北海道歯学雑誌;第38巻 第2号

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腫瘍溶解ウイルスの口腔領域疾患への応用

東野, 史裕

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/68811

Abstract

がんは,長年日本人の死因第1位を占めているが,現在,従来の治療法に加えて,様々な新しいがん治療法が開発されており,治療後の生存率も向上している.腫瘍溶解ウイルスによるがんの治療法は近年急速に発展しており,アデノウイルスやヘルペスウイルスなど,ヒト細胞を宿主に複製するウイルスをがん細胞に感染,増殖させ,最終的にはがん細胞を死滅させるメカニズムを利用した治療法である.ウイルス学の進展,及び分子生物学的技術の発達に伴い,大きなウイルスゲノム中の遺伝子も改変が可能になり,ウイルスの病原性をなくし,正常細胞では増殖できず,がん細胞では増殖できるウイルスが開発可能になった. 抗がん剤など,これまでのがんの治療法は,患者に対して苦痛や副作用が伴うことが多いのが現状であるが,このウイルスを用いた治療法が確立されれば,理論上副作用がなく,使用法も簡便で,他のがん治療法との併用も容易なので,非常に有用な治療法になると期待できる.また,アデノウイルスは複製効率も高く,生産効率も良く安価なため,企業化の面でもメリットがあり,社会に与えるインパクトも大きい.さらに,アデノウイルスはそもそも病原性が低く,遺伝子治療用のベクターとしての実績もあり,安全性が非常に高く,実用化しやすい. 近年,我々はAU-rich element(ARE)を持つmRNAの安定化システムを応用して,新たな腫瘍溶解アデノウイルスを開発した.このウイルスは,がん細胞で特異的に増殖でき,正常細胞ではあまり増殖できないため,腫瘍溶解ウイルスとして利用可能であることが明らかになった.

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