研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第12号

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社会的包摂としてのインフォーマル教育 : 子どもの村学園を事例として

北澤, 泰子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/51981
KEYWORDS : 社会的包摂;インフォーマル教育;子どもの村学園;タイ

Abstract

本稿ではタイの発展によってうまれた経済格差が原因となる社会問題であ る貧困,家庭崩壊,孤児といった事情を持つ子どもたちをNGOが運営する施 設で預かり,共同生活をしながら成長していく様子を,「社会的包摂としての インフォーマル教育」という側面から検討していく。事例としてとりあげる 「子どもの村学園」はミャンマーとの国境に近いカーンチャナブリー県に位置 する,私立の寄宿学校である。学園にある小学校では,イギリス人の教育家 A.S.ニイルの子ども中心主義的自由教育とタイの仏教の教えを融合した教 育を行うオルタナティブ・スクールでもある。 職員を対象にしたアンケート調査,インタビュー調査,授業や食事,放課 後の様子,教職員・子ども全員参加の学園評議会等の参与観察からは,理想 とする教育と現実との間にギャップがあるいう課題が浮かび上がった。子ど もたちの出身背景は,家族が崩壊している,親が育児を放棄したというケー スが3分の2を占めているため,子どもたちが共同生活に適応するには時間 を要し,困難を伴うこともある。学園の規則に従いながら共同生活を送るこ とで社会のルールを身につけるというのが本来のねらいである。現状は理想 と現実の間に溝があるが,先生たちもそのこと認識しながらも子どもたちの 将来のためにと奮闘している。 卒業後の進路に関しては,小学校・中学校卒業後に親元に帰るケースもあ るが,かならずしも受け入れが整っているとは限らず,確実に社会に包摂さ れているかはわからない。就職の場合はインターンをしながら,学園のソー シャルワーカーとの面談を通してアフターケアをする取り組みも行われてい る。 タイにおいてオルタナティブ教育は,グローバリゼーションの中で経済発 展を優先する競争社会の流れや均一化した公教育に代わるものとして取り入 れられてきたという背景がある。また,子どもの村学園の子どもたちはこの 経済発展によって生まれた格差の犠牲者でもある。今後,タイ社会はオルタ ナティブ教育や,貧困や家庭崩壊した子どもたちを社会として包摂すること が,必要なのではないかと感じている。

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