北海道歯学雑誌;第39巻 第2号

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血管新生阻害療法の展望

樋田, 京子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/73685

Abstract

従来,栄養や酸素を運ぶ管と考えられてきた血管は様々な形で周囲組織と相互作用し,発生,臓器形成・維持にも重要な役割を果たしている.内科医William Oslerが「人は血管とともに老いる」という名言を残しているように,血管はヒトの生老病死の全ての過程に深く関与している.血管新生とは,既存の血管から出芽や嵌入などにより新たな血管網が形成され,リモデリングを経て成熟した血管構造が構築されることをいう.血管新生は生理的環境では創傷治癒や,月経周期に伴う子宮内膜増殖の過程においてみられる.また,血管新生はさまざまな病態とも深く関わっている.例えば,癌細胞は自らの増殖のために血管新生因子を分泌し,周囲組織から血管を誘導,また新たに形成させる.血管はがん組織に栄養や酸素を供給し,転移の経路にもなっており,その悪性化に重要な役割を果たしている.そのため,今から50年ほど前にがんを兵糧攻めにする目的でがんの新生血管を標的とする血管新生阻害療法が提唱された.以降,腫瘍血管の内側を構成する血管内皮細胞は癌治療における“2番目に重要な標的”となった.現在の血管新生阻害療法は血管新生因子vascular growth factor(VEGF)とその受容体VEGF receptor(VEGFRとそのシグナル伝達系の分子を標的としたものが中心であるが,近年,がん微小環境においてはVEGF/VEGFR以外の様々な因子が,腫瘍血管に多様でより複雑な性質をもたらしていることもわかってきた.また,血管新生はがん幹細胞や腫瘍免疫との関連性も報告されている.血管新生阻害剤は多くのがん治療に用いられているが,残念ながら頭頸部領域においては血管新生阻害剤は現在承認されているものが存在しない.  しかし,わが国は超高齢化社会を迎え,国民の2人に1人ががんに罹患する.歯科医療の現場においても闘病中がん患者の治療の機会は今後ますます増えるであろうし,また血管新生阻害剤による治療をうけている患者も増加することは明らかである.本稿では現在臨床で用いられている血管新生阻害剤について,その開発の歴史,その標的分子や治療的意義,問題点などについて解説する.

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