研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第16号

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北海道大学附属図書館蔵伝貞傳手記『大臼山御由来』翻刻と解題

宮本, 花恵

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/63907
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.16.r23
KEYWORDS : 良舩貞傳;近世浄土宗;ウス善光寺

Abstract

本稿では、北海道大学附属図書館蔵伝貞傳手記『大臼山御由来《慈覺大師御難行記》』(以下、『御由来』)を紹介する。 「大臼山」とは、伊達市にある大臼山道場院善光寺(以下、ウス善光寺)をさす。本資料は一般に知られている函館市中央 図書館蔵『蝦夷地大臼山善光寺縁起』とは別本である。一丁裏には、「明治四拾年六月二十日膽振國有珠町住/吉田家採訪史 料/(享保年代津軽本覚寺住佛師貞傳記之)」とあって、明治四〇年(一九〇七)六月二〇日、吉田家蔵本を書写されたもの とわかる。また、「享保年代津軽本覚寺住佛師貞傳記之」とあることから、これが享保期に津軽本覚寺の仏師貞傳が記したと する伝承があると了解される。本資料は、北海道庁寄託本であって、そもそも『北海道史』編纂のために収集された写本群 である。そのため表紙にも「北海道史編纂掛」の印が押されている。 本資料を手記したとされる良舩貞傳(一六九〇〜一七三一)は、訪蓮社と号し、享保期に津軽で活躍し、昆布養殖の産業 指導をしたとの伝説が残る僧侶である。さらに蝦夷地へ渡道し、ウス善光寺を中興したとされる伝承をもつ。蝦夷地への仏 教伝播を考察するうえで、貞傳の信仰は勘案されるべき問題である。また本資料によって、恐山と有珠山、津軽海峡を挟ん だ広域な霊場の形成が示唆される。これは下北半島と蝦夷地の人的往来に因んだものと考える。貞傳と慈覚大師円仁を軸と した恐山・有珠山の親和性が注目され、また同時代的なウス善光寺の略縁起作成など、両地域における人的移動の増加が宗 教的需要を生み出していったとも考えられる。 本稿では、北海道における貞傳信仰の実態を考察するうえで、『御由来』の翻刻が必要であると考え、報告するにいたった。 よって『御由来』の翻刻及び詳細な解説を付して、貞傳信仰研究の基礎資料と位置付けたい。

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