研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第12号

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場面形成上の聞き手待遇における「聞き手」の捉え方

呉, 泰均

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/51968
KEYWORDS : 場面形成上;聞き手;待遇

Abstract

聞き手待遇表現の選択に影響を与える「聞き手」の概念を考えるにあたって,聞き手待遇に影響を及ぼす領域はどこまでで,また,その境界線引きの基準は何であるのかという点は,検討を要する重要な問題である。本稿は,Bell(1984)とClark(1996)による「聞き手」の分類を再検討し,その分類基準を設ける判断の根拠を明確に示したあと,聞き手待遇に影響を及ぼす「聞き手」の捉え方について考察したものである。まず,「聞き手」は話しかけられていないかどうかで,大きく「顕在的聞き手」と「潜在的聞き手」とに分けられる。ここでいう「話しかけられている」とは,話者交替(Turn-Taking)によって話し手になれることが許されていることを意味する。また,話し手と直接ことばを交わしていないものの,なんらかの形で会話の場面とかかわる会話参与者,つまり,潜在的聞き手は,ある条件に満たしているかどうかで,さらに細かく分類される。ここで,潜在的聞き手を分ける際のカギとなるのが,「発話を受けとることが求められているかどうか」という基準である。これは,BellとのClarkが言う「聞くことを認められる(Ratified)」という判断基準と相通じるものがある。しかし,この〝Ratified"に関して,「聞くことを認める」ということが何を意味するのか考える必要がある。〝Ratified"は,話し相手に何らかの情報を与えたり,ある種の行為を命令したり,依頼したりするなどの言語行為という観点からすると,非常に重要な意味を持つ。つまり,ここでいう「聞くことを認める」とは,話し手がことばを発することで生じる発話内力が形成される相手のことであると捉えることができる。このように,〝Ratified"の判断基準に基づいて,潜在的聞き手を「発話を受けとることが求められる人」と「発話を受けとることが求められない人」とに大きく2つに分けられる。ちなにみ,前者に関しては,話し手と発話内力を形成される参加者として関わることが許されることになり,さらに,話しかけられることで顕在的聞き手になれる,要するに,話者交代によって話し手にもなれるという可能性を付与されることになる。また,「発話を受けとることがもとめられない人」に関しては,「話し手の発話を聞くことに意図・目的があるかどうか」で,「偶然聞く人」と「盗み聞く人」とに分けられる。この分類においては,「偶然聞く人」までが話し手の視点からみた聞き手の境界線で,聞き手に存在していることが気付かれていない「盗み聞く人」は,俯瞰的視点からみた存在である捉えられる点が特徴的であるといえる。以上の聞き手の分類から,日本語における待遇レベルのシフトに影響を及ぼす境界は,同じ話題を共有することが許されている「発話を受けとることが求められる人」までであると考える。こうした境界と〝Ratified"の境界線引きが一致していることから,〝Ratified"の判定基準である「話し手と発話内力を形成する参加者として,会話の発展に関わることが許されているかどうか」が「聞き手」の概念を捉える際の肝心なポイントになるといえるだろう。

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