研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第14号

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二種の『全体新論訳解』

許, 春艶

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/57693

Abstract

本稿は『全体新論訳解』とその訳解の原典である和刻本『全体新論』について、それぞれの書誌を略述し、その上で言語資料としての価値を考察したものである。『全体新論』は近代中国においてはじめての西洋医学を紹介した生理学入門書であり、中国医学史において重要な位置を占める。日本に伝来後、和刻本と和訳本が出版された。和刻本『全体新論』は「越智蔵版」と「二書堂発兌」との二種類があり、本文の版は同じである。『全体新論』の和訳本である『全体新論訳解』は二種のものが知られている。即ち、明治六年から明治七年にかけて大阪で出版された高木熊三郎の『全体新論訳解』と明治七年に名古屋で出版された石黒厚の『全体新論訳解』との二種である。これまで、二種の『全体新論訳解』は言語資料として取りあげられることがほとんどなかった。ほぼ同時に出版された二種の『全体新論訳解』は振り仮名が豊富に付されており、語学的な分析が待たれる資料である。二種の『全体新論訳解』は訓読や翻訳の手法が異なるため、表記や語彙などに相違が生じる。振り仮名が多様に付され、字音の変化が考察できる。二種の『全体新論訳解』は明治初期の日本語を考察する際に有益な資料である。

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