研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第12号

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札幌市円山におけるオオムラサキの生息状況

和田, 貴弘

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/51983
KEYWORDS : 札幌市;円山;オオムラサキ;生息状況

Abstract

札幌市円山動物園におけるオオムラサキ(鱗翅目タテハチョウ科)の保全 を科学的な評価に基づいて進めるため,円山原始林とその周辺で本種の生息 状況に関する調査を行い,本種が比較的安定して生息している八剣山(札幌 市南区)で行った調査の結果と比較した。近年の生物多様性を守る取り組み においては市民による自主的な活動が重視されていることから,本研究では 一般の市民にも実施が可能な手法を用いた。 円山の市有保安林ではエゾエノキの大径木が多く見られ,落石のような自 然撹乱が起こりやすい土壌の状況や,過去の伐採による人為的撹乱がエゾエ ノキの進出を促したと考えられた。また,山麓の円山川沿いやスギ林の林床 で確認される稚樹や小径木の分布やサイズには,踏み固めや草刈り,光強度 などが影響していると思われた。 円山で越冬幼虫が確認されたエゾエノキは,幼虫が確認されなかった個体 に比べて大きく,林内にある相対的にサイズの小さな個体は雌成虫から認識 されにくいことが窺われた。また,越冬期に死亡した幼虫は円山のほうが少 なく,両地点では溺死する個体の割合に差があると思われた。 円山では午後に山頂付近の樹冠で占有行動や追飛行動を行う雄を目撃する ことが多かった。八剣山では目撃される時間帯や性別に大きな偏りはなく, 円山においても発生数の多い年には雌雄とも時間帯を問わず山麓で目撃され た。 円山と八剣山は直線距離でわずか11kmほどしか離れていないにもかか わらず,本種の生息状況はかなり異なっていることが明らかになった。本種 の保全活動においては個体群ごとの生息状況を慎重に調査し,保全策につい ても個体群ごとに最善の方法を検討する必要がある。

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