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失構音の病態機序と脳解剖学的基盤に関する研究

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Please use this identifier to cite or link to this item:http://doi.org/10.14943/doctoral.k13632
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Title: 失構音の病態機序と脳解剖学的基盤に関する研究
Authors: 高倉, 祐樹 Browse this author
Issue Date: 25-Mar-2019
Abstract: 【目的】失構音(anarthrie)とは,脳血管障害や神経変性疾患によって生じる発話障害のひとつであり,臨床上では,一貫性の乏しい「構音の歪み」と「音の連結不良」を主症状とする病態と定義されている(大槻,2005).失構音は,神経心理学の歴史において,20世紀初頭から今日に至るまで,常に議論の中心となってきたテーマのひとつではあるものの(大東,2009),その障害の内実はいまだ明らかではない(Maasら,2008).従来から,その病態の均質性については疑問がもたれていたが(大東,1981),体系的な症状の分類法はいまだ確立されておらず,症状の具体的記述や病態解釈も研究者間で一貫していない.その要因として,1)既報告においては,失語症を伴う失構音例が研究対象となることが多く,純粋な失構音例を対象とした研究が少ないこと,2)純粋な失構音例の発話症状と脳の損傷部位の両者を詳細に検討した研究が少ないこと,が挙げられる.近年,失構音は脳血管障害の領域のみならず,神経変性疾患の領域でも注目されており,失構音の症状のみが緩徐に進行する「原発性進行性発語失行(primaryprogressiveapraxiaofspeech;PPAOS)」(Josephsら,2012)という概念が提唱されている.失構音の症状が,神経変性疾患における背景病理を推定する指標となる可能性も指摘されており(Josephsら,2012;Harrisら,2013),疾患単位として確立しつつある.その一方で,失構音の定義が研究者間で一貫しておらず,失構音の症状自体を検出することの難しさも指摘されている(Sajjadiら,2012).本研究の目的は,失語症を伴わない純粋失構音を対象に,詳細な聴覚心理学的評価と脳の解剖学的検討を組み合わせることによって,失構音のサブタイプの存在を明らかにし,失構音の評価や分類に有益な臨床指標を提起することである.さらに,対象を脳血管障害のみならず,神経変性疾患にも拡大することで,失構音の病態機序と脳解剖学的基盤に関する,より普遍的な知見を明らかにすることを目指す.【対象と方法】対象は単一の脳血管障害により純粋失構音を呈した右利き症例8名(男性4名,女性4名),神経変性疾患により純粋失構音を呈した右利き症例3名(男性1名,女性2名)の計11名の症例群(平均年齢74.7歳)であった.実験手続きとして,単語の呼称,復唱,音読,無意味語復唱,無意味語音読を実施し,発せられた単語の「構音の歪み」,「音の途切れ」,「音の引き延ばし」,「息継ぎ」の有無を,検査者間・内の信頼性を確保したうえで,聴覚心理学的に評価した.さらに,「息継ぎ」の有無については,音響分析による評価を実施し,「音の途切れ」と「息継ぎ」の差異を明確化した.発話素材は,モーラ数や意味の関与などの単語属性を統制した.さらに,脳血管障害例においては磁気共鳴画像(MRI)によって,脳損傷部位を同定した(1例のみCTを使用した)。神経変性疾患例においては,MRIによって,脳血管障害など他疾患がないことを確認した上で,単一光子放射断層撮影(SPECT)によって,血流低下が認められる脳領域を同定した.【結果】発話の聴覚心理学的評価の結果,1)「構音の歪み」が「音の途切れ」よりも優位なタイプ(タイプI),2)「音の途切れ」が「構音の歪み」よりも優位なタイプ(タイプII),3)-4-「構音の歪み」と「音の途切れ」が同程度のタイプ(タイプIII)という,従来指摘されていた3タイプ(大槻,2005;Duffyら,2015)に分類が可能であった.さらに,タイプIの主病変は左中心前回後方部,タイプIIの主病変は左中心前回前方部,タイプIIIの主病変は左傍側脳室皮質下と,差異が認められた.さらに,進行性失構音を有する症例は全例,「構音の歪み」が「音の途切れ」よりも優位ではあったが,以下の3つの特異性を有していた.1)「音の途切れ」よりも「音の引き延ばし」が前景に立つ,2)単語発話であっても「息継ぎ」が生じる,3)左運動前野の上部および両側の補足運動野に脳機能低下を認める.【考察】失構音の発話症状と病巣との関連について,大槻(2005)は,「構音の歪み」優位のタイプはブロードマン4野の損傷で出現し,「音の途切れ」優位のタイプは4野と前方の6野にも侵襲が及んだ場合に出現し,両者が同程度のタイプは,4野・6野からの連絡線維が存在する傍側脳室皮質下の損傷で出現することを報告している.本検討におけるI~IIIのタイプの発話特徴と損傷部位の対応についても,既報告(2005)と同様の結果が得られており,「構音」と「音のわたり」に関わる発話運動プログラムの解剖学的基盤は,それぞれ異なる可能性を支持した.進行性失構音を有する症例の病巣について,既報告では,運動前野の上部や補足運動野の変性が,症状発現に関与していることが示唆されている(Josephsら,2012;Josephsら,2013;Whitwellら,2013;Utianskiら,2018).本検討においても同部位の血流低下が確認されており,既報告を支持した.なお,運動前野や補足運動野といった高次運動野は,時間構造の制御や運動プランの形成に関与するとされる(丹治,2013).この視点に基づくと,進行性失構音を有する3症例に特異的であった「音の引き延ばし」は,発話運動を適切なタイミングで「終了」させるための,時間構造の制御の問題を反映しており,「息継ぎ」は,発話遂行に必要となる吸気量や呼気量を調整するための,運動プラン形成の問題を反映していると仮定すると,進行性失構音における特異的な発話症状と病変部位との関連性が説明できると考えた.【結論】本研究の結果から,失構音は単一次元の障害ではなく,多様性を有することが明らかとなった.また,発話症状と脳の解剖学的基盤を検証することで,それぞれの失構音のタイプにおいて,異なる病態機序が関与している可能性が示唆された.さらに,進行性失構音を有する症例における特異的な発話症状として,「音の途切れ」よりも「構音の歪み」と「音の引き延ばし」が前景に立ち,単語発話中の「息継ぎ」が生じるという現象が同定可能であった.本症状に着目することは,失構音を呈する神経変性疾患の早期発見と,適切なリハビリテーション介入において,重要な意味を持つと考えた.今後は,それぞれの病態に応じた具体的なリハビリテーションプログラムの構築が必要であるが,本検討で得られた知見はその第一歩に繋がるものと考える.
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第13632号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 保健科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 横澤 宏一, 教授 浅賀 忠義, 准教授 大槻 美佳
Degree Affiliation: 保健科学院(保健科学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/76494
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 保健科学院(Graduate School of Health Sciences)
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