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[drf:1221] 『大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)』が報告されました
- Date: Sun, 02 Aug 2009 10:31:00 +0900 (JST)
みなさま、
本年3月から、文部科学省に設けられた科学技術・学術審議会学術分科会研究環
境基盤部会学術情報基盤作業部会(主査:有川九大総長)では、標記を親委員会で
ある科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会に7月31日に報告したと
いうことで、委員に連絡がありましたので、機関リポジトリ関係のまとめにつ
いて簡単にご報告します。早々にウェブに掲載されることと存じますし、7月
31日の同部会の傍聴者には配布されているので、とくに気にすることはないの
でしょうが、気持ちの問題としてファイルを添付することは避け、要点の抜粋
を紹介することにいたしますのでご了承ください。なお、同作業部会には、大
学図書館関係者としては筑波大植松館長、早稲田大加藤館長が委員として参加
されています。それ以外に慶応義塾大倉田先生、土屋あたりがこのリストの関
係者といえるでしょうか。
この「審議のまとめ」の機関リポジトリ関係の記述は基本的には、肯定的に評
価しつつ今後の政策的な展開を求めるという形になっていますので、平成13年
の根岸報告、平成18年3月の「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」
そして今回という流れを見てみると、大学図書館からの取組みがいわわば公的
に認知された歴史としてなかなか感慨深いものがあります。「認知された」と
いうのはよく言えばの話で、実際には「盗まれた」と言うべきだという方もい
らっしゃるかもしれませんが、まあ、そこは「(まだ終わってないけど)終わり
よければすべてよし」とか「小異を捨てて大同につく」とかという精神でまい
りましょう。
また、このようにややフライイング気味にこのリストに流しているのは、機関
リポジトリ事業推進のために学内で努力されている皆様がたにこの文書をご利
用していただきたいと思うからです。もちろん、この「審議のまとめ」がある
からといって各大学に文部科学省から機関リポジトリ振興経費とか、機関リポ
ジトリ私学助成とかが配られることは絶対にあり得ませんが、こういう認識の
表明の積み重ねが中長期的にはよい方向の影響をもつものであろうと信じてお
ります。
さて、この「審議のまとめ」は、
はじめに
1.電子ジャーナルの効率的な整備
2.学術情報発信・流通の推進
(1)オープンアクセス
(2)機関リポジトリ
(3)学協会の情報発信
という構成になっており、2.(2)は、
(2)機関リポジトリ
€ 機関リポジトリの現状
機関リポジトリの今後の在り方と課題
とわかれています。1.や2.の他の箇所も気になるかと存じますが、それ
はこのリストの性質から触れません。ただし、こういうまとめのなかで、
「オープンアクセス」というキーワードが表に出てきたことはある意味で画
期的であり、機関リポジトリの性格を考えるうえでも重要な示唆を含むと思
われます。
「現状」については、
機関リポジトリは、大学及び研究機関等において生産された電子的な
知的生産物を保存し、原則的に無償で発信するためのインターネット
上の保存書庫である。研究者自らが論文等を登載していくことによる
学術情報流通を改革すると同時に大学等における教育研究成果の発信
を実現し、社会に対する教育研究活動に関する説明責任の保証や、知
的生産物の長期保存などの上でも、大きな役割を果たすものである。
としており、その意義が述べられています(p.11)。すなわち、機関リポジトリ
とは、
・ 学術情報流通の改革
・ 大学等における教育研究成果の発信
・ 社会に対する教育研究活動に関する説明責任の保証
・ 知的生産物の長期保存
を主たる目的とするものだということです。そのあとで、段落を変えて搭載件
数、紀要搭載の率が高いことなどが触れられああと、さらに別段落で、国立情
報学研究所の「学術機関リポジトリ構築連携支援事業」について16年度の「実
証実験プロジェクト」から報告されています(ちなみに、すでに忘れらた方も
あるか存じますが、この実証実験プロジェクトを強引に(?)始めたのは、NIIに
いらっしゃたときの北大の杉田さんです)。
その上で、 「今後の在り方と課題 」として、まず、
我が国の大学等における積極的な学術情報の発信を促進していくた
め、 国立情報学研究所が大学等と連携して推進している機関リポ
ジトリの構築 について、今後さらに充実し推進していく必要があ
る。
(誰がやるのかが書いてないのが不安でありますが)と述べられています。これ
が、現在、文部科学省関係でこの問題を検討した唯一の審議組織の結論です。
次の段落は、大学のコミットメントを求めるものです。
同時に、各大学等において構築したリポジトリを今後も継続して運営
し ていく上では、大学全体におけるリポジトリ事業の位置付けの明確
化、図 書館業務としての定着、大学独自のシステムの構築と維持体制
の整備など が課題として挙げられる。
さらに、すべての大学が機関リポジトリ構築をすることが諸般の事情できない
場合のことを考えて、「各機関が共通利用できる共用リポジトリのシステムを
構築する」ことの必要性が述べられています。このような文書で必要性を述べ
るということは、「提案」していると考えていいと思いますが、「提案」だと
「やりたいだけ」と受け取られと判断したときには、「必要性」という表現に
なるのだと考えています。
次の段落はぼくとしてはよくわからないのですが、
・ 登載コンテンツの質の向上が図られるよう、研究者自らによる論
文の登載を促進するソフトウェアの開発等の方策を検討すること
・ リポジトリの重要性についての認識を高める活動
・ 人文社会科学系分野における機関リポジトリの認知度を高めること
の重要性、検討の必要が指摘されています。ぼくがわからないのは、第1点で
なにをいまさらという気もするのですが、なにかに開発予算がつくことは悪い
ことではないので、それからゆっくり考えればよいのではないかと思います。
次がすごいことに、"mandate"ポリシーが「期待」されています。
欧米においては、大学や研究機関が、所属研究者の研究成果のオープ
ンアクセスを義務づけたり、強力に支援する動きも出てきている。我
が国に おいても、機関リポジトリの登載論文数の増加や質の向上に関
しては、各大学、研究機関において所属研究者に対する働きかけを積
極的に行うことが期待される。
がんばりましょう。また図書館に対しては、これまでの役割を十分評価したう
えで、
(前略)メタデータの標準化・管理、著作権処理、他のデータベース等
とのリンクやデータ共有などのシステム構築に係る専門的な事柄につ
いては、図書館の専門家による対応が引き続き求められる。このため、
図書館職員の専門性の向上が必要である
とされ、これからも図書館において専門的資質を向上させていくことが必要で
あることが述べられています。直近の脈絡では研修ということになるのでしょ
うが、図書館内組織の問題なども含めて考えないといけないのかもしれません。
まあ、全体としてはそれなりのまとめとなっているのではないかと思うので、
是非本文をダウンロードされ、ご活用していただければ、審議に参加したもの
として大変嬉しく存じます。
土屋