生活基盤としての社会的共通資本の機能
遠山, 景広
Permalink : http://hdl.handle.net/2115/54085
KEYWORDS : 生活基盤;社会的共通資本
Abstract
社会的共通資本は,主に産業基盤を中心として考察の対象となり,中でも
社会インフラの整備は経済的な理由を優先して進められてきた。社会的共通
資本が注目された高度成長期には,社会インフラの整備は国民の生活と経済
力という2つの意味から全体社会を向上させるとされ目標の1つに挙げられ
ていた。個人の生活の充実は,産業への寄与と結びつけられた上で全体社会
へと還元されると見做されたため,議論には主に経済的な視点が反映されて
きたのである。1950~1960年代の社会的共通資本の配分は高度成長期の特性
を表し,産業基盤に8割,生活基盤に2割と振り分けられており,産業基盤
の偏重傾向を示すものとされる。
現代では,社会的共通資本に期待される役割は生活基盤に重点が移行して
いる。生活基盤としての側面については,1970年代の都市化に対しシビル・
ミニマムとして議論され,生活権という観点から個々の生活における最低限
が論じられた。今日は,育児や介護の社会化など個々の生活を考慮した,社
会的共通資本の提供段階に目を向ける必要性が高まっている。しかし,これ
までの議論は主に制度の設定や資本の設置による経済学的な意義や効率につ
いての指摘にとどまり,利用段階での提供者と利用者に観点を移した議論は
まだ少ない。これは,高度成長期には社会的共通資本の設置が不十分で,ど
のような視点から資本整備を進めることができるか,いわば設置の正当化に
焦点が残っていたことも影響している。しかし,現代の社会的共通資本に求
められるのは,個人の利用を前提として個々の社会的行為が関与する機能か
ら政策を評価する段階にあると考えられる。本稿では,社会的共通資本を産
業基盤と生活基盤の2面から検討し,生活基盤における新たな人間関係を形
成する機能を考察する。
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