北方森林保全技術 = Technical report for boreal forest conservation of the Hokkaido University Forests;第22号

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シカ大規模エンクロージャーを用いた野外実験の展開 : エゾシカが森林生物群集の動態に果たす役割

市川, 一;石井, 正;汲川, 正次;佐藤, 智明;三好, 等;本前, 忠幸;柳田, 智幸;揚妻, 直樹;日浦, 勉

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/73131

Abstract

食植動物の採食圧がそこに成立する植物種の多様性に及ぼす影響は、その生態系の「豊かさ」によって全く異なると考えられている。水域から陸域までの様々なタイプの生態系を通覧すると、雨量などが多く生産性の高い「豊かな」生態系においては、食植者が植物種の多様性を高める一方、「貧しい」生態系では逆に多様性を低下させる傾向が認められる(Proulx & Mazumer, 1998)。ただし、森林生態系における知見は不足しており、食植者が森林植生の種多様性や構造の維持に果たしてきた役割が十分に解明されているとはいえない。これを明らかにするには、食植者の採食圧と植物生産性を操作し、植生構造の変化を観察するという手法が有効である。こうした野外操作実験は、社会問題化しているシカ等の食植動物による植生改変のメカニズムを明らかにし、生態学的な解決を探るためにも重要である。そこで、このプロジェクトでは苫小牧研究林に生息するエゾシカを対象に、その採食圧が植生構造に果たす役割を実験的に検証することにした。シカ柵を設置し、野生のシカを導入して比較的高密度状態(18-37頭/km2)にする一方(エンクロージャー)、別のシカ柵ではシカを排除し0頭/km2とする(エクスクロージャー)。対照区である柵外の森林にはこれまでの調査からシカ密度が数頭/km2と推定されているので(揚妻ら2002)、これでシカ密度を3条件設定することができる。一方、植物生産性は施肥による土壌養分の増加と、択伐による光条件の向上という2つの方法で高める。これらの操作を組み合わせることによって森林植生の種多様性と構造がどのような変化をみせるのかを長期的に観察する予定である(図-1)。このプロジェクトは野外において大がかりな実験装置を必要とするため、様々な準備が必要である。エンクロージャーとエクスクロージャーのためのシカ柵建設、シカの捕獲と導入、植生の事前調査、伐採や施肥などを行わなければならない。本稿ではまず、このプロジェクトの準備としてのエンクロージャー・エクスクロージャーの建設、導入するシカの捕獲ワナの設置について紹介する。また、このプロジェクトの展開と組織研究としての実行体制についても検討する。

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