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[drf:2964] Re: [csi-kyudai:2145] Re: 公共利用か研究利用か



池田さん

> そうでしょうか?リサーチアクセスのために、機関がコストを肩代りしても、
> そのメリットが見出せない、つまり、機関にとって魅力的なビジネスモデルが
> ないので、

これについては賛成で、もちろん、「リサーチアクセスのために、機関がコス
トを肩代り」する必要はないし、その効果は経済的には測定不可能だと思いま
す。たしかに、Lynchの2003年の定義では、機関リポジトリは大学による構成員
へのサービスであるとなっていますので、そのサービスによって大学機関がも
とをとれたと思えばいいわけです。したがって、これをもって、たとえば社会
的説明責任が(少なめのコストで)はたせたと考えれば、ある意味では十分でしょ
う。リサーチ結果へのアクセスを提供するとしても、そもそも、研究者に有名
雑誌に出してもらったほうがブランドもついていいわけなので、それを主目的
と考えたビジネスモデルが成立しないことは明らかだと思います。イギリスの
場合には、現在(とりわけ、REF2014)、大学の研究がたんに学問的成果を上げた
というだけでなく、社会、経済的インパクトをどの程度もたらしたかを問題す
ることになっているので、機関リポジトリといえども重要な要素になるという
ことになっているのだと思います。

>> ただ、本人もこぼして(?)いるように、なかなか現実はその通りに進展し
>> ませんよね。
> ということじゃないでしょうか?前提となっている

しかし、池田さんの上述の指摘は機関にとってのインセンティブがないという
ことだと思いますが、「現実はその通りに進展しない」というのは研究者への
インセンティブがないというということゆえ(だって、機関リポジトリは、理
由はなんであれあるのですから、、、)だということではないでしょうか。こ
のふたつを同列に置くわけにはいかないと思います。

>>・したがって、大学、研究機関にとって、パブリックアクセス論は、オープン
>>アクセス への誘因とはなりがたい。
> 
> が間違いだと思うのですが。

いえ、この前提は端的に正しいと思います。大学、研究機関が機関リポジトリ
をオープンアクセスなものとして設置することは、高等教育の対社会的説明責
任として求められ、かつ、受け入れられていることであり、パブリックアクセ
ス論(対納税者説明責任論)は、あくまで公的資金による研究の説明責任の議論
なので、そのまま高等教育の対社会的説明責任につながらないというのはほぼ
定義上の問題であるとすらいえるのです。

> その根拠ですが、調査した九大のリポジトリのログによると、非研究者がアク
> セスが非常に多いと推測されるような結果がでました。たぶん、他のリポジト
> リも同様ではないでしょうか。

このことは、すでにかなり初期から、北大データなどでも指摘されていること
で、報道機関、地方自治体などが具体的に指摘されています。しかし、このこ
とは池田さんの議論の根拠にはなりません。高等教育機関が、資金源はなんで
あれ研究活動を行なっているということは説明の必要があることです。なにし
ろ「教育」機関であり、「研究」機関ではないのですから。教員が「勤務時間」
内に研究することは説明の対象です(教育およびそれに付随する業務に使って
いる時間は自明です)。その意味でこんなことやってますと出すことがその説
明責任の履行に不可欠です。その意味で社会のだれであれ、研究者仲間以外が
成果を利用している(らしい)という事実は重要です。この限りで十分であり、
とくに対納税者責任論はでてくる必要はないと思います。つまり、パブリック
アクセス論によって機関リポジトリのオープンアクセスを導いているわけでは
ないのです。

さて、このような「素人」アクセスとは何かですが、「報道機関、地方自治体
など」が実際に指摘されています。これは、「素人」学者ではないのですが、
大学における研究の社会的インパクトという観点で考えられると重要な要素で
す。つまり、引用というような学術コミュニティ内部における評価とは別の観
点の評価が可能であることを示唆するからです。

> #もともと、この研究は NII の CiNII 担当者が「素人アクセスが増えてるの
> #では」と言ったことが、私の心理的なきっかです。
> #そういう意味で、IR 現場の人が、素人アクセスについてどう感じているかは
> #興味のあるところです。
> この中には、よく分からずアクセスしている人もいるかもしれませんが、なん
> らかの興味(留学、共同研究、知的好奇心など) で論文を眺めてみよう、という
> 人も多くいるかもしれません。そういう人に、機関内の適切なサイトへ誘導で
> きれば、機関にとってのメリットもある(と主張はできる)と思います。つまり、
> 機関の Web サイトへアクセスを誘導する、というメリットです。つまり、パブ
> リックアクセス論は、機関リポジトリを設置する誘引となって、その結果とし
> てオープンアクセスにつながる、と思っています。

ということで、たぶんパブリックアクセス論の定義によるかもしれませんが、
これを対納税者説明責任論として理解すれば、それとは別の、高等教育機関の
対社会的説明責任論があれば十分に機関リポジトリのオープンアクセスを導く
ことが(論理としては)可能なのだと思います。現に、高等教育機関では、(狹
い意味の)公的助成によらない研究はたくさん行なわれているので、それにつ
いてオープンアクセスにする論拠としてパブリックアクセス論は無力なのです。

土屋
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