三重大 杉田さま、drf-MLのみなさま、
千葉大学 高野です。
3月11日(日)に国立スポーツ科学センターで行われた国内スポーツ関連学会
連携会議に出席してまいりましたので、ご報告します。大学関係者としてリポジ
トリについてのお話をしました。また西村泰雄氏(文化庁長官官房 著作権課著
作物流通推進室室長補佐)による著作権のお話、NII尾城課長による学会ビジネ
スモデルについてのお話、EBSCOのデータベースSPORTDiscusの説明がありまし
た。(国立スポーツ科学センターを通じてSPORTDiscusに学会誌のデータを搭載
する事業を始めたそうです。)
スポーツ科学センター内部関係者、学会関係者、EBSCOの1人、西村氏、尾城氏、
高野も入れると参加者は総勢27名でした。
レクチャー1;
学術機関リポジトリの動向と積極的な情報公開の意義
高野(千葉大)
・千葉大学の取り組みと世界と国内の状況
・リポジトリが広まってきた背景
欧米から始まったオープンアクセスの流れ、国内の学術情報発信への必要性の
高まり
・リポジトリ登録のメリット
オープンアクセスにすることによって視認性が向上する
・文献複写依頼データで見るスポーツ関係学会誌の利用状況
17年度NACSIS-ILL利用の文献複写依頼件数の統計を紹介。(土屋先生提供)
利用の全てを反映した数字ではないが、これについては学会員ではない人がわ
ざわざ手間とお金をかけてリクエストした結果であり、オープンアクセスになっ
ていればさらに多くの利用が見込める、と説明。
ある学会の方(阪大の医学部の先生でした)がこの数に興味を示され、学会で
検討の材料とするとおっしゃっていました。
・著作権ポリシーデータベースについて
SHERPA/ROMEOなど海外の状況を紹介。著作権アンケート(3/1付けで神戸大よ
り送付)協力依頼。
質疑応答:
Q)オープンアクセスの理念はもっともで、税金を使った研究成果が社会に還元
されるべきという考えは頷けるが、学会誌が無料公開されると学会員がみな辞め
てしまい運営が成り立たない。
A)千葉医学会はオープンアクセスにして視認性を高める方を重視している。オー
プンにすることによって雑誌の価値が高まるのではないか。
(あまり納得いく説明でなかったようです・・・。)
そのほか休憩時間に:
・オープンアクセスというなら学会として学会誌全体をオープンにすることが考
えられるが、その場合機関リポジトリはそこへのリンクを貼ればいいのでは?
(リポジトリは論文本体を収録するものなので、とはお答えしましたが、学会の
人にしてみれば学会にリンクを張られたほうが学会としての視認性はあがるし、
リポジトリ登録について学会としてメリットはないと言われれば確かにそうだ、
と変に納得してしまいました)
・DSpaceは自分のところではグループウェアとして採用を検討しているが、あれ
はオープンソースか?
(オープンソースです、とはお答えしました。グループウェアとして使えるんで
しょうか?なにか別のもの?)
・筑波大学のサーバに学会誌が公開されているが(タイトルを失念しました。も
しかすると日本運動生理学雑誌でしょうか?)あれはリポジトリと別なのか?
(学会が大学のサーバを使っている、ということと、リポジトリに入っている、
ということは外から見たら区別がつきにくいのかもしれません)
レクチャー2;
学術情報公開における著作権の実際
西村泰雄氏(文化庁長官官房 著作権課著作物流通推進室室長補佐)
・著作者の権利は「著作者人格権」と「著作権(財産権)」の二つに分かれる。
(余談として:森進一の「おふくろさん」騒動は、「著作者人格権」のうちの同
一性保持権の侵害にあたる。財産権としての著作権はJASRACが持っているので作
詞者に歌わせない権利は実際はない。)
・引用については第32条に規定されており、適法な無断引用は合法である。
引用が既成事実としてあって、後から法律が出来たので、この条文は非常に表
現があいまいである。
・学術情報の著作権上の意味
論文情報=書誌事項+アブストラクト
書誌事項は著作物ではない
アブストラクトの作成は著作物の利用に当たらない(アイデアの利用)。
ダイジェストの作成は著作物の利用(表現の利用)にあたるので許諾が必要に
なる。
「税金を使った研究の成果である論文は、社会に無料で還元されるべき」という
主張に対しては、アイデア部分を社会に還元し表現である論文についての著作権
を学会が保持すればよいのではないか、との考えを西村氏が述べられた。
(でもアイデアと表現の分離って大変そうですね。)
質疑応答:
Q)著作権を学会に譲渡させるメリットはなにか?
A)学会としてHPにupするなどの利用の仕方が可能になる。公益目的に照らして有
意義な場合はどんどん集めたほうがよいが、そうでなくとりあえず集めるのはや
めたほうがよい。
Q)著作権の内容について、著作者がよくわからないまま譲渡しているケースが
多いように思う。
A)著作権と書いてあった場合、法律的には著作権(財産権)すべてを意味する
が、「翻訳権、翻案権」「二次的著作物の利用権」の2つについては特に明記し
ない場合は元の著作者に留保される。
また「版権」という言葉は意味が曖昧なので、使用しないでほしい。
レクチャー3;
情報化社会における新たな学会ビジネスモデル
尾城孝一氏(国立情報学研究所 開発・事業部コンテンツ課長)
・NIIの事業の紹介
・CSI事業の紹介
・NIIの学会向けサービス事業
学会と大学の共生モデル
・学会はELSに雑誌論文を提供し、還元金、ビジビリティを得る
・大学はCiNii,ELSにライセンス料を払い、利用する。
・NIIはELS/CiNiiを提供することで両者の仲立ちをする。
学会支援事業
・SPARC Japan
・EJ化支援、EJの大学図書館への販売支援
・UniBio Pressの事例紹介
2003年にSPARC/Japanパートナー誌に生物系3誌が選定
2004年 大学に対するサイトライセンス開始
2007年 BioOneと提携、海外への販売開始
今後、EJ作成にかかる経費を海外発注にするなどして抑え、財政的自立を目
指す。
・学協会情報発信サービス(通称学会村)
現行のシステムは時代にあわなくなっているので、サービスを継続するかどう
かは検討中。続けるとすれば学会リポジトリの機能を付加した新サービスを提供
したい。
質疑応答:
Q)学会誌の発行形態として、紙媒体を残すかE-onlyにするか検討したいと思う
が、E-onlyの学会誌の実例があれば教えてほしい。
A)EJの学会誌のほとんどがが紙媒体も保持している。UniBioはコスト削減のため
出来るだけ早くE-onlyにし、紙が必要な場合はオンデマンドで出版することを考
えている。
Q)CiNiiとJ-STAGEはどういう役割の違いを持っているのか?
J-STAGEはEJを発行するためのプラットフォームで、データをJSTに渡すとEJとし
て発信する。
ELSは紙を電子化する取り組みである。相互リンクを実現したいと思っている。
またJ-STAGEは課金のシステムを持っていないがELSは持っているので、課金シス
テム部分をELS利用ということが考えられる。
以上、うまくまとまっていなくて恐縮ですが、ご報告です。
このお話は元々三重大学の杉田さんがNIIに持ってこられたお話とのこと、本来
ならば杉田さんか、他にもたくさんいらっしゃる知識もあり弁も立つ論客のみな
さまにお引き受けいただければよかったのですが、なぜかわたしがお役目を頂い
て及ばずながらお話をしてまいりました。
感想は、学会関係者もオープンアクセスに対して対応の必要性を感じていらっ
しゃるようでした。でも学会と図書館の利害を一致させるのは思ったより難しそ
うだなと思いました。「オープンアクセス=機関リポジトリ登録」と図書館とし
ては言いたいけれど、学会としてはもし学会リポジトリ的なものを作れば機関リ
ポジトリは特に必要ではないでしょうし。図書館側から何か言うとすると、大学
は所属教員の成果を集めたいので協力お願いします、というお願いでしかなく
て、機関リポジトリに載せると学会にもメリットがありますよ、という提案は結
構難しいですね。
でも焦らず気長に取り組んでいくなかで、なにか良い協力の形が見つかればと思
います。
長文で失礼いたします。
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