經濟學研究 = The economic studies;第56巻第1号

FONT SIZE:  S M L

中国・広東省の労働市場と日系企業 : 東莞市の事例分析を中心に

宮本, 謙介

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/13169
KEYWORDS : 委託加工生産;内部労働市場;戸籍制度;環流型労働力移動;日本的経営;生産システム

Abstract

本研究は,中国の「改革・開放」の最初の実験場となった広東省を対象に,独特の委託加工方式による外資主導と,その下で形成されてきた特異な労働市場について,四半世紀を経た現段階の特質の解明を課題とした。 広東省への直接投資は,今日では珠江デルタの電機・電子産業,広州の自動車産業といった分業関係を伴いながら,香港の国際金融と直接リンクして展開しており,当地に独特の委託加工方式もその運用面で一定の変容を伴いつつ,なお初期投資のリスク軽減のメリットから一定の構成比をもって存続している。 東莞市の日系企業を調査事例として,企業内の労働力編成をみると,生産労働が内陸農村部=農村戸籍の若年女性の還流型労働力(短期雇用,低賃金,長時間・不熟練単純労働を特徴とする)によって担われており,同じ中国でも上海市のように下崗労働者の再雇用を最優先課題として農村戸籍者の労働市場への正規参入を制限している開発拠点とは,生産職労働者の給源構造が大きく異なっている。一方,間接部門の労働力は高学歴の専門職であり,生産職とは異なり企業側がその技能形成と長期定着を期待する労働力群であるが,日本的人事管理の定着は限定的であり,間接員の流動性は高い。総じて,日本的経営・生産システムのアジア的適応は,広東省でも中国側の要因(委託加工,戸籍問題,地域間所得格差など)と相互に規定しあって,労働力の格差構造を一層顕在化させている。なお,本研究では,筆者のこれまでのアジア各国の事例分析に基づいて,国際的な視点からアジア各地の開発拠点の労働市場との比較検討も試みている。

FULL TEXT:PDF