研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第10号

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奇門遁甲の基礎的研究

猪野, 毅

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/44606

Abstract

小論は、山川九一郎著の『奇門遁甲千金書』という書を解読するために、まずその前提として「奇門遁甲」の基本的な概念や考え方について、まとめようと試みるものである。 『四庫全書総目』子部・術数類の中に収められている奇門遁甲に関係する文献には、『遁甲演義』二巻、『奇門遁甲賦』一巻、『黄帝奇門遁甲図』一巻、『奇門要略』一巻、『太乙遁甲専征賦』一巻、『遁甲吉方直指』一巻、『奇門説要』一巻、『太乙金鏡式経』十巻、『六壬大全』十二巻。また、『古今図書集成』や『隋書』経籍志にも遁甲の書が見える。 「遁甲」なる言葉は、史書においては『後漢書』方術伝・高獲伝・趙彦伝に初めて見え、また『陳書』『魏書』『北斉書』『南史』などにも「遁甲」の名称が見える。日本でも『日本書紀』推古天皇十年(602)条に「遁甲」が伝来したことが見える。『遁甲演義』・『奇門遁甲秘笈大全』などにより奇門遁甲の基本概念を考えると、甲を除いた乙・丙・丁を「三奇」とし、戊・己・庚・辰・壬・癸を「六儀」として、八卦の入った洛書九宮の枠に組み合わせ、その他、休、生、傷、杜、景、死、驚、開の「八門」、直符、螣蛇、太陰、六合、勾陳、朱雀、九地、九天の「八神」(あるいは太常を入れて「九神」)、また天蓬星・天任星・天冲星・天輔星・天英星・天芮星・天柱星・天心星・天禽星の「九星」を並べて「遁甲盤」を作り上げ、占う年月日時を六十干支で表し、「天の時」「地の利」「人の和」に基づいて占いを行う。その占い方には、洛書九宮の八枠を円盤に見立てて回転移動させる排宮法と、洛書九宮の数の順序通りに移動させる飛宮法があり、山川九一郎『奇門遁甲千金書』の占い方は排宮法を用いている。 遁甲盤を並べ終えたら、それぞれ九星・八門・八神(または九神)などの表す意味や、相互の影響を考えて、吉凶を判断する。 奇門遁甲は方位学(空間の学、洛書学)であり、干支学(時間の学、暦学)でもあるあるので、奇門遁甲は時間と空間を統合した学問と言える。さらに、空間を洛書に従って九つに分け、時間を六十干支に従って六十に分割し、独自の世界観を構築している。また、九神・九星が天、九宮が地、八門が人という、「天・地・人」をイメージした世界を構成している占術なのである。

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