研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第19号

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企業博物館の登場の背景に関する考察

古田, ゆかり

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/79816
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.19.l139

Abstract

企業博物館等施設には,母体企業が期待する公立博物館(以下,博物館)とは異なる機能がある。これまでの研究で,その機能には,企業史料の保存,社会教育・博物館・公共的役割のほか,PR・ブランド向上やブランディング,会社や社員のアイデンティティの向上など経営的な要素があることを示した。 企業博物館等施設については,これまでさまざまな定義づけが試みられてはいるものの統一した見解は得られていない。企業博物館等施設には博物館としてだけではなく,PR やブランディングなどの役割が認められるため,これまでは企業博物館等施設を「博物館としていかなる存在であるか」または「博物館でありながらも,このような活動も行っている」といった視点で論考が行われてきた。しかしながら,「博物館」以外の活動が数多く提示されている現在,博物館という前提で論考を進めていくことが企業博物館等施設の本質をとらえる方法として適切なのだろうか。 本稿では,博覧会という視点を導入して企業博物館等施設に関する考察を試みる。万国博覧会は19 世紀半ばに産声をあげ,その後ヨーロッパ各国で開催されるようになったが,それらは博物館の発展や博物館そのものの考え方に大きく影響を与えた。わが国においては全国の動植物,鉱物,美術工芸品などを調査・収集して招魂社(靖国神社)で物産会を開き,また湯島聖堂内に観覧場を設け一般に公開した。この「文部省博物館」が日本の博物館の先駆けとなったことからも,博覧会が博物館の始まりに影響を与えたことが認められる。 企業博物館等施設には,過去だけではなく現在の製品や会社の姿勢,未来の技術や会社ならびに社会の姿を扱う例も観察される。これは博物館とは異なる企業博物館等施設の特徴的な部分である。視点を転じると,現在や未来を示す企業の展示活動には見本市・展示会,ショールームがある。見本市,ショールーム,博物館の観察や歴史的経緯を俯瞰すると「国境を越えた産業技術の見本市」として出発した万国博覧会や内国勧業博覧会との関連が見えてくる。そこで,企業博物館等施設と博覧会の歴史的な関連や機能の類似性に着目して,企業博物館等施設の起こりを考察した。日本において「企業博物館」という用語が使われはじめ,その数が増えたのが1980 年代であるとの報告がある。企業博物館等施設は,博物館の一形態として論じられることが多いが,博覧会との関連を見ることから,企業博物館等施設が博物館的な要素を含みながらもその類似性がむしろ博覧会に認められ,企業博物館等施設の起こりが博覧会にあることの検証を試みた。

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