DRFのみなさま
自然科学研究機構・核融合科学研究所の難波と申します。一応、自然科学系の
(元)研究職です。
初めてここに投稿いたします。投稿に至った動機は、最近のメールを拝読いた
しておりまして、「機関リポジトリ」とは?という素朴な点が少々判らなくな
ってきたからです。
全くの素人ですので、トンチンカンな意見かも知れませんが、ご承知の上ご一
読ください。
最近、大阪教育大学情報システム係の上野さまから、下記のようなご意見の紹
介がありました:
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●未完成のものを登録公開して,その年月日のタイムスタンプを出し,オリジ
ナリティを主張することが可能であれば,リポジトリの大きなメリットになる
のではないかと思う。
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さらに、北陸先端科学技術大学院大学の寺田様からは、
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「リポジトリで公開されている著者最終稿の論文を引用する場合はどうすれば
よいのか」と教員から質問がありました。
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との質問のご紹介もありました。
私の理解では、「機関リポジトリ」は、既に何処かで(学術雑誌であれ、大学
などの学術機関内の報告書・紀要の類であれ)、何らかの形で(印刷物であ
れ、電子出版であれ)公表されたもの(学術論文に代表されるような学術研究
成果物)を、適切な Finding Aids を付けて、セルフ・アーカイビングするも
のと理解しておりました。
従って、上述の上野様がご紹介くださったようなケースは、リポジトリとして
はあり得ないことのように考えてきたのですが、間違っていますでしょうか?
「未完成のものを登録公開して,その年月日のタイムスタンプを出し,オリジ
ナリティを主張する」ことも時としては必要であることを否定するものではあ
りません。そのためには、例えば、Internal Report と呼称される研究報告書
を出して、それでもってプライオリティーを主張することは可能と思います。
また、そのInternal Report を、当該機関のリポジトリに取り込むことは当然
あり得ることと思います。
また、これと全く同じ理由から、北陸先端科学技術大学院大学の寺田様がご紹
介くださったご意見も、少々腑に落ちないのです。
つまり、リポジトリで公開されている論文には、全て「元々」の「掲載元」が
存在するはずなので、それを引用するものだと思います。
それがために(つまり、元の掲載された雑誌にたどり着けるように)必要な書
誌情報を併せて掲載しているのではないでしょうか?出版社版を即お見せでき
ない場合でも、引用に必要な書誌情報は全て掲載されているはずですし、どう
しても出版社版を読みたい場合には(努力は必要ですが)、探し出すことは可
能と思います。
リポジトリに「著者最終稿」が掲載されるのは、本来は当該論文の「出版社
版」を掲載したいのだが、著作権とか出版社のポリシーとかの様々な理由でそ
れが出来ない場合に、やむを得ず「著者最終稿」で「我慢」するものと考えま
す。従って、「出版社版」と「著者最終稿」とでは、体裁(ランニングヘッド
の有無、出版社のロゴの有無、図表などが体裁良く文中に挿入されているか、
文末に一括して掲載されているか、ノンブルが付いているかどうか、フォント
とそのサイズが異なるなどなど)を除けば、研究成果物としての内容に差異が
あっては困ると考えます。
私の関連している研究分野では、研究論文は概ね以下のようなプロセスで学術
雑誌などに掲載されます:
1.著者が、学会や出版社など編集者へ論文原稿を投稿する。この段階ではま
だ、「著者最終稿」ではない。
編集者に届いた段階で「受付年月日」が記録される。「受理」ではない。
「Received 28 February 2007」のように。
2.編集者(多くの場合、編集委員会)は、査読を行う。ほとんどの場合、専
門家に査読を依頼する。
3.査読結果によっては、直ちに「掲載許可」が出る場合もあるし、修正要求
が出されることもしばしばである。
4.また、最近では上記の「査読」とは別に英語の専門家による「英文校閲」
が行われるケースも増加してきてる。
5.査読者・編集者・著者の間で、相応のやりとりの後、つまり元の原稿に修
正を加えたり、加筆したり、また時としては著者と査読者との間で激しい論争
の後、「掲載可」となる。こうして完成された原稿を「著者最終稿」と(私
は)呼んでいます。なお、最終的に掲載許可が出ず、または著者が取り下げた
場合には、「論文」とはならないので、当然リポジトリの対象とはならない。
雑誌に開催された論文の標題の近くには、ほとんどの場合、以下のような記載
があると思います:
例1:(Received 31 October 2006; accepted 29 January 2007; published
online 3 April 2007)
この例では、2006年10月31日に投稿した(受け付けられた)論文が、2007年
1月29日になって受理され(従って、この段階で「著者最終稿」が完成し)、
2007年4月3日にオンラインで出版されたことになります。出版社によっては、
英文校閲を論文「受理」後に実施するところもあるようなので、その場合には
「著者最終稿」は、英文校閲後に完成することになります。
例2:(Received 28 February 2007, in final form 13 March 2007
Published 2 May 2007)
ここでは、もっと明確に、最終版の受理年月日を記載していますので、この
日に完成したものが「著者最終稿」だと思います。
上の例は、全て物理系の例ですので、他の分野では様子が違っているかも知れ
ません。その点は、私も不勉強で申し訳ありません。
先の上野様のメールで紹介のありました:
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「『著者最終稿』とは何か難しい。acceptされた後のに,加筆・修正を入れる
こともある。そうすると,出版社版より良いものはできる。
出版社と利害が絡まないようにするべきでは?しかし,大学のリポジトリには
よい良いものを掲載したい。」
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とのご意見は、リポジトリの役目ではなく、当該大学のある種の「電子出版」
のお仕事に思えて仕方ありません。
行木@北大 様もお書きのように
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加筆修正してより良いものにしてしまったらそれは違う論文なんだろうと思い
ますが、・・・・。
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だと思います。
研究者は多くの場合、論文を発表した後も、もう少し実験データを補った方が
良かったのではとか、別の計算方法もあったのではとか色々と考えるものです
が、それは次の機会に活かすべきで、発表してしまった論文をやたらと修正す
べきではないと思います。
以上、勝手なことを書き連ねましたが、よろしく。
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