研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第17号

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憬興『無量寿経連義述文賛』の出典から見た編纂方針

李, 乃琦

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/67973
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.17.l55

Abstract

無量寿経連義述文賛(以下,「述文賛」と略す)は700年頃に編纂され,無量寿経についての解説書である。著者が憬興で,7世紀の朝鮮の僧侶である。述文賛には出典名が明記されている注釈は26条ある。そのため,編纂時に内典と外典を利用したことは明確である。先行研究によると,述文賛が玄応音義・玉篇・切韻を利用したのはほぼ定説になった。また,古代韓国の漢字音を反映していることも論じられている。しかし,筆者の調査によると,述文賛は玄応音義を引用したのは確かであるが,玉篇との関連性を再び検討する必要がある。 本論では,引用された可能性がある諸本と対照するため,述文賛に出典名が記されている項目と反切で音注を表している項目を研究対象として扱う。先に,それらの注釈の出典を諸本と比較した上で,述文賛の編纂方針を論じる。その結果は次の四点にまとめる。①玄応音義の重視:述文賛には玄応音義にのみ見られ,他本に見られない注釈が22例ある。このことにより,憬興が玄応音義を重視することは明らかになった。②重層的な構造:述文賛の成立時に一種類のみの文献をそのまま引用したのではなく,多数の本を組み合わせて重層的な構造を持つ注釈が完成した。③述文賛には直接引用が6例あり,その中玉篇からの引用が1例しかない。さらに,河野(2014)では,「憬興の音釈の中には『玉篇』に基づくものと確定できる例がない。」と述べた。玉篇が残巻であるため,照合するのは不可能であった。しかし,筆者が述文賛を篆隷万象名義と比較した結果,一致する内容が見られない。そのため,玉篇が明記している1例の注釈が直接引用か間接引用かは容易に推測できない。④述文賛には出典不明の注釈が12例ある。現存する文献を調べ,近似 する内容がないため,憬興が編纂する内容と考えられる。

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