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[drf:190] Re: [drf:169] ベルリン5(長文)
- Date: Sat, 6 Oct 2007 17:27:51 +0900
杉田さん、みなさま、
反応などどうでしたでしょうか。それから全体の様子などお聞かせ頂
けるとありがたく思います。
まず最初に会場のpadova大学のことからお話ししますが、ご存知
のようにイタリアでは2番目に古い大学で、ガリレオが教鞭をとってい
たことでも知られています。大学はまちの真ん中、市役所のとなりにあ
りますが、今回会場となったのは、Alma Magnaという大学の観光
ツアーの対象になっているような古い講堂で、座る場所を選ばないとエ
コーで何言っているのかわからない(エコーがなくてもわかんな
いことが多いのですが)ような部屋でした。
参加者は、もちろん地元のイタリアが多いのですが、欧州の主要国から
は誰かが来ている感じでした。とくに、European Science
Foundation、DFG、Max-Plank Gesellschaftなどが主催者
に名前を連ねているせいだろうとも思いますが、各国の図書館関係者と
いうよりもScience FoundationとかResearch Councilの関
係者がたくさん来ていたように思いました。日本の場合にはこの手の会
議にfunding agencyの人がほとんど出てこないのとは対照的で
す。この事実だけでもだれがOpen Accessの議論をしようとして
いるのかということがよくわかります。そして、欧州と言っても、イギ
リスは大陸諸国とは微妙に違う立ち位置にいるように感じました。初日
は200〜300の間くらいの人がいたと思います。もちろん最
後の方になるとだんだん減っていくのですが。
Keynote Speakerは、Sijbolt Noordaという欧州大学連合のオー
プンアクセスのワーキンググループのチェアでした。印象に残っている
発言は、
「大学関係者はOpen Accessについていつも考えているわけでは
ない」(日本も同じ)
「学術雑誌のビジネスモデルとしては、Broadcasting model(つ
まり、享受者は費用負担しないということ。これに対比されるのが
subscription model。)がよい。その方がコストが下がる」(た
ぶんこれはEU諸国だから。アメリカと日本では当てはまらないだ
ろう。)
「雑誌の請求書は、図書館にではなく、教員のところに送ると教員の意
識もかわるのではないか」(日本は講座研究費で雑誌を買っていたけれ
ども、教員の意識は何も変わっていない。)
「研究成果に対する市民によるアクセスを実現することが大事」(本当
か?)
「新しい財源を見つけるためにロビーイングが必要」(これはその通
り。)
「本というフォーマットは人文社会科学分野の一部では、まだ重要であ
る。」(土屋先生によれば「重要ではないものだけが紙の形で残る。」)
関連コメントとして、Frederic Friend(UK)が、UKでは
公的資金を受けた研究の1/3が利用可能ではないとの報告してい
ました。11月にAccess to UK researchといったようなタ
イトルで報告書が出るとのことです。
それぞれの発表については、プレゼン資料がPDFになって公開さ
れているので、ここでは述べません。以下いくつか印象であったことを
列挙します。
・基本的に論文のOAの方法としては、既存の雑誌をBroadcasting
modelに転換させてOA化すること(新しいOAジャーナルを
創刊するということではありません)が主たる方策と考えられているよ
うで、リポジトリはあくまでも従という印象です。OAジャーナル
へ投稿する場合には、JISCは支援するそうですし(日本でも科研
費で投稿料を支払うことは可能ですが、別にOAジャーナルへの投
稿に限ったことではありませんね)、DFGもOA雑誌への支
援を行っています(もちろん日本のJ-STAGEも、OA雑誌へ
の支援をしていることになると思いますが。)Alma Swanの
Closing Remarksでも、学会に働きかけて、350学会の380
誌をOA化したと自慢していました。CERNの最近の動向を
ベースに考えても、まあそうかなという感じです。
・OAのためのリポジトリについては、フランスも、ドイツの
national platformをもっているとのことですが、認知度はいまいちの
模様。フランスは、OAに対する図書館員の認知度も高くないとの
こと。
・Berlin宣言がそもそもそういうものではあるのですが、人文社
会科学関係のいろいろな試みについての報告がありました。人文学の場
合、例えば欧州全体をカバーするreference indexを作ろうとし
ているようですが、固有の言語をベースにした研究が多いので、それを
利用可能にするということの意味についてはよくわかりませんでした。
言語の多様性という大きな問題を抱えつつも、欧州としてのまとまりを
出そうと苦労しているというのが印象です。
・不勉強で、Knowledge Exchange(KE)についてちゃんと知らな
かったのですが、なかなか面白いことをやろうとしているようです。
KEはデンマークのDeff、ドイツのDFG、英国の
JISC、オランダのSURFがやっていて、人材の交流も含め、さまざ
まな交流をする目的を持っています。大変興味深かったのは、
multinational licensingについて、出版社と交渉中であるということ
でした。どれだけの国が参加してのかわかりませんが(メンバーの4カ
国だけ?)、EU全体で見た場合、結構貧しい国もあるので、
multinational licensingでそのような国が救われるのかどうかが見ど
ころかと思いますが、国の状況が多様過ぎて難しい気がします。
・また、Romeoの後継プロジェクトについても、コンソーシアム
を作って、メンテナンスと未調査の中小出版社についての情報を収集し
たい意図はある(けど金はない)ようでした。Romeoから日本の
学協会にアプローチさせて、黒船方式でびっくりさせる手もあるとは思
うのですが、CSIで調査している国内学会についての情報を提供
するから、そっちのも自由につかわせてくれといった連携を持ちかける
のも一つの手であるような気はします。
・EU全体の政策ということを考えた場合に非常に面白いのは、
OA推進派も出版社もEUの情報政策が、情報を活用してEUの
競争力を高めるということをうたっているのを理由にして、それぞれの
立場を説明していることでした。つまり、学術出版が産業として成り
立っている場所での議論であるということで、この点が日本とは根本的
に違うところです。これはある意味矛盾を含んでいるので、なかなか悩
ましい問題のようです。
・データの共有化ということも大きな話題ですが、米国の動きほど先に
進んでいる感じはありませんでした。また、データの公開性について
様々な現実と議論があるようで、鳥インフルエンザウイルスについての
データ共有で、WHOがデータベースへのアクセスを制限したこと
についておかしいとの意見などが出ていました。
・データの共有については、「質の保証はどうするのか?peer-
reviewが必要」といった声も出ており、どう考えても科学データだけの
査読なんてあり得ませんから、論文と一体となった公開しかないように
思います。OECDのGuidelineなども含め、さまざまな試み
がなされようとしている感じは非常に強く感じるのですが、まだまだ議
論が整理されていないし、未解決の問題が多すぎるように思いました。
・それにしても、JISCはよくまあいろんなことをやっているなと
いう印象です。ちょっとしたことにでも柔軟にお金を出していろいろや
らせていますね。そしてその結果を公表する。うらやましい限りです。
#土屋先生と竹内の名前で行った報告は、まあ、10分と短かった
し、質問の時間もなしで言いっぱなしでしたが、「さっき日本の同僚が
言っていたように」というような発言もある発表の中では聞かれたの
で、少なくとも部分的には理解されたのではないかと思います。ただ、
日本のリポジトリ中心路線が支持されているかという問題はあるだろう
と思います。いずれにしても、日本の大学図書館が中心にやっているこ
とについては、どんどん発表しにいかないとダメだとは思いました。い
ろんな人が何度も何度も言うとようやく彼らは理解すると思います。
##今回の会議のポスターが会議サイトのトップページに載っています
けれが、これが印象的という声が休憩の時間によく聞かれました。だれ
のセンスかわかんないですが、Open Accessの会議のポスターに
教室の子ども、しかもコーカシアンではない子をつかうってありか
なぁ。。。
雑駁なメモで恐縮ですが、ご参考まで。ちなみに次回のBerlin 6
会議の開催地はパリで会場はソルボンヌだそうです。サンミッシェルの
交差点からリュクサンブール公園に向かって歩いてすぐ左側ですね。安
いホテルも周りにたくさんあるところですし、なんていってもカルチェ
ラタンの真ん中です。行きたいなぁ。
竹内 比呂也