北方森林保全技術 = Technical report for boreal forest conservation of the Hokkaido University Forests;第30号

FONT SIZE:  S M L

マツ種子の豊凶が針葉樹林帯に棲む野ネズミの個体数動態に与える影響

浪花, 愛子;実吉, 智香子;伊藤, 欣也;高橋, 廣行;小塚, 力;坂井, 励;谷口, ミエ子;五十嵐, チカ子;千葉, 史穂;秋山, 洋子;五十嵐, 満;和田, 克法;大岩, 敏昭;永井, 義隆;古和田, 四郎;小池, 義信;椿本, 勝博;大岩, 健一;佐藤, 博和;岸田, 治;高木, 健太郎

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/73056

Abstract

古くからネズミの個体数は、年によって大きく変動することが知られてきた。ネズミの個体数変動メカニズムの解明は、個体群生態学における伝統的な課題であるとともに、森林の保全管理においても重要視されてきた課題である。なぜならネズミは良い意味でも悪い意味でも、森林の動植物と密接な関わりを持つからである。例えば、ネズミはフクロウやキツネなど森林にすむ肉食動物の餌となる(松岡 1977、三沢 1979)ため、上位捕食者の群集と個体数を維持する役割を担っている。また、ネズミは樹木種子を運び土の中に埋める性質があるが、食べ残された種子は芽を出す可能性があるので、ネズミは樹木種子の分散を助けていると考えられている(Miyaki M, Kikuzawa K 1988)。一方で、ネズミは森林の動植物に負の効果をもたらすこともある。ネズミが樹木の皮をかじり樹幹を傷つけ、ときには枯死させる林業被害は、林業関係者に広く知られている。ネズミの個体数が大きく変動する理由として、気象の変化、外敵の数の変化、餌の量の変化などが考えられるが、本研究では餌量の変化に着目してネズミ個体数動態の分析を行った。森林に棲むネズミは植物の芽や種子、昆虫などを食べるが、特に秋の樹木種子量がネズミの個体数変動に強く働くと予想される。これは、ネズミの個体群動態が冬期間の生存率に強く依存するからであり、樹木種子がその時期の主要な餌となっていると考えられるためである。たとえば、秋に種子が多い場合には、豊富な餌のおかげで冬期の生存率が高まり、結果として翌春からネズミが大増殖すると考えられるが、秋に種子が少なければ厳しい冬を越すネズミが少なく、翌春から夏にかけてネズミの絶対数は多くならないと予想される。秋に実る樹木種子には、ミズナラ堅果・マツの種子などがある。Saitoh et al.(2007)は、雨龍研究林の14年間のデータを用いて、ミズナラ堅果の豊凶と翌年の3種のネズミ(アカネズミ、ヒメネズミ、ヤチネズミ)の密度との相関関係を分析した。分析の結果、ミズナラ堅果が豊作の翌年にアカネズミの個体数が多くなる傾向が見いだされた(Saitoh et al. 2007)。これはミズナラ堅果の豊凶がアカネズミの個体数変動を決める要因になっていることを示唆している。では、針葉樹林帯のような、ミズナラが少ない森林でも樹木種子量がネズミの個体数をコントロールする要因になるのだろうか?北海道の針葉樹林帯にはトドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ等、マツの仲間が優占しており、それらの種子の豊凶がネズミ個体数に影響しているかもしれない。そこで本研究では天塩研究林において蓄積されてきた10年間のマツ種子数と3種ネズミ密度の調査データを分析し、針葉樹林帯におけるマツ種子の豊凶とネズミの個体群動態の関係について調べた。

FULL TEXT:PDF