研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第19号

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日中両国におけるW.H.オーデン受容の比較研究 : 日中戦争期を中心にする

陳, 琁

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/79819
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.19.l213

Abstract

W.H. オーデンは,日中の現代詩人に深く影響を及ぼした英語圏の詩人である。彼は日中戦争期に中国を訪問し,1930 年代最も重要な英語作品と言われるソネット連作「戦時にて」("In Time of War")を創り上げた。彼の訪問後,中国ではオーデン・ブームが起き,各地の文学誌や新聞で盛んに紹介・翻訳していた。特に,1940 年代に西南聯合大学におけるウィリアム・エンプソンの英詩の講義を通じて,中国の現代詩人たちが,積極的に彼の詩を翻訳,評論,受容していた。中国では,西南聯大の教員と学生が中心となり,オーデンの翻訳と研究を進めた。 一方,戦時下の日本では,『新領土』を中心とする反ファシズム的文学誌に,オーデン作品の翻訳が掲載されていた。とりわけいち早く紹介されたのが,オーデンが中国で発表したソネット「中国兵士」("Chinese Soldier")及び彼とクリストファー・イシャウッドの共著『戦争への旅』(Journey to a War)である。しかし,言論統制下の日本では,日本の知識人たちは時勢に配慮しなければならなかった。また,オーデンと共鳴していたのは,戦時下の詩人たちではなく,むしろ戦後の「荒地」派詩人であった。「荒地」派詩人たちはオーデンの詩よりも思想に関心を抱き,オーデンのエッセイを重要視していた。 このように,オーデンは鋭く対立していた日中両詩壇に,ほぼ同時期に紹介され,後年の日中の現代詩人にも影響を与えた。とりわけ彼の影響を受けた詩人たちは日中戦争を体験した世代である。彼等の書いた「危機」と「恐怖」の感覚に根ざした詩は,オーデンからの影響が大きいと考えられる。日本の戦後詩では,オーデンのエッセイや詩句がそのまま引用されていることが目立つ。一方で中国の現代詩は,オーデンの技法を様々な方面から摂取している。

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