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正常上皮細胞と変異細胞間の相互作用に関与する分子探索の研究

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k13363
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Title: 正常上皮細胞と変異細胞間の相互作用に関与する分子探索の研究
Authors: 林, 隆史 Browse this author
Issue Date: 25-Sep-2018
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 上皮組織において変異細胞が出現すると,それを取り囲む周辺の正常細胞との間に新たな相互作用が生じる。すなわち,自らの生存空間の確保や生存競争が生じ,どちらかがもう一方を細胞死へと誘導したり,あるいは存在領域からの排除を行ったりする現象がみられる。この現象は,それぞれが単独で生存している場合には起こらない細胞非自律的な現象であり,細胞競合と呼ばれている。この細胞競合によって敗者となった細胞は組織より排除され,勝者はその生存空間を確保することになる。例を挙げると,正常上皮細胞の中にRasV12変異をもつ形質転換細胞が生じると,変異細胞は頭頂側に押し出され,上皮層から離脱していく現象が観察されている。この現象においてfilaminタンパク質は重要な働きをすることがこれまでの研究で示されている。すなわち,正常細胞による変異細胞の頭頂側への離脱現象には,正常細胞内の変異細胞境界面にfilaminが集積することが重要である。このような重要な分子の存在がいくつか明らかになっているが,部分的あるいは局所的な知見でありパスウェイ全体としては未だ不明な点が多い。この作用機序を解明するためには,未だ明らかになっていない多くの関与分子を見出し,それらを検証しながらパスウェイ全体にあてはめていかなければならない。そこで本研究では,正常細胞と変異細胞との相互作用に関連する分子を網羅的に探索することを目的とした。本学位論文は全5章から構成されている。第一章では,全般の序論として研究の背景と目的を述べている。第2章では,リン酸化タンパク質の網羅的解析によるシグナル分子の探索について述べている。正常細胞と変異細胞との相互作用に反応して変化するリン酸化タンパク質を,SILAC法を応用した解析により探索した。その結果,正常細胞と変異細胞との混合培養条件下で多く存在しているリン酸化ペプチドを見出し,その配列はAHNAK2タンパク質由来のものであった。AHNAK2はこれまで詳細に調べられていない,機能未知のタンパク質である。本研究で検出されたリン酸化部位を認識する抗体を作製し,免疫染色にて変動を確認したところ,変異細胞に隣接する正常細胞において染色され,しかも単独培養条件下では見られない強い蛍光強度を示した。AHNAK2は隣接する細胞に反応してリン酸化状態を変化させることから,細胞競合現象への何らかの関与が示唆される。第3章では,分泌タンパク質の網羅的解析について述べている。第2章と同様に,SILAC法を応用した解析を用い,正常細胞と変異細胞との混合培養条件下で分泌が変動するタンパク質を解析した。その結果,混合培養下で最も増加する分泌タンパク質としてADAMDEC1を見出した。ADAMDEC1はADAMファミリーに属するメタロプロテアーゼであるが,あまり研究されていない機能未知のタンパク質である。shRNAによるノックダウン細胞を使った実験より,変異細胞との混合培養条件下で正常細胞側から遺伝子レベルで発現が上昇していることが明らかになった。さらにADAMDEC1は,filaminの集積にも影響を与える上流分子であることも明らかになった。第4章では,混合培養条件下で実施可能な,新しいタンパク質の網羅的解析法CTAPの確立について述べている。第2章,第3章の結果より,SILAC法を応用することで,混合培養という特殊な条件下でも関連分子を見出すことが可能であった。しかし,混合培養下において変化を呈する細胞を見分けることが出来ないという大きな弱点が存在する。CTAP(cell type–specific labeling using amino acid precursors)法は近年報告された,混合培養下で実施可能な新しいタンパク質解析法であり,アミノ酸前駆物質と,その変換酵素との組み合わせにより,混合培養中で特定の細胞に対し,選択的に安定同位体ラベルを導入できる画期的な手法である。第4章では,CTAP法確立に向けた様々な基礎検討実験について述べており,現時点での混合培養下での細胞選択的ラベル効率について評価した。この手法が正常細胞と変異細胞との相互作用に関与する分子探索に実用化されると,作用機序の研究が飛躍的に進むものと考えている。第5章では,本論文の総括を述べている。本研究を通じて,変異細胞が正常細胞に取り囲まれた場合にみられる現象について,2つの関与分子候補を見出すことができた。これらは,この現象に関与することをあらかじめ予想することが困難な,機能未知のタンパク質である。本研究を通じて見出した知見により,作用機序解明の研究に新たな突破口が開いていくものと考えられる。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第13363号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 理学
Examination Committee Members: (主査) 教授 村上 洋太, 教授 髙木 睦, 教授 佐田 和己, 教授 藤田 恭之
Degree Affiliation: 総合化学院(総合化学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/71817
Appears in Collections:学位論文 (Theses) > 博士 (理学)
課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 総合化学院(Graduate School of Chemical Sciences and Engineering)

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