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海洋細菌 Alteromonas sp. の産生するアルギン酸分解酵素の特性とその応用に関する研究

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Title: 海洋細菌 Alteromonas sp. の産生するアルギン酸分解酵素の特性とその応用に関する研究
Authors: 澤辺, 智雄 Browse this author →KAKEN DB
Issue Date: 25-Dec-1995
Publisher: Hokkaido University
Abstract: アルギン酸は褐藻類の細胞間粘質多糖成分の一つとして、あるいは粘調性集落を形成するある種の細菌の菌体外多糖として見いだされている直鎖の多糖である。アルギン酸分子はβ-D-マンニュロン酸(M)とα-L-グルロン酸(G)が複雑に配列した糖鎖であり、分子中にはpolyM領域、polyG領域およびMG random領域が存在する。このアルギン酸を分解・利用できる食藻動物、海洋性真菌類あるいは種々の陸性および海洋性細菌などは、それぞれ固有のアルギン酸分解酵素を分泌・産生することが確認されている。しかしながら、アルギン酸構成糖の配列が複雑であり、合成基質も利用できないことから、未だ個々のアルギン酸分解酵素の作用様式は充分解明されていない。それにもかかわらず、これら来源の異なるアルギン酸分解酵素を対象として、アルギン酸分子の構造と生合成系の解明、褐藻類のプロトプラスト化への利用、生物活性アルギン酸オリゴ糖の探索、褐藻類藻体の高度利用、肺嚢胞繊維症治療への利用など、農学・医学分野での応用研究が進行中である。そこで、本研究では穴あき症状を呈する利尻コンブ (Laminaria japonica var. ochotensis) 藻体から分離されたアルギン酸分解性海洋細菌Alteromonas sp. H-4株の産生するアルギン酸分解酵素の酵素化学的な性状を明らかにするとともに、褐藻類のプロトプラスト系確立のための細胞壁分解酵素としての利用の可能性について検討を行った。まず、第一章では、Alteromonas sp. H-4株の分類学的位置および同株の産生するアルギン酸分解酵素の産生条件の検討、精製、そして酵素化学的諸性状の解明を行った。初めにAlteromonas sp. H-4株の分類学的位置の検討を行った。対照菌株として供試したAlteromonas属14菌種との一般性状の比較では、H-4株はA. carrageenovora NCMB 302Tに最も類似していたが、A. carrageenovoraとはDNA-DNA相同性が45.8%と低く、whole cell protein (WCP) 電気泳動パターンも異なり、同種とは同定できなかった。また、他の対照菌株とも一般性状、DNA-DNA相同性、WCP電気泳動パターンがいずれも異なり、H-4株はAlteromonas属の新種であることが示唆された。次にH-4株のアルギン酸分解酵素の産生条件を検討した。同菌株が菌体外に産生するアルギン酸分解酵素は構成型酵素であり、アルギン酸ナトリウム (Alg-Na), polyG, polyMおよびMG randomいずれの基質にも分解性を示し、培地中の海水濃度が75%, カシトン濃度が0.5%の時に酵素活性が最も高くなった。一方、H-4株の菌体内からは、polyMとMG randomに対してのみ分解活性を有する酵素の存在が認められ、H-4株は菌体内外に基質特異性が異なるアルギン酸分解酵素を産生していることが明らかとなった。そこで、上記の至適培養条件下で培養したH-4株の培養上清から菌体外酵素の精製を行い、その特性を明らかにした。精製した菌体外アルギン酸分解酵素は各種の電気泳動 (Native-PAGE, SDS-PAGE, IEF)により単一であることが確認され、このタンパク質バンドにアルギン酸分解活性が認められた。本酵素の分子量は32kDa、等電点 (pI) は4.7と推定され、反応至適pHは7.5、反応至適温度は30℃であり、pH5以下および40℃以上の温度では不安定であった。本酵素は海水とほぼ同濃度のMgCl2, NaCl, CaCl2で強く賦活化され、MgCl2あるいは海水の添加により熱安定性が上昇したことから、海水存在下でも強い活性を有する酵素であることが示された。さらに、本酵素の反応は、235nmの吸光値の増加に伴い、還元糖量も増加し、糖鎖の切断とともにその非還元末端に2重結合を導入するアルギン酸リアーゼ (alginate lyase) EC[4.2.2.3.]であると考えられた。また、酵素反応開始直後に基質溶液の粘度が急激に低下したことからendo-型の分解様式が推定された。次いで、H-4株菌体外アルギン酸リアーゼの基質特異性および作用様式を検討した。本酵素はAlg-Na, polyM, polyGおよびMG randomいずれの基質に対しても分解性を示した。またIEF後の活性染色において、polyMとpolyGに対する分解活性がいずれも酵素タンパクと同一位置に認められた。さらに、Alg-Na, polyM, polyGおよびMG randomの本酵素分解物は、いずれも重合度 (DP) が7~8, 5~6および3~4と推定される3種の不飽和オリゴウロン酸が検出され、これら分解産物の総量は分解に用いた基質量と同等であった。以上の結果から、H-4株菌体外アルギン酸リアーゼはpolyMとpolyGに分解性を示す単一の酵素タンパク質であることが示唆され、現在までに報告されていない新規な分解様式を示すアルギン酸リアーゼであると考えられた。なお、酵素反応動力学的な解析により、本酵素のKm値はpolyG (66μg/ml) とpolyM (165μg/ml) では20倍程度の開きが認められ、homopolymeric領域への基質親和性が異なることが示唆された。第二章では、褐藻類細胞間晶質多糖であるアルギン酸のpolyMとpolyGを強く分解できるH-4株の菌体外アルギン酸リアーゼを用いて、コンブ細胞のプロトプラスト化を試みた。H-4株菌体外アルギン酸リアーゼをマコンブ細胞に作用させ、プロトプラストの作出に及ぼす高張液および酵素液組成の影響を調べた。30 U/mlのH-4株精製アルギン酸リアーゼに15%セルラーゼを添加した酵素液を用い、0.5Mマンニトール-5mM HEPES-25 mM MgCl2-50%NSWを含む高張液中で、15℃, 3~5時間の酵素処理を行った場合に最も効率良くプロトプラストが得られた。この時、藻体1g当たり、8.0x10^6 cellsのプロトプラストが得られ、これらの生存率は97.7%と高かった。次に、得られたマコンブプロトプラストの培養を試みた。培地の交換頻度を高めたバッチ培養法と連続培養法において、プロトプラストは培養1~2日目から細胞壁が再生し、培養15日以降には活発に細胞分裂をくり返して細胞塊に至った。培養30日で葉体様形態に至ったが、バッチ培養では細菌・原生動物の増殖等により、これ以上の期間にわたる培養は継続できなかった。しかし、連続培養では再生した葉体様組織をフラスコに移し培養を継続することができ、培養3ヶ月で芽胞体様形態に成長した。さらに、培養4ヶ月後には藻体長が3cm程度に達した個体が認められた。以上、本研究で供試した海洋細菌Alteromonas sp. H-4株は今までに報告のない新種であることが明らかになり、かつ、本菌株が菌体外に産生するアルギン酸分解酵素が新規な分解様式を示し、海水に適応した性質を持つアルギン酸リアーゼであることを明らかにできた。その上、本酵素を利用することにより、マコンブ細胞から生物活性の高いプロトプラストを効率良く作出し、芽胞体様形態まで再生させることに成功した。今後はAlteromonas sp. H-4株の菌体内に見いだされたアルギン酸分解酵素の性状および作用機序を明らかにし、H-4株におけるアルギン酸分解代謝並びにその制御機構についても研究を進める必要性があると考えている。さらに、全ての生長段階の藻体から短時間にプロトプラストの作出が可能な条件を確立するとともに、無菌のプロトプラストを作出し、マコンブの無菌実験系を確立して、これをマコンブ細胞と微生物との相互作用を含めた、発育および分化促進因子の探索へ利用したいと考えている。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 乙第4880号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 水産学
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/42784
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Submitter: 澤辺 智雄

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