北海道歯学雑誌;第41巻 第2号

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FGF2と新規ケイ酸カルシウム系材料を用いた生活歯髄切断法の基礎的研究

近, 加名代;北村, 哲也;松田, 彩;間石, 奈湖;Islam, Rafiqul;戸井田, 侑;佐野, 英彦;樋田, 京子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/80689
KEYWORDS : 歯髄組織;線維芽細胞増殖因子(FGF2);ケイ酸カルシウム系材料;炎症;デンティンブリッジ

Abstract

生活歯髄切断法は,冠部歯髄を除去し根部歯髄を保存する方法で,通常乳歯や幼若永久歯に用いられる. 歯根完成後の永久歯の歯髄に不可逆的な炎症が生じると,抜髄処置の適応となることが多い.乳歯や幼若永久歯は, 歯髄細胞の増殖活性が高く,血液循環が良好であるため生活歯髄切断法の成功率が高いと考えられている.しかし, 歯根完成後は歯髄の修復に重要な血流量の減少や,歯髄幹細胞の存在が期待できないことから,生活歯髄切断法に よる治療は困難であると考えられる.したがって,歯髄修復作用のある材料を用いた生活歯髄切断法の開発は永久 歯の歯髄保存療法における重要な課題となっている.  そこで本研究では,塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)と新規ケイ酸カルシウム系材料(WPPT)を覆髄材として 使用し,ラットの生活歯髄切断後の歯髄修復に及ぼす作用を組織学的に検討した.  生活歯髄切断後の歯髄の炎症性変化を経時的に観察したところ,7 日目ではFGF2とWPPTを併用した群で高度 な好中球浸潤がみられたが,他の群ではほとんど好中球浸潤はみられなかった.30日目では,FGF2とWPPTを併 用した群では炎症性変化が認められなかったが,他の群では歯髄壊死や好中球浸潤がみられた.  形成されたデンティンブリッジの面積は,7日目,14日目ではすべての群で同程度であったが,30日目では FGF2を含む群で他の群と比較して大きく,FGF2がデンティンブリッジの形成を促進した可能性が考えられた.  残存歯髄の血管について評価したところ,FGF2とWPPTを併用した群では7 日目で血管新生がみられ,30日 目で歯髄の炎症が消退したことが示唆された.他の群では30日目にも炎症が持続していることが示唆された.  以上の結果より,FGF2とWPPTの併用は,残存歯髄の正常な修復を促進し,歯髄保存を可能とすることが示唆 された.  本研究により,FGF2とWPPTを併用することで,歯根完成後の永久歯にも生活歯髄切断法を応用できる可能性が示唆された.

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