自然を楽しむ作法 : 沖縄県における寄り物漁を事例として
髙﨑, 優子
Permalink : http://hdl.handle.net/2115/54094
KEYWORDS : 自然;楽しむ作法;沖縄県;寄り物漁
Abstract
本稿は,人が自然とかかわる上で,楽しみという感覚がもつ重要性と,そ
のかかわりのなかで築き上げられた,自然を楽しむ作法とを明らかにするこ
とを目的とする。
沖縄には,地先の海としてイノー(礁池)と呼ばれる空間が存在する。イ
ノーでは様々な漁撈採集活動が行われ,人びとはその空間に深く親しみ,そ
して身体化してきた。その熟知の空間に,未知の外洋から自ら寄り来る恵み
の数々を,人びとは「ユイムン」と呼びならわしてきた。
ユイムンとは沖縄における寄り物の呼称であり,それは神からの贈り物と
されている。なかでもスクとよばれるアイゴ類の稚魚は,人びとに広く親し
まれてきたユイムンである。体長がわずか40mm程度のこの小さな個体は,
決まって旧暦6月1日の大潮にのってイノーに来遊する。その規則性は人び
とを深く驚かせてきた。そして人びとはそれを獲る活動,すなわちスク漁と
よばれる集団での追い込み漁に,熱中してきたのである。
神という概念を軸として楽しまれるスク漁は,生産性や経済性をその主目
的とはしていない。しかし,人びとはその微細な活動をさまざまに楽しむこ
とで,神あるいは自然と豊かなかかわりをもち,そして,自然を楽しむ作法
を身につけてきた。そのことはまた,平等性や協働性といった,自然のもつ
社会的意味をひきだしてきた。
自然とのかかわり方を模索する時代に,このような微細な活動に注目し,
人びとが自然との間に築き上げてきた自然を楽しむ作法を明らかにしていく
ことは,自然との関係をより豊かなものにするうえで,少なくない役割を果
たすだろう。
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