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Date:  Mon, 21 May 2007 17:27:15 +0900
From:  yama-ir-ml @ yamanashi.ac.jp
Subject:  [drf 0788] 近代的主体を成立させるメディアの条件と機関リポジトリ

DRFの皆様

いつもお世話になります。山梨大学の藤田です。
機関リポジトリアーカイブの義務強制問題はさらに理解が深まりました。
ありがとうございました。

ところで,
平成18年11月16日(木)〜17日(金) ,
共同ワークショップ「日本の機関リポジトリの今2006」で勉強したことは以下。

 コンテンツ収集は難事業であるので事前のアンケートなどで協力的教員を見出
しておき,寄贈してもらうといった姿勢で資料の提供を期待する。閲覧回数の上昇
は最も教員の関心あるところなので,追いかけて調査し通知しさらなる協力につなげる。
 残念ながらいまだ機関リポジトリは知名度ゼロである場合も多く,著者最終稿
を指定しても結局「別刷」などを送付されて返却するなどトラブルも多い。又省力化
は大事なことであり,DSpaceをそのまま使うことも許される(なお,CiNiiにある紀要
については,PDF(メタデータ付き)ファイルをNIIから提供してもらうことも可能)。
 一歩進んで,機関リポジトリの問題は,ひとり国立大学法人内の問題ではあり得ない。
国立大学で試行的にスタートした活動は国公私立の垣根を越えて,情報交換され発展
していくべきである(すでに地域レベルで調整に入っている例もある)。
 具体的には,グーグルを使った検索から資料にたどり着くものがほとんどである
(アクセスの大半は教材に集中している)。商業出版社に掲載されて購読することが
難しいものが,機関リポジトリにより多く掲載されていくと国際貢献(OA化)になる。
  研究成果は長期保存され,半永久的に利用される。デジタル・アーカイブの保証が,
出版社まかせではなくなる。国から出たすべての論文について,悉く機関リポジトリ
に格納され,長期保存される。その国の研究成果であるデジタル・アーカイブが,
国家政策として保証される。しかしながら,長期保存に適するフォーマット(PDFとか
XMLとか)のガイドラインは手付かずである。

以上のような話であったかと(このようなところで復習していてすみません)。※

ところで,先週から話題になっておりますが,
1)手元に出版社版しかもっていない場合(著者最終版がない)
2)著者最終版が入手できない場合
また,そもそも著者最終版とは何かと問われると、出版社ごとに・・・

といった事案で,次元が少し違うかもしれませんが,
研究者ってのは,やっぱり出版社版が大好きなのでしょうか?
というのも,

http://www.lib.hokudai.ac.jp/koho/yuin/yuin124.pdf
北海道大学附属図書館報NO.124.Nov.2006.
の中で,栃内新氏は,
「機関リポジトリの出発点は,大手出版社に支配されている学術情報流通を
研究者・研究機関自身の手に取り戻そうということで,このアイディア自体
に反対する人はあまりいないものの,実際に運用を始めてみるとなかなか
スムーズに動かないというのが現実である。その原因はいろいろあると
思われるが,最大の理由は登録の煩わしさであり,もう一つは登録する論文が
雑誌に印刷された最終形態のものでなく,印刷する直前の「著者最終稿」で
あることである。・・・」
「・・・学問分野によっては,印刷された論文(中略)を決定稿として,
それ以外のバージョンの存在を嫌うケースがある。・・・」

ここの部分が心に引っ掛かっていたところ,近代的主体を成立させるメディアの条件
の考察が目につきました。論点を飛躍させ過ぎとお叱りもありましょうが。

海野敏氏ほか,近代的主体の成立と図書・図書館による近代の存立,
日本図書館情報学会誌,Vol.52(4) ,2006,p.213
近代的主体を成立させるメディアの条件の中で,
「メッセージが発信後のある時間内は変更できない。」ことをあげています。
ここで,二人以上の人間の関係において,一方が他方に対してある意味内容を
持つメッセージを伝えるとき,それとは矛盾する意味内容のメッセージを
同時に与えたり,短い時間をおいて与えたりすると,メッセージの受け手は
どちらの意味に受け止めてよいのか混乱し,葛藤状態に宙吊りになってしまう。
ことを理由に,
「・・・他者とメディアを介してコミュニケーションを行なう場合,
他者の思考がまもなく変化することが予期されてしまうと,二重拘束の
状況に陥ってメタ自己の獲得,維持,強化が阻害されるからである。
それゆえに,メッセージは一定の時間内は変化しないものと信じて参照
できなければばらないことが必要条件となる。」
「二重拘束がもっとも生起しにくいのは,記録メディアであり,・・・
もっとも生起しやすいのは,対面発話とネットワークメディアである。」

機関リポジトリが爆発的に威力を発揮するようになるには,
科学コミュニケーションのあり方を研究者に合わせるのか,
研究者に合わせてもらうのか。

藤田

※著作権法令研究会,著作権ハンドブック,2000,p.183
座談会における出席者の発言も著作物ですか?(問い19)などを見ますと,
本来は,契約で著作権の帰属について特段の決めがない時は,著作権は座談会に参加
したメンバーすべてに残っているため,座談会の著作権の行使については,全員の
合意が必要であります。そのために勝手にその内容を雑誌などに投稿してしまう行為は
違法です。ただ,例外的に,あらかじめ放送・雑誌を目的にして開催していたような
場合で,自然ななりゆきでその内容が紹介されることは問題ないようです。
(ワークショップと本メーリングリストとは,強い連携があるので一部内容紹介も
可能かと判断させていただきます)

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TEL055-220-8064 Fax220-8793
h-fujita @ yamanashi.ac.jp
山梨大学教学支援部図書課資料情報グループ
係長:藤田 洋(PHS 7181)