研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第21号

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『ねじまき鳥クロニクル』論 : 物語の永久生成

肖, 禾子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/84034
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.21.r33

Abstract

本論文は、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』において示されている物語に関する内容を、主要人物たちの行動と言葉から検討するものである。本作品は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』と『海辺のカフカ』の中間にある村上の長編代表作である。語ることによる接続と断絶、自己救済と自己喪失、およびコミットメントとデタッチメント、このデビュー作『風の歌を聴け』においては萌芽であった思想が、『世界の終り』によって継承され、『ねじまき鳥クロニクル』の完成を通して新たに実った。また、この作品においては、語ることによる断絶=デタッチメントという物語のネガティブな側面がとりわけ強調され、または綿谷ノボルと牛河、および皮剝ぎボリスと戦争虐殺といった批判性に満ちた内容が大きく導入され、『海辺のカフカ』と『1Q84』の誕生に一つの方向性を示したのである。 ただし、『ねじまき鳥クロニクル』は、村上の物語思想の集大成としての作品であると同時に、難解な印象を与える長編でもある。物語内容と小説構造の複雑さのゆえに、この作品の先行研究はいまだに現状確認のレベルに留まっていると言わなければならない。本稿では、従来見落とされてきた物語の中の負の要素に焦点を当てて作品の再解釈を行ってみる。また、これまでは十分な検討と意義づけをされてこなかった人物たちの「移動」とその意味、「空白」を原点とした連関の様相、および語りによる接続と断絶という物語論的内容を分析し、それらの内容から読み取られる物語論理を記述する。その上で、村上の物語についての発言と「均衡」の思想を考慮に入れながら、この作品の作家論的な位置づけを論じる。最後に、物語の永久生成を作品の核心とし、その本質を明らかにする。

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