公教育システム研究 = Public education system studies;第18号

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高校内居場所カフェ実践の意義を考える : 公開研究会「高校内居場所カフェ実践は学校に何をもたらすか」に寄せて

横井, 敏郎

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/75774

Abstract

 2018年11月21日、北海道大学大学院教育学研究院において公開研究会「高校内居場所カフェ実践は学校に何をもたらすか―2つのカフェ運営の事例から―」を開催した。この研究会は、科研費「拡散・拡張する公教育と教育機会保障に関する国際比較研究」(18H00970、代表:横井敏郎)のメンバーである高橋寛人氏(横浜市立大学)がこの間、NPO や高校教員、行政職員等の方々とともに進めてこられた研究活動を基礎として提案いただいた企画である。  高橋氏には、過去の科研費研究会で高校内居場所カフェについて研究報告をしていただいていたが、今回、高校内居場所カフェの中でも先導的な役割を果たしている2つの運営団体の方々を招いて講演をいただき、議論を行う公開研究会を開催した。スピーカーとしてお招きしたのは、一般社団法人officeドーナツトークの田中俊英氏、NPO法人パノラマの石井正宏氏・小川杏子氏である。田中氏は大阪府立西成高校で「となりカフェ」を、パノラマの石井氏と小川氏は神奈川県立田奈高校の「ぴっかりカフェ」を運営されている。現在、高校内居場所カフェは全国で50ヶ所に上るが(朝日新聞 2019年8月19日)、その最初が西成高校の「となりカフェ」であり、次いでそれを参考に開設されたのが田奈高校の「ぴっかりカフェ」であった。今回、居場所カフェをスタートさせた2つの団体の方を招くことができたわけである。そのせいもあって、本研究会には学外者含めて30名ほどの参加を得た。  3人のスピーカーには、高校内居場所カフェの活動内容や理念、そして活動の運営上の課題や行政との関係に焦点を当てて話をしていただいた。小川氏にはふんだんに写真を用いながら、「ぴっかりカフェ」が開設された経緯とカフェの様子や役割、居場所カフェのソーシャルワーク等へのつながりなどについて話していただいた。田中氏には、「となりカフェ」が開設された経過を行政とのやり取りや高校教員との関係づくりなどの点から話していただいた。最後に石井氏には、居場所カフェを作るに当たって高校内における居場所カフェ(運営団体)の立ち位置のポイントについてお話しいただいた。その内容は、本誌の研究会記録の通りである。  高校内居場所カフェに対する関心は少しずつ高まってきているようであり、数も増えてきている(『朝日新聞』2019年8月19日)。本研究会の後になるが、高校内居場所カフェを実践してきたり、応援してきた人々の手になる書籍も刊行された。居場所カフェ立ち上げプロジェクト編『学校に居場所カフェをつくろう! 生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(明石書店、2019)には、その成り立ちからコンセプトや活動の内容、居場所カフェを作るためのポイントなどが分かりやすく書かれている。  しかし、高校内居場所カフェは始まって間もない取り組みであり、まだ十分な社会的認知を得ていないし、その実践の特質や社会的あるいは教育的な意味についてはこれから議論が本格化していくであろう。ここでは本研究会の記録の解題を兼ねつつ、高校内居場所カフェに対する認識を深めるため、それはいったいいかなるものか、その意義はどのように捉えられるのかを考えてみることとする。

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