研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第16号

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「も」の同一範疇判断に関する語用論的考察

稲吉, 真子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/63915
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.16.l149

Abstract

現代日本語において,「も」は「とりたて詞」として区分され,論じられる ことが多い。その基本的な意味は「累加」とされている。「累加」とは,「同 じカテゴリーに属するという判断(同一範疇判断)を示すこと」であるが, 同一範疇として捉えうるものには様々あり,どのような基準に基づき同一範 疇としての判断を下しているのかについては整理して論じる必要がある。 そこで本稿では,同一範疇判断の基準として,①統語的同一範疇判断,② 語用的同一範疇判断の2種類を設定し,さらに語用的同一範疇判断を「同一 範疇が何らかの共通性に基づくもので入れ替えが不可能であるもの」と「照 応先が言語的に明示されておらず同一範疇判断がつきにくいもの」の2種類 に下位分類し,考察を進める。 まず②の内,「同一範疇が何らかの共通性に基づくもので入れ替えが不可能 であるもの」であるが,これは接続位置とは矛盾するが,命題間において同 一範疇判断が下されているものとして位置づけることができる。命題間には 共通性があり,その同一範疇判断には「世界知識」が関与している。ただし, 使用に際しては制約があり,話し手の評価が,前件と後件で一貫しているこ とが求められる。 これを踏まえ,次に②の内,「照応先が言語的に明示されておらず同一範疇 判断がつきにくいもの」の例を考察する。「照応先が言語的に明示されていな い」という中には,同類の他の物事が存在するが,省略されている場合と, 同類の他の物事が存在しないにも関わらず,「も」の使用により,あたかも存 在するかのように扱う場合の2種類があると言える。後者は語用論的な効果 を利用したもので,会話における一種のストラテジー的な効果を有するもの として見なすことができる。この「疑似的な累加」は,表面上では省略とも とれるが,言語的に省略されている情報は,会話の流れを妨げないよう,基 本的に踏み込んで言及されることはない。この効果から,「も」は理由節と共 起しやすく,「勧誘」,「依頼」,「忠告」といった,聞き手への行為要求に関わ るモダリティ形式の中で,しばしば用いられやすい。「も」を使用することで,複数の理由があるかのように扱うことで,自分の主張を強め,聞き手への働 きかけの受容度を高める効果がある。

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