則 12.8万元(契約代金 の10%) 53 (2014)肇 德法民一初 字第54号 2014.7.22 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の4‰ Y申請 違約金の計算基準 が明に損失よりも 著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 54 (2014)遵 市法民商終 字第85号 2014.7.22 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の0.5‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率 55 (2014)滬 高民四(海) 終字第69号 2014.7.23 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の5% Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 56 (2013)黔 七民初字第 1128号 2014.7.25 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 解約違約 金 支払い済みの 売買代金の 2% Y申請 違約金の約定が損 失よりも著しく高 い Xの損失を不動産 賃貸料の損失と認 定 不動産賃貸料の相 場 日に40元×1.3 57 (2014)渝 一中法民終 字第03635 号 2014.7.25 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡しの 不履行に よる遅延 違約金 日に支払い済 みの売買代金 の1‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を不動産 賃貸料の損失と認 定 不動産賃貸料の相 場 日に1000元×1.3 58 (2014)張 金商初字第 146号 2014.7.28 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の3% Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [64]北法69(1・141)141 59 (2014)南 市民二終字 第212号 2014.7.31 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の2‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 60 (2014)東 一法道民二 初字第124 号 2014.8.1 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期の貸付利率の4 倍 61 (2014)徐 民 終 字 第 01319号 2014.8.5 賃貸借 X個人 Y個人 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 62 (2014)深 中法房終字 第571号 2014.8.7 不動産 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による解 約違約金 14.4万元 (契約代金の 10%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xが一部履行 X、Yがともに故 意・過失あり Xの故意・過失の 度合いが比較的に 低い 公平原則と誠実信 用原則 5万元 63 (2014)硯 民 初 字 第 432号 2014.8.7 請負 X企業 Y個人 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い請 負代金の1% Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 契約の履行状況、 Yの故意・過失の 度合い、Xの逸失 利益、Yが自由意 思により3万元を 負担 3万元 64 (2014)黔 東民商終字 第36号 2014.8.14 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率 65 (2014)舟 定民初字第 421号 2014.8.14 不動産 賃貸借 X個人 Y個人 契約義務 の違反に よる解約 違約金 100万元 Y申請 違約金の額がXの 損失に基づくべき である。 契約の履行状況 50万元 66 (2014)五 法民二初字 第199号 2014.8.20 不動産 賃貸借 X個人 Y企業 契約義務 の違反に よる違約 金 85.5万元 (3年賃貸料 の30%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失、契約の 履行状況、当事者 の故意・過失の度 合い 18万元 (1年賃貸料の 20%) 67 (2014)岳 中民一終字 第215号 2014.8.21 不動産 賃貸借 X個人 Y企業 契約義務 の違反に よる違約 金 20万元 Y申請 Xが損失を挙証不 能 重大な契約違反で はない 契約履行の実際的 状況 5万元 68 (2014)成 民 終 字 第 4464号 2014.8.25 売買 X企業 Y企業 契約義務 の違反に よる違約 金 185万元 (契約代金の 25%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 公平と誠実信用原 則、事実および契 約の履行状況 5万元 69 (2014)遼 民二終字第 00113号 2014.8.25 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期 ・同類の貸付基 準利率 70 (2013)民 提字第203 号 2014.8.27 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の5‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Yが一部履行(60% ぐらい) 契約後に契約単価 の変化、違約の期 間 日に未払い契約代 金の4‰ 論   説 [65] 北法69(1・140)140 71 (2014)杭 桐民初字第 623号 2014.8.28 不動産 賃貸借 X企業 Y個人 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の1‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 72 (2014)深 塩法房初字 第102号 2014.9.1 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産の 引渡し義 務の違反 による解 約違約金 24.8万元 (契約代金の 20%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xが悪意ではない 10万元 73 (2014)蛟 民二初字第 147号 2014.9.3 株式譲 渡 X個人 Y個人 譲渡代金 の未払い による違 約金 未払い譲渡代 金の30% 法院釈明 Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 違約金の基準を中 国人民銀行の同期・ 同類の貸付基準利 率の4倍とし、計 算する 74 (2014)鉄 東民三初字 第571号 2014.9.5 サービ ス X企業 Y個人 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 75 (2014)平 民二終字第 395号 2014.9.11 サービ ス X個人 Y企業 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の1% Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率 76 (2014)門 民(商)初字 第3062号 2014.9.11 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に請負代金 の0.3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準がXの損失と 比べて著しく高い Yが契約の80%を 履行 公平原則と誠実信 用原則 日に請負代金の 0.2‰ 77 (2014)金 東民初字第 572号 2014.9.11 サービ ス X企業 Y個人 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の2‰ Y欠席 法院職権 違約金の約定計算 基準が著しく高い 日に未払いサービ ス費用の0.84‰ 78 (2014)徳 民二初字第 53号 2014.9.12 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の1‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.5倍 79 (2014)黔 納民初字第 603号 2014.9.15 売買 X個人 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 未払い売買代 金の10% Y申請 違約金の約定計算 基準が実際的損失 よりも著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.5倍 80 (2014)成 民 終 字 第 4757号 2014.9.15 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 3.6万元 (日に支払い 済みの契約代 金の1‰) Y申請 Xが損失を挙証不 能 7300元 81 (2014)焦 民三終字第 00245号 2014.9.16 不動産 賃貸借 X企業 Y企業 契約義務 の違反に よる違約 金 200万元 法院釈明 Y申請 違約金の約定が著 しく高い 契約の実際的状況 X、Yがともに故 意・過失あり 46万元 82 (2014)穗 中法民二終 字第1307号 2014.9.17 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金を基準 に10元 / トン Y申請 Xが損失を挙証不 能 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 83 (2014)沈 中民三初字 第100号 2014.9.18 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い ため、懲罰性が公 平合理の原則に違 反する。 Yが故意違約では ない。 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [66]北法69(1・139)139 84 (2014)広 民 初 字 第 356号 2014.9.19 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 遅延違約 金 日に支払い済 みの売買代金 の0.5‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約履行の状況 違約金の賠償性と 懲罰性 公正と誠実信用原 則 日に支払い済みの 売買代金の0.1‰ 85 (2014)鶴 民初字第87 号 2014.9.19 金銭消 費貸借 X個人 Y企業 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 2% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 86 (2014)海 中法民二終 字第201号 2014.9.19 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 日に未払い契約代 金の0.5‰ 87 (2014)卾 民二終字第 00072号 2014.9.21 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 88 (2014)港 北民初字第 2072号 2014.9.23 不動産 売買 X個人 Y個人 売買代金 の未支払 いによる 遅延違約 金 日に未払いの 売買代金の 0.5% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い Yに対する懲罰 契約の実際的な状 況 日に未払いの契約 代金の0.15% 89 (2014)岳 民 初 字 第 04180号 2014.9.23 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 2.6万元 (日に支払い 済みの売買代 金の1‰) Y申請 損失に関する証明 なし 公平原則と誠実信 用原則 2600元 90 (2014)棗 民四商初字 第12号 2014.9.24 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の5‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率×1.4倍 91 (2014)廊 開民初字第 463号 2014.9.25 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 遅延違約 金 30日遅延する と、日に支払 い済みの売買 代金の0.8‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が明らかに著 しく高い 公正と誠実信用原 則 Yの違約の故意・ 過失の度合いおよ びXの逸失利益 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 92 (2014)滬 一 中 民 四 (商)終字第 1304号 2014.9.26 金銭消 費貸借 X個人 Y企業 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 2‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 93 (2014)防 市民二終字 第4号 2014.9.28 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の2‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 94 (2014)德 民三終字第 115号 2014.9.28 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の8‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が明らかに著 しく高い Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.5×1.3倍 論   説 [67] 北法69(1・138)138 95 (2014)黔 義民初字第 2167号 2014.9.28 金銭消 費貸借 X企業 Y個人 借金の未 払いによ る遅延違 約金 日に借金の 4% Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4×1.3倍 96 (2014)卾 武昌民初字 第00241号 2014.9.29 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による違 約金 未払い請負代 金の15% Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 違約金の額が中国 人民銀行の同期・ 同類の貸付基準利 率 の1.3倍 を 基 準 に、計算する 97 (2014)銀 民商終字第 161号 2014.9.30 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y欠席 法院職権 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 日に未払い契約代 金の0.5‰ 98 (2014)興 民 初 字 第 3921号 2014.9.30 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の5‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 99 (2014)夾 江民初字第 1101号 2014.10.09 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 100 (2014)福 商 初 字 第 115号 2014.10.10 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 日に未払い賃 貸料の2‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 101 (2014)二 中民四終字 第631号 2014.10.10 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い請 負代金の1‰ Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 102 (2014)長 民三(民)初 字第1873号 2014.10.10 不動産 賃貸借 X個人 Y企業 賃貸料の 未払いに よる遅延 違約金 10.3万元 (1日賃貸料 の2倍、すな わち3000元 / 日) Y申請 違約金の約定計算 基準が明らかに著 しく高い Yの故意・過失の 度合い Xの損失、Yの故 意・過失の度合い 6.5万元 103 (2014)卾 武昌民初字 第03855号 2014.10.12 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金を基準 に10元 / トン Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 公平と誠実信用原 則、違約金の填補 性と懲罰性 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 104 (2014)湖 民一初字第 993号 2014.10.15 請負 X個人 Y企業 請負義務 の不履行 による遅 延違約金 60万元 (5日遅延す ると、契約代 金の50%) Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 39.5万元 (契約代金の20%) 105 (2014)慶 商初字第45 号 2014.10.15 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の 未払いに よる違約 金 30万元 (賃貸料の 30%) Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 違約金の額が中国 人民銀行の同期・ 同類の貸付基準利 率を基準に、計算 する 106 (2014)佛 城法民二初 字第878号 2014.10.16 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の3‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が明らかにが 著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の2倍 107 (2014)渡 法民初字第 01939号 2014.10.17 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に売買代金 の0.2% 30日遅延する と、2.5万元(売 買代金の30%) Y申請 違約金の約定計算 基準がXの損失よ りも著しく高い Xの損失状況、Y の違約程度 8000元 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [68]北法69(1・137)137 108 (2014)渝 高法民終字 第00338号 2014.10.17 請負 X企業 Y企業 請負義務 の違反に よる違約 金 500万元 Y申請 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況、 公平と誠実信用原 則 200万元 109 (2014)陽 中法民一終 字第265号 2014.10.21 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡し義 務の違反 による違 約金 11.7万元 (契約代金の 30%) Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xが契約一部履行 契約履行の状況 3.5万元 110 (2014)匯 民 初 字 第 1905号 2014.10.22 金銭消 費貸借 X企業 Y企業 借金の未 払いによ る遅延違 約金 月に借金の 3% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 111 (2014)嘉 民一終字第 179号 2014.10.27 請負 X個人 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に200万元 Y申請 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 112 (2014)四 商初字第69 号 2014.10.28 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の5% 法院釈明 Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 113 (2014)合 法民初字第 06117号 2014.10.28 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の 引渡し義 務の不履 行による 遅延違約 金 30日遅延する と、日に支払 い済みの売買 代金の1‰ Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 不動産の賃貸料の 相場 月に1200元×1.3 114 (2014)大 民三終字第 852号 2014.10.28 請負 X企業 Y個人 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い請 負代金の3% Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 115 (2014)百 中民一終字 第649号 2014.11.4 請負 X企業 Y個人 請負代金 の未払い による遅 延違約金 1.65万元 (月に請負代 金の5%を基 準に) Y申請 X、Yがともに損 失を挙証不能 9000元 (未払い請負代金 の30%) 116 (2014)眉 民 初 字 第 154号 2014.11.6 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の3‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 Yの過失の度合い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 117 (2014)東 中法民一終 字第28号 2014.11.6 サービ ス X企業 Y企業 サービス 代金の未 払いによ る遅延違 約金 日に未払い サービス費用 の1‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xの損失を法定遅 延貸付利息の損失 と認定 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 118 (2014)成 民 終 字 第 5597号 2014.11.7 売買 X個人 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の2‰ Y申請 XとYがともに損 失を挙証不能 業種の慣例、公平 原則、違約状況 日に未払い契約代 金の0.5‰ 119 (2014)新 都民初字第 3963号 2014.11.7 不動産 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未支払 いによる 遅延違約 金 15.8万元 (契約代金の 20%) Y違約金 の支払い に対する 抗弁 Xが損失を挙証不 能 契約の履行状況、 当事者の故意・過 失の度合い 2万元 120 (2014)石 民四終字第 00797号 2014.11.7 請負 X企業 Y企業 請負代金 の未払い による遅 延違約金 日に請負代金 の1‰ Y申請 Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 論   説 [69] 北法69(1・136)136 121 (2014)宿 埇民一初字 第05463号 2014.11.11 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 3日ごとに遅 延すると、売 買代金の5% Y契約違 反否認 Xが損失を挙証不 能 公平と誠実信用原 則 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率 122 (2014)滬 二 中 民 二 (民)終字策 1146号 2014.11.11 不動産 売買 X企業 Y個人 売買代金 の未払い による解 約違約金 51万元 (契約代金の 10%) Y契約違 反否認 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い Yの故意・過失の 度合い、不動産市 場の相場、契約履 行の状況 9万元 123 (2014)威 商 終 字 第 332号 2014.11.12 売買 X個人 Y個人 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に500元 Y申請 違約金の約定が契 約代金よりも著し く高い Xが損失を挙証不 能 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 124 (2014)穗 中法民二終 字第1772号 2014.11.17 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の2% Y申請 違約金の約定計算 基準が著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の4倍 125 (2014)浙 台商終字第 751号 2014.11.17 サービ ス X企業 Y個人 サービス 義務の違 反による 違約金 20万元 Y申請 Xが損失を挙証不 能 Xのブラントによ る逸失利益の損失 の可能性 公平と誠実信用原 則 7万元 126 (2014)広 漢民初字第 1953号 2014.11.25 売買 X企業 Y企業 売買代金 の未払い による遅 延違約金 日に未払い売 買代金の2% Y申請 違約金の約定計算 基準が損失よりも 著しく高い 中国人民銀行の同 期・同類の貸付基 準利率の1.3倍 127 (2014)広 法民終字第 714号 2014.12.5 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名 義書換義 務の不履 行による 遅延違約 金 8000元 (日に支払い 済みの売買代 金の0.1‰) Y申請 Xが損失を挙証不 能 1000元 附表4 違約金の減額が認められなかった裁判例リスト (北大法意 判決年月日2014年度) 番 号 判決号、 判決年月日 契約紛 争類型 当事者 の属性 違約金紛争 の類型 違約金の約定 (約定額または 約定計算基準) 訴訟手続 きの開始 法院による減額の 否定の判決理由 1 (2013)青民 二(商)初字第 2020号 2014.1.8 売買 X企業 Y企業 売買目的物の引渡 し義務の違反によ る解約違約金 7.3万元 (売買代金の 10%) Y申請 違約金の約定額がXの損 失よりも著しく高いので はない Yが契約履行において明 らかな悪意を持っている 2 (2013)成民 初字第1153号 2014.1.13 売買 X企業 Y企業 売買目的物の引渡 し義務の不履行に よる遅延違約金 日に1万元 Y申請 Yが契約違反によりXに もたらされた損失につい て明らかにしていたはず 3 (2014)滬一 中民二(民)終 字第37号 2014.2.12 不動産 売買 X企業 Y個人 売買代金の未払い による遅延違約金 日に未払い売買 代金の0.3‰ Y申請 違約金の約定計算基準が Xの損失よりも著しく高 いのではない 4 (2014)大民 三終字第207 号 2014.4.3 売買 X企業 Y企業 売買代金の未払い による遅延違約金 日に未払い売買 代金の0.5‰ Y申請 Yが故意違約に当たる 中国法における裁判所による違約金増減の運用と理念(2) [70]北法69(1・135)135 5 (2014)惠中 法民二終字第 47号 2014.4.29 売買 X企業 Y企業 売買代金の未払い による遅延違約金 月に2% Y申請 違約金の約定計算基準が 中国人民銀行の同期の貸 付利率の4倍を超えてい ない 6 (2013)渝北 法民初字第 16250号 2014.5.8 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の未払いに よる遅延違約金 未払い賃貸料 の20% Y申請 違約金の約定額がXの損 失よりも著しく高いので はない 7 (2014)愉二 中法民終字第 00711号 2014.6.26 不動産 賃貸借 X個人 Y個人 賃貸借義務の違反 による違約金 7000元 Y申請 Xの損失に証拠なし 8 (2014)寧民 終字第1867号 2014.7.8 労災賠 償 X個人 Y企業 賠償金の未払いに よる違約金 8万元 Y申請 Yの行為が誠実信用原則 に違反し、故意・過失が 明らかである 9 (2014)穗从 法房初字第 179号 2014.7.24 不動産 売買 X個人 Y個人 不動産の引渡し義 務の違反による違 約金 3万元 Y申請 XとYの真の意思表示 法律の規定に違反してい ない 10 (2014)南市 民二終字第 192号 2014.7.31 売買 X企業 Y企業 売買代金の未払い による違約金 未払い契約代金 の30% Y申請 Yの重大な契約違反 Yの違約行為が信用を失 わせた程度 11 (2014)秦紅 民初字第45号 2014.8.16 不動産 賃貸借 X企業 Y企業 賃貸料の未払いに よる遅延違約金 未払い契約代金 の10% Y申請 違約金の約定基準が中国 人民銀行の同期の貸付利 率の4倍を超えていない 12 (2014)穗増 法民二初字第 1280号 2014.9.5 売買 X個人 Y個人 契約代金の未払い による遅延違約金 日に未払い契約 代金の0.6‰ Y申請 違約金の約定計算基準が 強制規定に違反していな い 13 (2014)滬一 中民二(民)終 字第2103号 2014.9.9 不動産 賃貸借 X企業 Y個人 賃貸借義務の違反 による解約違約金 賃貸料の20% Y申請 Yが損失を挙証不能 14 (2014)泉民 終字第3066号 2014.9.16 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産名義書換義 務の不履行による 遅延違約金 日に支払い済み の契約代金の 0.1‰ Y申請 Yが「違約金が著しく高 い」に挙証不能 15 (2014)分民 一初字第68号 2014.9.17 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡し義 務の不履行による 遅延違約金 30日に遅延する と、支払い済み の契約代金の 0.2‰ Y申請 Xが逸失利益を失う可能 性 違約金の約定額が強行規 定、商業慣例に符合して いる 16 (2014)賽民 初字第00056 号 2014.9.18 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡し義 務の不履行による 遅延違約金 日に支払い済み の契約代金の 0.1‰ Y申請 違約金の約定計算基準が 合理であり同類、同地域 の不動産賃貸料の相場を 超えていない。 17 (2014)済商 終字第460号 2014.9.23 売買 X企業 Y個人 売買代金の未払い による遅延違約金 月に契約代金の 5% Y申請 違約金の約定計算基準が 中国人民銀行の同期の貸 付利率の4倍を超えてい ない 18 (2014)白山 民二終字第 225号 2014.10.8 リース X個人 Y企業 転貸禁止義務の違 反による違約金 5万元 Y申請 Yの違約行為が誠実信用 原則に違反し、悪意違約 の主観的故意がある 19 (2014)欽北 民初字第1393 号 2014.10.16 売買 X企業 Y企業 売買代金の未払い による遅延違約金 日に未払いの契 約代金の0.3‰ Y申請 違約金の約定計算基準が 強制規定に違反していな い 論   説 [71] 北法69(1・134)134 20 (2014)穗中 法民五終字第 4139号 2014.10.13 不動産 売買 X個人 Y企業 不動産の引渡し義 務の不履行による 遅延違約金 日に契約代金の 0.5‰ Y申請 YがXの損失を挙証不能 Xの損失が賃貸料と転貸 の逸失利益を含める可能 性 21 (2014)津高 民四終字第83 号 2014.11.4 海運 X企業 Y企業 運送契約義務の違 反による違約金 運賃の20% Y申請 Yが「違約金が著しく高 い」に挙証不能 Xが第三者と再契約によ り損失が生じる可能性 22 (2014)広民 終字第291号 株式譲 渡 X企業 Y個人 株式譲渡義務の違 反による違約金 200万元 Y申請 Yが重大な契約違反 (未完)