研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第23号

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患者にとっての利益と危害とは何か : 善行原則と無危害原則

吉澤, 日芙美

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/91083
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.23.l25

Abstract

医療倫理の四原則はBeauchamp とChildress が“Principles of Biomedical Ethics”において提唱している原則であり,「自律尊重原則」,「善行原則」,「無危害原則」,「正義原則」からなる。中でも,善行原則と無危害原則はその成立の経緯からして似ており,端的に言えば,前者は「善を為せ」と要求し,後者は「危害を加えるな」と要求する。医療倫理に関連した事例検討をする場や論文中などで,両者の原則がどれくらい明瞭に理解され用いられているのかは定かでない。本稿では,善行原則と無危害原則との相違,および無危害原則それ自体の研究に関する今後の課題を素描する。善行原則と無危害原則の相違を把握し,無危害原則が果たす原則としての役割を明らかにすることで,医療倫理に関連した事例検討をする際の原則の特定化や,法やガイドライン等の文章が適切な内容か否かの批判をする際に有効だろうと考えるからである。考察の過程では,いくつかの問いを提示した。これらに解答するには,行為や因果に関わる哲学的議論や,利益や危害について蓄積された見解を参照することが要求されるだろう。

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