格率と行為 : カント格率概念の階層的解釈についての一考察
清水, 颯
Permalink : http://hdl.handle.net/2115/87866
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.22.l137
Abstract
「格率」とは,カント倫理学の基本概念でありながら,解釈上の問題を引き起こすトピックの一つである。カントの行為論では,人間は格率に従って行為することが前提され,行為の帰結ではなく格率が道徳的判定の対象となる。しかし,格率に従って行為するとはどのようなことであるのかについては,カントのテキスト上で明確な答えが与えられていないため,格率概念の解釈は未だに一致していない。そこで本稿では,カントの格率概念がカント研究者たちによってどのように解釈されてきたのかに注目し,それらの解釈上の長所と弱点を検討する。格率解釈上の問題として,すべての行為に格率があると前提されながら,我々は自分の行為の格率を意識しているとは限らないということがある。その問題を回避しうる格率解釈として,たとえ意識できないとしても,その人の行為方針を方向づける人生規則のような格率が根底にあるとする解釈を提示する(Bittner, Höffe, OʼNeillらの解釈)。しかし,カントの人間学や教育学の議論を踏まえると,格率が根本的な行為方針でしかないと解釈してしまうことには無理があると批判される。最後に,それらの解釈上の問題をクリアしうる見解として,特定の行為を指定する格率と,その根底にあって性格を構成する格率を,階層的に解釈する立場について検討する。この立場はこれまでいくつか提出されてきたが,格率が何層にわたって階層的な構造をなし,それらがどのような関係にあるのかについては,解釈者によって見解が異なる。本稿では,特にTimmermannの三層構造としての階層的格率解釈を取り上げ,たんに格率が階層的な秩序を形成していることを示すだけでなく,倫理学,人間学・教育学の文脈によって扱われる格率の階層が決定されることを示す。しかし,Timmermannのように,解釈上の問題をクリアするという戦略的な意図にのみ基づいて,階層的な格率解釈を維持しようとすることにも疑問を呈し,格率の歴史的な意味とカントによるその受容を推測することによって,たんに戦略的ではない仕方で階層的解釈を擁護することを試みる。
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