研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第21号

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脱共同体社会における民俗宗教のダイナミズム : タイ華人宗教の動態からみる

翁, 康健

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/84029
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.21.l197

Abstract

本稿は,民俗宗教研究と華僑華人研究の分野に位置付けられ,タイの社会的・宗教的文脈から,タイの華人宗教の動態を把握したうえで,脱共同体社会における民俗宗教のダイナミズムを見出すことをめざす。具体的には,民俗宗教はいかに社会の産業化・都市化に対応できるのかを考察する。そこで,本稿はタイにおける華人宗教の動態を取り上げる。タイにおいては,産業化・都市化への対応として,宗教実践に新しい現象が現れている。その中で,華人系以外のタイ人でも華人宗教施設を訪ねることが多くある。こういった華人宗教は,血縁,地縁に基づく華人社会を越え,タイの都市化・産業化社会に対応していると考えてよいだろう。では,そういった華人宗教は,タイの都市化・産業化に対してどのように対応しているのか。またどのような社会的意味を持っているのか。その問いに対して,本稿は華人系以外のタイ人も普遍的に実践している「ゲイ・ビーチョン」(厄払いの儀),「ギンゼイ(齋)」(ベジタリアン・フェスティバル)という2つの華人宗教の儀礼に焦点を当てた。その結果,都市化・産業化への対応として,ゲイ・ビーチョンは100バーツ(約350円)の冊子を購入することで,簡単に厄払いの儀を行うことが可能となっている。また,齋料理を食べて過ごすギンゼイは健康のためだけのものではなく,個人の修養として取り上げられる。このように,「ゲイ・ビーチョン」と「ギンゼイ」という華人宗教儀礼は,華人のエスニシティ,および血縁,地縁を越えて,消費パッケージ化および,禁欲的な修養によって,産業化・都市化社会における宗教儀礼実践の個人主義化に対応しているとみられる。そして,タイの華人宗教のような脱共同体的な民俗宗教は,共同体に依存していなく,かつ都市生活様式への個人実践に対応できることにより,ホスト社会に広く受け入れられることが可能となると考えられる。

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