研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第20号

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文脈から見た日本語の対称表現の特徴

都, 賢娥

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/80785
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.20.l111

Abstract

本研究では,発話の中の聞き手を指す表現を「対称表現」と呼ぶことを提案しており,その中の固有名詞・普通名詞・対称詞(例:あなた・おまえ)の違いを「文脈」という観点から考察し,各表現が聞き手(個人)を指示するまでの,解釈のプロセスを明らかにすることを目的としている。各表現が聞き手を指すと解釈されるためには,話し手と聞き手はその解釈に関わる何らかの知識や情報を持っている必要がある。本研究では,この知識について,加藤(2017)による発話の解釈における3つの種類の「文脈:形式・状況・知識文脈」と,その中の知識文脈に関わる「世界知識」を参考に考察を行った。そこから,固有名詞・普通名詞・対称詞が聞き手を指すと解釈される際,発話のやりとりの間,義務的に保持される必要がある形式文脈は,すべての表現において活性化されており,各表現の特徴によって,その場の物理的な状況に関する知識としての状況文脈と,世界知識としての知識文脈の活性化の違いが見られることが明らかになった。一方,普通名詞の中には「先生」のように敬称としての振る舞いを見せるものがある。それに対して,「店員さん」は普通名詞だけでは対称表現的には使えないが,付属成分の「さん」を付けることで聞き手を指すことになり,敬意を示すことになる。そこから,本研究では,付属語の敬称は,敬意を示すだけではなく,「直示性を付与または強化する」機能があると主張した。本研究での対称表現は人称ダイクシスと関係があると言えるが,人称ダイクシスの研究では対人語用論(対人配慮)の観点からの考察が行われることが多く,その際,文脈という要素が深く関わってくる。本研究では,日本語における様々な対称表現の違いを検討する1つの方法として,語形や用法だけではなく,文脈からの接近を試みたと言える。

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