北海道歯学雑誌;第33巻 第1号

FONT SIZE:  S M L

アデノウイルス感染によるRNA結合タンパクHuRの制御

黒嶋, 雄志

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/52154
KEYWORDS : Adenovirus;E1A;Stress granule;HuR;ARE-mRNA

Abstract

ウイルスは自らの遺伝子産物によって宿主細胞の機能を制御し,自身の増殖に有利な環境をつくる.アデノウイルス感染後期では,大部分の宿主細胞のmRNAの核外輸送は停止し,ウイルス粒子の構成タンパクをコードする後期mRNAが優先的に核外輸送され翻訳される.しかしAU-rich element(ARE)を持つmRNAは,宿主のmRNAであるにも関わらず核外輸送され安定化される.RNA結合タンパクHuRは,AREに特異的に結合し,ARE-mRNAを安定化する.本研究では,未だ解明されていないアデノウイルス感染細胞でのHuRの挙動を明らかにし,その生物学的意義について考察した.HeLa細胞に5型アデノウイルス(Ad5)を感染させ,HuRの局在変化を免疫染色法とウエスタン法で検討した.その結果,Ad5感染細胞では細胞質のHuR量が増加し,HuRの核外輸送が示唆された.このHuRの変化をもたらすウイルスの原因遺伝子を解明するため,様々な変異型Ad5を感染させ,HuRの局在を検討した.その結果,E1Aを欠失した変異型Ad5(dl312)感染細胞ではHuRの局在変化は見られなかった.さらに,E1Aを強制発現させた細胞では,感染時と同様のHuRの局在変化が再現できた.従って,Ad5感染細胞のHuRの変化は,E1Aによってもたらされることが明らかになった.HuRは細胞質顆粒構造体のStress granules(SG)への局在が報告されているので,ウイルス感染時のSGを免疫染色法で検討した.その結果,通常ヒ素刺激下で出現するSGが,Ad5感染細胞では形成されないことがわかり,これにはE1AによるHuRの局在変化が必要なことも解明された.以上の結果は,アデノウイルスはE1A遺伝子産物を利用して,宿主細胞のHuRの核外輸送やSGの抑制をもたらし,自己の増殖を制御していることを示唆している.

FULL TEXT:PDF