研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第18号

FONT SIZE:  S M L

精神・身体・視覚的支配 : 現象学に基づく映画理論における映画と観客の関係性をめぐって

モルナール, レヴェンテ

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/72440
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.18.l109

Abstract

約120年前に誕生したシネマと同時に,映画の理解を促すための,後ほど映画理論と呼ばれた研究分野が生まれた。その研究分野を総合的に考察した巨大な著作『Film Theory』では,トマス・エルセサーとマルテ・ハーゲネルは映画理論の最優先すべき問題を1つの問い掛けで次のようにまとめた。「映画とその観客の間には,どういった関係があるのか」。 映画と観客の関係性を把握し説明するために,作家や作品,ジャンル,あるいは映像などを中心とする分析は,むろんのこと非常に重要である。しかし,その関係をより科学的に記述することのできる理論は,90年代までに現れていない。と2人の著者が主張する。要するに映画理論で初期時代から絶えず言語学,美術史学,哲学および精神科学などが参考として確実に利用されているとはいえ,その点に関する理解はまだ不十分であるというのが現実であるという。 本稿では,1つの路線,すなわち現象学に基づく映画理論(Phenomenological film theory)からの提案に絞って観客と映画の関係性が孕む諸問題に触れたい。該当路線の先駆者であるヴィヴィアン・ソブチャックは,『The Address of the Eye』という先行研究で認知心理学の見方から出発して観客の立場を徹底的に再定義し,映画を観る行為を多感覚的体験として論じあげた。本稿でこの理論を包括的にまとめることは難しいとしても,ソブチャックの他に現象学的路線の2人の代表者,ローラ・U・マークスとジェニファー・バーカーによるテキストを精読した上で,今後の研究課題の出発点を俎に載せたい。

FULL TEXT:PDF