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[drf:599] 金工大e-サイエンスに関する国際ラウンドテーブル会議参加報告
- Date: Tue, 22 Jul 2008 09:09:17 +0900
DRF-MLの皆様
金沢大学の橋です。
少々時間が経ちましたが,7月10日〜11日にかけて,金沢工業大学のライブラリーセンターで行われたe-サイエンスに関する国際ラウンドテーブル会議に出席してきましたので,内容についてお知らせします。
金沢大では,近隣の大学ということで,このラウンドテーブル会議には,毎年参加していますが,今年度はNIIのCSI領域2の中にもe-サイエンスについての事業が採択されていますので,その参考にするために参加してきました。正直なところ,私にはかなり難しい内容で,研究者と図書館員とが連携しないと取り組めないような気がしましたが,今後の潮流になりそうな新しい動向に触れることができ,刺激になりました。
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2008年図書館・情報科学に関する国際ラウンドテーブル会議報告
International Roundtable for Library and Information Science
−テーマ:e-サイエンスの新しい展開:New Developments in e-Sceience
−主催:金沢工業大学,米国図書館・情報振興財団/後援:国際交流基金(The Japan Foundation)
−期間:2008年7月10日(木)〜11日(金)
−会場:金沢工業大学ライブラリーセンター3階 酒井メモリアルホール
−参加者:参加者名簿がなかったので詳細は不明ですが,100名ほどの出席者がいたと思います。
#図書館学の研究者,出版社,関係業者等が中心で,大学図書館関係者はほとんどいなかったような感じでした。
■概要
この国際ラウンドテーブル会議は,1980年代後半に第1回目が行われ,今回の開催が15回目となる。そのうちの何回かは,成果としてそれぞれ本としてまとめられている。2003年以降は米国図書館・情報振興財団(CLIR;Council on Library and Information Resources)との共催となり,国際交流基金等の援助を得て行われている。
会議は2日に渡り行われた。開会式で,金沢工業大学の石川憲一学長と同ライブラリー・センターの竺 覚暁館長の挨拶があった後,ラウンドテーブル会議の予稿集に沿って日程は進めらた。
1日目は今回のテーマである「e-サイエンス」についての基調講演の後,米国図書館界の各立場を代表する4人の関係者からの報告,2日目はその報告についての質疑応答が行われた。なお,両日ともに同時通訳が付いた。
私自身にとっては馴染みのない内容も多かったのですが,感想等を付け加えながら,内容について報告したいと思います。
#なお,このラウンドテーブルについては,ホームページはないようです。その代わりとして,参考になりそうなページを引用しながらご紹介いたします。
■7月10日(木)13:00〜
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●会議主題説明/ディアンナ・マーカム(米国議会図書館准館長)
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予稿集にそって今回の会議のテーマについて説明があった。同会議のテーマは,昨年もe-サイエンスについてであり,今回はその継続の話となる。
まずワシントン大学のニール・ランボー氏によって「e-サイエンスの動向」についての基調講演があったあと,4人の講師によるそれぞれの立場からの講演が行われた。
#定義なしで会議は始まったが,5番目のショットレンダーさんの講演の際に出てきた内容によると,e-サイエンスは次のように定義されます(wikipediaの定義を引用していました)。
e-サイエンス(以下eS)
高度に分散化されたネットワーク環境で実施されるコンピュータを多用した科学。大量のデータ・セットを使う科学。
http://en.wikipedia.org/wiki/E-Science
関連する用語に,サイバーインフラストラクチャー(CI)があるが,こちらの方は,eSを実現するための新しい調査研究環境である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Cyberinfrastructure
#「目的」がeS。手段がCIということになります。
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●講演1:e-サイエンス・イニシアチブの結果としての研究図書館の変化:2008年の概況/ニール・ランボー(ワシントン大学図書館,サイバーインフラストラクチャー・イニシタチブ・ディレクター)
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科学の方法論は,「理論→それについての実験→観察」が伝統的なものだったが,50年ほど前に,これにコンピュータ科学が加わり,これからはeSが加わるというのが大きな流れとなる。
新しい戦略としてのeSについてARL(全米研究図書館境界)がタスクフォースを立ち上げ,報告書を出した。その中で,今後,eSが研究図書館のコアになる部分だと提言している。
http://www.arl.org/rtl/escience/eresource.shtml
ただし,北米では大きな変化は起こっていないとのこと。ヨーロッパに比べると北米は特に遅れている。そう状況での,取り組みの例が今回の報告である。
#以下のようなプレゼンも参考になるかと思います。
ARL’s eScience Initiative
http://www.aserl.org/documents/2008_Spring_Mtg/Rambo_ARL_e-science.ppt
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●講演2:夢の実現に向けて:科学,サイバーインフラストラクチャー,そしてCLIR/エイミー・フリードランダー(米国図書館・情報振興財団プログラム・ディレクター)
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今回の主催団体の一つであるCLIR(米国図書館・情報振興財団)のプログラム・ディレクター。この財団は,サイバーインフラ,保存といった問題についての調整的な役割を果たし,支援を行っている。
http://www.clir.org/
基礎科学研究機関との連携については,以下への支援が最も重要なものである。
NSF「持続可能なデジタル保存・アクセスのための国際ブルーリボンタスクフォース」
http://brtf.sdsc.edu/
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●講演3:米国国立農学図書館とeサイエンス/ピーター・R・ヤング(米国国立農学図書館長)
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農学全般のトレンドについて説明があった後,米国国立農学図書館(NAL)の活動(リポジトリAgSpace,AGRICOLA,ブログ等)について説明があった。
米国国立農学図書館
http://www.nal.usda.gov/index.shtml
農業・農学のための国立電子図書館
http://www.nal.usda.gov/ndla/
*農業におけるeSをサポートすることを目的とするもの
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●講演4:ジョンズ・ホプキンズ大学におけるe-サイエンス/G・サイード・チョードリー(ジョンズ・ホプキンズ大学図書館准館長)
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#今回の報告の中でいちばん実務的な話でした。
http://www.library.jhu.edu/
ジョンズ・ホプキンズ大学(JHU)のeSイニシアチブは,データ集約的工学・科学研究所(IDIES)に組み込まれている。
eSは,天文学分野がいちばんすすんでおり,スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(史上最大の三次元宇宙地図作成プロジェクト;SDSS)と国立仮想天文台(データの標準化と共有化が有効)についての紹介があった。
http://www.sdss.jhu.edu/
http://www.us-vo.org/
SDSSについては,1600論文がこのデータを引用しているとのことである。また,一般市民の利用もある。
データは,短期的には研究者自身が保存してくれるが,長期的には図書館が主導的立場を担って欲しいという科学者側からの希望がある。図書館と科学者との信頼関係が非常に重要である。
今後は,ピアレビューの際にデータも出すシステムとなり,論文とデータとのリンクを張るシステムになっていくのではないか?
オープン・アーカイブのオブジェクトの再利用と交換に関するプロトコル(OAI-ORE)は,複数のリポジトリに分散している複雑なデジタルオブジェクトに対応するために開発されたものであり,論文同士の引用関係のみでなく,データと論文やデータの連鎖にも対応する。
OAI-OREについて
http://www.openarchives.org/ore/
参照するデータは自分の論文の中になくても良いが,ネットの中には保存されていないといけない。また,データは,静的ではなくダイナミックなものである。
#チョードリー氏の以下のプレゼンに載っている図が今回紹介されていました。
An OAI-ORE Aggregation for the National Virtual Observatory
http://jhir.library.jhu.edu/handle/1774.2/32723
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●講演5:カリフォルニア大学サンティエゴ校におけるサイバーインフラストラクチャーに基づくe-サイエンス支援の推移と進展に対する個人的見解(ブライアン・E・C・ショットレンダー,カリフォルニア大学サンティエゴ校ガイゼル図書館館長)
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UCサンディエゴでのデータ保存についての歴史とプロジェクトについて
カリフォルニア大学サンティエゴ校のeSに対する最大のサイバーインフラ支援を表明していたのがサンディエゴ・スーパー・コンピュータ・センター(SDSC)
http://www.sdsc.edu/
カリフォルニア電子図書館(CDL)とSDSCが連携し,CDLのデジタル保存リポジトリ(DPR)を管理している。
http://www.cdlib.org/
#以下のプレゼンに乗っている「クロノポリス」についての紹介もありました。
http://www.nsf.gov/eng/cbet/workshops/combustion/f07MarSanDiego_HPC_Berman.ppt
■7月11日(金)9:30〜15:00
2日目 質疑討論
前日の講演の後,参加者から出された質問票に答える形の質疑討論が行われた。
#1日目の内容は,eSについて初めて話を聞いた私には難解な部分が多く,理解できない部分も多かったが,2日目の方は,eSの定義等に関する問題等についての質疑が多かったので,より分りやすかった。
●Curationと保存の違いについて
Curationは,保存を含む概念である。データを第三者が使えるようにすることも含む。付加価値のある保存と言える。データ・セットの場合,メタデータを適切につけないと自分でも取り出せなくなってしまう。
●データはもともとプライベートなものである。それが何故利用可能になったのか?
分野によって違う。例えば天文学ではプライベートであるのは短期間であり,すぐ公開されるが,患者データなどは個人情報である。商業的なニーズも分野によって違うが,大半のデータは使えるようになるだろう。データの保存については,各分野の専門家(domain specialist)とデータを扱う図書館員とがペアで担当するのが良い。
●メタデータの品質を保つにはどうすれば良いか?作った人でなうとメタデータは作れないのではないか?
個々の例については,専門家に相談するのが良いだろう。機械がチェックやサポートをするスマートなシステムを作る必要があるだろう。
●メタデータの標準化について
図書館のコミュニティだけでは行えない。また,各科学分野だけでもできない。いろいろな人が関わる必要がある。天文学,生物,地質学の分野では,いくつか事例はある。
●eSの担当者について
データが増えてくると,その管理が段々手に負えなくなってくる。各分野の方では,こういう仕事はやりたがらないが,データ・ライブラリアンなしには,活動は成功しないだろう。既存の教育では,eS対応のライブラリアンは養成できないだろう。新しい教育が必要。
●チョードリー氏の講演の中に出てきた論文とデータとの引用関係の図は実現されているのか?
まだドラフト段階であるが,いろいろな科学者にアプローチし,そのフィードバックを待っているところである。「引用」については,論文同士の引用以上の大きな意味がある。
●データ管理者の倫理的な側面について
大量のセンシティブなデータや重要なシミュレーションがある場合,扱う人の倫理が必要になる。これまでの各分野では,さまざまな倫理規定が作られてきているが,今後は,研究者とのコラボレーションがさらに重要になるだろう。善意に頼るだけではなく,契約書が必要な時代になった。
●アメリカはEUやオーストラリア等に比べてeSが遅れているというが,政策の違いはあるのか?
アメリカという国自体分散化した構造であり,他国は統一的である。NIHについては,OA化に関して大きな成果を上げたが,他の政府機関ではそういうことを実行するのが難しい。研究レベルでは素晴らしいことが行われているので,科学については国レベルを越えるべきである。
●eSを進展させるために必要な点・問題点
各講師から以下のようなコメントがあった。
・政策面での省庁間のコーディネート
・信頼のモデルとインセンティブをみつけにくいのが問題点
・成功の定義ができていない点
・グローバルな見方が必要。eSを組織化できないと大きな影響がでるだろう。
・図書館の文化,各分野の文化等の文化間の衝突が問題。
#参加者からの質問自体にも核心を突くような「良い質問」が多かったが,それに対し,全講師が誠実な回答を行っており,大変聞き応えのある,質疑討論となりました。
橋 洋平 金沢大学情報部情報企画課情報企画係長
TEL:076-264-5204 FAX:076-234-4050
e-mail: yhashi @ xxxxxxxxxxxxxxxxxxx http://www.lib.kanazawa-u.ac.jp
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金沢大学 2008年4月から3学域16学類スタート
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