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Date:  Sat, 19 May 2007 11:29:37 +0900 (LDT)
From:  Syun Tutiya <tutiya @ kenon.L.chiba-u.ac.jp>
Subject:  [drf 0780] Re: 機関リポジトリアーカイブの義務強制問題

栗山さん、

些細なことですが、

> 科研では成果報告書の提出が義務付けられているようですし、

「提出」というのは多分、機関がとりまとめて関西館に送付することです。尾
崎さんによれば、関西館はそれを寄贈として受け入れるということだそうです
が、罰則があるようには見えないので、義務づけただけということですね。ま
あ、

> 博士論文は法律で公表が義務付けられていますが、印刷・製本
> して図書館に収めれば公表の義務は果たしたことになるわけです。

博士論文に関しては、公表を義務づけているのは、省令ですが、省令は「印刷
公表」するようにいっています。印刷というのは多数の部数を製作することの
ようですので、プリントアウトして製本して図書館に寄贈することが「印刷公
表」かはわかりません。博士論文を国会図書館へ送付するのは、大学局長(当
時)通達による機関あての依頼ですので、この送付をもって「公表」とするこ
とができるかどうかは学位授与する大学の判断が関わってくると思います。

著作権法だと、「公表」は「発行、上演、演奏、上映、公衆送信、口述、展示」
という方法と「公衆に提示」という相手で定義されているように見えるのです
が、「発行」というのは「その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相
当程度の部数の複製物」の「作成・頒布」ですので、博士論文という著作物へ
の公衆の要求というのはどの程度のものなのでしょうか。いずれにせよ、これ
らは著作権法における定義であり、学位規則は関係ないので、別途考えないと
いけないことです。

> もちろん商業出版社から出版して、お金を儲けてもいいわけです
> (売れるのであれば)。

この変が微妙なところで、たとえば学術図書に対する科学研究費補助金成果公
開促進費の補助を受けて刊行したりするときには無印税が義務づけられていま
す(出版者は、卸値と原価の差額を利益とすることができるようですね)。

> もともと日本は税金を使った成果を国民に無料で提供するという
> 発想は乏しいのではないでしょうか。Webcatでさえ、無料公開する
> までに相当すったもんだしたと聞いています。

「無料」の意味も複雑です。「実費徴収」というのは「無料」なのでしょうか。
すべての人がそのような成果を利用するわけではない以上、利用する人がちょっ
と余計に負担をする必要はないのでしょうか。そもそも、税金をすべての人が
平等に払っているわけではありません、などなど面倒そうな感じです。

> 山本様
> >> はい、ノルマ化されることになればそのようなもので代替してしまい、
> >> 査読誌投稿の著者最終稿などという面倒なものは、誰も好きこのんで
> >> 用意しようと思わなくなるのでは、という素朴な疑問です。
> 
> これは著者の原稿の作り方に関係しているんでしょうかね。
> ワープロを使って書いて、電子メールで修正などのやり取りをして
> いれば、たいてい最終稿が著者の手元に残っているように思います。
> それをアップロードするのは大して面倒な話ではありません(Harnadに
> よればthe few keystrokes)。
>  これがゲラ刷りで校正などというステップがあると面倒になりますね。

ある外国雑誌出版者では、英文校閲を経たあとでも、出版者のコピーエディタ
によるコピーエディットを、掲載論文の質をあげるために原則として著者の了
解のもとに実施しているようです。しかし、了解といっても、「ここをこうす
るけどよいか」という程度のこともあるようで、その場合にはファイルは手許
に残りません。国内出版者でも、「著者によるワープロファイル入稿」⇒「編
集者によるPDF製版」⇒「PDFの著者への送付、著者校正、返送」⇒「出版」と
いうことになりつつあるようで、そうなると、著者が「30ページの最初の行の
最初の字を『あ』から『ア』にしてください」というようなことでやっている
と、手許にはもちろん残りません。グラフや図版をいれて上手にページをつく
るのは、かなりのワープロ使いでも大変でしょうから、きれいな著者最終稿は
存在しないでしょう。手許のきたない著者最終稿ときれいに割付され、行の両
端がそろいながらぶざまな字間のブレがない出版者版とを比較すると、著者最
終稿を人に見せたくないと思うのは自然な気持ちです。

土屋