研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第13号

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1970年代におけるタイ学生運動 : 「野口キック・ボクシング・ジム事件」と「日本製品不買運動」を事例に

シリヌット, クーチャルーンパイブーン

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/54088
KEYWORDS : 日本製品不買運動;学生運動;タイ学生;社会運動

Abstract

タイにおける学生運動は,言論の自由を含む1968年の憲法公布をきっかけ に,様々な動きが見られるようになった。本稿では,新聞記事の分析を通じ て,事例として取り上げた「反野口運動」と「日本製品不買運動」の背景や 関連を考察した上で,タイにおける学生運動の展開かつ運動の成否に関わっ た資源や運動に貢献した政治的機会の観点から考察を進める。 「野口キック・ボクシング・ジム事件」による「反野口運動」及び「日本製 品不買運動」は,いずれもタイにおける日本の経済侵略に対する不満や不安 感が高揚していた状況の中で起きたものである。「反野口運動」において,新 聞記事を分析した結果,「ムアイ・タイ」を「キック・ボクシング」と呼んで いることや野口のムアイ・タイに対する捉え方が,タイ人の怒りを招いた一 つの原因であると論じられる。また,「反野口運動」は,学生運動としての位 置付けはこれまでされていないが,学生が大きな役割を果たしていたとは言 える。 一方「日本製品不買運動」は,タイにおける初めての本格的な学生運動で あったと評価されている。運動を呼び起こした要因としては,日本のタイに 対する経済侵略への不安及び不満が挙げられるが,他にも当時の独裁政権に 対する不満が日本に転移して表現され,日本がスケープゴートにされたとい うことも考えられる。 両運動の関連については,「野口キック・ボクシング・ジム事件」は「日本 製品不買運動」を導く口火であったと言える。「野口キック・ボクシング・ジ ム事件」によって,運動のモジュールを獲得した新聞と学生は,同様のパター ンを用いて一個の国を攻撃対象とした大規模な「日本製品不買運動」を展開 することができたと考えることもできる。 運動の成否を決定する資源について,本稿では①良心的支持者による物資 的援助,②社会問題改善に対する意識を強く持つ大量の学生,③小規模の運 動によるにノウハウ,④タイ全国学生センターと学内における少数のセミ ナーグループといった学生ネットワーク,そして,⑤政治的機会の増加,と いった五つの資源が運動の成否に貢献したと論じる。

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