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[drf:1534] 日本学術会議講演会(1/30)感想



皆様:

古賀@京大附属図書館です。

1/30に日本学術会議講堂(東京・乃木坂)にて開催された
同会議・社会学委員会メディア文化研究分科会主催の公開講演会
「世界のグーグル化とメディア文化財の公共的保存・活用」
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/80-k-3.pdf
に参加致しました。常磐大・栗山先生もおられましたが、
大学図書館関係者からの出席はあまりなかったようです。
あとアーカイブ関係者(公文書館ではなく、研究者や「放送番組センター
放送ライブラリー」「日本脚本アーカイブズ」関係者など)も何人か
見かけましたが、参加者の多くはメディア社会学の関係者だった
ように感じます。
IRやOAに携わる立場から、この講演会の内容に考えさせられる点は
大きかったので、感想をまとめてみます。
以下、長文で、かつ、やや「爆弾発言」気味になってしまいますが
ご容赦下さい(また、問題があればご指摘下さい)。
#あと、栗山先生、ならびに参加された方々がおられましたら、
 よろしければフォローをお願い致します。
 
前半の「セッション1:世界のグーグル化と出版文化の公共性」は長尾真・
NDL館長からの基調講演(NDLとしてのデジタル化構想の話が中心)を受け、
柴野京子氏(東大大学院・『書棚と平台』(2009)著者)によるGoogleブック
問題の論点整理、名和小太郎教授による同問題への分析がありましたが、
一番のポイントは以下のような好対照の発言だと感じました。
以下、私なりに要約します。

*龍澤武氏(東アジア出版人会議理事・元平凡社編集局長)の講演
 書籍・出版の公共性は今後いかに担保されるか、という点を考えたい。
日本の大手出版社も著作権者も「私権」としてGoogleに反対しているに
過ぎないのではないか。Google+フェアユースの導入によって学術出版
(人文書)が壊滅するのは明らか。「読書する公衆」の存在なしに出版の
公共性はあり得ず、日本の大学にも市井にも「読書する公衆」の姿はない。
むしろ、日本国内に数多く存在する公共図書館で人文書の購入を義務づけ
させることが、人文書の再生を可能とする道である。

*上野千鶴子教授(東大)のコメント
 今や書物は伝統工芸品の道をたどっている。書き手としては「より多くの
人に読んでもらいたい」というのが本意で、メディア産業が壊滅しても
痛くもかゆくもない。「情報のみが公共財であり得るし、また公共財である
べき」という考えに立てば、情報を扱うのは公共事業としてやるべき(より
良質の無償のサービスが有料のサービスを駆逐する方向で)。出版界にとっては、
これからは出版とは区別された編集やプロデュースの比率が上がるはず。
「読書する公衆」にとってのコスト軽減のためにも情報の公共財化は一層進める
べきであり、その観点での図書館の役割は重要。

…という感じですが、私自身としては龍澤氏の発言に、どうにも「伝統的な
学術出版(社)の特権意識」が感じられてなりませんでした。
上野教授からは「今のところメディアのすみわけ(紙と電子)がコンテンツの
すみわけとつながっているが、メディアの一体化はコンテンツのヒエラルキーの
崩壊を導く」という発言もありました。
あと、前半のセッションで、司会(遠藤薫・学習院大教授)が「電子化の流れは
止められないとしても、登壇された方々は本という形状が好きではないですか」
と発言されて、「本が好きかどうか」という方向に議論を持っていったのも
いただけなかったです。遠藤教授の趣旨は「デジタル化によって消えてしまう
(物理的・感覚的)情報があるのでは」という点にあったのですが。

後半の「セッション2:映像アーカイブとメディア文化財の活用」は、
岡島尚志氏による「あえて過激な保守主義者としての提言」ということでの
映画フィルム保存の話、またNHKアーカイブスにおける研究利用の取り組み
(下記参照)
http://www.nhk.or.jp/archives/academic/
など、色々とうなずける点はありました。

ただ全体を通じ、(メディア)社会学の立場としては、「どのような資料を確保
し、研究の素材にするか」という観点が前面に出ており(「メディア文化財」
という言い方もこれを反映しているかと思います)、「どのように研究成果を
発信するか」という議論は、上野教授を除いてあまり出てこなかった、
という印象を持ちました。特に後者は若い研究者の方々にこそ発言して
欲しかったです。

ともあれ、こうした事情を踏まえて「研究成果の発信・蓄積という観点での、
図書館から研究者への働きかけ」が必要になってくる、ということを感じた
次第です。

以上、長くなりましたがご参考になれば幸いです。
上記で分かりにくかった箇所、この講演会についてほかに知りたい点など
ありましたら、お知らせ下さい。

-- 
## 古賀  崇  KOGA, Takashi ##
京都大学附属図書館研究開発室 准教授
Associate Professor, Research and Development Laboratory,
Kyoto University Library

〒606-8501 京都市左京区吉田本町
Yoshidahonmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501 Japan
Tel: +81-75-753-2653   Fax: +81-75-753-2629
Email: tkoga[atmark]kulib.kyoto-u.ac.jp
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