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Date:  Wed, 16 May 2007 17:51:27 +0900
From:  yama-ir-ml @ yamanashi.ac.jp
Subject:  [drf 0759] 機関リポジトリアーカイブの義務強制問題

DRFの皆様

いつもお世話になります。山梨大学の藤田です。
機関リポジトリアーカイブの義務強制問題は少し理解が深まりました。
ありがとうございました。

(杉田さま談)
たとえば,研究助成への応募条件として,
「本助成による研究成果物は,オープンアクセス雑誌,または,セルフアーカイビング
が許容される媒体に発表するものとし,後者の場合は,機関アーカイブ(ないし○(※))
において公開すること。すなわち,無料公開ができないような媒体を成果発表の場として
選んではならない」(※日本の場合にはここで指定されるような中央アーカイブは無いです
ね)というような条件を課す,ということで可能となるのではないでしょうか。
つまり,この条件を飲めない研究者はそもそも応募できない。
公的助成成果の社会還元という文脈はそういう理屈なのだと思います。

以上のような「研究助成応募条件」はまもなく開始されるのでしょうか。
やはり活動を有効にし,機関リポジトリのある大学とない大学で歴然とした
ハンディが見え始める時期に一気に到達したいものです。
結局は,研究者のためにも確かに良いし,社会にも開かれたものとなるでしょう。

といった思いはある一方で,少しネガティブな見方を私はついついしてしまいます。
たとえばある研究者が,「たしかに応募条件にはそのようなことがありましたが,
研究助成は研究者の死活問題ですから応募するしかありません。」と述べ,
機関リポジトリへの掲載を促すと「後で,もう一度世に書籍のかたちで出版し直すのは
自由のはずです。そのようなかたちで自分の学術情報を流布したいのです。」
と言い出せば,応募者が単に時代遅れで,わかっていないのでしょうか。

著作権の教科書を持ち出すのも薀蓄みたいで嫌なのですが,下記に引用したような
公表権に関する解説を読むと,結果的には良い方向に進むための義務・強制でも,
著作者が創作した著作物に対し有する人格的利益に対する配慮も大切な気がします。

たしかに,公表権の本質とは,そのような場合に機能するものだったようなものに
感じられます。「情報公開」の場合などは,明確に公表権を無視しても良い部分が
あるにはあるのですが,そこまでいかないとなると,公表権が浮かんで来る。

国立大学法人は,機関リポジトリを行なうようになっても,法人著作制度を適用
して,大学自ら著作者となり,財産的著作権やら著作者人格権を持つものでは
ありません。しかし,助成金を前提に有無を言わさずセルフアーカイブを強いる
となると,論理的には法人著作制度を適用する時の理由付けと随分似ている手口と
感じます。その向こうにあるのは「著作権法の保護を受けない著作物」の存在でしょうか。

研究者の公表権とは,機関リポジトリ問題の前では,この際ドライに割り切るべき
なのかもしれませんが,気になるところです。

以下補足資料。

1. 公表権
「著作者はその著作物によって自分の思想・感情を外部的に表現するわけですけれども,
著作者の名声なり,地位なり,成功なりは,いかなる時期に,どういう形で著作物を
世に出すかということによって左右される確率が高いわけであります。」
「・・・第1のパターンとしては,著作者は未公表著作物を発表するかどうか,
世に出すかどうかの決定権を持っている・・・」
「第2には,未公表著作物をどういう形で出すか,つまり,書籍として出版するか,・・・」
「第3には,公表時期を決定する権利,つまり,何月何日あるいは今年中に発表して
よろしいとか,著作者の目の黒いうちには出させないとかいうような公表時期を決定
する権利であります。」
「・・・なお,ここで注意申し上げておきたいのは,本項の公表権は,第三者に対して
自分の未公表著作物を積極的に請求し得る権利ではなく,公表を禁止し,又は
公表しようとする者に公表を許可したり,公表条件を付けたりすることができる
にとどまる権利であるということでございます。その意味では,公表権は,
積極的な権利ではなく,積極的な行為を禁じる消極的な権利とでも概念すべき
ものでしょう。」(加古・著作権法逐条講義p.158-159)

2. 「情報公開法による開示決定は,開示請求者の利益とは無関係に認められるのが
原則であり,その場合には,最初に開示する時点から,不特定の者すなわち
公衆に著作物を提供,開示する行為として公表権と抵触すると評価されることになろう。」
(田村・著作権法概説p.425)

3. 法人著作制度の趣旨
「職務上作成される著作物の著作権の帰属主体や著作者性の認定は,各国の立法政策
の判断によるところが大きい。我が国の著作権法における法人著作権制度については,
経済的な側面とともに人格権的な側面から捉えていく必要がある。」
「経済的な側面からみると,職務上作成される著作物は,通常,その作成費用
(人件費及び物件費など)を負担し,また,その創作に係るリスクを負担している
のは雇用者であり,その成果物についての財産的権利が雇用者に帰属することに
合理性が認められる。」
「人格権的な側面からみると,法人等内部で職務上作成された著作物について,
社会的に評価や信頼を得て,また,その内容について責任を有するのは,一般的には,
従業者というよりは法人等であると考えられ,当該著作物の著作者人格権の享有主体
として法人等を位置付けることに合理性が認められる。」
ちなみに,法人著作の成立のための要件としては,
「著作物の創作についての意思決定が,直接的又は間接的に使用者の判断に係らしめて
いることが必要である。」
「業務に従事する者とは,使用者と作成者の間に雇用関係があることが基本的には,
想定されている。」
「職務上作成するとは,勤務時間の内外を問わず,自己の職務として作成することを
意味している。」
「法人等の使用者がその名義を著作者として世に公表するものであることが必要である。」
(作花・詳解著作権法p.189-196)

4. 著作権法の保護を受けない著作物
「著作物としての要件をみたしている場合であっても,社会公共の見地から政策的に
著作権法の保護を受けることのできないものとされている場合がある。」
例.法律・命令および官公文書
(半田・著作権法概説)

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山梨大学教学支援部図書課資料情報グループ
係長:藤田 洋(PHS 7181)