研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第14号

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宮本百合子「播州平野」における戦後日本

姜, 銓鎬

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/57705

Abstract

宮本百合子(一八九九年〜一九五一年)は、昭和初期の代表的なプロレタリア・民主主義文学者として、文学作品はもちろん、社会への発言を通じて、戦後には日本民主主義文学運動の先頭に立った作家である。百合子は、戦中、二回の執筆禁止処分を受けたこともあるが、敗戦後すぐ文学作品の執筆を再開、一九四六年に「播州平野」を発表する。本作は、デビュー当時から一貫して民衆の貧乏な生に注目し、民衆の側から権力を批判するという百合子の信念がよく反映された作品として、高く評価されている。本論文は、「播州平野」に登場する人物像および背景について考察し、百合子がどのような視線で敗戦国日本を見ているのか確認する。特に、作中登場する朝鮮人についても注目しているが、一九一〇年から一九四五年まで、三〇年以上支配された朝鮮人のことを、力強い存在として描いているからである。百合子は、本作を通じて、支配層はネガティブな存在として描く一方、一般の民衆はポジティブな存在として描いている。ここで、彼女が目標とした<社会を変化させる文学>とは、具体的にどのような形で試されているのかがわかる。つまり、支配層を批判する一方、多数の人たちを啓蒙し、新たな世界の流れに適応する日本を作ろうとしたのである。そして「播州平野」は、こういう目的意識を含んだ作品として、宮本百合子の作品群の中でも、指折りの秀作となったのである。

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