DRFの皆様 北大杉田さま
山梨大学の藤田です。
「北大 杉田です。ありがとうございます。
さまざまな話題が網羅されたまとめで,記憶を新たにしました。盛況な会だったですね。」
共同ワークショップ
「日本の機関リポジトリの今2006」
は,http://www.ll.chiba-u.ac.jp/~libinoc/modules/news/article.php?storyid=10
第一部: 著作権とオープンアクセス
第二部: 機関リポジトリの構築に向けて: CSI事業の意義とケーススタディ
「著作権とオープンアクセス」のことも勉強しました。
著作権制度から,機関リポジトリのことを考えるとき,
出版物は他の商品と同様に市場で流通するものではあるが,
常に質の維持をはかるための装置の組み込みが必要となる商品であり,
市場原理から距離を置くべき倫理的商品といえる。
つまり著作物は一般の商品とは本質的に異なり,さらに研究成果は
著作物の中でも特異な存在といえる。
との意識が世の中にはあるのですが,これが重く感じられます。
西谷能雄氏なども言っています。
「編集者とは何か」ではそれに付随した見解が見られます。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/guest/pdf/nishitaniyoshio.pdf
英国は大陸からの新技術導入を狙い,近代特許制度は出発し産業革命に至り,
同時期に出版業者の保護を狙い市場秩序維持・調整から著作権制度が生まれました。
何が産業の発達になるか,何が文化の発達になるかが,
近代知的財産制度のカギとなっているわけです。
(参照:石井正,知的財産の歴史と現代,発明協会,2005,p.40-75)
問題なのは,著作権法の目的は当初創作者の人格や個性の保護であったと
思われますが,現在では情報を豊富にする競争環境の整備といった側面に
重点が移っていったことだと思うのです。
1886年にベルヌ条約は登場します。スイスのベルヌで著作権を国際的に保護し
合うためヨーロッパ諸国を中心として創設されました。
「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」
(the Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)
文学的および美術的著作物の保護を意図したこの条約は,とりわけ芸術的な
記号を守るべき役割を強調しています。研究成果はここでは二次的著作物として
低い地位にいます。継承と批判の累積物として事実的な記号であり,非人格的要素が
強い研究成果はそもそも著作権制度になじまないのではないでしょうか。
このことに踏み込んで,名和小太郎氏は,
(ディジタル著作権 : 二重標準の時代へ,みすず書房,2004,p.83)
1. 著作権制度に頼る
2. 著作権以外の制度に頼る
3. 自立的な制度を設ける,三つの解決策を示唆しています。
名和氏は,継承と批判のきわめて非人格的な要素があるいわゆる学術情報
としての研究成果物=論文の特性に着目しています。
芸術一般を想定したベルヌ条約は著作権制度を支えているが,芸術的な記号
と事実的な記号の区別を採用すれば,どちらかといえば事実的な記号である
研究成果物=論文を,思い切って共有・公有の領域へ置くことを提案しています。
学問の業績が時代遅れになる宿命にあると認識していたマックスウェーバーも,
「ひとつの完成し自己完結した世界を作る芸術作品と,後から来るものに絶えず
乗り越えられるもの,それが学術情報ではなかろうか。」と区別しています。
(牧野雅彦,学者の職分,慧文社,2006,p.36)
20年ごと改正されたベルヌ条約は1971年を最後に改正されていません。
加盟国の増加もあって全会一致を取るため改正そのものが事実上不可能です。
20世紀になり二次的著作物である研究成果の意義が増大しました。
同時に無限に複製行為を可能にするデジタル技術が進む時代に入り,
研究成果を単なる一般商品として放置しておくことは危険な気がします。
社会機能を根底で支える研究成果が地球上でうまく循環しないようでは,
資本主義社会の発展まで停滞しかねません。二次的著作物,研究成果を限りなく
公有に近い状態に置くことは,資本主義社会を健全に進化させる手段なのかも。
ともかく,著作権制度の契機をルネサンス期に遡り,印刷技術の躍進に
よる大量複製の発生と出版業者の保護にあったことを思い出せば,
ネットワーク時代の進化に合わせた新しい制度の見直しも必要ではないでしょうか。
機関リポジトリ活動は,このことにおいてきわめて良い試練になりそうです!
著作権保護の問題一般について断片的な主張は避け,全国民的政治問題として
議論を進めるべきとの意見に私は引かれます。機関リポジトリでは当面できるだけ経済的
損害を与えず,学術情報をオープンにできる条件を模索すべきなのではないでしょうか。
岡本薫氏は,誰でも分かる著作権,全日本社会教育連合会,2006,p.374で,
「あらゆる法制は手段に過ぎず価値を持つのは人々の生活をよくするという目的」
であると主張します。利害調整は官僚でなく,政治家の仕事であり憲法ルールで
法制を決めるべきとも言っています。
これに対し,作家の三田誠広氏は「著作権こそ芸術を産み出すパワーの源泉」と
言っていますが,芸術一般についてであるため次元を異にするように思います。
ただ,著作物としての中から,学術情報がうまく線引きができるものかどうか。
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山梨大学教学支援部図書課資料情報グループ
係長:藤田 洋(PHS 7181)