研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第17号

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同一指示と解釈される「N1のN2」と「N2のN1」 : 反転表現「N2のN1」の焦点化の要因

中村, 真衣佳

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/67982
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.17.l169

Abstract

日本語の連体修飾句「NのN」は,従来「の」による多義性が指摘されているが,本稿では,「NのN」の多義が「の」の作用だけではなく,名詞の性質と語用論的要素の影響を受けているということを「NのN」の反転現象を用いて論証する。反転現象とは,「青のボールペン」と「ボールペンの青」,「みじん切りの玉ねぎ」と「玉ねぎのみじん切り」のように「の」の前後の名詞を入れ替えても指示対象が同一になる現象である。また,反転後の「N2のN1」形式である「ボールペンの青」「玉ねぎのみじん切り」のような表現は,反転表現と呼ばれている。 実際の言語運用場面において,反転前と指示対象が同一となる反転表現が優先的に使用されることがあるが,なぜ反転表現が使用されるのか,また,なぜ指示対象が同一になるのかに関しては,明らかになってはいない。先行研究において,文脈を補うことで反転可能である「N1のN2」を分析したものに小松原(2013)があるが,実際には,文脈を補うことなく反転可能であり,かつ,指示対象が同一となる事例は多くみられる。このような事例について,これまでの先行研究では現象の指摘にとどまるばかりであり,この現象を詳細に分析したものは管見の限り見られない。 そこで,本稿では,文脈を補わなくても反転可能であり,かつ,指示対象が同一と解釈される「N1のN2」を名詞の性質と修飾の種類から分析する。名詞の性質に関して,本稿では,N1の自立性の高さに注目するために,N1は,「材質名詞」,「色彩名詞」,「サイズ・方法名詞」を対象にし,N2は「モノ名詞」を対象にした。また,本稿で扱う修飾の種類は,「の」の作用と関係している「論理的修飾」と対比的文脈が想定される「語用論的修飾」とする。 以上の観点から分析した結果,本稿では,反転可能かつ指示対象が同一と解釈される条件は,名詞の性質にあること,そして,実際の言語運用場面で反転表現を使用する動機は,名詞の「同時指示性」にあることを主張した。そして,「同時指示性」が生じる要因は,属性でありながら自立性の高いN1が主要部位置に移動することであると指摘した。また,「の」に前接したN2が指示対象として解釈される要因は,対比的文脈想定時に広範囲の語彙的集合からN2を指定することで「焦点化」が生じる点にあることを示した。

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