研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第22号

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メタ倫理学におけるグローバルな進化論的暴露論証の問題点

大谷, 貫太郎

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/87864
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.22.l121

Abstract

本論文の目的は,メタ倫理分野における「進化論的暴露論証(Evolutionary Debunking Argument:EDA)」の性質を明確化したうえで,論証を成立させるために,EDAの支持者が今後応答しなければならない問題を提示することである。一般的にメタ倫理分野におけるEDAが突出した試みであると考えられている理由は2つある。1つ目は進化生物学や進化心理学などの近年の科学的知見に基づくアポステリオリな懐疑論証である点である。2つ目は,道徳的信念全体をターゲットとするグローバルな懐疑論を導出することを目的とする,野心的試みである点である。このような性質をもつEDAが成立した場合,道徳的真理が客観的に存在すると主張する道徳的実在論に対する新たな強力な批判となると考えられている。だが,EDAを構成する,それぞれの前提には様々な問題が指摘されている。それらのなかでも特に重要であるのが,論証を成立させるに十分な証拠を提示できているのか,という経験的な問題,そして道徳的信念全体の正当性を掘り崩すことを目的にしていながら,論証の成立のためには道徳的真理に関する想定を必要とする矛盾があるのではないか,という構造的問題である。最後に両問題について検討したうえで,EDAの支持者がこれらの問題の両方に応答できなければ,EDAはアプリオリな懐疑論証か,より広範な懐疑論証に崩壊してしまう可能性が高いことを論じ,現時点では道徳的実在論に対する独自の批判にEDAはなりえていないと結論付ける。

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