研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第21号

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ロベール・ブレッソンの演技論 : モデルの「痙攣」する身体

三浦, 光彦

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/84028
JaLCDOI : 10.14943/rjgshhs.21.l179

Abstract

ロベール・ブレッソンは,自身の映画に素人俳優のみを起用し,一切の感情移入を廃した独特な演技指導を行ったことで知られている。ブレッソンは自身の演技への理念を『シネマトグラフ覚書』と題される書物に纏めている。本稿では,ブレッソンの演技論を,ジャンセニスムとシュルレアリスムという宗教的,美学的なコンテクストから考究することによって,ブレッソンの演技論において作動しているメカニズムを解明することを目標とする。まず,第一節では,ブレッソンとジャンセニスム,及び,シュルレアリスムの関係を論じた先行研究を概観していく。第二節では,映画研究者レイモン・ベルールが『映画の身体:催眠,情動,動物性』と題された書物の中で論じた,催眠と映画の歴史的な関わり合いに関する議論を参照しつつ,ジャンセニスムとシュルレアリスムにおける「痙攣」という概念を追っていく。続く,第三節では,ベルールが引用する神経学者ダニエル・スターンによる「生気情動」という概念と,それを軸にジャン・ルノワールの映画における演技を論じた角井誠の研究を参照しつつ,この「痙攣」というものがどのように生み出されるのかを考究していく。そして,第四節では,「痙攣」に纏わる膨大な歴史がどのようにブレッソンの演技論へと集約されていき,それがブレッソンの映画においてどのようなメカニズムで作動しているのかを確認する。第五節では,第四節まで論じてきたものを土台としながら,男性のモデルと女性のモデルとでは,演技表現に差異が見られることを確認したうえで,幾つかの作品に即して,そのような差異が何故生じるのかを探っていく。ブレッソンは長らく作家主義的な映画監督,つまり,作品に対して強いコントロールを有する作家だと考えられてきたが,本稿では,モデルの身体へと焦点を当てることによって,そこに刻印された作家性の揺らぎを読み取っていく。

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