研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第14号

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「自然学習」の環境教育における意義について : L.H.ベイリの自然学習の検討

和田, 貴弘

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/57710

Abstract

本稿では,19世紀末から20世紀初頭のアメリカにおけるL.H.ベイリの自然学習の理念について再考した。ベイリの『自然学習の思想』を邦訳した宇佐美(1972)は,ベイリの自然学習の批判されるべき点として,①主観主義・情緒主義とでも言い得る傾向,②自然学習によってどのような知識を学習させるべきかが問題にされていないことをあげている。しかし,自然解釈においてベイリが許容した「空想」や「想像」とは,科学的に思考することを意味しており,自然学習を主観主義・情緒主義と裁定するのは妥当ではない。また,同書からはベイリが自然学習によって学ばせようとした知識の一つが生態学に基づく科学的自然観であることが読みとれる。自然学習の「授業の三段階」は,科学的な知識を創造するために必要な方法で構成されており,ベイリは科学的な知識・自然観を育もうとしていたと思われる。本稿の後半では,現代の私たちがベイリの自然学習から学ぶことを提示した。①子どもの発達特性をふまえて学習活動を構成したこと,②そのために具体的な活動と体験を重視したこと,③子どもの思いを中心にした学習活動を行ったこと,④自分と身近な人々,社会や自然とのかかわりに関心をもたせようとしたこと。これらはいずれも現代の生活科教育の理念でもあり,自然学習と生活科教育の共通点はベイリの思想の深さを示している。また,環境教育では,発達段階に応じて重視すべき課題の比重を変えていくことが有効であるとされ,幼児期には直接体験(「in」)による感性学習,学齢期には自然や人間について(「about」)の知識や技術を習得する学習が重要とされるが,ベイリは,自然学習の方法は幼稚園から大学まで適用できるとしている。近年,環境教育の教科化が盛んに議論され,それらは「about」を中心にした教科として考案されることが多いが,自然学習の方法は「in」と「about」を両立させ,環境との相互作用を通じた知識・技術の習得を可能にすると考えられる。

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