研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第19号

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『うつほ物語』の四方四季

張, 可勝

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/79795
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.19.r1

Abstract

『うつほ物語』の吹上の宮は、従来、後世の作品に登場する四方四季の館と同一視して論じられてきたが、吹上の宮は季節的な行事を催す場であるという点では、後世の用例と大きな違いがある。 『うつほ物語』に先行する類例に、阿含経典がある。阿含経典では、内殿が七宝で造り上げられ、城郭が多重で、城門によって内殿を四方の園林と繋ぐという構造が見られる。この四方園林は城の主などが遊楽し、快楽的な時間をつくりだす場である。『うつほ物語』はその四方園林の構造を土台に、吹上の宮の四方に春夏秋冬を配属し、季節意識を取り入れて四方四季を造り上げたのである。 吹上巻に描かれている一連の季節的な行事は、主客の装束の着用、供膳、奏楽、和歌の唱和、賜禄といった次第を共通して有する。その次第は宮中で行われた花宴に準えたものであり、それにより、主客らが吹上の宮という空間に訪れる季節とその推移を味わいながら、快楽的な時間をつくり出したのである。つまり、『うつほ物語』は「世記経」(『長阿含経』)などに見られる前記の構造を導入するだけではなく、園林遊楽という観念をも継承したのである。 本稿はこのように、吹上の宮の構造が阿含経典に由来していること、そして、そこで催されている季節的な行事が宮中で行われた花宴に連なっていることを明らかにした。

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