研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第11号

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北海道札幌市におけるオオムラサキの生態と保護

和田, 貴弘

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/47884

Abstract

北海道札幌市南区簾舞地区でまちづくり事業の一環として行われているオオムラサキの保護活動について,地区の野生個体群の動態や保護活動の展開を明らかにすることを通して考察した。 1.オオムラサキの成虫段階の個体数は越冬幼虫の段階よりも年変動が大きいため,本種の保全を目的とした活動を行う場合には,単年度の成虫の発生数だけで個体数を判断するのは適切ではない。経年でオオムラサキの個体数を把握するには成虫の発生数だけでなく,越冬幼虫の段階で調査する必要がある。 2.成虫の段階まで飼育した個体を簾舞の2地点で放蝶したところ,飼育ケージに近い地点でより多くの個体が定着した。蛹以前の段階で放蝶した個体については,上記の2地点で成虫になってからの定着状況に差は見られなかった。本種の保全を目的として放蝶を行う場合には,放逐地点にケージがある場合を除いて,成虫になる前の段階で放逐することが望ましい。 3.簾舞の野生個体群の生息地ではオオムラサキの寄主植物が局所的に分布しているため,植栽によって利用可能な面積を拡大することでオオムラサキの保全に資する可能性がある。しかし,簾舞地区での寄主植物の植栽は生息地から離れた地点で行われ,野生個体の移動は確認されていない。こ こでは,野生個体群の保全よりも飼育された個体を放蝶する場所の創設が目的となっている。 4.簾舞地区における放蝶は,創始個体の採集地点,累代飼育の経過年数,野生個体との交配,放蝶数,野生個体群の規模などから考えて,許容の範囲かもしれないが,野生個体と異なる特徴をもった個体を放蝶することは好ましくない。

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